御神渡り
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「下手に切って進むとまずい、丸太も飛び道具と同じくかわすんだ、もう距離はいくらもない。スピードがないなら低く飛び越えるのも容易い筈だ」
相手のプレーヤーが怒鳴るように周りの残った2騎に指示を出す。
破壊的な突破をやめ、マージンを大きく取り回避に専念する。必然的に先ほどのスピードは出ないが、着実に距離を詰めてくる。
「やぁやぁ、お見事。まるで曲芸師だな。おひねりを渡したいが、生憎こちとら、嫁に負担をかけるほどに日銭にも事欠いてな、そういうわけにもいかん、真面目に。それは兎も角、残りのお三方このまま、登ってきてもいいのか」
にやりと笑う。だが、喉もいまいち弱いので長いセリフを大声でいうとシンドイ。ふざけるのは程ほどにしておこう。
「そちらの方はよくこ(・)の(・)戦い(・)を御存じのようだが。こちらの切り札を気にしなくても宜しかったのか?たとえば、境内に控えている無傷の300騎が逆落とし耐えられるかな?」
正確には150騎だけどね…軍神ェ。
高所からの突撃は九郎判官義経然り、打通力や機動力にかなりの補正がつく。勿論、水の手を切られたら泣いて馬謖さんをキルしなければいけなくなる程致命的なので、短期決戦用の布陣にはなるが。
「残念だったな。そこにはいないだろ。さすがに上原城の主力である騎馬隊の位置は掴んでいる。本拠地の社を戦の前に崩すなんて常識外れがいるとは思わなかったからな、施設の確認までは怠ったが」
いまいましそうに、一つ勉強になったと付け加える。
「ばればれか」
社に詰めているのは指揮官の守矢娘や回復役の巫女さんたちばかり。開戦時から一貫して騎馬はここではない。
「ブラフかなにかのつもりか知らんが。もうチェックメイトだ」
「では、これならどうだ。その城外の遊軍が麓の軍を強襲したら、大将不在で武田の騎馬隊は支えられるかな?」
「家老の犬甘が指揮を取っている、問題ない」
これは小笠原湖雪の言質。おーい、指揮官ばらすなよ、手札の多い相手なら対策とられるぞ。
若武者が馬を寄せ、矢を掴むための大きな手袋である弽で、口に蓋をする。
「所詮、元々が指揮系統の違う寄せ集めの軍だろ。大将が指揮を執るならともかく、それぞれの軍が別個の指揮系統だから崩すのはたやすいぞ」
こちらのそんなセリフに対して、己が主君に余計なことは言うなと言ってから馬を離し、反論する。
「そうだな。2隊に分けて背面を半包囲か挟撃でもするつもりだったのだろうが、ここからなら見えるだろ、もう社の前の街道は完全封鎖済みだ。随分と良い建材を提供してくれてありがとう。今、騎馬隊をぶつけられても、足を止められる。こちらが本堂を落とす方がどう考えても早い」
マトモに返してくるとは真面目な奴だ。皮肉な笑いが自然と口に出てしまう。
頭がよいと思っている人間は、その中身を事あるごとにひけらかしたがるものだ。まして、このゲームの中で権力中枢に近いところにいる人間はそういう傾向がある。
それにこちら最大戦力がこれ見よがしにもう戦えませんと、利き手をつっているので。もう勝ちが見えたという奢りもあるな。
って、おいこら、件の虎の娘は座り込んで楽しそうににやにやとこちらのやり取りを見ていると思ったら、おもむろに酒を取り出して呑み始めてやがる。二日酔いだったろ、お前。懲りないやつだ。
「まぁ、そうだな――――ああ、そうだ、武田の【独自技術】知っているか」
村上や斎藤の【槍衾】のように重複しているのもあるが、各家ごとに設定されている。キャラクターの【武将特性】と並び、それぞれが唯一のプレイにこだわる『戦国online』 の各大名特有の固有なアドバンテージだ。
織田なら例の【三段撃ち】、伊達なら【竜騎兵】、長宗我部の【一領具足】といったように強力な戦力になったり内政面の補助になるものが多い。
「〈風林火山〉だろ。各陣形によりステータスが大幅に上がる」
苦虫を連隊単位で噛み潰したような表情。数ある独自技術の中でも迷惑なもので、軍全体の性質そのものの変化というたちの悪いのだ。足の速さに特化した部隊が、戦場についたらガチガチの守備固めの部隊になるとかやってられんよ。
「それがどうした」
「実は今回、戦前に武田の配下だった騎馬隊をを諏訪の指揮下に組みこんでね…まあ、指揮官はこちらの謎の白い方で厳密に言うとあれだけど、一応諏訪の傭兵だ」
「どこからそんなジョーカー連れてきたんだと文句言いたいが、折角の札、単騎で使ってどうする」
いや、こっちもそんな切り方するつもりなかったけど、勝手に飲んだくれて寝坊してたんだよ。
「十分強かっただろ」
「強いだけだ。絶対的ではない」
「まぁ、そうだな」
「さっきからペラペラ何のつもりだ」
最初は大声でやり取りをしていたが、もう普通の声で届く距離だ。
こちらの射撃や投石が止んだらすぐにでも詰められるほどの距離。
「ん、時間稼ぎだ、まぁ、あんたたちにはちっとも意味なかったがな、ふざけた強引な突破力だ」
どんだけ矢を射かけようとも、彼らはこの急勾配での馬の操作を乱しもしなかった。だが、時は来た。太陽は南中高度に達した。
「じゃあ、諏訪家の【独自技術】も知っているか?」
「っ!しまった!湖雪!」
「伏兵というのは、相手が絶対ないというタイミングで使うものだ――――さて、タイムイズカムって奴だ。待たせたな相棒、あとよろしく」
諏訪の【独自技術】〈御神渡り〉。現在でも続く諏訪湖の神事に由来する。
数年に一度、冬場の凍った湖に、数キロにもわたり割れた氷が峻厳な連峰のように盛り上がり、まるで神様が散歩でもしたような道ができる気象現象である。
その効果は水神を鎮め、水の害を起こさないを拡大解釈したもので、先ほどのカリンの術のように〈水〉属性の威力や虎千代の足が相手の水の罠にとらわれなかった様に耐性に補正つくこと。いや、これはどちらかというと〈御神渡り〉の最たる効果である、勢力範囲の水面を渡る事が出来るという効果によることが大きいかな。
「はい、ご明察。街道を封じられたのは計算外だけどな」
参道の麓は俺達の落とした建材や岩が溜まっていて、左右の街道は自分たちで立てた柵に囲まれている。なので、柵の役割はそのまま反転する。自ら退路を断った袋の鼠となってしまった。
ホントは、二方向を封じて塩尻峠のほうに押し返すつもりだけだったんだがな。
「さぁ、騎兵隊の登場だ」
ラッパがないのが残念だ。
150の騎馬が湖面を閧の声をあげて駆け抜ける。地鳴りと土ぼこりの代わりに、大量の水が跳ね、湖に幾重にも鼓動に似た大きな波紋が生まれる。
跳ね水は一粒一粒が夏の強い陽光を受け煌めき気反射した。いつしか例えようのないほど、美しい大きな虹色の水煙となり、まるで生命力に溢れた一つの大きな生き物と化したようでもある。
現実では見ることのできない幻想的な光景だ。戦のさなかだというのに口笛の一つでも吹きたくなる。
「さて、どうする。戻って迎撃の指揮を執るか。それともこの門を突破するか、好きな方を選んでくれ」
どっちだったら、間に合うかな。と最後に宣告する。
町民がおのおのの武器を取り門の前を固めた。ここが勝負どころだ。
「湖雪!」
「私は引くことなぞ知らん」
「流石、猛将だ」
迷わず即断か。しかも、うれしくない選択だ。。たった三人といえども戦力には開きがある。個で敵う者はいない。虎千代を無理に戦わせても、すでに戦力は半減している
「そうだな、麓の方も数には勝る。アレくらい止められる。先に決めるぞ」
そもそもが、虎千代が率いてこその作戦だったからな。
ああ、最初の掛け違いが最後まで祟るな、畜生。
「其方ら、甘いのう」
戦の推移を肴に呑んでいた平たいの器から口を離す。
「のう、其方、騎馬の指揮を取っているのは誰だと思っている――――そうじゃ、私の影じゃぞ」
ゆっくり立ち上がり、こちらの先頭に立つ。腕は使えないためか、刀は納刀したままだ。
その瞬間、今は亡き下社よりに展開していた向かって左の柵の仁科の軍勢に食いついた。
システムウインドウが開く、狂乱とでもいう勢いで、兜首の数が減り、策に依っていた軍が息をする間に瓦解していく。
曰く、軍神とは野戦をするな融けるようにその機能を失っていくぞと。
「影武者は主の代わりを同等に為せる故に影なのじゃ」
軍をほっぽり出して、一人駆けだすのは小笠原の専売特許ではない。それでも、野戦無敗の軍として上杉はある。なれば、自明の理だった。
その際、軍本隊はどう動かしていたか。答えは主がいようがいまいが主の意図どおりに、動かせる者がいたから。
だから、後でこの呑んだくれにはしっかり伝えよう、影武者にそんな能力は普通いらねぇ、そんな無茶な特殊ルールお前の所だけだよと。
やはり文が粗いので、連続更新が止まった後、全体的に手を入れると思います。いまは、番外編に全力投球、蓬さんを可愛く、とにかく可愛く、某ヴィヴィ君に負けないくらいに可愛くと念じながら書いています。
追記;ちょいちょいおかしなところを修正。まだ細かく筆入れると思います。




