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罰あたりの小唄

あれ?来週のはずが再来月になったんですがどういうこと…

 門扉一枚には明らかに過剰なエネルギーの奔流は敵味方、あらゆる者の視界を均等に白く染め上げた。

 砂漠の熱砂のような風が一瞬遅れて吹き荒れ、山と湖と区別なく、諏訪の上を薙いだ。

 参道脇の大樹の陰に逃れながらも、衝撃の余波で2、3度たたらを踏まなくてはならなかった。凄まじい力だ。ライブハウスのスピーカーを何十倍にもした見えない波が肌にぶつかるのを感じる。

 耳の奥がひどく痛い。直撃したら、なんてことは考えたくもない。

 掛け値なく、この戦が始まって以来の最大最強の一撃であった。


 その発生源である姫武者の紫水晶アメジストの色の髪は残心に合わせ、ゆっくりと肩先にかかる。その肩は遠目にも弱々しく上下をし、整わない呼吸は彼女に大きな負担と疲労を強いた事を示している。


 それでも、そんな姿でも敵対している諏訪側の兵たちに、大なり小なりその姿に恐れや畏れを植え付けた。勿論、この俺を含めてだ。


 こいつは、小笠原の大将は、そう、一騎当千というやつだ。

 それは辛うじて人の形をしているだけの、死神たちの呼び名。

 

 ひとりにして千の兵の価値をもつ者。いや、その言葉には多少の祖語がある。

 凡な兵士千人集めたとて、この将ら一人の為す武に及ばない。

 その力の本領はあまりにも人という枠組みを逸している。


 そんな超越者が為した事の大きさに、ぶるっと、この間より百合のようになった痩躯が我知らず震えた。


 だってそうだろう。


 このような名花は一本ではない。百花繚乱咲き乱れる戦の世の中なのだ。

 そんなものたちと渡り合い、一度の市も許されず、大切なものを掌中に抱えながら勝ち続けなくてはならない。その困難さに頭の芯が重くなる。


 何十回と力及ばず死んだゲームの記憶がまるで走馬灯のように駆け巡る。


 はたして、一時の怒りに任せて、戦火溢れる大河へ漕ぎだしたのは間違いではなかったか。そう自問する焦燥感がじりじりと足の先から登り始める。

 いやさ、違う。尚早であったかもしれない。だが、誤謬ではない。


 白い足袋の下、山道を歩くように目が粗く編まれた草鞋で一歩二歩と歩を進め、参道へと戻る。


 あの姫武者や軍神の本領が武の一文字、すなわち戦って勝つことなら。

 俺の本領は生きることだ。掌中の珠への侮りを許したまま、見て見ぬふりで通り過ぎる。そんな自分を曲げるなんて選択肢はない。それは生きているとは言わない、死んでいないだけだ。


 初期キャラスタート。性別変化。力もない、金もない。家もなければ配下もいない。無力の象徴にも思える細く白い指先を天に掲げた。

 個人的には不平不満は数限りなくある。だが、嫁はなぜか気に入っている。のんという遺憾だ。だとしても、それで十全なのだろう。

 それに無い物ねだりは性にあわない。足りなければ、他から調達すればいい。頼るか借りるかそれとも、奪うか。

 畢竟ひっきょう、ひざ裏まで伸びたぬばたまの髪の乙女になれど。そういったことを考える頭の中身は何も変わっちゃいない。俺は俺。俺であるために必要なものはそれともう一つとで、何ら不足はない。空っぽの掌を握りしめる。


 後から思いかえすと、此処で俺の覚悟はようやく決まったのかもしれない。

 何度も死にそうな目にあった、誰かさんの投げたかぼちゃに始まり、その父親や武田の武者。そして、小笠原の軍勢。

 それでもまだ俺の足元はふわふわと浮ついたままだった。

 鋭く研ぎ澄まされた真剣の上のような状況を、心もとない足取りで歩いていくことに自信がなかったのかもしれない。


 だが、この緑の山野と青い湖に囲まれた土地の全てを貫かんとする絶対な暴力を見せられた。勝たんとする強烈な意志はまるで世界に対する挑戦にもみえた。そんなものを文字どうり肌で感じさせられたなら。いやでも覚悟は決まるもの。


 袖が掴まれた。距離を隔ててとはいえ、破壊的な所業を起こした姫武将の目の前に、武器を持たず対峙する俺を、果たして止めるか支えるべきか迷いでもしているのだろう。

 そんな、小さな姿は否応なく、譲れない思い、引いてはならない誓いがある事を思い出させる。


 破壊の光が収まり。俺の真後ろに渾身であり会心の一矢の結果が姿を現す。

 麗らかな姫武者の表情がゆがむのが遠目にも分かった。


「なんだと!」


 影のようにつき従う若武者のプレイヤーが驚愕の声をあげた。


 あるべからざるものがそこにはあるのがそんなに驚きか。


 煤けて、破壊の奔流により門扉はいくつもの穴が空き、屋根は不格好に傾きかけている。

 それでも、門はその部首の構えのごとく、地面に両の足をつけたまま屹立していたままだった。


「なぁ、確かそれで、最後の一矢だったよな」


 右側だけ口角がつりあがるのを感じる。

 勝ちを確信した人の足元を、ケーキにフォークを入れるように崩すのはこんないも甘露。


「馬鹿な、こんなことが。貴様、どんな魔術を使いやがった」


 殺すような視線でこちらを見上げてくる、その必死さに知らず知らずくすりと笑う。


「さぁ、魔術なんてスキルはこの国にはないんじゃないかな、よく知らないけど」


 あるのは坊主や山伏らが扱う、〈法術〉やら〈方術〉だ。

 ほしいなら、そこの意地の悪いエセキリシタンのように海を渡り覚えてくるしかない。


「ただでさえ、低下している加護が四つもの社に分散した諏訪大社に耐えられるはずはない威力だぞ」


「ああ、そうだっけかな」


「だとしたらどうして」


 そこで、ちらっと太陽の高さを確認する。

 うーん、まだちょっと時間稼ぎが必要だな。


「まぁ折角だから教えとくと。兵力しろ金にしろ人材にしろ、必要な所に必要なだけ分配するのが、経済・戦争その他もろもろ全ての基本だ」


 だから、小笠原湖雪の一騎駆けは間違ってないだろう。

 最大戦力の最速投入。限られた選択しかない小勢力では、最良の方法であろう。あの軍神が危うく不覚をとるほどに。


「だから、ここ春宮に加護を集中させた」


 こんなとんでもない威力は完全に想定外だったけどな。

もっとスマートに勝つための仕掛けを認めたつもりだったのだが。軍神に手傷を負わせる輩相手じゃ仕様がない。俺は悪くない。


「四つの本拠となる社の内、残り三つの社を解体させた」


 上社、秋宮。下社、前宮・本宮。他の3つを解体し陣構えの材料にした。物理の防御と、加護の防御を1ヵ所に集約強化。まさに一石二鳥。

そこまでないと急拵の陣に、あんな高い防御力などないさ。


「まさか、信仰の中心を信徒自身の手によって破壊させただと。なんてことを……」


 破壊じゃなくてリサイクル。エコ万歳。

 ちなみに開戦から守矢親がこの場にいないのはそのため。後方で大工だいく作業。明日から私たちはどこに住んだら…と言っておいたが気にしない。明日は明日の風が吹くんじゃないかな。知らないけど。

 どうせ、残ってても本能寺の前の1582年、織田信長嫡男の信忠のぶただに武田滅亡の仕上げとばかりに燃やされるのが運命だし。


「さてね、別に俺のじゃないし」


 流石にこれは周りに聞こえないようにぼそっと言う。人のものをいくら浪費しようと惜しくもなんともない。元手はただ。

 勿論、その憎悪も全て君たちの方に向かうよう舌先三寸で誘導させてもらったしな。

 正規の兵士を町民が圧倒するような無駄に高い士気はこのためである。

 いやはや、人の恨みのエネルギーは恐ろしいねぇ。

 お前がいうなという、でっかい妹分の声が聞こえた気がしたがどうでもいい。


「だがな、あと一息だ。ついて壊れるような門を抜けば、本殿だ」


 確かに。そこは計算違いだったなー。準備は慎重かつ丁寧にだな。拙速で突貫な策はやはり好きじゃないのだ。


「いくぞ湖雪」


 姫武者が頷き、傍らの黒駒に飛び乗る。配下の主要なものもそれに倣う。武者達は突風となり一直線にこちらの喉元に、決定的な一撃を叩き込むため駆けだした。


 こうして、この戦は最終局面に向かっていくこととなる。


書きためをやってみました。二章は無事(?)終了しました。

ただ、推敲はやってないので誤字脱字チェックもしつつあげていきます。なるべく毎日あげたいです。

慣れないことはするものではないですね、三月中に終えるはずが思ったよりかかってしまったのをお詫びします。今書いてる番外編をはさんで三章に着手します。

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