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弱者の奇術

 柵の内側に残った300程の町民兵たちの中から、100を抜き出す。動き出す前に、簡単な作戦内容のレクチャーをする。

 事前配布の装備を確認、そして、それとは別にストレージをフルオープン、重量制限いっぱい近くまで用意し木箱に詰め込んでいたアイテムを選択、小山と積まれた状態で顕在化させ、それを持ったものから改めて隊列を組ませる。


「右回りに迂回前進」


 準備を手早く終わらせると、行軍の指示を出した。

 大混乱の前線地域を大きく回り込み、敵の無防備な脇腹を突くようにする。

『中入り』という戦術である。


 乱戦ながらも押し気味になっているので、下がっていく方より圧力をかければ簡単な半包囲陣形のできあがりというわけだ。

 ところが、シーンと静まりかえる100名。先頭の何名かが逆方向に歩きだそうとして後続が釣られていく。


「右回り!」


 先頭を進む竹束を持たせた力自慢の数人に体ごとぶつかり方向を修正する。

 後続にもばっさばっさと白木の扇を振り回し、改めて進軍方向を指示。


 ふらふらと、こっちの正しい方向になんとなく進み始める。


 全く、指示が伝わりにくいし、即席の訓練もないから行軍が遅いしでイライラする。

 昔の配下が懐かしい、こちらの意図を読み違える事はなかった、ただし分かった上で尚勝手をしやがる問題児軍団だったが、まだマシであろう。

 

「小笠原の本軍に近づいていっていますが、逆回りの方が良かったのでは」


 親父は上諏訪の上社本宮で補給役の統括と武田本国への繋ぎなので、娘の守矢信真もりやのぶざねがこの前哨戦の大将である。

 大将が打ち取られてもジエンドなので、なるべくなら前線には出したくないが仕方ない。

 なぜなら、相変わらずヒーラーがいない構成なので、巫女さんの親玉には出張ってもらうしかないのだ。

 ちなみに他の巫女たちはこの素人軍の命綱なので、後退予定地の山の上の下社しもやしろ春宮しゅんぐうに詰めている。

 さすがに柵の外までは引っ張っていくのはまずいので、ここで待つようにと念を押す。残る中で唯一のパーティメンバーだしな、いないと色々困る。

 

「大丈夫です。怖いのは騎馬だけです、それは開始から動いていません。こちらの姿の見えない騎馬に対する備えでしょう。むしろ、この数を対処するならば、歩兵の方が適切です。そのために歩兵100で来ました」


 カリンの確認を信じるなら、小笠原直属の歩兵は500。もし、こちらが残り300の予備兵力全部できたら、さすがにいくらか馬も動かすしかないからな。


 ゆっくりとした行軍は、こちらの意図をあまりにも分かりやすく敵に伝える。

 こちらと違い、組織だって向こうの歩兵が、こちらの動きを遮るように、中央の乱戦とこちらの進路の間に展開していく。さらには向こうの端の仁科も動き出しこちらの別働隊を逆包囲しようとする。

 わかっていたが、こと戦国においては『中入り』の戦術は非常に成功率が低い。やられたら嫌な事はむこうだって即対応してくる。


 分かり切っていた事なので、こちらもその動きを確認するや否や、事前に打ち合わせした通りに、ぶつからないように前進を止め、ある程度左右にゆっくりと広がらせた。そして指示を出す。


「前方から、木箱の中身を、ばらまけ!ばらまいた奴は後退!」


 一番近くの奴がハテナ顔で見返してくる。


「木箱!まく!さがる!」


 耳元で馬鹿みたいに繰り返し叫ぶ、貧弱な喉はそれだけで痛い。

 それでも通じないので、しかたなくストレージから残りの木箱を取り出し、まいてみる。

 そうして、ようやく得心したように、蓋を開け、足元にばらばらと中身をまいていく。

 他の奴らをそれを見て、同じように続く。


 この中身は、『まきびし』1キロの詰め合わせだ。


 クズ鉄で作られた上を通った敵に1歩に付き1ダメージを与える簡易設置型トラップだ。

 余りにも小さい効果の割にはそこそこ値段が張る。

 それゆえ、使う者も少なく、知り合いの忍者がロールプレイ的に愛用していた以外、見たことない。どのゲーム中にもよくある意味の見いだせないアイテムのひとつである。


 こちらの不可解な行動に一瞬警戒した敵の増援だが、5回のゲームにおいて蓄積された経験から脅威はないと判断して前進を再開する。

 それどころか数も少なく無防備なこっちの兵を一気に殲滅しようと、後続の騎馬もこちらの100と同程度動いてくる。

 早い判断、よい帷幕だ。

 そして、一つの確信を持つ、間違いなく相手にもプレーヤーがいるなと。


 それをみたこちらの100人は慌てて、空になった木箱を投げ捨てながら、後退しようとするが、統制のとれなさと、向こうの勢いに押され、もたもと後退を開始する。

 そこに襲いかかろうと、先鋒が『まきびし』のゾーンに踏み込んだ時、隊列が大きく乱れた。

 その場で立ち止まり、後続が勢いよく突っ込んできて将棋倒しになっていく。

 ダムのように人の流れがせき止められてしまう。


 勿論、原因はシステム的に大した驚異でないトラップによるものだ。では、なぜ行軍を妨げたか。それはデスゲームになって、ゲーム中大きく変わった事一つの事が原因である。


 それは、痛みだ。


 カボチャぶつけられた時も、蓬パパにぶん投げられた時も、貴志に殴られた時も、落ち武者に刀で切りつけられた時も死ぬかと思った。現代人は指先に針が刺さっただけでも大騒ぎなのだ。


 PCには痛みがある。数字的には大した被害でなくても、デスゲームであまりにも大きな要素となってプレイヤーに立ちふさがる。

 殆どのプレーヤーに中ボスがぶつけられ、俺たちのように戦力的に無防備だったのは少数だろう。それでも、少なくない数が命を落としたと金の妖精は言っていた。

 その大きな原因は、間違いなくこの痛みによる混乱だと思う。

 そして、それを現時点では、どれだけのプレーヤーが分かっているか。

 デスゲーム開始後のボス戦闘。

 多くのプレイヤーは家臣の力を借りて撃退したに違いない。

 痛みが発生するような事態が起こり得なかったのも多いのではないだろうか。そして、たとえ、分かっていたとしても、痛みがあることによる影響をどれだけ想定出来ているだろうか。

 そうして、知っているだろうか。


 NPCにも痛みは発生するようになったということを。


 諏訪の町の酒場でのやり取りをおもいだす。俺の嫁にグーパンチごほうびをくらっていた虎千代(NPC)も痛いと言っていた。


 つまり数字的には殆ど影響のない『まきびし』が、痛みが存在する事によって障害として意味のある物になったのだ。


 敵の進軍を止めたのを確認して、俺は白木の扇を広げると後退しつつ〈舞〉を踊る。


武踊ぶよう卯月うづき


 『白拍子』の初期能力から存在するスキルだ。効果は力を10あげるという、あってないようなもの。

 だが、攻撃用以外の舞にはひとつ特性がある、対象はパーティ全体であること。

 お気づきだろうか、通信的なシステムが弱いこのゲームにおいて、この有用性はあまりにも計り知れないのだ。

 事前に打ち合わせておけば、離れて行動する味方への合図の代わりにする事が出来るのだ。

 これにより別働隊への作戦行動のタイミングを完璧に同調させられ、迂回挟撃だろうと、分散進撃だろうと効果的に使う事が出来る。


 この〈卯月〉の役割はというと。蘇芳個人への合図だ。


 ドォン!!


 少しの間を置いて、耳を突き破る様な爆発音が響く。


 離れた小高い丘の上、現実のそこより海抜を三倍くらい上に設定されたつまりは下社の境内から、雷を破裂させたような轟音が戦場全体を揺るがせる。


 耳の奥につーんと木霊するそれは大量の黒色火薬を破裂させる音。つまり、大筒である。


 火砲使いの〈陰陽師おんみょうじ〉それが出番なし子こと貴志家臣団、鉄砲方大将・蘇芳すおうの本領である。


 彼女の腰に大量に巻きつけた袋は、俺らのストレージの劣化版だ。といっても最低でも銅製のくそ重い大筒が丸ごと入るわけもない。

 今回用いたのは木筒と紙筒と呼ばれる簡易大砲である。

 四国の、某野望のゲームで真っ先に滅ぼされる事に定評のある、河野こうの家で利用されていた技術だ。金属資源が少ない瀬戸内で、あり合わせの物で作られた火砲。

 そこで技術を学んだカリンが、諏訪の禄をはむ宮大工みやだいくの力を借りて、木を削り、紙を漆で塗り固め、鍛冶師に鉄の玉を鋳造させ、用意したのである。

 耐久性や威力などは、銅製や鉄製の物に当然劣るが、戦場にある材料で作れる事に利点がある。工程に技術の居る部品は砲身の分解を押さえる竹の輪っかのみ。それは蘇芳は腰の袋の中に入れていた物だ。野犬に襲われた時に、叩きつけていたあれである。


 後続の騎兵の群れがその爆音に驚き四散する。馬は臆病な生き物なのだ。人の群れに突っ込む馬や、自陣に逃げ帰る馬、明後日に走り出す馬、中央の乱戦に突っ込んでいく馬。なまじ、機動力があるだけに混乱がでかくなる。


 数瞬遅れて、目の前の敵の群れにそれなりの大きさの鉄の塊が降ってきて、二、三人が巻き込まれぐしゃりとなる。うん、すごいグロいです。


 破片が辺りに炸裂する拡散砲弾でもないので、派手さの割に与える被害は笑ってしまうほど、ごく僅か。

 その代わりに、大きな効果がある。轟音と、範囲は狭いが圧倒的な一撃の威力とで混乱と恐怖を戦場に振りまく事だ。


 当然、向こうにとっては青天の霹靂そのもので、馬になぎ倒されたり、その場にうずくまったり、まき菱の上に転がされたりと大混乱だ。俺はよっしゃ、とガッツポーズをした後、よくよく辺りを見たあとずっこける事になった。

 こちらも14、5人、ひっくり返っている。なんでやねん。


「おい、こら」


 こちらの話を聞き流していたのだろう。

 事前に戦場の真ん中に轟音の雷が落ちる事ぞーと適当な説明をしてあった。そのために、全軍およびこちらの馬には耳詮を配ってあった。

 副作用でさっきから指示が伝わりにくく、俺のか細い喉がダメージを負ったのにもかかわらずこの有様である。

 こいつらは耳詮を外していたか、もしくは音の伝導率を下げるために水で濡らしておけと伝えたのにさぼっていた輩だろう。

 あれほど口を酸っぱくして伝えたのに、やはり外様は信用されないものだ。


 だが、愚か者に構っていられない。再び俺は扇を取り出す。


武踊ぶよう弥生やよい


 今度は防御を10あげる〈舞〉を発動させる。

 これは後退の合図だ。


 一瞬遅れて、こちらの陣の奥から、太鼓がドコドコ鳴りだす。

 パーティ内で一人残ったこっちの大将が、後退の合図を全軍につたわるようにした。


 真ん中の乱戦は強制的に収まっていたので、いっきに中央の兵が引いてくる。

 茫然と、相手方はそれを見送っていたが、気付いてそこにわらわらと追撃をかけ始める。


 ドォン!


 今度は、その鼻先に蘇芳の木砲が着弾する。それにより完全に向こうの足が止まる。


「ナイスアシスト、良い腕だ」


 別働隊のこちらも合流しながら、陣に戻っていく。


「蓬、良かった無事か」


 真っ青になっちゃって怖かっただろうに。声をひきつらせるように肩で息をしている。手をぎゅっと握るとこちらに気づいて、安心すると相好をふにゃりと崩す。


「うううう…うぅ」

 

 涙目で、言葉が出てこない、いきなり戦場のど真ん中に出てしまったのが、よっぽど怖かったらしい。

 だったら、最初からするなと言いたいが、今、こらと叱ったりすると絶対貯めている涙が零れてくるので、ちょっとばかりうずうずするが我慢する。

 割とビビりなのに度胸があるのが、この嫁のたちが悪い所である。

 

「うん、どこにも怪我はないみたいだな。」


 ぺたぺたとあちらこちらを触って、無事をしっかりと確かめる。ドサクサに紛れて色々触らせて頂いたのはココだけの話。


「こっちは無視かなのです」


 ぷんぷん、とまだ余裕のあるあるのはカリンだった。

 白眼むいて、ぶらんぶらんと揺れる物体を背負って、口をとがらせてぶーぶー言う。


「あ、無事だったんだ」


「明らかに温度差酷過ぎだと一言物申したいなのです!」


 うん、元気元気、善き哉善き哉。


「頑張ってくれてアリガトー」


 不満そうだったので心をこめてお礼をした。


「色々言いたいですが、まぁ、よかろうなのです」


 だが、余裕を持てたのはそこまでだった。

 軽口をたたきながら、陣に戻ろうとする。その背後。


 冷たい殺気を感じ、振り向く。


 硬直した敵軍の中で唯一動くもの。ひと際、おおきな馬蹄の音が響く。

 影の如き黒駒。

 『まきびし』の海にまかれた木箱の上を八艘跳びして、こちらとの距離をあっさり詰めてくる。

 ひときわ輝く姫鎧をまとった武者が、火の玉の如き全力で馬を走らせながら、驚くほど静かな動作で、矢を番える。


 蒼く輝く、余りにも美しい〈鷹の目〉と視線が交差した。


ついに蘇芳の出番が来た。本人出てないけど。


なんか、急にファンタジー書きたくなりました、五話くらいの短いのさくって書いて突然上げるかも。そしてすぐこっちに戻ります。

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