長尾さんち
説明回。間空きましたすみません。
「さて、軍の首根っこを押さえつけ、指揮系統を一本化することに成功したわけだが」
「うわぁ、前向きと書いて痛々しいとルビを振ったような笑顔だぞ」
多少の誤算があった事は認めるのはやぶさかではない。
手持ちの騎馬武者が高々半分になっただけさ。
まぁ、こいつにまで肩肘張ってもしょうがないか。
「…なぁ、お前、さすがに怒っているか」
あの日あの時の、忠告という名のグーパンチを無視した結果。
手持ちの数少ない貴重な軍勢の半分がリタイヤ。ボスと認識された長尾さんちの御嬢様には残りはくれぐれもお手柔らかにと調練をお願いした。
こうなると不確定要素の矢島・花岡を先手を打って排除したのもここにきてマイナスだ。
「んー、もういいよ。すぎたくんはなかむらくんとなかがいい、って言うし」
それはどこの狭い業界の話だ。
「もしかしなくても、過ぎたるはなお及ばざるがごとしか」
「そう、それ」
あたまの三文字しかあってねえ。
「過ぎた事をくよくよしてもしょうがないんだぞ」
しかも、奇跡的に意味も間違ってたっ!
「だから、ここからはやるからには勝つことに集中するよ、それだけだぞ。それより、みんな働いているのにボクら三人だけさぼっていていいの」
現状。俺・蓬・貴志の三人のみ社に戻り。今現在は俺と蓬に割り当てられた部屋の中である。
「その分は、もっと意味ある事をやるさ。ふたりには戦を取り巻く構造の理解をしてもらう、今後の為にも」
元は他人の喧嘩。参加するつもりはなかったので、ここまで碌な説明していないしな。
「いつも秘密主義なのに。なんで、いまさら」
そういうわけではないんだが、お前に説明をする事自体が俺の精神に負荷がかかる仕様なので省略しがちなんだよな。
人間はどうしても楽な方向に転がっていくものなのさ。
「この間、ちょっとな」
パラダイムシフトがありまして。生徒は何人かいた方が、視点が立体的になってよいのです。
「ふーん」
その時、湯気の出そうなほど茹で上がった嫁と目があった。
そう、その心境の変化はいつあったかである。
反射的にあの時の肌の柔らかさとか、その甘い匂いがフラッシュバック。多分この人も似たような事思い出したんだろうな。
こっちまで釣られてしまい、じゅっと音がして耳の温度が一息で上がった。
「じ、じゃあ、順番に話していこうか」
虎千代たちが調練やっている間にさっさと終わらすべし。
「これから話すのは、敵と味方と戦の話だ。敵を知り己を知れば百戦危うからずとは言いきれないが、それでも八割くらいは何とかなる」
八割なんとかすれば、世界の歴史を鑑みても名将の部類である。
「では改めて、状況の確認をしよう。ここ諏訪の利権をめぐる戦い。俺たちは武田の臣下の諏訪衆に加勢をした。武田本国の支援はなし、代わりに助っ人二名を迎えた。ここまでが味方だな。敵は小笠原・仁科といった信濃の諸豪族の緩やかな連合だ。ざっくりするとこんな感じ」
とっくに小笠原は出陣はしているらしいが。システムによる開戦の知らせは無い。本来は他国の戦であろうとも、状況の開始はシステムアナウンスされていた。
状況開始寸前にならないと告知がないというのは、ゲーム時代からの変更点として考えられる。
他のサンプルは蓬さんの村の戦闘の一つだけだはあるが間違いないだろう。
あの時は突然だったが、今回は実際には状況は開始されているが分かる。
アナウンス無しでの仕様変更とかアンフェアだが、逆に考えると何に巻き込まれたかが分かるだけでも、僥倖と思うべきだろうな。
「未だ小笠原側による攻撃がないのは、町を焼け野原にしても旨みがない。こちらがじれたり割れたりするのを待っているんだ。できるだけ最小限の労力で味方を増やして、敵を減らすのが基本方針となる。全力であたるのは、最後の選択肢にするべき。でないと勝った後に物資がない民も逃げ散じている。あまつさえ復興には時間がかかるじゃ、後はじり貧だからな」
さらには旧勢力の恨みを一人占めという、悪手だ。
「では、なぜ嘉さまは、開戦前に味方を減らしたのですか」
ぐさっと刺さる一言。ですよねー。そこですよねー。
「端的に言うなら、寝返らせたのは『史実』がそうだから」
複数の史書にばっちり書いてある。花岡と矢島が裏切ったと。
今後のためにも年表通りのあるべき形の流れに持っていくのが、方針を決める上で、一番おさまり良いのは事実だからな。
「史実?」
聞きなれない、首をかしげる蓬。
「うんそう、その辺は今度詳しくかな」
なぁなぁ、で来てしまったが。おいおい、説明していかないとな。
自然と双子の話になるし、蓬の記憶が断片的に残っていることなど俺の理解も追い付いていない。仮説はいくつかあるが避けてしまっていた。
だって、その話になるとわたし泣いてませんよと、うるうるするんだもの。
「では、その結論とは別の方向より、ひとつひとつ理詰めで話していくとしよう。理由は様々あるが大きいのは三つだな」
三本指を立てる。
「ひとつ。指揮系統の単純化。組織というのは、よく役割分担されていて連絡が密なら単純な程良いものだ。だが、諏訪はそのま逆、糸がこんがらがっているんだ。そもそも諏訪は武の惣領家と祭事の大祝という双頭の上に、権力基盤の象徴たる社も上下二つもある。権力は出来るだけ分割しない方がいいのにな。古い勢力だけあって、既存の関係性が入り乱れてでがんじがらめなのさ。だから、西諏訪衆を裏切らせても信真があまり文句言わなかっただろ。一応、名目上守矢が頭とはいえ、実情の力関係は複雑なんだよ。もともと、彼らは守矢の部下では無い、それどころか手放しに味方と言えない状況だったわけだ」
それどころか諏訪という同じ名前を冠するがゆえに一番の敵といってもいい。
たいていの家が滅びるときは外の勢力の介入を受けることだが。そのきっかけは、身内が内紛に利用しようとして失敗するパターンが非常に多い。諏訪もまたその例に漏れない。
西諏訪衆はかつて主家を乗っ取ろうとして、武田を招き入れた。紆余曲折あり、その結果としては冷や飯食らいになってしまったのだが、勿論現状を良しとしてはいない。
のど元過ぎほとぼりも覚める昨今、また暗躍を始めたというわけだ。
手持ちの戦力が少なかったから守矢娘も目をつぶって彼らを使おうとしていたが、さすがにそれは甘い考えだというしかない。まぁ、彼女も裏切りを警戒してなかったわけではないと思う。ただ、手勢が少ない分、未練がましいとだけだっただろう。
それは危ない判断だ。ここぞの時にに背後から槍でグサリといいかれたら、どうしようもないからな。ここまでが一つ目。
「では、ふたつ目だ。新しく組み込んだ部隊はすぐに使えない。むこうもまた彼らを信用できないからだ。特に戦端を開いた直後の投降は一番扱いに困る。小笠原勢は新しく入ってきた矢島・花岡の警戒に処理能力や戦力を割かなくてはいけない。虚偽の裏切りだったらシャレにならないからな。俺の打った一手出の意味は相手の荷物を増やして動きを重くする代わりに、こちらの懸念を一つ減らしたわけだ」
兵が新しく増えた。それはゲームといえども数字処理でハイ終わりという訳にもいかないのが世知辛い。
「最後にみっつ目。守矢の巫女に伝えたとおり情報遮断の意図だ。折角、最強の指揮官がいるんだ、それは知られたくない。最高の戦果を得るために相手には、こちらが少数となめてかかってもらうことでその威力は何倍にもなる」
「それで、今回その指揮官にまる投げしたら。ヨシの自爆になったわけか。策士策に踊れるってわけだぞ」
貴志君、蓬から俺の株を下げる発言は慎みたまえ。あと、踊ってどうする。
「そうだな、味方の話の続きだその虎千代の事も掘り下げておこう」
蓬さんに向けた話だ。誤魔化そうとかではないぞ。
「あれが何者かというと、お隣の越後の領主の一族だ」
まぁ、のちの領主本人なんだけどね。
「そのような方が、なんで国元を離れてこちらにいらしているのでしょうか?」
「ちょっと遠回りな話になるけど、今、越後は揉めに揉めているから。さっき権力の二重構造は面倒なんて話をしたけど、越後も相当アレなんだよね」
正確にはどこもかしこもそんなだから戦国時代という。
「越後は元々、関東管領の上杉氏ってのが治めていたんだけど。関東管領が関東から出て直接治めるわけにはいかないだろう。代官として同じ上杉氏の守護を置いていて実質の支配は任せてきたわけだ」
ちなみに関東管領とは、京に御所を置く室町幕府の関東支配の機関の№2の官職である。
「これが時代が下ると、越後は関東管領と守護の支配地域の二つに色分けされていってしまうんだ」
支配構造の複雑化。諏訪と似たような事をやっているわけだ。
「虎千代の長尾氏はこの上杉氏を補佐するいわば家令の一族で、他の国の上杉氏の下にも他の長尾氏がいるがこれは今はあまり関係ないな」
「越後の長尾氏に限って言うとその中心の家が府中長尾家。そして、守護系列の古志長尾家と関東管領系列の上田長尾家のふたつが補佐につく形だ。これを長尾三家という。この三家が団結すればとにかく強い」
一人一人では単なる火だが、三人合わされば…って、そんな漢字などない。
「それ、知ってるぞ。一本の矢では折れても三本の矢は折れないってやつ」
「うーん、それは広島県の違う家の家訓だな」
しかも捏造エピソード。
できれば百万一心の方で間違えてほしかった。そっちの意味はみんなとならできるよ!
しかし、よく知ってたな花丸をあげようじゃないか。
まぁ、三+イタリア語で矢の名前のプロサッカーチームがあるからな。知識の出所はそれだろう。
そういえば甲府のチームもフランス語で信玄由来の『風林』だし。ちなみに火山の方は絶賛行方不明、ボールはよく動くが、フィニッシュが今イチで守備が脆いというチームの特性を表してしまってるかもしれない。
兎も角、結構戦国の名残は今の時代にもあるわけだ。
しかしこいつ、サッカー関連だともの覚えは段違いだな。
数学とか、単位をスパイクやボールにして考え方を教えた事が思い出される。オチはテストもそのままの単位で答えをを記入して△を量産したが。
「あれ、でも広島県ってこのあたりじゃないの?」
ほら、少し感心したら、爆弾発言きましたよ。
「…なんでそうなった」
「んー、なんか日本海側に広い島があるじゃん、そこかと思ってたぞ」
広い島だから広島と。
「佐渡の人と広島県民にも謝れ、お前。あと、もう口開くな」
あと、頭さげてボクはアホなので義務教育もう一年やらせて下さいと中学に土下座してこい。
サドはヨシだぞーとかいってるがスルー。
「ちなみに越後は新潟県な。話が脱線したんで戻すと、新潟だけに、この頃も雪が多いし冬は長い。だから、冬の間はどうしても物資が不足しがちだ」
蓬さんに県というのは、俺達の育ったところで使う行政区分の単位だと伝える。
「だから、限られた物資や自分たちの縄張りを守る為、国人勢力は他と比べてかなり強い。単純に言うと、国全体が強いものが偉いという風潮だ。謂わばあの虎千代様の小型版が沢山いる感じ。貴志がもし領主ならどう治める?」
「ガッツと勇気、そして友情!」
体育会系精神論乙。次、蓬さん。
「愛です!」
「同レベルか」
こちらの博愛系ロマンチストさんにも駄目出し。
「越後は難地でな。武田信玄の愛読書に『人国記』というその国々の気質を評した書があるんだが。越後の気質は勝負事が大好きかつ負けず嫌いでやたらつっかかってくる、意地っぱりで義理固い、簡単には調和しない人々とか書いてある」
時はまさに世紀末。このイカレた時代へようこそな世界観なわけだ。
「じゃあ、どう纏めるかというと、愛でも友情でもなく必要なのは、力による保障。腕力および、権力による絶対的な後ろ盾。各々の権利を保障しうるだけのふたつの力を示し言うこと聞かせる。下手に逆らうとつぶされるぞと圧倒的な力を持って脅す訳だ。その旗の下で各々の利害に目を瞑らせ、それぞれの利益を保障してやると」
「権利が守られる代わりに領主さまに年貢を納めるのですね」
農民の立場から蓬さん。
「うん、末端だとそうなるな。物か金か労働力か軍事力か、どの層かによって納めるものは異なるね。それを持って権力者は力と立場を維持する。しかし、これが機能しているうちは問題ないが、権力の方のタガが緩んでくるとそうもいかない。ひとつ前の鎌倉幕府が分かりやすいかな」
というか今の室町幕府では説明しにくい、というかできない。
南北朝時代の流れを俺が理解できるまでばっちり教えてくれる人がいたら、一万円までだったら払ってもよいレべルで訳が分からん。
「鎌倉幕府は将軍を頂点にしているが、実際に権力を振るったのが執権の北条氏。時代が下るとその執事の長崎一族が実権を握る。こう構造が細かくなって来ると体制の崩壊が始まるわけだ」
権益の流れがぐちゃぐちゃで力もまた細分化されて説得力がなくなる。
「実際の権力争いが形になった応仁の乱からこっち。権力の不足分を腕力でカバーしようとするから、争いは大きくなる。各地に軍閥が出来て、いっこうに鎮火しないまま、百年も燃え盛ったのが戦国時代なわけだ。そして、その争いの力が新しい大きな流れに収束するが今この時。この頃から既存の勢力を下剋上して各地に強力な大名家が成立する時期なんだ」
古い衣のしがらみを捨てる時というわけ。
図ったように数年の間で各地で一斉に大きな事件が起こり各地の勢力図が塗りかえられる。だから、ゲームの開始もここに設定されているのだ。
「越後でも幕府の力が弱くなると、それを後ろ盾とした権力の関東管領の下の管理者である守護なんて、間に人を挟む分だけ更に影響力がなくなってくる。それで越後の守護は相当、彼ら国人の扱いに困ってな。既得権益を削って力を奪い、守護の統制力を強化しようとしたわけだ」
不輸・不入の権がうんたらかんたら。当然反発がある。
そして、権力は手に入れにくいが腕力は誰でも手に入れられる。必然に争いがそこに生まれる。
「そこで、実は一番割食うのは上杉の懐刀で領地も大きい長尾なわけだ。それでも従順に従って反対勢力討伐とかの為にあちこちに戦に出ていたが、ある時当主が戦死して、代わりにとんでもないのが家督を継ぐ。それが虎千代の父・為景。守護を下剋上で追い出したり、報復でやってきたその兄である関東管領殺しちゃうはのやりたい放題」
百以上の戦を繰り返した戦国有数のウォーモンガーである。
「とにかく戦が強い上に頭もいろんな意味で切れて、力こそパワー、パワーこそ信頼の越後気質の塊みたいな人物だった」
筋肉が凄いと越後ではモテモテだ。
「支配の後ろ盾である関東管領上杉の威光を自ら排除した為景はどう支配権を確立したか、蓬は分かる?」
「腕力…軍事力は保持できているので、その正当性を得るために、上杉氏より価値のある後ろ盾を手に入れようとしたのではないかと」
「そのとおり、守護の下の守護代だった為景は上司の頭越しに、幕府に接近したんだ。そうして為景は威光の力を最大限に利用できるようにしたわけ」
関東と関西はいつだって仲が悪い、室町幕府も然りだ。時代が下るといつの間にか喧嘩を始める。
だから、長尾家が関東側の勢力から抜けて傘下におさまってくれるのなら幕府側も大歓迎。
「このまま順調にいくかと思ったが、京の幕府内でも政変があって、為景の後ろ盾が負けてしまう。これで越後の状況も一気に変わる」
そもそもの立脚点が崩れるとあっという間に状況は悪くなる。
「為景は一国に王手を掛けていた所から、専横を苦々しく思っていた上杉傍流の上条上杉の旗の下集った反対勢力と戦う事になる。身内の上田長尾家とも対立して追い込まれていく。なんとか、土壇場で会心の一勝は拾うがもうどうしようもなくなり、隠居においこまれてしまう。置物として長男・晴景が名目上の統治者としておかれるわけだ。彼は父や末の妹とは似ても似つかない病弱で気の弱い性格でな。平和時ならいい当主だったかもしれないがとても国人たちを抑えきれなかった」
筋肉無いと越後ではモテないのだ。あれよあれよと乱世に逆戻り。
「そのまま、今ほとんど内戦状態なんだ。虎千代たちの父・為景の葬儀の時には兄弟皆鎧を着込みながら出席しなければならなかった程の荒れ具合。相当ひどいものだったみたいだ」
「…とても悲しいですね」
それも因果応報と言えばそれまでだが、親の因果だしな。
「そうして、一代の英雄は去り、滅亡一歩手前どころか、半分踏み出していた長尾だったが、大きく状況が変わる。ひとりの英雄が現れた事で」
「それが、あの子?」
「そう、龍はもう一人いたんだ。初めは城主として古志長尾家が治める重要拠点に送り込まれたんだ。勿論、子供が指揮なんて取れるわけないわけで、まぁ、人質としてだな。上田の長尾には綾御前様を嫁がせる約束になっていたから、それとバランスを取る為に虎千代は古志の方に差し出された訳だ」
同じ名字の配下に人質を出さねばならないほどに追い込まれていたわけだ。
「乱世の習いで、力が衰えた所に容赦はしない。黒田秀忠という将が、長尾の影響力を排除しようと画策して、晴景の下の弟達を宴席に招き暗殺してしまう。虎千代もそれに巻き込まれたんだが、兄が命がけで庇いなんとか逃げることができたわけだ」
「そして、命からがら居城に戻るが、重要な拠点であるそこを混乱の内に手に入れる為に黒田は兵を出した。絶体絶命の籠城戦だったが、そこで名目上のお飾りだったお子様が少数の兵をまとめ上げ勝ってしまう」
その後も全ての内乱を先頭に立ちたちまち治めてしまう。
「そして、虎千代が力こそパワーを示したおかげで君主の権力が強化されてめでたしめでたしとなるはずだったんだが、余りにその力が際立ってていた為、虎千代を君主に据えようという動きに発展してしまうんだ」
「ままなりませんね」
「その動きの中心は古志長尾家であり、そして信濃北部に根を張る高梨家。そして、この高梨家が今回のポイントなわけだ。この家は北信濃に領土を持っていて、北信濃の善光寺平をめぐって村上と戦い続けているわけだ」
長野の平野は貴重です。
ここでようやく話が戻る。
「後年、そこをめぐって戦国史に有名な戦いが起こる程大切な土地でな」
「はいはーい、知ってるよ。中島の戦いでしょ」
おーい礒野、野球しようぜー。ちょっとおしい。
正しく、川中島と訂正する。
「そっか。そういえば、サッカーでも川中島ダービーってあったぞ」
甲府と新潟の一戦。現代にも知名度があるほどの規模の激戦になるわけだ。
「じゃあ、こっちは武田側だから諏訪は山梨県なのか。山ばっかりなのに山なしとか、おかしいぞ」
「古典的なネタで上手い事言ったつもりか、その二つの間にまたがった現在地である所の長野県民に謝ってこい」
話の腰をバキバキに粉砕してくれるなコイツは。
「で、なぜ、虎千代がここまで来てたかというと。越後は晴景派と虎千代派に分かれて一触即発な訳だ」
「兄妹げんかなら、ごめんねって仲直りすればいいじゃないか」
「いや、ここまでお前何を聞いていた。名目のトップこそ兄妹同士だが。実際は元々の火種が形を変えて、再生産されたわけだ。関東管領家と守護の対立と、長尾三家の主導権争い、それぞれの国人の利益がからんで、しっちゃかめっちゃかなわけだ。本人達の意思じゃどうにもならない」
「それは、辛いね」
古い伝統とその軋轢は俺達も他人事ではないからな。
「ああ。特に府中長尾家は家族が少ない。あれでこそ感情がピーキーで無茶苦茶な奴だが、不器用なだけで情が深く身内を大事にしてしまう。その方法がズレてたりするのは愛嬌だ」
その愛情がずっとずっと後に、それで消えない大きな傷を残してしまう事になる程に。
「だから、虎千代様はこれを最後に因果の乱麻を断ちたいとお考えです。だからこそこうして諏訪の豪族に内紛に介入されない為に、村上と手を結びに来たのですから」
音もなく、剣呑な気配と共に、龍の影が姿を見せた。
そういえば、注意書き忘れていたんですが、よそ事の事情との兼ね合いで虎千代の年齢は史実とはズレます。
欄外の話なので特に本編とかんけないですが念のため。
あと、年齢はあれですが書き手的にロリ枠と違います。




