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歩く大迷惑

なんだか来月頭に長野いけそうなので諏訪周辺と塩尻峠みてこようかと。完全に地図帳とにらめっこでしたので。

「では改めて。長尾虎千代ながおとらちよぞ。好きなものは酒と美少年じゃ」


 えー、史実通りです。

 戦国時代を代表する英傑は、戦国時代を代表する駄目な人でもある。


「あのー、蓬ちゃんから今度は鉄拳制裁ないのかな。飲酒的な意味で一言どうぞ」


 いやさ、因習的な意味で甘いな貴志雛っ子。

 田舎の酒に年齢制限などない。こちらの笑顔が素敵な御方は黒田武士に生まれていたら名槍・日本号を素面で吞みとれる程の肝機能の持ち主だぞ。

 親父が樽を一晩で空けてたのを覚えてるか、あの親にしてこの子ありだ。


 蓬さんはちょいちょいと手招きして、こっちをちらちら見ながら貴志にナイショの耳打ちをしてる。

 ふむふむ、なるほどーと聞いてる方は頷く。でっかい気になります。


「で、なんだって」


 率直に幼なじみ属性持ちに訊ねてみた。


「『わたしも面食いですから何も言えません』だそうです、いやー、旦那にくいねだぞ」


「わわーっ、流人ルートさま言っちゃだめですっ」


 嘘や隠し事をしてはいけませんと仕込んであるから。え、俺?しらね。


「はぁ、どうにも調子狂う人たちですっ」


 こめかみを押さえながら、小動物的なお供の白装束がそんな事を言う。

 まだこの場にしぶしぶいますといった感じ。


「あとは、うーん、私はいくつになったんじゃったか?」


「御歳は九つですよっ」


「え」


 ピシッと、蓬さんの笑顔が石化する。そして、一瞬遅れてからの驚愕の叫び。


「ええーっ、だってだって、こんなに背も高いのにですか」


 目算、150cm半ば。蓬さんより頭半分ほど大きい。ちなみに史実では160cmくらいなので今後、もう少々育つ。


「それに、おお、お胸も…ありますよね」


 ゆったりとした厚手の布地の上からでもはっきり分かるそのふたつの膨らみ。


「私は人より成長が早いみたいじゃからな。いやさ、こんなもの誰でもほっとけば大きくなるものじゃろうて、気にする事は無いのじゃ。そなたも十を過ぎれば大丈夫じゃろ」


「…ぐふっ」


 十三歳になる蓬さんが心に傷を負った。


「まぁ、多少の個人差はあるかのう、長実ながみなんか私と同じ物食べておるし、歳もふたつ上なのに私より小さいぞ」


 はっはっはと大口をあけて無遠慮に笑う。

 

「…ぐふっ」


 影武者も心に傷を負った。本当に歩いてるだけで敵味方関係なく、何もかもなぎ倒していく迷惑な御仁です。


荒川長実あらかわながざねです。虎千代様の影武者です。好きなものは平穏と安寧」


 空しい響きである。何とも目が虚ろなのがまた居た堪れなくなってくる。あと、影武者ですって名乗る人初めて見た。


「どうじゃ、私と瓜二つであろう」


 いえ、キャラが違いすぎます。


「いやー、初めて城下で見かけた時、それはびっくりしてな。そのまま城までかどわかしてしもうたのじゃ」


 びっくりしたのは間違いなく攫われた方だろう。ここどこですか、何であたし連れてこられたんですか的な。


「それはそうと、影武者連れて歩いてるのはなんで?意味無いぞ」


「そ、そうですよ、その通りですぅ。姫さま、私は国元に帰って、お留守番していますっ」


 我が意を得たとばかりに鯉が滝をも昇らん勢いで主に抗議する。


「いやじゃ。一緒にいてくれる友は其方だけしかいないからのう。死が二人を分かつ時まで一緒じゃ」


 一蹴された。

 桃園の誓いっぽく言っているが、先程、首刎ねようとしていたのは何だったのか。きっと気のせいに違いない。


「主君からの友情が重すぎますっ」


 目を><にして抗議を続けているが、その主はどこ吹く風。


「ううっ、ただの商家の娘でしたのに…姫様に顔が似ていたばかりに人生が高難易度になってしまいましたっ」


「人の運命線はどこで曲がるかわからないからね」


 そう言ってでかいのが背を丸めようとするから、頭の上を軽く二度叩いておく。沈むなと。


「近所でも評判の器量よしで、あの子ちょっとイケてねって引く手数多でしたのに…ううっ」


 気弱げに見えて、実は結構厚かましく、たくましいから大丈夫じゃないか。

 

 ついでに、こちらの三人も簡単な自己紹介をし――――


「それじゃ、責任者に顔合わせだ」


 ――――諏訪の大社に足を向けた。




「というわけで、指揮官連れてきました」


「うむ。よしなに」


 綺麗に揃えた黒髪は、鷹揚に頷く。


「なにがというわけですか。貴女、朝から姿が見えなかったと思えば、世迷い事を」


 親は現場に出ていて不在。留守を預かるのは娘の守矢信真もりやのぶざね

 電子の妖精めいた巫女さんの元締めだ。

 形のよい緑眉の間には心労や疲労からか、すっかり皺が刻ざまれてしまっている。


「この細腕ですから陣の普請の手伝いなどできませんからね。代わりに勝つためにやれる事を行っておりました」


「それでどうしたら、この偉そうな若輩に指揮を取らせるとかになるんですか。小官を馬鹿になさっているのですか」


 見た目の年齢はあんたも俺も若輩もいいところなんだがな。若輩どころか実は九つデスとか本気で言えない剣幕だ。

 おそらく、自分が散々言われた事なんだろうな。私怨の火をこちらに傾けるの止めてほしいものだ。


「とんでもない。そもそも騎馬隊の指揮官も…えっと、千野靫負尉(ちのゆきえのじょう)様でしたか。若輩ではないですか、彼も実戦経験もないでしょうに」


「ええ、ですので、西諏訪衆の矢島やじま花岡はなおかの指揮下に置きます」


 本末転倒だろそれは。唯一の手持ちの指揮権を蝙蝠な奴らに譲り渡すとか自殺行為にしかおもえない。

 それは死んでも離しちゃ駄目なものだ。盗もうとする俺の言えた義理じゃないが。


「こちらとあちらを天秤にかけている様な輩が頼りになるとでも」


「戦後の恩賞はあのあと根回しして、こちらが譲歩しました。昨日今日の顔を拝見したばかりの人物よりかはいくらかはマシかと」


 俺への嫌味も忘れずに含まれてますね。まぁ、ごもっともです。


「ただ今戻りましたです」


 『青いの』が戻ってきた。約束の時間よりも随分早い。


「いやー、苦労しましたです。矢島・花岡共に説得成功なのです」


 よい仕事をしたと、一仕事やりとげた晴れやかな笑顔。


「どちらにつくか散々迷ってたようなので。利を説き続けたら最後には分かってくれましたです」

  

 さすがに、有能だ。人の為になる事以外は本当に早くこなす。

 守矢娘も、そちらもすでに手を打っていたのではないですか、とあからさまにほっとしている。傍らの水の入った器に手を伸ばし喉を湿らす。


「言われた通り、小笠原・・・に寝返らせました。証拠の書状なのです」

 ぶーっ、と畳に向けて口に含んでた物を守矢娘が吹いた。汚いなぁ。


 蓬さんは染みにならないよう畳を掃除を始め、『青いのは』気にせずそのまま、では小笠原側に届けてきますです。と慌ただしく出て行った。 


「なななっ」


 げほごほ言いながら、こちらを睨みつけてくる。まぁ、言葉は無くても言いたい事は分かる。


「この戦を預けて頂く為ですよ。ここからは、情報が筒抜けになってるようじゃ困るんです」


 まぁ、大きくはそれ。他にも理由はいろいろあるし、それも完全にはどうあっても難しいが、少なくとも旗色をはっきりさせておけば伝わるにしてもタイムラグは出来る。

 掟破りのワイルドカードを切るんだから、奇襲じゃないと意味がない。


「下手な味方は敵よりもよほど性質が悪いものですので」


 関ヶ原の時の小早川秀秋こばやかわひであき然り、多くの大名家の命運を見ても内憂は外乱よりも人を殺すのだ。

 頭をいくら固めても、無防備な腹を抉られたら、それで終いだ。

 

「ただでさえ、少ない兵が。諏訪の民になんといえばいいか」


 正座した緋袴の腿の部分をにぎり、この世の終わりの様な顔をしてそんな事を言い始める。


「貴女はそこが既に間違っているんですよ」


「くっくっく、これはまた、随分、いじりがいのありそうな御仁じゃな。うちの北条キタジョーに似ておる」


「姫さま」


 マフラーの裾をひっぱって長実が発言を止めさせる。

 ややっこしくなるからなるべく黙らせといてとお願いしてある。

 軍神様にも自重してねと伝えたが、半時で忘れるので無駄だろう。


「そもそもどこのどなたですか」


 手で制す。長実がマフラーの上から押さえ発言を封じた。


「武田の将ではありませんので名は明かせません。のちのち面倒な事になりますからね」


「ただ、村上とずっと敵対してる家の者ですよ。そこの一番の戦上手です」


 嘘は言っていない。ただ、隣の国の人なだけで。


「なるほど。北信濃の国人勢力の子弟ですか。貴女、真田さなだの手の者でしたね」


 『青いの』の騙りだけどな。かってに納得したようなのでにっこり笑ってほったらかしとく。



「というわけで、これから諸君らは私の指揮下に入ってもらうのじゃ」


 軍神様の一言目。

 武装した男達の前に立っても気後れもしない少女に奇異の視線を向けるか、あっけに取られるかだ。


「信真殿、桜殿。拙者をからかっておられるか」


 その中で、真面目系な軍の主の千野さんだけが噛みつかんような勢いで声を荒げる。


「ええ、同感です」


 ジト目でにべもないな。どうにも四面楚歌で居心地がよくない。


「ですから、実際に腕を見てもらう為に場を用意しました。文句は実際に腕をご覧頂きましたらいくらでも」


「では、虎千代様宜しくお願い致しします」


「むー、話が長いし、飽きたのじゃ」


 おい、こら。

 龍の娘はそう言い放った口元を左目だけを細めにやにやとしている。


「…わかりました。条件は?」


「察しが良くて助かるのう。先程の酒が欲しいのじゃ」


 金髪アホ毛のアイドル並みにテンション管理が難しすぎ。


「後ほど、沢山用意させますよ。浴びるほどお飲み下さい」


「あい、わかった。宜しいのじゃ」


「皆戦前で気が張ってる所に何の茶番を。子供といえど腕の一本や二本覚悟してもらうぞ」


 白刃を見せ付ける様に抜く。

 だが、相対する少女は眉一つ動かさない。自然体のままだった。


「む、どうしたのじゃ」 


 それで、怯えて引くとでも思っていたのだろう。ばつの悪そうな顔をする若武者。


「…武器を持たぬ者に斬りかかる事など、拙者の矜持が許さぬ。抜け、腰にある大層な物は飾りか」


「いやなに、私は手加減というのが苦手でのう。頭を斬り殺しては流石に具合が悪い。今後に障るのじゃ。これでよい」


「…抜け」


「…うむ、しかたないのう」


 こういう輩は嫌いじゃないみたいで、くっくっくと笑いながら目を細める。

 虎千代はそこらに落ちている陣を組む為の廃材から、脇差くらいの長さのものを拾い上げ、二、三度振って具合を確かめる。


「まぁ、これでよいじゃろ。少々硬いのは気になるが、まぁ、死にはせぬじゃろ」


 やっこさん、舐められたと思って、遂には完全に目がまじだ。


 抜いた刀を、刃を上にして、腰をおとす。深く息を一定域まで吸い込む。


 刹那、爆発したように、一気呵成に飛びかかる。両者の間を十人程が並べる程のスペースを一足で。

 剣先に全体重を乗せた必殺の突きの一刀。


 虎千代はかわそうともせず。切っ先が届く瞬間に、峰側に枝を当ていなす。そのまま刀身を滑らせて、逆に懐まで入り込むと。

 次の瞬間には、跳びかかった方が地面に転がっていた。


「右手と側頭部に一発ずつと足払いだぞ」


 幼なじみに解説をしてもらうがさっぱりわからん。

 倒れた相手の喉元に、ゆっくりと枝の先を当てる。


「うむ。この戦では其方は死亡じゃな。しばし、そこで死体に徹するがよい」


「では、次の者」


 木材による虐殺が始まった。


「打ち込みが甘い!」

「踏み込みが浅い!」

「そのような腕の振りでは畑すら耕せぬのじゃ!」

「声が小さい!」

「顔が不細工じゃ!」

「少し痩せろ!」


 一言一刀のもとに切り捨てられていく。理不尽というか、後半はただの悪口になっている。


「おお、忘れておった。其方ら騎馬武者じゃったな。ならば、騎乗の腕もみせてもらわんとな。どれ騎乗して打ちかかるがよい」


 というわけで、側に繋がれていた各々の馬に散っていく。そして、今度は一番初めに騎乗し戻ってきた者から犠牲になっていく。


 虎千代は振りおろされた長槍をかいくぐると、前方に回転しながら跳躍。すれ違いざまの馬の腰に着地する。ゲームの馬なのでサラブレットとまではいかないまでも、相当でかい。それを乗り手ごと飛び越えるとか、どこの牛若丸か。

 そのまま馬首に振り向きざま、蹴を見舞い、乗り手を蹴り落とした。

 手綱を奪い取ると、それに気付いた馬が振り落とそうと、嘶きをあげ前足を高く上げる。

 あぶみもつけてないのに、接着剤で張り付けられたように上に乗る少女は微動だにしない。 なおも跳ねて暴れる馬のうえで、涼しい顔でバランスを取りコントロールする。

 やがて、馬も諦め少女の体重を受け入れる。


「いい仔じゃのう、暫し付き合うがよい。あとで水も藁も与える故」


 どうどうじゃ、と鬣を手櫛でとかす。


 そこでようやく鐙に足を掛け、不格好な木の棒を残った者たちに向ける。


「さあ、諸君ら。大将首は目の前ぞ、見事打ち取ってみせよ」


 次々に騎乗した武者達が得体の知れない少女に恐慌し、半狂乱で突っ込んでいく。

 もう意地だった。掛け値なしの全力。色とりどりのスキルエフェクトがあちらこちらで光る。

 強さ、速さ、固さを強化する者。属性を纏わせる物。千差万別の効果を発生させる物。

 まるで攻撃系のスキルの見本市の様だった。

 それが判断する間もない程の数と速さの暴風となって突っ込んでくる。

 少女目指し尾を引きながら。

 本来であればひとつひとつ、それがいったいどういう能力なのか、観察し適切な対処していく冷静さが必要だ。求められる最適解を選ぶのがこのゲームにおける戦闘の基本にして奥義。

 同時並行処理能力。例えるなら、何人もの相手と電話をしながら、複数の家事をする様なものだ。

 しかし、片手を超える数以上を相手に適切な戦闘できるのは自分のみる限りこのゲームでは十人もいない。そして、そのうちの一人が彼女だ。

 しかも、それを百人以上の相手に対して出来る。彼女はその中でも別格だった。

 しかも厳密には対処では無い。どんなものであろうと戦闘行為というだけで全て十把一絡げ、特別な事など何もせず先程の馬と同じように、己の技量と才だけで抑え込んでいく。

 

 彼らが少女の騎馬とすれ違った瞬間に、皆一応に転げ落ちている。まるでそういう台本の劇のように。


 蹄音といななきとせき込む程の砂埃。

 その中心で軍神が踊り狂っていた。


「では、次じゃ!」


 今度は少女の方から尻ごみしている武者達に向かい突っ込んでいく。

 あとは先程の結果が量産されるだけだった。


「さて、ご覧いただけましたか」


 狐につままれたような顔をしている巫女の人。


「少女の皮をかぶってますが、あれは戦の神ですよ」


 正確には自称・神ですが。


「実力は分かりました…ですが」


「ですが?」


「少々やり過ぎではないでしょうか」


 気づいたらなんとか無双みたいになっていた。秒単位でキルスコアが伸び伸びである。


「ぎゃー、ストップ!ストーーップ!!」


 あわてて、止めに入るが時すでに遅し。


 

「うむ、張り切り過ぎて、戦の前に半分以上使い物にならなくなってしまったのじゃ」


 死屍累々。馬も人もそこら中に散乱している。三百人の一軍がまるごと崩壊していた。

 傷を押さえて呻いている者、ピクリとも動かないものや、心折られて地面と会話を始めてしまっている者もいた。

 空馬が空しく、他の馬に蹴られたり踏まれたりした主人の周りを右往左往している。


「あのー、すみません。こんな柔な兵とは思ってなくて、止める時期を逸してしまいましたっ」


 人差し指同士を胸の前でツンツンとつつく小動物。

 そのあけすけな台詞と一層過酷な現実に守矢娘が半笑いになっている。


「つい久しぶりだったもので、加減を間違えた。今は反省はしているのじゃ」


 頭を下げると思いきや。うむ、と逆に胸を張る越後の龍。

 呆然とする俺の肩を貴志の手が叩く。

 鬼退治に行くのに悪魔と契約する様なものだぞとさっきボク言ったよねと無言の笑顔。


 なんていうか選択肢間違えた。セーブポイントからやり直したい。


後半、書いてる途中ブラウザフリーズ。がんばって書き直しましたが。あとで、思い出したら描写たします。

誤字脱字みていたら「下手な味方は敵よりもよっぽど」云々かんぬんいってました、こっちの予期せぬところで同じ話の中ブーメランになってます。これがフラグ建築死ってやつですね。

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