守矢
遅くなりました。保存する前に消すというアホをやりまして。色々天に召されました。次のサービス回レーティングな意味では健全かつエロいしあがりだったなぁ。一から書き直してああなるかどうか。まあ、やるしかないですけどねー。
厄介さん達と関わり合いにならないように、決して走らず急いで歩いてきてそして早く立ち去った。
数町歩き、たどり着いた目的地である社。その境内は非常に騒がしかった。
「やつら、また大祭の邪魔にきやがった!」
「四月の時に比べて、軍の規模がでかすぎる、どうすんだ!」
「神長官殿!いったい社はどうなっているんだ」
社に戻ろうとする守矢頼真に、民が詰め寄っている。
激しく余分な遭遇があったので、どうにも遅れてしまったらしい。
年の頃がバラバラな屈強な男達が、人の良い神官に近づこうとするのを護衛の兵達は必死に押しとどめている。
「止せ!神長官殿が通れんではないか」
十四、五人の圧力は相当なもので、四人しかいない護衛は当然人数差で押し込まれている。
こちらの案内二人も加わるがまだ倍の人数差だ。如何ともしがたいだろう。
それを俺はこのままだと、混乱に拍車がかかるなぁ、とあくまで他人事とぼけーっとながめている。
だって、こういう時に有用な蘇芳は町に戻る途中、今後の為の地形確認にこっそりお使いに出してしまったし。
カリンはカリンでおもしろがっているだけだ。そこでパンチなのです!やー!とか実にノリノリである。
後ろで、犬チック系の連れふたりは、どうしようどうしようと慌てる事しかできない。
このふたりは俺以外の人間の応対は丁寧で親切だからな。なぜ、俺にはわりと強硬策をとるのかは納得イカネー、それは今は置いといて、このような声が大きい方が強いような場には向かないのだ。
これは落ち着くまで、待機かなぁと思っていると。
「静まれ!」
鋭い女性の声が、群衆の背後の方から響いた。
妙齢の女性が社殿の奥からゆっくりと歩いてくる。
染み一つない白妙に、紺袴。妙に鋭い視線が印象的な人物。
左右後方に、随伴の巫女を連れているのが、足取りに一層静かな迫力を持たせていた。
この場、全員の視線が集中する。
「静まれ!静まれ!」
このワンシーン後は、この紋所がとかいいだしそうな台詞だ。
巫女たちが、代わる代わるそう声を上げる。先程の声もこの二人のどちらかだな。
群衆から五歩ほど離れた距離で音声を上げてる左右は止まった。
しかし、中央の女性は、無言のまま前に進む。
彼女は騒ぐ民の先頭、その息のかかる距離まで歩みよった。
近寄られた男は、下がるのも、騒ぐのも許されず、女性と同じく口を噤むしかなかった。
それを見届けた後、またゆっくりとした足取りで、次の男の元に向かう。
じっと、ひとりひとりに視線を合わせる事を繰り返す。
不思議と声は止んでいった。
通常なら他人は入らないパーソナルスペースに飛び込んで圧力をかける。なんという力業か。
「…頼真殿、彼女は」
新たな登場人物が場を支配していく中で、捨て置かれた当事者に声をかける。
「わ、我が子の信真に御座います。や、社の禰宜大夫を務めております」
はぁ、と、ほぉの中間の間の抜けた返しをしてしまった。
だって似てねー。何もかも似てねー。寸借詐欺にでもあった様な気分になる。
こちらの様子を察したのか。苦笑する守神官長。
「言いたい事はごもっともです」
見透かされて、頬が赤くなる。よく言われるんだろうな。
そんな子の美貌と結びつかない中肉中背の中年いわく。
「ど、どうにもここ信濃は女性が強い土地柄にて、私は家内にも娘にも頭が上がらないのですよ」
家庭の事情を詳らかに話されても、困る。
裏表ないのは大凡の人にとって美点だが、ここまであけっぴろげだと周りの人たちも大変だろうな、と思わなくもない。
あと、女性が強いのは過去現在あらゆる場所でだろう。ソースは俺。
そもそも、日本は神話のトップのアマテラスにしても、日本史の最初の人名の卑弥呼にしても女性だ。 もしかすると、たおやかな(妄想)女系社会を崇め支える古来のその形が正しいかもしれない。
祖が神氏たるここには、守矢氏が言うように、その傾向が色濃く残っているのかもな。
逆に身も蓋もない言い方をするならば、そういうゲーム設定なのだろう。
神様の話になったのでここらで少し、彼ら守矢のルーツに触れておこう。
さあ、日本史オタク乙なざっくり話が始まるよ。読み飛ばし可。
守矢氏の祖には二つの説がある。
まずひとつは、遠く飛鳥時代、蘇我氏に追い落とされた物部守屋に行きつく。この守屋が姓に転じたというものだ。
名前が転じて、姓に変化したのは、旧ユーゴ辺りで例えるとイブラヒムさんの子孫がイブラヒモビッチになったり、ストイコフさんの子孫がストイコビッチになったりするものだろうか。
さしずめ、俺の場合は蓬さんが好きだから、ヨモギスキーと言ったところか。いかん、ちょっとズレた。
それは東欧というよりは更に東のロシア方面……じゃなくて。守矢の話だな。
物部氏は古い血筋だ。祖は神話のニギハヤヒともいわれる。
先程のアマテラスをトップとするものとは別系統の天神だ。
天之逆鉾で有名な宮崎県の天孫降臨とは別の天孫降臨が大和(奈良あたり)にあったとされる。そして髪の子孫の証である神器・逆鉾と同等の宝重である天ノ羽々矢というものを保持していたと一説にある。
両方とも、喉から手が出るほど欲しいこのゲームの最強ウエポン神代級である。
あとどうでもいいが、天孫降臨以降、宮崎県が日本史に絡む事ってほぼ無いのが切ない。
島津躍進のきっかけの西の桶狭間木崎原の戦いがあるじゃないかと主張してもしらねーよと失笑を買うだろう。
とにかく、神武の東征における国譲りの物語のラスボスポジションであったのが色々あって。最終的には降伏して臣従し現在に連なる大和朝廷で重臣ポジションにおさまる事になったというわけだ。
そんな物部氏は河内(大阪あたり)周辺を地盤にした豪族で、勝った方も負けた方も双方の漢字がややこしい事で日本史選択者の憎悪を集める磐井の乱を鎮圧した物部麁鹿火をはじめ軍事を司った一族である。それだけに古代の歴史の中でも重要度は高い。
武士の語源の「もののふ」という言葉の縁も見逃せない。
そんなこんなで、政敵である蘇我氏に政争で負けた後も、姓を改め、ある程度の権力は保持してはいたが藤原京から、平城京に移る際に留守役として置き去りにされ、以降表舞台から完全に姿を消すこととなる。
だが、物部氏の傍流は全国広範囲に分散しており、一番の有名どころは石上神宮に連なる家であり、うち一つがこの守矢氏ということだ。
もう一つの説が、諏訪の土着神である漏矢神の子孫という説だ。ミジャクジ神とも同一視される土着の神。
軍神系三大神宮の鹿島の主神である古代の軍神みんな大好き建御雷神に相撲で負けた建御名方神が諏訪に追い詰められて「自分この地方の自宅警備に専念するんで、許してちょんまげ」と命乞いをしたのが、諏訪氏のルーツである。
ちなみに、引きこもり先に指定されてのに割を食って、建御名方神の出雲軍に負けての軍門に下った土着の神の末裔が守矢氏というわけだ。
つまり、四つの勢力のどこよりも諏訪は信州に根は深い、神代の時代からの1000年単位の筋金入りの自宅警備員であるのだ。
どちらの説によっても、いずれも古代の神話の二つの国譲りの話に繋がる古く尊い血族である。
戦国期の大抵の権力者は自称他称も含め源平藤原橘である事を考えると。それ以外の祖を持つのは珍しいパターンである。
そんな、背景を持つ諏訪配下の守矢の直系が目の前の巫女装束の女性となる。
全員を制圧した女性はこちらにゆっくりした足取りで歩いてくる。
「父上、御無事で」
近くで見ると威厳の割にびっくりするほど年若い。おそらく二十歳以下。
禰宜大夫ということは、性別は女性で装束は巫女だが、実際は神官である。
巫女は年齢による引退があるので、長く神社において権力を持つには神官である必要があるわけだ。
巫女はみんな若いおんにゃの子、夢広がるしテストに出るぞ。
神長官の所在を告げる娘の言葉に釣られ、周囲の視線がこちらに向かう。すると、どうしたことか先ほどとは違う質のざわめきが起こる。
「す、末姫さま」
「まこと末姫さまじゃ」
「姫さまが御帰りになられたのじゃ」
守矢娘に押しとどめられたため小声で騒ぐという器用な事をやっている。
ところで、視線が守矢父を通り越し俺に集まっているのが、なぜだろう圧倒的に気になる。
厄介事の予感しかしないのだが。
守矢娘の取る道を作るべく再び脇に控えた供の巫女ふたり。群衆の間を抜けていく時、一瞥していく。
それに慌てて俺から視線を逸らす民達。
こちらの一行の前で守矢信真は歩みを止めると古い神道式の略礼を取り、面を上げる。必然的に目があった。
そして、機械的なその表情に感情らしきものが初めて浮かんだ。
驚き、困惑、疑念の三つが等分された奇妙なものだった。
「顔に何か」
じっと眼を逸らさない、緑水晶の様な瞳。俺も当然いい気分であるわけもなく。
その声に、きょとんとした後。得心がいったと軽い頷きを見せる。
そこで、初めて己の表情に気づいたのか、瞳を伏せる。
「失礼。初対面にて不躾で御座いました」
今度は不思議なほど好意的な音であった。
「いえ、失礼ながらこの様子の理由を」
こちらを窺う周りの者を見ながら、そう尋ねる。
守矢信真は眩しそうに目を細める。それ以上動かない表情の奥に少し微笑んだ気配がした。
「あ、貴女が、我らの主武田に嫁いだ、姫に似ているからですよ」
娘の傍らの親より返答があった。それは舞台の家中の人物。
娘も、肯定とばかりに頷く。親父の方を山賊からを助けた時硬直してたのはそのせいか。
「こちら、武田の桜殿。さ、真田幸綱殿の家臣だそうだ」
はい、武田です。きゃるーんと安い笑顔を振るまっておく。スマイルはいくつ出してもでも0円なり。
「なんだ他人の空似か」「ややっこしいな迷惑だ」「よく見ると性格が悪曲がった顔してやがる」
とかそれらの声は無視する。敵対した時は覚えておけよ☆
諏訪の…姫ねぇ。このデザインのオリジナルの件のアイドルがそのポジションにおさまっているのか。
はたまたユーザーかゲームデザイナーかに俺と同じような意図で作られたか。
もしくはモブの言うように空似か。
黒髪ロングのキャラデザは許容範囲が狭いから印象が似かよると言う線もある。
ま、いいや。当面は関係ないだろう。
「改めまして、大祝補佐禰宜大夫・信真に御座います」
同じ漢字を代々名に用いる通字というシステムがある。そして、その字などを臣下に与える事を偏諱。
武田の通字である『信』の一字を貰い受けていることから、次代を期待される人材なのだろう。
親は諏訪氏の『頼』の字を下賜されているのが歴史の針の進みを見ているようで面白い。
そういえば、諏訪を取られてもなお授与された諏訪の偏諱を使い続けているのも面白いな守矢親も案外気骨のある人物なのだろうか。
ともあれ、守矢娘は一般的には無名の人物ではあるが。雰囲気あるよな。神官らしい厳かな立ち振る舞いは確かな存在感を持つ。俺の抱いた感想だった。
若木の様な緑の長髪。床にも届かんとするボリュームを赤い布で左右に束ねている。
あれ?妙な既視感があるぞ。
なんだろう、どこぞで大いに見た事のある特徴的なシルエットだ。
髪と同色のツリ目がちな瞳を見ていたら、そこで、はっとなる。
気づいてしまった。
まさかとはおもうが禰宜だけに、こんな外観設定と性別にされてしまったのだろうか。
冗談はさておき、いかにも凡庸な、イメージでいえば定年間近の現代社会教諭守矢先生と比べると、才気走った鋭い瞳があまりに印象的だ。
ここで一つ得心がいく。守矢頼真は善人である。それは良くも悪くも。
そう言った人間が、トップの人間が非常時に現場を離れるなんて、責任放棄とも取れる行動をとっていた事は、少しばかり訝しく思っていた。
万一があれど、任せるに足りる非常時用の人材がいたという訳だ。
しかし、まだいかにも芽の若い新緑。今後はどうなるかわからないが、現状は役者不足だろう。
よし、まず相手はこのふたりだな。浅く呼吸を整える。
諏訪の大祝は諏訪満隣という人物ではあるが、現人神ポジションで現状はまだ武田の傀儡以上の意味は持たず実権はない。甲斐にとどめ置かれているようだし。
代わりに諏訪の一族の千野靫負尉が大祝代官として、兵を統括しているという話を守矢親から聞いている。
諏訪大社は本来二社に分かれていたが、四大将諏訪頼満により機構をまとめられた。
諏訪大社にある二つの社。
下社は大祝の金刺氏が中心人物を欠くことから、実質、上社の文官の守矢親子と武官の千野の評議が今の諏訪の最高決定機関になるわけだ。
「では、奥でお話を」
一礼して、踵を返す。
その背後に、低く声をかける。
「いや、結構。むしろ、民の目があるここが望ましいかと。私が参りましたのは諏訪に引導を渡すためで御座います故に」
強すぎる言葉に、あたりに喧騒が走り、信真が足を止め振り返る。
口元が我知らず歪む。
さて、ようやく待ち望んだ出番ですよ、っと。
今週中にもう一個あげたい。交渉回。そして、できれば、サービス回まで。




