特技は戯言と虚言にて
ちょっとこの話の後に勘違いがありまして修正中です。上げる前で良かったセーフ。
大河クロカンみたいですね。間違ってもいい人でしたはやって欲しくないのですけどねー。
「いやいや助かりましたよ」
守矢頼真と名乗った神官はいかにも人のよさそうな顔に、柔和な笑みを浮かべている。
壮年の割には髪に白いものが混じっている。
容貌は神官と言うより小学校の先生とか言われた方がしっくりくる。
ただ、今はその表情も疲労の色で濃くメイクをされていた。
戦国では生き残っているのが不思議な弱々しさだが、いかにも神に仕える身としては相応しいか。
しかしながら、先代の諏訪の頭領・四大将頼満なんかは神官でありながら、武田先代の『狂虎』武田信虎とガチで殴り合いした武闘派だったからな。
誰しもが、そう見がちだけど、職業と人間性は必ずしも一致しないんだよな。
あと能力と人間性もか。分けて考えるのはどうにも難しんだけどね。
ただ、この人物は外見と中身との乖離はないだろう。いかにも争いが不得手という風に見える。
勝手な思い込みだが、彼は職分と個人の差異を感じた事もないに違いない。
そういう種類の人間は、大概が平時の人材であり。当然、今しがたの様な非常の事態には弱いわけで。
「あの、お怪我は御座いませんか」
外行きの態度で応対する俺。俺の横には交渉役を自認するカリン。
まぁ、という声が後ろでした。ちらり見てみると、蓬が両頬に手を当てるという今までに見た事の無い動作をしていた。
じっと、眼が合ったかと思ったら逸らされた。え…俺なんかしたっけ。
そのまま、ぱたぱたと他二人と神官のお供の侍を介抱を再開した。
緩い動作をみるに、どうやら幸い命にかかわる負傷の者はいないみたいだ。
それでも、このまま見捨てていく事は俺の嫁さんには出来ないわけで。
では、そういう事でと、この場からフェードアウトは出来なさそうだ。
「あ、あの、そちらの刀は」
俺の右手に向けられる。納刀されたそれには金細工が施された『武田菱』がこれでもかと自己主張をしている。
面倒を避けるために誇示していたものだが、まさに策士策に何とやらである。
後ほど、詰めが甘いのと、その場の思いつきの行き当たりばったりで、後が大変なのはいつもの事だぞと幼なじみからフォローでない何かを言われたとさ。
はいはい、気をつけますよ。
「父が先代信虎様を助けた際頂きました刀に御座います」
この一帯の権力者みたいだし、彼らに悪い印象を持たれても仕方ないので、その場しのぎを続ける事にした。
「で、では、最近ここら一体の治安を維持している一行というのは、もしや貴女方の事でしょうか」
あちゃー。やっぱすすんで目立っているようなものだしな。
「おそらくは――――」
さてどうするかと考えつつ、そこまで言いかけたところで、横のカリンが一歩前に進んで割り込んだ。
「このたび、御館様に召し抱えられました真田幸綱様の部下で御座いますです。私はカリンと申します」
息をするように嘘をつきますな。さすがである。
「となると、信濃の調略担当でしょうか」
真田は先代信虎に海野平の戦いで滅ぼされた信濃の豪族海野氏の一族である。
かの『日本一の兵』真田幸村こと真田信繁の祖父に当たる人物だ。
智では信玄を超えると評された程の将である。
今回の目的地である隣国上野のスーパーおじいちゃんこと長野業正の食客として、冷や飯を喰らっていたが、この度、仇である武田に仕えるという攻めの一手を打った。
この割り切り方こそが、まさに真田の姓である。
現在は旧勢力圏を中心に、諸豪族や国人を味方に引き入れる工作を担当している。
「ええ、若輩ゆえ、まだ役目についたばかりですが、頼真殿、以後お見知りおきをです」
そして真田は武田の一番新しい家臣でもある。更にその役目に付いたばかりという事で信憑性がある中に面識の無さは誤魔化そうという考えだろう。
「こちらは、御館様の正室である三条夫人の一族の方ですが、中立の立場から私どもも含め信濃の監査の役目に付いて御座ますです」
武田晴信には側室も多いからな。後ろ盾の勢力同士のさや当てめいたものもあるのだろう。
諏訪側からは探りを入れにくくした上に、表だっては公平にと、違う所を意識する様な含みを持たせてやがる。
同じ嘘ならでっかい嘘。なにごとも中途半端はいくない。青いこのポリシーとかんとか。
しかし、真田の事といいさすが武田の同盟国の今川の一員、無駄に内情に詳しいな。
「私は桜と申します」
静かに一礼。
あれ、この場の事には関係ないが、背後に嫌な気配がしたぞ。あとで困った事になる様なそんなあれが。
「……あ…は、はひ」
慌てて目の前の神官も頭を下げる。
何だろうこの妙な間は。
「では、守矢様。桜様のいらっしゃった意味がお分かりですか?」
其れを無視しつつ、カリンは話を前に進める。冷やかさも含んだ、その言葉。
「は、晴信様は、お、お怒りになられているということですか」
震える声で神官はそう喉から声を絞り出した。
カリンは、あ、そうなんだという眼の色を見せたが、悪い想像が駆け巡っている守矢さんはそれには気づかない。
「はい。率直に申し上げまして御館様は大層お怒りです。勿論、守矢様だけではございません、信濃の者すべてに。私どもも同罪にてございます」
しらーと乗っかっていった。肝が据わっているなぁ。
「幸い、三条夫人は、諏訪御寮人を気にいって御座いまして、諏訪が不利になる報告はあげたくないとの仰せ。つまり、どうすれば良いかお分かりですよね?」
わなわなと全身を震わせている守矢の神官さん。可哀想に唇真っ青じゃないか。
「私どもで処理いたせということですね」
カリンさん誘導上手いな。相手に結論言わせて選択肢決めさせつつ状況把握しているよ。口説き方講座とか開いたら一財産築けそうだ。
「そうなのです。状況はどこまでつかんでいますですか?」
「お、小笠原と仁科が兵をあげたらしいと報告が入りまして」
「では守矢様、何故この場にいらっしゃるですか、まさか逃げだそうと」
「めめ、滅相もございません。西諏訪の分家の高遠殿に渡りをつけておこうと思いまして」
武田に征伐され軍門に下った野心家。
兵を諏訪に入れる名分あげたら、諏訪ごと食われかねないんだけどなぁ。
そこで、カリンは形の良い顎に指をかける。
「ここだけの話、西の高遠、東の藤沢は武田といえども信用できない者達なのです。でも、御館様はいまだ兵を動かすつもりはないです。何故かわかりますですか?」
「ま、まさか、わ、我々をお見捨てに」
率直な物言いするなこの人。正直者なんだろうな。
「いえ、違いますです。親武田として、守矢様。貴方に期待をしていますからですよ」
はっはっは、こやつめ飴と鞭を振り回すのぅ。
期待しているか知らんが、この人となりに信は置いているはずだ。
「晴信さまが、どれだけ諏訪大社に眼をかけているかご存じでありますかです?」
「も、もちろんでございます。賦役や税の免除、寄進。過分な物を頂戴してございます」
「これから武田はでかくなるです。その時、支える大きな一柱として諏訪を――――ひいては守矢様に期待してるですよ」
「だが、我々は固有の兵もあまりなく…その」
褒められた手前、出来ませんと言うのは決まりが悪いということか。
「御心配には及びませんです」
年相応の大きさの胸を張って言う。
「桜様はかの黒衣の宰相、今川の太源雪斎和尚の元、軍学を修めた方。秘蔵っ子に御座います。先程の小豆坂にも一隊を率いて参陣されました。必ずや此度の勝利を約束しましょう」
詐欺の片棒がこっちに回ってきたぞっと。
貴志君の所、ちょっと校則が自由すぎないかな。個性を伸ばす方向にしても限度がある。
まぁ、抗議するわけにもいけないので、自信ありげに一礼する。
「おおっ」
涙を流さんばかりに、こちらを見上げているぞ。期待されるって、胃が重くなるなぁ。後ろめたい状況だと特に。
この前、織田に完勝したばっかりだから雪斎の名前すごく強いデス。
「それでは、今から対策を練りましょう。他言無用にて、万事我々にお任せ下さい。山賊同様に屠って差し上げましょう。三条夫人もそう望んでおられます」
「あ、ありがとうございます」
甲斐への連絡を断ったうえで、恩を着せやがりました。
「今後とも付き合いのある同じ信濃者です、守矢様の手柄にして差し上げますです」
その言葉に、へなへなと肩の力を抜く。
「あ、ひとつ言い忘れました」
「は、はい何でございましょう」
「桜様は先程も申し上げたように、京のやんごとなき方ゆえ、田舎料理は口に合いませぬ。最高の贅を尽くして下さいまし」
え、俺難しい感じの人間設定にされましたよ。
「は、はい、かしこまりました」
慌てて、こちらから離れると部下たちに集合の号令をかける。
その頃にはもう治療も完了してたみたいで、怪我する前より、元気にもなってしまったような、家臣団は蓬たちを囲んで談笑してました。
人が良い組は誰とでも仲良くなるなぁ。裏表なく善人だから。
声が届かない範囲に行ったところでこちらは密談を開始する。
「今夜は御馳走なのですよ」
くっくっくと人の悪い笑みを浮かべるカリン。
「そうだな、いっぱい食べて」
「湯浴みなのです」
「久しぶりの布団でたらふく寝たら」
「「とんずら」」
声をそろえ、イエーイとハイタッチ。
こちら、暗黒面担当も平常運転でしたとさ。
次は早く上げます。多分。ちょっとプロット変えて、早めにある人物を投入します。速攻魔法・ビバ御都合主義発動です。
ところで、その次はサービス回としか書かれていない、このくそプロット作った奴誰やねん。




