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番外編・貴志雛姫の高い所が好き

はい、嘘付きました。本編ではないです。四本並行して書いていたらこれが最初に出来ましたので。これだけ書いているとと、どっちつかずになることが判明。

なに書いているかも、書かなきゃいけない事も抜けていく罠。

多くても三本くらいが限界ですな。

 ここは木曽谷きそだに。かの木曽義仲きそよしなかを祖先に持つ万石を誇る大名木曽さんの領地だってヨシが言ってた。ところで、木曽義仲って誰だっけ?多分エライ人かなにかに違いない。


 蓬ちゃんの村も含めた南飛騨を治める三木氏とは国境争いを繰り返していたんだけど、代替わりをきっかけにで仲良し政策に変えたらしい。侵攻から親交に移ったというわけ。

 昨日の敵は今日の友。そして、今日の友は明日の敵。

 そんな切り替えの早さもこの時代の特徴だろう、ってここまでの言葉はもちろんヨシの説明。言葉遊びとぐるっともってまわった話はヨシの癖だもの。


 それでね、なぜそんな場所の話をしたかというと、ボクらは今信濃に入った所で少しも進めないまま、足止めを食らってしまっているからだ。

 来る日も、雨、雨、雨。

 紫陽花が綺麗に咲き誇るのは見ていて楽しいがそれ以外はばってんを付けたい。

 梅雨だし、今まで降らなかったのが不思議なくらい当然のことだけども、三日も続いていると、さすがに憂鬱になってくる。ボールが蹴りたいぞ。


 でも室内で興じるわけにもいかず、間借りしたお寺の一角で、車座になりながら、ボクらは取りとめのない話を延々としていた。


 しかし、変化が無いと、いい加減に雑談のネタも切れかけているわけで。


「そのトマトってなんでしょうか?」


 このところの湿気でいつもより幾分か毛先がカールしている蓬ちゃん。菖蒲の柄をあしらった着物の合わせから、普段より二つ三つ大人びていて見えて、色っぽい。思わずボクはため息をつきつつ答えた。


「丸くて真っ赤な食べ物だぞ」


 我ながら分かりやすい説明。でも、なぜかヨシからジト目を受ける。


「…南蛮の果物。先ごろ新大陸で見つかったばかりだな。水分が多く酸味が利いていて、色んな料理に使えるんだ」


 ヨシは千早ちはやを脱いでいる。緋袴に白い小袖の基本的巫女さんスタイル。

 ヨシのくせに無駄に神秘的な感じ。

 あと買い替えて素材が綿になった。初期装備よりは心もちパワーアップしている。

 ところで全国津々浦々の店で巫女服が置いてある国ってなんか嫌かもと、少し思わなくはない。


「酸味というと、蜜柑みたいな感じでしょうか?」


「甘みは無いかな」


 蓬ちゃんの言葉を受けてヨシが答える。


「梅干しみたいなのですか?」


 今日のカリンは、上下ともに洋服。シルクのブラウスに、シックなひざ丈のエプロンドレス。スカーフでもつければどこかの民族衣装みたいだ。生地がやわらかそうで見てると頬ずりしたくなる。


「そこまでは酸っぱくはないな」


「そのまま齧っても美味しいんだぞ。夏に限界までサッカーをしたあと水浴びしてから、冷房を効かせた部屋で、氷水を張った桶に胡瓜きゅうりと一緒に入れて、岩塩ガリガリってかけて食べると軽く死ねるぞ」


 じゅるり、思い出したら食べたくなってきた。


「そして、畳の上でタオルケット一枚掛けて寝るとなおよいぞ」


 しあわせー。何物にも代え難いしあわせー。


「そして、その食い散らかしたのを片づけるのは俺。あと、話半分も伝わらないぞ、貴志」


 ああ、そっか。そういえば、そうだったぞ。


「なーなー、果物なんて、どう料理に使うんだよー。そんなに赤いのに、とのはおいしいと言う」


 蘇芳がなんか変な言い回しをした。今日も外に出られないと判断したからか、几帳面に結上げている髪をおろしている。この中では、ヨシの次に長い髪。

 いつものバサラな衣装もしてないので、静かににしているとどこぞの深窓のご令嬢と言ってもいいくらいだ。正直、もったいないなぁと思う。いつもこんな感じの方が可愛いとお思う。


「野菜に近いんだ。小麦粉をよく伸ばした生地で牛の乳から作った、えーと、チーズじゃなくて…らく…いや、とかと一緒に焼き上げると凄い美味しい」


「牛の乳…ですか」


 戦国の食文化には、牛は食肉も乳を飲む習慣もないってヨシが言った。

 蓬ちゃんが心なしか眉をひそめている。

 飲んだら、牛になるという迷信があり、かの信長のぶながも本当にそうなるか試した事もあるとか。民明書房が初出じゃないかとヨシは付け足す。


「俺たちの故郷では普通に飲まれていただけどな」


「うんうん、おいしいよねー」


 ボクなんか一日一パックは義務の様に消費していたぞ。


「平安時代くらいには、貴族にはそういう文化があったらしいな。栄養価が高いからな」


「へーです」


「ううっ…でも、わたしは絶対無理ですね。そんな、白いのなんて飲めません」


 ヨシがなぜか居住まいを正す。

 定規で引いたような見惚れるくらい綺麗な背筋。


「…蓬さん…今のもう一回お願いします」


 小さい声でごにょごによ…この男本当に最低だ。


「はい?なんでしょうか??」


 小首を傾げ、髪がさらりと頬を流れる。蓬ちゃんの無垢な上目遣い。

 洗いたてのシーツのように一点の曇りもない感じ。


「ご、ごめん、なんでもない」


 どうやら、笑顔が眩しくて怯んだらしい。スケベなうえにヘタレとか救いようがないぞ。


「???」


 追い討ちでニコニコ笑顔を向ける蓬ちゃん。幸いにも何も気付いていないままだ。

 もう。見てるこっちが恥ずかしい。

 とりあえず、蓬ちゃんの代わりにどついとこう。

 ボクの正義は、純情をいい様に弄ぶなんて悪を許せない。


 どすん。


「いてーな」


「そういうのやめなよ」


 雪の結晶めいた美貌が、猫の笑いに歪む。


「そういうのってなんだよ、言ってみろよ」


 小学生か。


「そーいうのだよ」


 もうっ。そういう変な事はボクだけにしとけばいいのに。あんなに真面目に好いてくれる蓬ちゃんが可哀想だぞ。


「まぁ、俺は好きじゃないが、ここでは薬として使われているから体に良いな。飲むと骨が丈夫になって、背や胸が成長すると言われている」


 ソースはコレと、ボクを指さす。

 約二名が過剰に反応する。やだ、ちょっとボクを見る目が眼がこわいぞ。


「なー、とのとのー。食べ物の話をしてたらお腹すいたー」


 蘇芳には今の話はどうでもよかったみたいで、ボクの袖をくいくい引っ張ってくる。妹みたいでかわいい。正直、たまらないデスね。


「こら、蘇芳はしたないのです」


「だってー、蓬様のご飯すっごく美味しんだものー」


「だってじゃねーです」


 ふたりのいつものやりとり。


「くすくす。かしこまりました、少し早いですがお昼にしますね」


「わーいー」


「私も手伝いますです」


 立ち上がった蓬ちゃんの後に続こうとするカリン。


「あ、じゃあ、ボクもてつだ…ん?」


 ……ざわ


 あれ?今空気がピリッとしたぞ。どこかの山に雷様でもきたのかだろうか?


「と、殿は、戦闘でお疲れでしょうから、ま、待っていて下さいなです」


 なんと、カリンは本当に優しい子だな。


「まぁまぁ、遠慮しなくていいから、みんなでやった方が楽しいぞ」


 戦闘だけじゃなくみんなで協力して何かをやるのはいいことだ。サッカーと同じ。

 君主とかなんとかで一線引かれるの、好きな人は好きだけどボクはなんか嫌だし。


「臣下の沽券にかかわりますです」


「そっかー」


 〈水〉の子は自分ルールに誇りを持つ事が多い。その辺りは尊重しないといけないと、完全に自分の事は棚上げしていた同じ〈水〉の某幼なじみに言われている。まぁ、ボクの好き嫌いを押し付けるのもよくないしね。

 でも、そういえばさっきカリンの肩揉まされたような気もするけど。


「気のせいなのです」


 あ、なんだ、気のせいだったか。


「とのは座っているとよいー、動かないとのはよいとのだ」


 うるうるきた。ボクはカホーモノだな。



 お寺に借り賃を喜捨し台所を借りる。今回の食事もなにが出てくるかボクの胃袋は期待で弾んでいた。

 道中、せっせと蓬ちゃんの指示で食糧確保に努めてるので、魚系以外は食べ放題だ。

 でも、今はお寺という事で生臭の調理は遠慮している。


 ボクとヨシは、結局器を磨く係となった。ウキウキしながら、磨いているとそれもあっという間に終わり、三人が楽しそうに料理しているのをぼんやりと見ていた。

 ちょっとさみしいかも。


 隣を見ると、ヨシは妙に真剣なまなざしで同じ光景を見ていた。

 その横顔は、なぜ人は争うのかとか、人類全てが幸せになるにはとか答えのないものを憂う理知的なものに見える。

 いたいけな女の子たちもよく騙されていたなけどね。違うんだぞ。


 ボクは知っている。あれはエロい事考えている時の顔だと言う事を。


 その証拠に、蓬ちゃんが屈んだりして、体のラインがうっすらと強調されるたびに、眩しそうに眼を細めている。

 旅装を解いた、薄手の夏衣なつごろもは、とても目に鮮やかで気持ちは分からなくもないけど。

 というか、終いには手を合わせて拝み始めたぞ。

 ヨシの中の蓬ちゃんがどんな風に神格化されているのか、たまにすごく気になる。



 食後、蓬ちゃんと二人でやっていた皿洗いも終わり、珍しく彼女とふたりきり。

 ボクの臣下ふたりはヨシに〈華道〉を教わっている。


 必然的に話題はここにいない共通の話題に事欠かない人物の話になる。

 今のテーマは、心にザックリ来た彼の台詞や行動。


「蓬には蓬のいいところがあるよ。って、さすがに傷つきました」


 本人が良かれと思っている言葉だと言う所が特にひどい。


「うん、わかる。自然に心抉ってくるよね」


 お前はどこにいても分かるから便利な、って褒められた時は、三日ぐらい凹んだ。


「一番強烈だったのはあれですね。初対面の時です」


 タレ眼の端を、くぃと軽く釣り上げ、抑揚のない口調で言う。どうやらヨシの真似らしい。


「おい、そこの田舎娘。あんた、この村では、まぁマシな部類だな」


「ごめん、ボクからも謝るよ…あはっ…あはは」


 もはや渇ききった笑いにしかならねぇヨ。

 一応、大切な幼なじみなのでフォローをしておくと、この二人以外、ゲーム内で結婚した夫婦が上手くいっているという話をあまり聞いた事が無い。

 ゲームに夢を見て、現実と同じでそれが破れ去ることがほとんどだ。

 寧ろ、それ以上に辛辣かも。

 生活のサイクルも常識も倫理観もズレがある。

 刺されただの、寝とられて、裸一貫で家中から追放されただの物騒な話題も耳にするくらいハートフルな関係が大半な、ゲームといえどもこの時代の鏡うつしなんだ。

 政略的な意図の情も通わない夫婦。完全に割り切って眼も合わさない冷戦状態か。火種を抱えたまま胃に負担をかけるドライな関係のどちっか。始終怒鳴り合っているのもいる。

 いくらシステム的にプラスがあるとはいえ、そんなのばっかり目にしていると、この婚姻システムはボクは絶対利用したくないといつも思う。


 当時のヨシもそういうものだと決めつけて、割り切っていたのだろう。


「二言目に、明日嫁に貰うから。とだけ言って、一瞥もしないで去って行かれました」

 

 うわあぁ、それでも最低すぎる。人類史上何番目に誠意に溢れたプロポーズなんだろう。

 その時の蓬ちゃんは親を人質にでも取られていたのだろうか。いや、それは無理だ、あの親だもの。

 兎に角、ボクならそんな男は絶対ご免だぞ。


「な、なんでそんなのと一緒になろうと思ったのさ」


 茨の道しか見えない。しかも鋼鉄製の棘でイガイガのとんでもない急勾配のロードだか道路だかだ。


「きっと、あの人がわたしのうんめいだと思ったんです。あの冷たい目は、母さまを亡くした時のわたしやおとうさんと同じでしたから」


 彼女は慎重に言葉を選んでいる。


「毎日を笑って過ごせる家族になると母さまと約束しました。あの約束はわたしにとっては何にも代えがたいものです」


 だとすると、何故、達成難易度ルナティックを選んでしまっただろう。

 ヨシからドMと心ない言葉を貰うボクでも、無理無理です。


 好きな人と一緒にいる事こそ幸せだとボクの友人たちも言っていた。

 ここまでの話で笑って過ごす為の前提となる、相手を好きになる要素がどこにもなかったぞ。


「そうですね。あの人はわたしが好きどころか興味の一欠片もありませんでした。いえ、多分他の何に対しても」


 うん。そうだった。


「わたしはその夜、あの暗くて青い火が、いつかあの人を焼き尽くしてしまわないようにと願わずには居られませんでした」


 聖人の様な器を持った子だ。

 そんな細い糸の様な縁を、絆と呼べる所まで育てたことを、ボクは感謝しなくてはいけない。


「蓬ちゃんはすごいね」


 この子と会ってから、ヨシは変わった。

 ささくれたった精神がびっくりする程安定した。性格の根っこの方は曲がったままだけど、微笑ましいと言えるくらいにはなっている。

 ボクは隣にいる事は出来た。彼はボクにとっての英雄だから。それでも、あの男の子を変える事は今のボクでも無理だろう、いわんや、幼い頃はね。

 だから、僕は心から、本当に心からこの子を尊敬する。ボクの半分くらいしかないような体の小さな女の子の活力を。


 すごいな、敵わないなとまぶしく思う。


 ちょっと悔しいくらいに。


「そうでもないですよ。分かり合う為に沢山喧嘩しました。わたしは体が丈夫なのには自信があったんですが、心はわりとそうでもなかったみたいで。色々ありました。楽しい事はぼんやりとしか思い出せませんが、こういう事はどれもすんなり思い出せます」


 思い返したら吐き気がと、トレードマークの笑顔がひきつっている。

 何をやらかしたんだあの男は。


「でも、思い出せないのは、きっとそれだけ嬉しい事が多かったからです。覚えてる必要もないくらいに幸福な思い出はたくさんあったからだと。どんなところもひとつひとつ知るたびに好きな気持ちが増えていったのは確かです。それから、不器用にですが歩み寄ってきてくれて、いつからか、まるで自分がお姫様になったと錯覚してしまうほど大切にしてくれました。そして、いつしか、かけがえのないものを授かりました」


 両手の指が、今は何も無い空間を穏やかに撫でる。


「流人さまは優しいとおっしゃってくださいましたが。わたしが人に優しく出来るのは、きっとヨシさまのおかげです」


 この夏の、穏やかな風が吹いたみたいに。


「誰かを大切にすれば、必ず相手も返してくれると教えてくださいました。わたしはそれが本当に、本当に嬉しかった」


 前向きというのも才能だと思う。

 好意的な捉え方を抜きにすれば、人生の指針になってしまうほどの、一人の人間の酷い上位系反抗期を小さい体で全部受け止め、受け入れ、優しく包み込んだあとなわけで。

 そこに至るまで、どれだけ蓬ちゃんの誠意や好意をあの男は無残に踏みにじってきたのか。

 今、完全に頭が上がらない理由がよく分かる。


 野生の狼の餌付けの図が思い浮かんだ。誇り高いからこそ義理がたい生き物であるが、寄り添うのにどれだけの時間と労苦が必要だったのか。胃のあたりが重くなる。


「ありがとう」


 自然と心より礼の言葉が出た。

 くすくす。ボクの言う台詞でもないだろうにと、おかしそうに彼女が笑う。


「お礼を言われることではありません。なぜなら――――」


 ちょっと恥ずかしそうに、前髪をいじくる。

 わたしの目と心は、彼を見ていました。


「――――最初から、一目ぼれでしたから」


 すげー。蓬ちゃんすげー。だから、好きな気持ちは増えていったなんて言い方してたんだ。

 こっちまで照れてしまうぞ。


 こっちのそんな内心が伝染したのか、いまさら、ポロリと零れた言葉が恥ずかしいものだと気付いたのか蓬ちゃんの顔は、それこそトマトみたいに赤くなる。


「そ、そちらの話もお願いしまう」


 あ、かんだ。


「え、ボ、ボクはそんなのにゃいけど」


 ボクもかんだ。

 

「でも、流人ルート様もヨシ様を愛してらっしゃるんでしょう」


 顔面から、ずっこけた。ずこー。

 賭けてもいい。これを聞いたらヨシも同じリアクションを取るだろう。

 

 愛って素面ではなかなか口には出せない言葉だ。

 この時代の人はみんなそうなのか、彼女だけが特別なのか。

 それとも、女の子たちはみんなこうなのか。


「変なこと聞いたから、怒っている?」


 蓬ちゃんはそんな回りくどい意地悪しないと分かっていても、その可能性をおそるおそる尋ねずには居られなかった。


「???」


 本当に分からなそうに小首をかしげる。ボク、蓬ちゃんのこの仕草好きだぞ。


「だって、ボクが村に来た時ヨシに抱きついた時、蓬ちゃん怒ってたじゃないか」


 あれは、伝え聞くところの、女の子の焼もっくりに火が付いたという奴だったのでは?


「そういえばそうでしたね」


 それはどう見ても悋気を知らない幼い貌。では、あの怒りは何だったのか。


「嘉さまは女性に脇が甘いですよね」


「うん、甘いね」


「こと綺麗な女性に関しては」


「うん、マロングラッセを頬張りながらあんみつをすするくらいには甘いぞ」


 完全無欠に同意をする。


「新しい家臣だと紹介されたら、綺麗な女性の方で。主が決まったぞと挨拶に行けば綺麗な女性の方で…ふふふふ、もうわたしどうしたらよいか、ふふふふ」


 こわい。蓬ちゃんがとてもこわい。


「でもある時、納得がいったんです。ワザとやっているのではなくこの人はそういう星回りの人なんだと」


 うん、正しい。ボクもいわれのない被害をくらいまくったので思わず涙が出てくる。


「恐ろしいくらいに他意が無いんだと」


 最初はじめは自覚すると自分でも引くほど、おせっかいだったわたしに対する当てつけかと思いましたと彼女は言う。


「浪人していき場のない人を連れてきたとか、死罪を申しつけられた人を助けたりした結果、なぜかこうなってしまったという事ばかりでした」


「人の心の機微を汲み取るのが苦手な割には、なんだかんだおせっかいで、情が深いからね、本人頑なに認めないけど」


 人に好かれるぱーそなりてぃではないから人を好きになりたいという気持ちは、多分人一倍強いかもしれない。

 

「でも、人の性は善だけではありません。悪意を持って近づいてくる人もいます」


 立場や才や財。たかがゲームでも、妬みや嫉みや恨みは付いて回る。プレー輩も、そしてこのゲームの魂を持ったNPCでさえも。


「嘉様は胸襟を開いた相手に対しては、無条件に信用してしまう悪癖があります。だから、わたしの役割は、側で人を見定めて悪意を排除する事です」


 出来た子すぎる。ボクは現実でおろおろすることしかできなかった。


「…ルート様の事も初めは警戒していました」


「ボクがヨシの血族だと知っても」


 多分村の戦いの後くらいまでかな。なんとなく感じていた。


「はい、ごめんなさい。知ってもです」


「うん、安心した」


「…え!怒らないのですか?」


 おそるおそるこっちを窺う。


「なんで?蓬ちゃん。君は正しいぞ」


 いまのヨシを作った一番の敵は、悪意は、敵意はその家族だったから。

 よくぞ君が生まれてくれた。そしてヨシを選んでくれたと、勝負事でも祈らない神に感謝をしたくなる。


「君の眼にボクは適ったかな?」


「はい、大好きになりました」


 おお、告られてしまった!今日という日から日記をつけるべきなのではと、脳に神の思し召しだと電流が走る。えへー。


「はい、あなたはヨシ様の御家族でした。それは、わたしの家族でもあります。それはとても素敵なことで、幸せな事です」


 前歯を見せて笑ってくれるその顔に、心臓が高鳴る。女の子って生き物はなんでこんなに可愛いんだろう。

 コンプレックスを抱くレベルを通り過ぎてしまって、土下座態勢に入りたくなってくる。

 この子の器はきっとものすごく大きいのだろう。例えるなら観音菩薩級かな。

 ヨシも、一緒にいていつしか己が恥ずかしくなり改心したのだろうか。


「でもね、蓬ちゃん…ボク女の子だよ」


「はい?」


 本当に意味が分からなそうに、疑問の視線を向ける。ああ、この子本当に分かってないんだ。


「わたしは流人ルートさまのことを男の方と思った事は御座いませんが、それがどうかされましたか?」


 うん、その大器の底には穴があいている。間違いない。

 このボクが言うのもなんだが、蓬ちゃんには女の子としては致命的な所が欠けているのではないかなーともおもう。

 ボクだからよいモノの。もし他意のある女子だったらどうするのか。

 誰かのためにという気持ちが強い子は、得てして自分の事がおなざり・・・・になりがちだ。

 彼女のいう所の家族という括りは、色々大事な物をすっ飛ばしてなりたっている気がする。これから、足元をすくわれかねない不安を、どことなく感じる。

 そのあたりはボクが気をつけていけてケアしよう。ふたりの邪魔者はボクが除いていかないと。

 ボクの幼なじみを大切にしてくれた恩はきっと本人だけでは返せない、人生的な意味で連帯保証人であるボクも手伝わないとだぞ。


 本当に世話の焼ける幼馴染である。


「いや、なんでもないぞ」


 むん、と気合いをいれる。


 本日は晴天にあらず。されど世は全てこともなし。


次こそ本編。

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