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わんわんぱにっく

蘇芳とカリン後編。章切り換えるのを忘れてました。



 

 さすがに、茶の湯はどうかという顔をしていると。


「何事も風情なのです」


 はんなり典雅に微笑み返された。良く見ると、水も竹筒からわざわざ水指みずさしに汲み変えていた。野点としゃれ込む彼女のこだわりが垣間見れる。


 青髪赤眼のカリンは主を歓待しつつ。赤髪青眼の同僚をいたわる。うーん、ズレてるが悪い子ではないんだよな。


「うがぁああ、ひーまーだー!!」


 手足をバタバタさせる蘇芳。敷き布と地面を往復するように、転がり出す。何歳児だお前。


「こら、服が汚れるから止めるのです」


 自分の側に来た時に回転を押しとどめ、相方の汚れた頬を布で丁寧に拭うカリン。


「だってよー」


「だってじゃねーです」


 ふたりのどこか幼いやり取りに、蓬が眩しそうに目を細めていた。多分、俺と同じ事を思い出しているんだろうな。


「さぁ、桜さまも蓬さまもどうぞこちらにおこし下しませです」


「ああ。蓬」


 声を掛け、俺のストレージである頭陀袋を差し出す。蓬の装備は重い。文字通り、旅のお荷物なので普段は百キロまで収納可能なこれに入れて運んでいる。


 蓬の戦闘技能はふたつ。〈棒術〉以外の、もう一つの戦闘技能は〈弓術〉である。

 今の蓬の装備は、背丈ほどもある弓。長弓というには少し短くそれでいて太い。いうなれば剛弓と呼ばれる類の物。古い黒漆くろうるしの鈍い輝きが使いこまれた年期を感じさせる。

 腰元の矢筒には鋼鉄製の矢が二本だけ入っている。

 例の物干しざおも持ってきているが、山の中では極めて取り回しが悪いのでこちらを装備している。まぁ、どちらかというとマシといった所ではあるが。


 あとは基本、俺という大荷物の護衛が役割なので、戦闘の中心からは間合いを取るために遠距離武器を装備しているのではないかなぁと思う。


 戦国時代の戦での死因のほとんどがこの弓矢という説は大凡おおよそ一般的だ。勿論、異説もあるし、ゲーム的な要素で武器同士のパワーバランスも変わる。ただ、虚実含め強力な武装であることに誰もが異論はない。

 極まってしまうと源平げんぺいの世なんかには、弓矢で大船をふっとばす冗談みたいなクリーチャーもいるわけで。

 今の時代、火薬が出てきた段階でも合成弓コンジットボウは個人の遠距離用の武装としては間違いなく最上級の代物であろう。


 その有用性の代わりにある弱点としては、使用には熟練の技を必要とするのが弓馬の道の常である。

 そこでよく話題に上がるのが弓と弩の違いだ。欧州で猛威をふるった長弓隊は実は、基督教間の協定で禁じられたクロスボウよりも有用だった。ただ、戦闘で熟練者を大きく損なうと、扱いに技術が必要な分、戦力を立て直すには恐ろしく時間がかかりどうしても廃れてしまうのだ。舞台を運営するという点で考えると、誰にでも扱えるという点で弩の優位性は途轍もなく大きい。


 ただ、そこら辺りはゲーム上のシステムである『技能』で個人の技量を補う事が出来るので解決可能である、諸々の武器の中ではゲームでの恩恵が一番あるのではと思う。

 使いどころに駆け引きがあり、資質が割とものを言う近接の戦闘技能より、間合いを取って雨あられと撃っている方が初心者でも戦力になりやすい。

 俺も蓬に習うべきかなとか、考える。巫女といえばズドンなんて世界もきっとどこかにあるわけで。まぁ、俺のは格好だけだが。


「ありがとうございます、ヨシさま」


 柔らかい笑み付きのお礼。ただ、ストレージにしまう為に受け取ろうとしただけなのに。俺も釣られて相好をくづそうとするが、蓬は俄かに鋭い表情に変わる。



 グルルル



 すぐ脇の茂みから、先程の群れとは異なる野犬が二匹飛び出してきた。どうやら戦闘が終わる前に、別の得物をアクティブにしてしまったみたいだ。


 先行する片方は明らかにこちらを狙ってきた。

 野生の獣の早さはリアルにやばい。

 猫が車の行きかう道路にダッシュで飛び出しかけた所を見た事ある。轢かれそうになった猫は慌ててトップスピードからの急停止、本気のブレーキング。

 そのまま一瞬で道路とは反対方向に加速して逃げて行った。。 

 奴らの物理法則をオンオフ出来るスイッチがあるとしか思えない、いかれた速さ。


 一瞬小さくなり四肢に力をためると矢の様に跳躍。一瞬の早業。不意を突かれて、完全に固まる俺。逃げる事すら思い至らず、ぼーっと見ているしかなかった。


 傍らの蓬が、すっと俺に身を寄せブラインドになる。


「あらあら」


 慌てず騒がず両手に弓を構える。しかし、どうにも持ち方がおかしい。握りの部分のかなり下に小さな拳をくっつけるようにして、長物のように振り上げた。

 そして、逃げるどころかステップインしながら、噛み砕こうと開いたあぎとに振りかぶって、横薙ぎに打ち付ける。それ使用法が違う。

 まるで、某三冠王のオレ流神主打法。


 体の小さい子が、大きな武器を軽々振り回すのは俺的な萌え要素だったはずなんだが。実際見てみると、恐ろしいものだな。


 折れた歯の幾本かが飛び散り、本体はキャッチャーフライ気味に打ち上がる。そのままサーカスよろしく空中で三度回り、うつ伏せに落ちてくる。


「めっ、おいたは駄目ですよ」


 何が起こったかわからない態の野犬に対して、満面の笑顔のプレッシャーをかける。表情こそいつものだが、ゴゴゴゴという効果音がついているのが傍目にも分かる。

 俺なら、あの表情を向けられたら、半拍で土下座に入る自信がある。

 わかりました、すみませんとばかりに縮こまる野生。

 よくできましたとなでりなでり。手付きは柔らかだったが、やられた方は明らかに、怯えている。


 もう一匹の向かった先は、完全にくつろぎモードに切り替わっていたので反応が遅れた。

 最も頼りになる貴志は濃茶がなみなみ入った茶碗を持ってしまっていた。


「へっ?」


 実に間抜けな表情と反応である。

 意外に思われるかもしれないが、貴志の行儀作法関係はきっちりしている。それはもう骨の髄まで叩きこまれている。だから、簡略化も甚だしい茶の席でも、茶の湯の作法から戦闘の方法にスイッチを切り替える事すら思い当っていないのだろう。


 その貴志とは正反対に、蘇芳は本能的に飛び上がり、逃げだした。

 

 バウ!ワウッ!


 動くものに向かっていくのが、犬の習性。案の定、ターゲットをそちらに絞ったみたいだ。


「うわぁああ!」


 逃げる蘇芳。追う野犬。さして大きくもない二人が座る敷布の周りをぐるぐると、バターにでもなる勢いで回り出す。

 ゲーム的に強化された敏捷性で逃げているが、さすがに獣の早さに勝てるわけもなく、周回するたびにじりじりとその間が詰まってくる。


「助けて、カリンっ!」


 切実な悲鳴であった。


 しかし、助けを求められた相方はというと。


「あははっです☆」


 腹を抱えながら、指さして笑っている。


「うわーん、この薄情モン!」


 顔芸と呼んでも差し支えのない必死な形相で叫ぶ。

 見てる方としてはその必死さ故にどこかコミカルで、思わず俺も蓬も悪いとは思いつつ笑いを堪えている。


「お、お腹が捩れますです」


 カリンに至っては、ついには正座をしたまま、苦しそうに突っ伏してしまった。


「うわわぁん、やめろー、くんなー!ぶっとばすぞぅ!!」


 半分パニックの蘇芳は、右手で背中の火縄銃を抜き、左手で腰元から、小さな黒い筒を取り出す。


「蘇芳っ!」


 俺が止めるが、ぷぃと一瞥するだけ。


「だめだぞ!蘇芳!」


 しかし、続く主の声には、一瞬迷ったものの。火縄銃を背に戻すと、また、顔を真っ赤にして、力いっぱい逃げ続ける。

 そして、今度は、他の火器以外の武器を使おうと思い立ったみたいだ。


「ううっ、あれでもないこれでもない」


 腰元の袋から、次々に、茶道具や紙の束、着物などを取り出しては、放り投げている。

 俺、これ昔の漫画で見た事ある気がする。


 だが、神はいないのか、打開手段を見つけられないまま、追いつかれた蘇芳。空しく尻肉をガブリとやられてしまう。


「あぎゃあああ!」


 哀れな悲鳴が山に響く。

 火薬無しでも、すごく喧しいです。花も恥じらう妙齢の乙女の出す声ではなった。


「離せっ!離せよ!」


 その時分に、取り出していた工芸品チックな竹製の輪っかでばしばしと叩く。だが、所詮武器でもない、ただの植物性のガラクタ。しかも後ろ手。野犬は気にも留めない。

 ぎりぎりと鋭い歯が食い込む痛さによって顔の作画が劇画調になってしまっている。さらにはウメズさん調に移行しようかという所。


 そこで、ようやく一番近くのカリンが一人爆笑のステータス異常からリカバリー。


「やれやれだぜ、なのです」


 ゆっくり、引き倒された蘇芳の所まで歩むと、犬の喉元を、指先でコンとつついた。

 たまらず、得物から顎を離す野犬。

 この度は、指を二本立てて、犬の首後ろの空間を、すっと、一撫でした。

 間違いなく、空手だった事を明記する。

 ごろり。犬の首が落ちる。熟れた林檎がそうなる様に地面へ転がった。出血もなくそれくらい自然だった。

 

 えっなんで?って顔をした犬と、うかつにも目があってしまった。…うん、グロい。今晩おそらく夢に出てくるだろう。


 その光景を見てた蓬さんが、押さえつけていた(本人は撫でていたと頑なに主張)手を離した。

 もう一匹の犬は素早く出てきた茂みに逃げっていった。彼も関わっちゃいけない人類がいる事を学んだ事だろう。


 ようやく解放された、激しく涙目な蘇芳。


「ふぇえ、痛い。尻が二つに割れちゃったよぉ」


「それは、最初からだぞ」


 なんというか、こんな風にボケ専少女の貴志雛姫をツッコミに回させることのできる逸材である。


「痛いの痛いの、とんでけです」


 なでりなでり。負傷個所をとりあえず撫でてみるカリン。ヒーラーが一人もいない欠陥パーティの回復手段は半分くらい気休めである。

 俺は、蓬さんに常に癒されているので、問題ないけど。


「ふぇえん」


 効果は兎も角、安心したのか、蘇芳は涙をこぼす。


「大丈夫です。私の大切な蘇芳を傷つける輩は何人たりともぶち殺しますです」


「カリン、カリン!あたしカリンと出逢えてよかった。大好きだー」


 質の変わった涙を見せてますけど、先程そいつ、指さした上、爆笑してましたよ?


「それはよかったです。私の蘇芳」

 

「…ぐっすん」


 なんか、もらい泣きしている大きな子。涙腺の緩い主従だな。

 俺は貴志には高い壺売り付ける自信がある。


 そして、青の子は思い出したように、インスタント感動シーンに終幕を引く。


「あ、それはそうと、先程、ドサクサに紛れて私の茶杓を投げてくれやがりましたですよね」


 とっても、とってもお高いものなんですよと。


「え、わ、わざとじゃないぜ、ご、ごめんな」


「謝ってすんだら、戦も武士もいらねーです」


 赤い眼が静かに細められる。


「ええっ、あたしのこと傷つけたら許さないって」


「それはそれこれはこれ。私が痛めつける分には、全私が肯定し、許容し、礼賛し、祝福するでしょうです」


 『俺が正義だ』並みのひどい台詞を聞いた気がする。


 嗜虐に歪む唇。怯える兎を助けるものはなく。触らぬ神に何とやら。


「うっぎゃやああぁ!」


 本日二回目の悲鳴がまた山間に木霊した。


新キャラ紹介回終了。次回、現状を書きます。



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