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あるディスコミュニケーションにおける顛末

ざっくりオチ回収。章切り替えのために切の良い所で。このくらいの長さだと楽ですな。

「え?」


 俺は驚きのあまりおもわず、荷物を取り落とした。

 口元を縛っていなかった麻袋からは、回復アイテムが転がり出た。


「え?」


 そんな俺を不思議そうに見返す、完全旅装のよもぎさん。足元を固めて、編み笠を背中にかけている可愛い。


 俺たちは合わせ鏡の様に、口を空けてお互いを見つめる。


「えーと、別れの挨拶は――――」


 昨日したはずだと言う前に、遮られる。


「はい、今朝方おとうさんに伝えました…けど?」


 人差し指を顎に宛てて小首を傾げる嫁。


「え?」


 再度同じ疑問符を頭上に浮かべる俺。


「え?」


 律儀に同じリアクションを返す嫁。


 なにやら微妙に乾いた空気がふたりの間を流れた。

 振り返ってみると。つまりあれ。

『ずっとこんな日が続けばいいと思ってた』

『はい、私もです』 

『でも、行かなきゃ』

『はい、わたしも武家の妻です。疾うに覚悟は出来ておりますよ』

 とかなんとか。

 そうなんです。俺的には蓬さんと別れを想定して話していたわけだが。蓬さん的には、村と親を置いて俺について来てくれと伝わっていたわけで。

 

 わはー、全く噛み合っていませんでした。


 これは恥ずかしい。

 まさに三役クラスの一人相撲だ。俺の得意技は肩透かしに違いない。


 『今度はみんなで星を見よう』キリッ


 ドヤ顔で、ポエミーな雰囲気を構築していた昨晩が、俺の心に牙を剥いて殴り掛かかってくる。

 いっそ殺してほしいレベルの顔からデスファイヤー。


 なにが言葉はいらないだとか、心が通じあっているとか。俺は彼女を知っているとか。

 完全に勘違いです、本当にありがとうございます。

 

 思いは言葉にしなきゃ伝わらない。こと男女の色恋沙汰に関しては。男と女の間には長くて深い川があるのだ。

 以後、子孫代々遺訓として残していこうとこの時の俺は固く決意をした。

 

 これが顛末である。


 そこで、俺が何故こんな反応をしているのか。もう勘の鋭い蓬さんは思い当ったみたいで、首から上が一気に紅潮していく。


「わたしの事をそんなにも薄情な伴侶だと思われてたんですね」


 冷たい。声質が真冬の八甲田山並みに冷たい。土地柄、槍ヶ岳かも知れない。だとすれば心象風景的には間違いなく、俺が穂先に吊るしあげられているだろう。

 礼儀や義理人情が大好物な彼女にすれば、許し難い背信に違いない。

 ぷいっと、背を向けてスタスタと俺の前からいなくなる。そして、荷物と格闘している貴志の手伝いをにこやかに始めた。


 そのまましばらく口きいてくれませんでした。


「え?」


 昨日雰囲気作って盛り上がった分、落差の振り幅も大きくなったわけで。

 さすがの蓬さんも完全にご立腹です。


 ぼくらの戦いはまだ始まったばかりだ。そんな旅の始まりでございます。


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