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別れの唄

1000P到達感謝御礼。至らない所しかない作品ですが、お読みいただき誠ににありがとうございます。

「この村を離れようと思う」


 その日、決意を持った言葉を、水色の少女に伝えた。


 モラトリアムは終わる。


 生き残るために戦わないという基本方針を逸脱するつもりはないが、戦えないという現状のままでいるのはあまりにも問題が多すぎ、かつ大きすぎるわけで。

 保留や思考停止は楽だが、状況はいつだって緩やか、かつ穏やかに悪くなるだけというのは誰もが知っている常識のはずだ。


 電脳スラング的に言うならば『戦わなきゃ現実と』といった態である。


 これから、最も重要視されるのは他プレーヤーとの連携の構築。戦いは数だよ兄貴。

 俺があの戦闘前に出した他のプレーヤー宛ての『ふみ』は元々五十に届かない数であったが、更に返信は現時点でその半分にも満たなかった。

 残りの知人はINしていないか、筆不精か、もしくは考えたくもない状況に至ったか。

 人間ひとはパニックになると、案外もろいから――――そこまで考えて慌ててかぶりを振るう。ぐつぐつとしたマイナス思考を追い出すことに努めようとする。

 

 こちらの文の内容はざっくり言うと相互協力の提案。それをどのレベルやるかを話そうと言う所。

 結論から言えば、色よい返事はなかった。勢力の枠を超えてPC間で連携して現状に当たるのはやはり当面は難しい。

 おのおのの自勢力の結束を強めて専守防衛に当たるのがベターという判断している奴が当たり前に多い。自分自身を守ることがまず第一なのは誰もが同じ。

まぁ、自分でも無茶な提案というのは分かっていた。縦横家の例を出すまでもなく大名家の境を越え、PC同士の損得を折衝して一致団結というのもなかなか上手くいかないさ。


 下手に動くと各地で燻ぶる火薬が連鎖的にさく裂しかねないし、生き残るための最大のストロングポイントである現所属家中を放棄して結束するのは、やはり誰もが二の足を踏むと言ったところだ。

 まぁ、協力すると言う事自体には否定的な意見はほとんど見られなかった事は好材料だろう。


 あとは定期的な情報の共有と日時未定の訪問の約束を取り付けるくらいしか成果はなかった。とりあえず、状況が変わるまでおのおのの家中の好戦的な気分を削ぐようにしようと再返信して終了となった。


 まぁ、この1548年から何年間かは、予選みたいなもので、一国の中の主導権争いが大部分を占める。小競り合いは多いものの年表に太文字で残る大戦おおいくさとなると、全国で年に一回あるかないかだ。

 その小康状態に、PC間で密に連絡を取る方法を構築し不戦の協定を確たるものにするというのが落とし所と考えられる。

 

 と、まぁ画餅うまーですね。


 どこの家中も現状一触即発な状態ではないという事なので、当面はこちらも、PCを鍛えて安全確保に努めるのが正しいだろう。

 だから、俺の取るべき方針としては、虎の威を借ること。

 どこぞの大大名だいだいみょうに臣従して大国の庇護を受けるのが一番である。

 貴志のように前回ゲーム時の所属にそのまま入ればいいわけなんだが。問題なのが、当然この真っ白なPC桜姫なわけで。

 ただいま無所属でデスゲームに出馬されとります。

 何故人生という坂道にはセーブ機能が無いのだろうかと思考の網を張り巡らしたくなるなぁ。傾斜があまりにもキツイでござる。


 まぁ、これは前のPCであっても大して変わらないかもしれない。

 俺の四年間のプレースタイルというか、拘りは毎回ゲーム毎に異なる君主に仕える事であるからだ。基本的に同じ家中に長くいればいるほど発言力は上がっていくので積み重ねはその部分だと少ない。

 大国に組み込まれたとしても、発言力を持ってなければ、家中で方針は勝手に決められる。たとえその戦がどんな無茶であろうとも否応なしに参加しなければならなくなる。


 家臣団を組織するのにあたる基本となる知行(給料となる土地)は他家に行くと実績は其れなりに考慮されるものの数字はリセットされる。その枠内で組織する家臣団も当然大きく持てない。

 そして、新参者だと名跡を得たり重要な役職に就くためには余程大きな手柄を立てなければいけないと言ったところか。


 逆にこのスタイルの利点としては、基本的に配下にした家臣は次以降のゲームにも引き継げるので、色々な特長のバリエーションを揃えられる。

 柔軟な対応が出来る家臣団になるので割と俺はこちらを重要視している。

 そうなると家中も自然と実力主義になる。序列や役割も明確になり、信賞必罰でモチベーションを維持しやすい。

 もちろん代償として、臣下の元々のコミュニティや人間性はバラバラ。一歩踏み外すと実に殺伐とした家中が出来上がるので他のプレーヤーには割とお勧めしない。

 うちは偶々、ある要素から上手くいっていただけで、俺一人では間違いなく、もう統制するのは無理です。


 次善の策としては、大国所属のプレーヤー、そして一定の発言力を有する奴の家臣団に入れてもらう事。

 しかし、大国で主家の家中に意見が通るポジションとなるとかなり限られるわけで。俺の少ない知り合いの中では、ほんの数名。しかも性格か性質か性向か何れか、もしくは全部に問題がある奴しかいないのである。


 できれば、頼りになって、素直で、操縦しやすくて、目標が共有できて、絶対な信頼関係がツーカーで成り立つ奴であれば申し分ないという、うん、それ無理な条件になるわけであるが。


 それでも、一人だけばっちりパーフェクトに条件に合致する奴はいる。

 察しの通り俺の良く知る幼なじみ枠のアホの子なのだが。

 ただし、大きな問題点が一つ。


 所属が『今川いまがわ家』なのである。


 『海道一の弓取り』今川義元いまがわよしもと率いる今川家は初等教育の歴史の教科書に出てくるほどの程の知名度の高い大大名家だ。ただし、それは織田信長の引き立て役。つまり『桶狭間おけはざまの戦い』敗者としてその名が残っているのである。


 一応、彼は実力が無いから負けたのではない。間違いなく政治戦闘外交どこを切り取っても義元は戦国指折りの将である。織田で躓いた事に関しては単純に運が悪かったとしか言いようがない。

 たまたま、ダイスの目が全て織田側に出そろったがための敗着なのだ。


 『関ヶ原せきがはらの戦い』しかり、たった一回の戦で勢力同士のパワーバランスが激変する大戦と言うのは、実はこの時代それなりによくある。

 下剋上の世の新興勢力である戦国大名に至るには、大概は飛躍のための乾坤一擲、会心の戦をくぐりぬけねばならない。この時代、最後にものを言うのはやはり武力だから。


有田ありた中井出なかいでの戦い』『厳島合戦いつくしまかっせん』『木崎原きざきばるの戦い』『河越夜戦かわごえやせん』『手取川てとりがわの戦い』『山崎やまざきの戦い』『賤ヶしづがたけの戦い』『小牧こまき長久手ながくての戦い』『沖田畷おきたなわての戦い』『耳川みみかわの戦い』『泗川しせんの戦い』。名前を並べるだけでもすらすら出てくる程存在する。

 詳細は省くが、下剋上故、少数を持って大勢力を打ち破る、戦略的には事前準備が失敗している戦が多いのはご愛嬌。

 

 ん?あれれ?適当に上げたのに半分くらい島津しまづという名の戦闘民族のあれだったぞ?彼らは成り上がりではなく鎌倉以来の由緒正しい守護大名なのに何故だ?まぁ、関係ないので置いておこう。


 しかしながら、これら合戦の内容や兵力配置、背景の推移まで知っているかというとそうでもない。俺も細かい数字や地形は知らない。そもそも内容は不明で名前だけが残っているものもある。

 だから、ここに拘泥するのは歴史好きの中でも、ゲーム的ファンタジーは許せない史実好きの領分である事が多い。だから、MMOのプレイ層には実はあまりいない。

 創作好きや逸話好き様々あれども、個人の意見としてはどんなものでも形容して楽しめるタイプが一番得だと思う。見識を狭めるのは本当に勿体ないかなと。

 例え相入れなくても、互いを貶めるのは良くない。何事もリスペクトは大切。


 さて、問題の思索に戻るとしよう。

 この『桶狭間の戦い』だけは諸々の戦と異なり、あまりに有名すぎるのだ。

 実は本来の戦場は特定されていないし、解釈は多々あれど、雨、奇襲、少数兵力、敦盛あつもり、山間の盆地といった要素は日本人のほとんどが常識レベルで共有しているのだ。

 背景から、経緯その後の織田に至るまで、あまりに知名度が高い。二大メジャーのもう一つである『関ヶ原の戦い』が、諸大名入り乱れた大軍同士の戦いであるぶん。一対一の他勢力の絡まない桶狭間は誰しも分かりやすいのだ。

 だから、『戦国online』上のイベント成立条件に誘導しやすいのだ。実際超有名イベントである桶狭間は全五回のゲームで成立しなかったことが無い。

 たとえ開戦のタイミングで家中で貴志だけで反対しても、圧倒的に今川有利な状況なので、NPCに失笑を買うだけだし。

 織田はもちろん、周りの勢力もこぞって成立させにかかるだろう。その後の今川は実に美味しい草刈り場であるから。

 PCが一切係らなかった場合、おおよそ史実通りにゲームは進むと本営からは言われている。

 しかし、史実から今川の方に天秤を傾ける不確定要素となるPCなどは、他のイベントより少ないのである。

 逆境というのは、一周回ってしまうと楽しくなってくるが、さすがに命あっての物種なわけで、まさかデスゲームで負け組になろうと思うプレーヤーは少ない。しかも、相手の織田は人気大名。今川の未来は暗い。


 よしんば、ゲームごとに成立条件に揺らぎがあるので、成立しなかったとしても、この時点でただでさえ三国を領する今川が、肥沃で東西の貿易の中継地でもある織田の本拠地の大国|尾張(愛知あたり)を領するのは、あまりに危険すぎる。

 ならば、織田に勝たせて、その後の頭上に控える美濃(岐阜南部あたり)という豊かな国と斎藤義龍さいとうよしたつという猛将タッグの蓋が取れるまで大分時間がかかるので、猶予もある。PC側としても史実通りにすればこの後も状況は読みやすい。


 やはり結局のところプレーヤーが世界の主導権を握るのは難しいのだ。『戦国online』のプレーヤーは主役ではなくあくまで一要素というデザインをされたゲームなのだ。それは普通のゲームなら何ら問題はない。戦国の武将たちに仕え好きな勢力に身を置くのは少しの不自由もあるが楽しい。

 戦国再現なんてうたい文句に集まってきたこの時代に興味のある者がほとんどだから。

 それがPCとなんら変わらない魂のあるNPCの要素と相まって、他には無い独特な世界を形成していた。

 だがその反動で、デスゲーム化されると、状況を変えるのに多大な労苦がかかるのが何とも恨めしいものだ。


 ゲームの時でさえ、自分の都合で振り回していたのは彼の『今孔明いまこうめい』ただ一人くらいだろうから。


 なぜこうも難しいのか、プレーヤーが主導権を握れない決定的な理由、それは人口差である。


 このゲームのプレーヤー人口は全ユーザーの半分がINしたと仮定しても、まぁ五万を超える事はないだろう。

 戦国時代をなめてはいけない。

 日本の全人口が一千万人程。そのうち、兵農未分離なので武士階級の正確な数字は分からないが、雑兵傭兵ふくむ戦闘要員が二百万人。実に五分の一が戦闘可能と多分古今東西類を見ないアレな国である。

 この当時の他国としょっちゅうドンパチやってるイギリスの支配者層である騎士階級が三万人くらいで主戦力の海外傭兵含めても二百万にはまるで届かない。他の国ならPCで支配階級を形成できるかもしれないが、この国に限っては無理な話。

 たとえデスゲームに取り残された五万弱(仮)が連携して一切戦を放棄したとしても、世の流れはどうにもならない。

 改めてみるとよくぞ内戦で国ごと吹っ飛ばなかったものかと時々空恐ろしくなる数字だ。


 しかし今となっては、戦争を終わらせるという理念をPC間で共有して動けるようにしなくてはならない。そして頭の中が戦争一色のNPCにも波及させる必要がある。

 その流れをつぶされないだけの規模にして、潜り込むことが俺たちの目標になる。

 実に面倒くさいが、一歩ずつ状況を進めていくしかない。


 まずは自己の強化。最弱でいるのもさすがにもう飽きた。ちまちまレベルを上げていてもしょうがないので、大きく当てると指針は決まった、俺の中で。

 というわけで、向かうはいざ、上野こうずけ(グンマー)。次なる地へ。


 だから、冒頭のセリフを伝えた。


 こんな小さな島国の天の下でも、色々な国があり、星の数ほど人がいて、人の数だけ出会いがある。

 そして、別れも。


 初夏の夜空。人工の光の無いそれはあまりにも綺麗で。ふいに泣きそうなほど目の奥にしみた。

 その真ん中、幾分欠けた月は王様のようにふっくらした輝きを気だるげに放っていた。

 月明かりは、眠りに落ちつつある山間の村を黝く染め上げる。

 青草の丘。そんな景色を座ってみているふたり。


「この村良い所だな」


「ええ、良い所ですよ」


 ここしばらく当たり前に享受した穏やかな相槌が返ってくる。


「ずっとこんな日が続けばいいと思ってた」


「はい、私もです」 


 心が重なっているのを感じる。この会話もする必要もないほど、お互いの在り方を事を知っている。貴志以外の誰かと、未だに嘘みたいな、俺には過ぎた奇跡だ。

 惜しむほど、得難く去り難い優しい時間だった。今はもう未練だけが残響する。


「でも、行かなきゃ」


「はい、わたしも武家の妻です。疾うに覚悟は出来ておりますよ」


 俺にはそんな覚悟ない。泣いて喚いてだだをこねるのを堪える。一緒にいてと叫び出す気持ちに蓋をする。

 危ない旅になるのは分かっている。大切だから、俺の我がままだけでは蓬を攫うことはできない。

 

「ありがとう蓬」


「お礼の必要はありません」


 寂しそうに力なく笑う。笑顔でいると約束させてしまったから。ああ、それはなんて酷い傲慢だろうと胸の奥が痛んだ。


「ごめん」


「謝る必要はもっとありません」


 どちらからともなく指を絡める。まだぎこちない。短い時間を過ごしても、まだその不自然さを埋める事も出来なかった。


「蓬には辛い思いをさせる事になる」


「構いませんよ」


 本当にもうなんの衒いもなく、そう声音は告げた。俺の心を軽くしようとしているのは分かるが、なんだかちょっと凹んだりもする。


「俺頑張るから、今度はみんなで星を見よう」


「はい、楽しみにしてます」


 みんな。ここにはいない家族たちを含めて。また、いつかきっと。

 いつからか、俺の肩に心地よい重みがあった。


 こうしてこの村最後の夜を、月が墜ちるまで、何をするでもなく寄り添って過ごした。


えーと。やらかしました。今川領の疫病。1548年だと思ったら、その百年前でした。豪快に年表創り間違えた罠。

まあ、いろんな所がいい加減なゲームですかしらー。と天候は誤差の範囲と無視を決め込みます。


次の話は、最後のネタ振りの回収は生モノすぎるので早めに上げたいです。


ちなみに当初は一週間くらいでここに到達する予定でした。計画性のない大人ってそこはかとなく最悪です。


次から、ようやく新章というか、一章。諏訪編に入ります。


あと、貴志視点が一編と、双子をお披露目できるのが相当先なので、昔の話の番外編。あとはまだ出てない新キャラ視点を一編上げる予定です。


どういう順番かは無計画。まるで成長などしていない。


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