妖精姫参りて
仮更新。タイムアップ。
さて、あれからの事を少し話そう。
無事戦闘終了。セットしたそれぞれのスキルに経験点が上がりステータスに反映。ボスドロップと、一貫文程の金が手に入った。
いつも思うが、果たしてどっちが盗賊かわからんね、RPGというものは。
まあ、文句は弱肉強食の世にと静かに手を合わせる。
俺はというと、多少の怪我は負ったが、さすがにゲーム、一晩もたてば、体力バーは全開、負傷も癒えて健康体に戻っていた…はずなのだが。
しかしながら、あれから原因不明の鈍痛で1、2日間は布団から起き上がれず、その後数日も中々自由に歩き回ることすら困難だった。
今はようやく体も動くようになってきたのだが、散歩に行く際、蓬が一生懸命支えてくれるし、普段も優しくしてくれるので、まだ調子よくないアルヨと言い張ってみる今日この頃です。
とりあえず、ステータス画面の一枚目を見てみる。
名前・桜姫
職業・白拍子
出自・清華家
称号・落ち武者狩り
守護霊・天鈿女命
属性・水
名声・271
官位・なし
体力 231/231
技力 67/67
腕力 18
術力 27
器用さ 136
素早さ 16
丈夫さ 12
幸運 24
魅力 280
スキル 舞Lv5 華道Lv23 茶道Lv2
なんと、二部以来の登場という体たらくのこの画面。
1と2以外の数字が無事に産声を上げましたとさ。
ざっと見てみると、この数日いかに過ごしていたかが分かりやすい。
体を動かすことが億劫だったので、ひたすら花を生けていました。
節々が泣くほど痛くて所作も何もあったものじゃないが、数をこなしてこんな感じ。
本当ならば出来た物を、どんどん売り捌けば、いくらかまとまった金にはなるんだけれども、生花を摘むのをあまり蓬が好まないので、作ってはバラし作ってはバラシの繰り返しとなった。
芸術系技能は、戦闘の役に立たない事にプラスして後半の熟練度を挙げるのは大変な分、最初の方は経験点を上げやすいので、初級者が手っ取り早くステータスを上げるのに役に立つ。
あとは、上がった名声にお金を添えて神社に奉納などをすることで、あげたレベルの技能に応じたスキルを取得できる。
ただ、華道系スキルを単品で覚えても益体ないものなのでその辺りはおいおいやっていこうと思う。
称号はステータスにセットしたもののみ能力への反映が二倍の判定になるので、とりあえずボス戦闘後に取得したものをつけといた。
『落ち武者狩り』1パーティで落ち武者イベントを撃破したパーティが得る称号。
果たして説明は必要だったかと思うほど見たままである。
体力の最大値も上がったことで、いまなら、カボチャの二、三個ぶつけられても、生き残れそうです。
あと、逃げた残り三名の落ち武者達はその後、無事確保され、ここの領主の下に送られた。
熊パパは一農民の癖になぜかここの領主とホットラインを持っていたみたいで武装した兵がダース単位でわらわらやってきたのは少しビビった。
組織された軍というのは例え小国のソレでも、抗う力の無いものにとっては、恐怖以外の何物でもないことを再認する事にもなった。
ちなみにここの領主の名は三木直頼。
ここ飛騨国の三木家中興の祖。飛騨の一国人であった三木家を飛騨有数の勢力まで成長させた良将である。
『美濃の蝮』斎藤道三と同盟を結び、敵対する信濃の遠山氏や木曽義仲の末裔である木曽氏を退け。飛騨の北の雄江馬氏と時に結び、時に争い勢力を拡大させていった。
現在この飛騨国は公家出身の国司の姉小路氏、源氏の名門の守護京極氏の被官である三木家、悪だくみに定評のある江馬家の三つの家が覇権を争っている。
国司の姉小路氏と幕府から正当な支配権を与えられている守護・京極氏。そもそもがいびつな二重の支配体制ではあるが、言うまでもなく帝家も幕府も権威は失墜している。全国津々浦々その土地土地の支配権もグッチャグチャ。それを実力を持って掴み取るのが戦国という時代である。
ここでも各勢力が生け簀の飛騨という魚を掴み取ろうとしている段階である。
この後の正史の推移としては、結論から言うと飛騨が統一されるのは、結局本能寺の変の後のドサクサまで時代が下る事となる。
1582年。受験生的にはイチゴパンツで本能寺と覚えると楽だ。弊害は緊張感が一気に無くなる事。あとその信長さまの絵面は想像してはいけない。
この村は三木家の支配下にあるので、気絶していた兵とかは、領主の元へ連れて行かれた。
俺たちがこの村に残ることに一人騒いでいる某アレはいたが、おおむね今回の騒動を体を張って解決したという事で好意的に受け入れられている。
ここいらは温暖な美濃地方に近いので蓬さんみたいに穏やかなおっとりとしたタイプが多い。
飛騨は国の南北で気候がまるで違う、それに合わせ人の性質もわりと差がある。北の更に山がちな方は、峻厳な人柄が多い。
この国をめぐる軋轢も勢力は、こうした土地や人柄の差に起因する事も大きいのだ。
そうだな。南を治める三木家がどういう人たちかというと、心は錦とばかりに見栄を張る事があげられる。
息子の良頼は中納言。孫の頼綱は大納言を自称していた。
個人的には孫の三木頼綱が信長に挨拶に行ったときに「中納言です」と遠慮して一ランク低く申告したエピソードがほほ笑ましくて好きだ。
ほらを突き通すでもなく、自称を止めるでもなく、何故この着地地点で「よし行ける」という結論に達してしまったのかが、私、気になります。
うっかり上総守を名乗ってしまった黒歴史を持つ某魔王様は、昔を掘り当てられた気分で、苦々しくも見て見ぬふりをしたんじゃないかと思う。
おっと『上総守』でググっては駄目だぞ。
ここまで話して何だが、三木家は基本的には弱小勢力らしく空気を読むことには定評がある。
祖父は斎藤道三。父は上杉謙信。孫は信長と、その時々の全盛期を誇る後ろ盾を得る事で勢力を維持してきた。
大名といっても飛騨は国自体が力が無い。そうしなければ生き残れなかったのだ。
飛騨は律令上、『下国』に分類されているし。国の守の位階も従六位下。
石高は太閤検地で三万八千石と全国最低ランク。幸い鉱山資源があるものの、海はないので塩も取れず隣国との共存は必要不可欠なお国柄である。
まさに小国オブ小国。生き残るためにはその時勢に対する嗅覚が鋭さが欠かせない。
外交センスが必然的に磨かれるわけだ。
強いものにと簡単に言ったが、正解を知る後の世から見れば当然の判断かもしれないが、当事者は目隠して夜道を歩く様なもんだ。
多くのプレーヤーの選択で新たな年表を作っていく、このゲームと同じ。
判断を誤り付く勢力を間違えると大変な被害を被る。
ついでに、そんな三木家がこれからどうなったかというと、国司姉小路家の名跡を継ぐことを政治工作で朝廷に認めさせ、飛騨の関ヶ原といわれた八日町の戦いで北の江馬氏を滅ぼし、飛騨一国を手中にした後が問題である。
囲の中の蛙という事を忘れ、ひょっとして俺強いんじゃねえと調子に乗ったら百戦錬磨の秀吉軍に小指の先であっさり攻め滅ぼされました。1585年の事である。
何度も言おう、その人らしくない振る舞いをしたら、戦国では即死亡フラグである。
そんな、三木氏も今回はどうなるかはわからない。
年表の巻き物はまっさらなまま、新しく書き記されるのであるから。
さて、村の話に戻ろう。
簡単ではあるが、亡くなった村人さんの葬儀めいたものが行われた。
野盗も、そこで合わせて弔われた。
ここいらの死生観は現代と比べると分かりがたくずっと厳しい。
何か一つが上手くいかないと、死に繋がりかねない時代がそうさせるのか。
割り切って生きてると感じる。現代よりも厳しい天災人災が研磨したのだろう。
村人も蓬も一晩しっかり弔ったら、翌日からは何もなかったようにけろりとしていた。
こういう事を幾度となく繰り返したのだろう。その人の分まで笑って生きようとする強さに、俺は敬服する。
ゲーム中の死人は、文字通り天に帰る。一日も経つと、新雪のように溶けて全てがなくなる。
形式上の墓となるが、それでも最期にその人の地上に残った場所として、今後も大切にされるだろう。
それはそれで、悲しいものだと思う。
それでは、最後に俺たちの話に戻ろう。
「えー、第一回なんとなくまぐれで生き残った件についてー」
ぱちぱちと拍手が一つ。と冷たい視線が一つ。前者が嫁で、後者が幼なじみ。
ノリくらいは軽くしないとやってられない投げやり感が台詞の端々ににじみ出ている。
大体内容はこんな感じ。
「はい先生」
「なんだね、貴志君」
「ヨシ君が弱すぎます」
「そうだね。でも彼なりに頑張っているんだ」
「はい先生」
「なんだい、貴志君」
「いのちがかかっている以上がんばってるとかいう意見は甘えだとおもいます」
「それじゃあ、でもみんなで優しくしてつよくしてあげましょう」
「わかりましたー、でもヨシ君が強くなるための時間で他の人達も頑張るから意味無いと思います」
「それはこまったねどうしようか」
「はい」
「おっ、蓬君も意見かい」
「どうしようもならなくなったときは、わたしがなんとかしましょうか」
にこーっ
「…………」
「…………」
以上ダイジェスト版。誇張がありますがこんな感じ。
いざとなった時、嫁が本当に何するかわからないので、想像の翼はそっと折りたたみ。彼女が畑仕事の間に、せっせとボスドロップの刀を振っている。俺はビビってなんていない。
ちなみに振るっているのは激戦の最中に叩き折れたアレである。
武器は修理と手入れで半永久的に使える。ゲーム万歳。
しかも複雑な手入れしなくても、アイテムを使うだけで手入れが出来るから楽だ。
陽の光を受ける刀身には血糊や脂の曇り一つも見られない。
ただ、刀身は半ばより折れたまま。刀工か鍛冶技能持ちのPCに持ち込まないとこれは直すことができない。
どのみち、直してしまうと、〈白拍子〉は刀が装備できないのでこのままにしておく。
攻撃力は半減で、武器ボーナスも発動しないが、今の状況を考えると強力な武装である。
銘は『村正』。
妖刀の代表格として有名である。『村正』といえば妖刀。妖刀と言えば『村正』。
戦国の勝者である所の徳川にまつわる不吉からそう言われている。
逸話によるところ、祖父・松平清康。父・松平広忠。 ともに配下の『村正』に切られて命を落としている。
まあ、ゲーム的にはまだ広忠さん生きておりますが。
逸話は逸話で実際の所、伊勢あたりの刀工の一派であった村正が、家康の領地である三河辺りに多数出回っていた為、たまたま、実用刀として著名である村正派が文字通り数打って当たったものだと推測される。
家康自身も刀の手入れをしている時に、深々と傷を負ってしまったため、よほど我が家に仇を為すと断定したらしいが。この人、自分の失敗を誤魔化したかっただけではないかといつも思ってしまう。
それは無理があると言いたくなるいいわけの数々が現在にも多数伝わっている。
『家康 焼き味噌』でググっては駄目だぞ。
いずれにせよ村正の一派にとっては迷惑以外の何物でもない。徳川の命脈を保つにも間違いなく村正は寄与しているのだから。
戦国のユーティライネン弟。徳川四天王最強の将・本多平八郎忠勝のもつ日本三名槍の一つ・蜻蛉切も村正である。
ゲームの話に戻ると、この村正のランクは十段階の中の五番目。
この手のイベントの戦利品としてはかなり上物である。それだけに、あのボスがいかに性質が悪かったのが分かる。手に入ったのが太刀だけに…ごめん、魔がさした。
このランク分けは一番上が神代の物で、草薙の剣や神代三剣などが入る。
完全なユニークで、所持者が出れば、次のゲームからは手に入れる機会は無くなる。噂だと天下統一したプレーヤーに選択権が与えられるらしい。
その下の二番目が上古刀や古名刀やそれに準ずる有名どころ、厳密ではないが現代で言うなら国宝級か。聖徳太子の丙子椒林剣や七星剣。知名度によるゲーム補正で、かの天下五剣もここに入る。
ちなみに刀剣類以外も含めて十六の有名大名家がこのランクひとつずつ所持しているのが手に入れようと思った時の狙いどころ、一ゲームにゲーム全体で一個ずつ手に入れる事が出来る。
上記の蜻蛉切も天下三名槍としてここに分類される。
三番目は、古刀かな。二番目が国宝級とするとこちらは重文くらい。前の二つから漏れた逸話持ちの物は大体ここに入る。
有名どころで言うと宗三左文字とか石田正宗など。俺が以前に拝領したの竹俣兼光もここに入る。
そんな苦楽をともにした刀の手触りを思い出してしまいちょっと凹んだ。
それ以下の、四、五、六、七等級と続いていくのがそれぞれ『最上大業物十三工』『大業物二十一工』『良業物五十工』『業物八十工』となる。
大体は山田浅右衛門著の『懐宝剣尺』に準拠している。
ただ、刀の形状再現は、そこまで熱心ではなかったのとゲーム的アレンジのため、あまりされておらず一部刀剣マニアには非常に受けが悪い。
ちなみに『村正』はというとこの本の成立が江戸期だったので、徳川的な理由で省かれてしまった。
一応、ゲームの等級から判断するに大業物くらいという事だ。
特性としては取り回しが悪い分、切れ味に分がある。同ランクの物としては攻撃力が抜きんでている。現状半分まで落ち込んではいるけどね。
あ、ちなみに別に呪われていなかとです。
「やぁっ!」
少々頼りない気合いと一緒に『村正』は緩く風を切る。
何度目か分からない〈弧月〉を試す。だが、どうやってもシステムに乗らない。
蒼い雷は兆しすらも見えない。
敵の発動前の技の威力を利用するという、とんでもカウンター技なので、相手がいないのがいけないのかと、他の新陰流も試してみる。〈浮雲〉、〈山茶花〉、〈女郎花〉。
慣れた型に乗せても、一向に変化はない。へろへろの剣士が、のろのろと重い剣をへっぴり腰で振り回す失笑ものの光景だけがそこにある。
他人が見たら呆れるほど繰り返す。やがて、腕から肩にかけてひどい熱を持ってしまったため、これ以上はと鞘に戻し、ストレージに投げ込んだ。
よくよく考えると、普通に腰に差すだけであっちにフラフラこっちにヨロヨロしてしまう。そんなものを振り回しても上手くいく道理もあるはずもなく。
気付いたら、足の裏も痛む。やわらかい皮がずれてしまって、もはや立っているのものも億劫だ。一歩歩くごとに鋭い痛みがある。
なんて、情けない体なんだろう。よく知った、ひ弱な自分だけがそこにいた。
「…畜生、俺は強くありたいのに」
「否。そう悲観したものでは亡い、人の子。十分に称賛に能う」
背後から、突然声を掛けられた。
振り返ると、数歩の所。同じ年頃の少女いた。
絵本から何かの間違えで出てきたナニカが。
紫水晶のような何も映していない双眸。目もくらむような豪奢な黄金の髪。
桜が儚い大和姫だとすると、彼女は夢幻に住まう妖精の王女。
それは誰にも一目で分かる異分子。
和の世界に、洋装を纏い野に降り立つ。
折れそうな細身を縛るように包んだ光沢のある黒絹のワンピース。首は喉元までしっかりと覆うデザインなのに、両腕はむき出しになった不思議なノースリーブ。
腰にはクロアゲハを思わせるリボンをあしらっている。前から見ても、背中に羽を広げているのが分かるほど、大きなそれ。
フリルが何層にもふんだんに施されたスカートは申し訳ないほどの短さで腰元を覆うだけ。
そこからすらりとした足は、胴と同じようにニーソックスで縛られて、全体に髪と同じ色の糸で、気の遠くなるほどの細やかな刺繍が施されている。
足元は見ているこっちが躓きそうなほど、高いヒール。こちらの踵にも蝶の羽根が付いている。
可愛らしさの中に危うさと怪しさが同居したアンバランスなデザイン。
「挨拶をしよう。当代、最弱の英雄」
稚気と老成との二律を持つとろける様な笑みであった。
ごく小規模な戦闘。その始まりの鐘の小さな歯車は、大きな歯車へとその駆動を確かに伝えていた。
長いので三分割。さすがに三分割は初めてデス。
マニアックな話題ばかり。刀の刃紋や形状の設定は今後を考えて諦めました。
一々、調べるのが必要な割に伝わりにくいのでまぁ、いいやと。
あと、織田と徳川に恨みはありません。本当ですよ。
ちなみにここまで書いておいてあれですが、三木氏が今後絡む事はまずないかなぁという感じです。伏線を張るだけの役割でござった。
山田隼人は戦国の草刈り場大名家を応援しています。本当ですよ。
明日で、二次創作の掲載が終わりという事で、せっかく書いた二編ばかりのあやせさんにご冥福を捧げようかと。




