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お金がない

あれ、なんかバグってる。修正しました。一体どれだけ放置されていたのだろう。

「饅頭すら買えねぇ!」


 自分の甲斐性の無さに絶望したっ!。


 相場は変動制なので、一概には言えないが一万貫は日本円換算で約一億円ぐらいになる。

 言うまでもなく大金だ。そして必要なのはその二倍。現代でも二億円は生涯賃金で手届くかどうかという額である。

 農民から関白になった男がいるくらいだから、稼げるチャンスは、ゲームであることも含め現代よりははるかに高いだろうが、頭金が二文というのはどうにも手の打ちようがない。


「ふえ、お饅頭食べたいのですか、わたし作りましょうか?うふふ」


 嫁があまりに過酷過ぎる現実に、どこか遠くに逃避し始めていた。そっちは行ったらあかんよー。

 流人ルートさまがいらっしゃれば、魚肉のお饅頭も作れますねー。と空中とお話ししてらっしゃる。地球はいいところだぞ、もどってこーい。

 

 貧しいけれども楽しい我が家を地で行っている彼女には、刺激が強すぎたんだ。


「気を確かにもつんだ蓬」


 雪山か何かで遭難した人にするように、両肩を揺さぶった。基本的に寝たら死ぬぞとかなんとか。


「はわわわ、目が回りますー、お金があちこち飛んでいまふー」


 一輪の花のような華奢な体は、僅かな力で容易く前後に揺れる。いやー、なんか症状を悪化させただけっぽい。


「こら、ヨシ、乱暴しちゃだめだよ」


 その台詞、今日のお前が言うな。


 と、そこで貴志きしを睨みつけて思いつく。

 金がないなら、ある所から持ってくればいい。目が渦を巻いてしまった蓬さんは申し訳ないが放置で。


「あれ?なんか邪悪に瞳が光ったような、まあいいや。ボクも手伝うから地道に稼ごう」


「なあ、貴志きし


「何んだい?ヨシ」


「ボクラ親友ダヨネ」


「ぐもんだよ。もはや、心の友と書いて心友しんゆうといってもいいんだぞ」


 おまえは、どこぞの剛田さんの長男か。ごめん、ちょっとその発想は気持ち悪いぞ心友。

 うん、罵りたいが堪える。

 これから平身低頭して、お願いをしようというのだ、堪えろ俺。


「心友か、なんかそれ、字面が心太ところてんぽいからな」


 INオブラートに突っ込むだけで済ませた。


「んー、ところてんってなんだっけ?昔どこかで聞いた事はある気がするぞ」


「変な事言ってごめんね」


 蓬さん直伝の笑顔で謝る。


「なんか慈愛顔で蔑まれた、ちょっとぞくぞくしたぞ」


 きゅっと胸に手を当て、なぜかちょっと赤くなる。


 気にしたら負けなので、そのまま話を進める。


「手伝ってくれるんだな」


「ヨシと蓬ちゃんとためならなんでもするよ」


「ほう。なんでもいいのか」


「おお、キミは只一言、ボクに死ねと言えばいい」


 それ、いつか見たB級映画の台詞じゃねえか。

 まぁ、いいや。ノリが良い馬鹿は扱いやすい。よし、同意は取った。


「じゃあ、とりあえず、今すぐ脱いで」


 しれっと言った。


「え?」


「その服売るから脱げ、はやく」


 右手のたなごころを上にあげて、すらっと鼻梁の通ったこいつの鼻先に突きつける。

 古遺物級のレア装備『紅梅』。金糸で細やかに縫い取られた梅の花が眩しいそれは、二億には届かないが、売ったらそれなりにまとまった金になる。場合によるが千貫=1000~2000万位は行くんじゃないかな。


「ええーっ!」


 シェーとなる。いつの時代のリアクションだお前。


「なななな、冗談でもたち悪いのに明らかに本気の眼だぞ!」


「ほら、心友だろ、俺達」


 要求を突き付ける。


「うわああん、自分の軽口が憎い、時計の針を戻したいっ!」


「そんなものは欧州に行かないとねぇよ。今年はまだ基督キリスト教すら伝来されてねえ、諦めろ」


 1549いごよく広まるキリスト教。一緒に義務教育受けただろ。年表はだるいが全ての基礎だ。あらゆるものの基礎はそのまま奥義である。


「ううっ、がるるるる」


 野生に帰って威嚇してくる。まるで危機を感じた動物のように只でさえ大きい体を、両手を頭上に目一杯広げてより大きく見せようとする。某ガ○バの冒険のラスボスみたいだ。


「全く手間のかかる奴だな」


 ためいきひとつ。


 威嚇のポーズで懐が御留守なので、潜り込み、すばやく片手を後ろに回し、貴志の帯を、一瞬で解く。

 こちとら和装は家業的に着なれているし、こいつが簡易で結ぶ時の癖も百も承知。朝飯前である。


「ぎにゃああああっ!」


 肩口が大きくはだけ、沖縄の海岸線みたいな鎖骨のラインが露わになる。

 慌ててギリギリのところで、襟を抱え込む貴志。


「うわああっ、なんてことするんだよ!」


 あれ、下帯は足元にちらちら見えていたのに、半襦袢きつけてねえぞ。

 どうやら、風呂で濡らしてしまったものしかなかったらしい。

 俺は蓬さんに借りた。ちょっとさっきから背徳的なドキドキ感がする。


 両手と両足の封じられた輩など怖れるに足りず。奴もそれを悟ったみたいで、座から立ち上がり背中を見せて慌てて逃げようとするが。肩口分余りが出来た裾を踏みつける。


「うわああっ」


 無様な悲鳴とともに床板に転倒する。

 勝負あり。

 うつ伏せに倒れた、奥襟を容赦なく掴む。

 べろり、と余分なもののない、乳白色の平野が広がる。


 ええい、凹凸おうとつが邪魔で脱がせにくいな。身長だけじゃなく、あちこち無駄に育ちやがって。

 そうこうする間に、態勢を立て直したみたいで、着物を再びぐっと掴む。


「いやだああぁあ!もうこれ一着しか服持ってないんだ!」


 ぎゅっと身を縮こめ、最後まで無駄な抵抗をする。


「じたばたすんな、脱がせにくいだろ」


 その時、肩に何かがおかれた。


 不思議に思いゆっくり振り返る。


ヨシ様、一体何をしてらっしゃるのでしょうか」


 正気に戻られた蓬様が降臨していた。親のパワーを何割か受け継いだような力で俺の肩が万力に掛ったみたいに引き絞られる。ああ、技術の授業で木片を圧縮して遊んだな。彼らの気持ちを考えた事が無かった事を悔いた。


ゴゴゴゴゴ


 なぜJOJOみたいな妙な効果音を背負ってらっしゃるのだろうか。


「そこに正座しましょうね」


 にこーっとはするが、額から目にかけて濃い陰影が降りていらっしゃる。

 阿修羅と夜叉を足して二で割らない様なプレッシャーに膝から下が勝手にバイブモードになる。


「……はい」


 異議など言えるはずもなく。姿勢を正した。

 この時代の正座には懲罰的な意味などない、彼女はただ落ち着いた姿勢で話をしたいだけと思いたかった。


長くなったので分割しました。次は早めに。

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