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今日の食卓(昼食編)

ちょっと間が空きました。書いてないわけでなく、この後の戦パートのプロットとか、今さらながら、皆の外見をイラストに起こして固めるとかやってみましたとか言い訳してみる。


蓬さん待望のご飯回。畜生、耐えきれなくて途中で飯にしちまったさ。お腹すいてた方がおいしそうに書けるのは世の常識なのに。

 それから。


 泥だらけの俺たちは、壊れた戸の板の前で仁王像の如く直立するよもぎさんに出迎えられ、無言でにこやかに、風呂の建物を指さされた。


 こうして、俺たちが最後に一緒にお風呂に入った年齢が、十二から十五に引き上げられる事となったわけで。


「あついーよー」


 舌を出して、木製の長椅子の上でへばる貴志。銀色の髪がしどけなく垂れ下っている。

 ここはいわゆる蒸し風呂だ。風呂につかるという文化は、江戸時代、全身浴ともなればそれも後期の文化である。江戸っ子は風呂好きとはよくいったものだ。


 ところで、残念ながらサービス回ではないので、お互い白い襦袢は着たままである。

 それでも、思春期真っ盛りな青少年的には、肌に張り付いた布地が別に透けてなくても、目の毒なので俺は貴志(きし)と反対側の壁とお話していた。


「最後、裏の川で汗落とすからそれまで我慢しろ」


「ううっ、ワカったよー。やっぱり、ボク、サウナ苦手だよー」


「サウナよりかは温度低いんじゃないか」


 フィンランド式蒸し風呂である所のサウナは100℃オーバーとかざらだが、ここは50℃ないし60℃くらいに保たれている。

 共用の浴場でもあるので、そこそこ広い。現代人からするとふんだんに檜が使われている贅沢な風呂だ。


 風呂の仕組みととしては、床板の下に敷き詰められた石を方術で一定の温度で熱して、そこに水を流し込んで蒸気が出る。と、どこかで設定で読んだ事があったっけ。


 そんなどうでもいい事を考えながら、青々と葉の付いた白樺の枝で体を叩く。

 これは果たして洗っているのか、それとも別の効能なのか、蒸し風呂に入る文化がわからないのだが、とりあえず試してみた。


「お風呂が良い!肩までつかりたいよー!」


 ぎゃあ、ぎゃあ、わめき始めた。じっとしてるのが苦手なのも一層拍車をかけてるっぽい。


「まあ、そこかしこに温泉あるから、しばらくは我慢しておけ、入れるだけでもありがたいんだから」


 デスゲームになってから、しっかり体も、装備も汚れるわけで。システムに無意味な負荷がかかっているのではと心配になるほどだ。

 これから夏になるので、風呂の環境がある無しでは、だいぶ違うぞ。


「もう、ボク駄目だ。暑いし、お腹すいたし、凄く眠いんだよー」


 突っ伏しながら小学生みたいに、足をバタバタとさせる。いくつだお前。


「蓬が昼飯用意して待っていてくれるから、もう少し頑張れ。今行っても何もないぞ」


「わかったよー。がんばってみるー。蓬ちゃんは料理上手いから楽しみだぞー」


 まだ見ぬごちそうを、湯気に見たのか、だらしない声を出して、それ以降は静かになった。





「「「「いただきます」」」」


 いつの時代も日本人だと実感させる挨拶。親父さんまで手を合わせてるところを見ると、蓬の癖でなくこの家は浄土真宗だったのかと、どうでもいい事を思いつつ、4人で座を囲んだ食事が始まった。


「味醂最強です!」


 一口食べた後。ふおおおおっ、と蓬さんが何かに覚醒した。

 俺のライフワークである心に残る蓬さんの台詞百選メモには惜しくも入らなかったが、印象的な言葉だ。

 蓬さんは今朝方、朝食を済ませてから、養蜂をやっている農家のお宅へ突撃し、物々交換してきたらしく、張り切って作っていた。

 この時代では流通の少ない秘匿していた焼酎を材料にされた親父さんが切なそうにそれを見ていたのが印象的だった。


 メニューを見てみよう。


 主食の炭水化物的なものは豆をまぶした麦ごはん。コメと麦の配合の黄金比が眩しい。とろろ芋をぶちまけて、これに薄くニンニクを利かせた醤油を香る程度垂らして食べるのが美味い。これだけで1年くらい戦えそうである。


 味噌と醤油と味醂のだし汁コンボで、食べにくいとされる麦にこれほどまでに、化学変化を起こすとは恐ろしい子。

 現代だと麦は逆に高級品でイマイチどう食べにくいのかわからんけどな。仙台に行って牛タン食べた時ぐらいしか食った事ねー。


 ちなみに米よりも手間のかかる麦を調理するのにあたって活躍したのが。この世界の魔法である、初歩的な〈火〉の方術だ。燃料費を節約するためという主婦的な理由でこれを覚えている。

 蓬の属性は植物の示す名の通り〈木〉なので、五行相生の観点から、〈火〉と相性が良い。


 米を炊くよりも手間と金のかかる麦もこれで美味しく炊きあがるわけだ。



 ご飯に添える香の物は夏瓜。

 もうすこしでも暑くなると食べられない時期の物である。

 これを蓬は、わざと皮に果肉を多く残し調理する。実自体も胡麻で和えたものもまた絶品なのだが、今日は残念ながら食卓にはない。

 かわりに、その皮を柔らかくなるまで味噌に漬けたものが、麦ごはんに添えられた。この時代の人はじつに無駄なく物を使うのだ。



 山国には珍しい魚も食卓に並んだ。油が乗りに乗って、濡れた鯵の叩き。

 これは貴志のストレージに入っていた物を使った。

 各プレイヤーキャラクターには100kgまで入れられる荷袋が標準装備されている。壊れない、落とさない、中に入ったものが劣化しない。というある意味これが一番のチートなんじゃないかと思うシステムだ。デザインも自由に変えられる優れ物。

 NPCとの一番の違いはおそらくこれなのではないかと思う。


 一人の兵士は大体一日4㎏弱の兵糧で行動できるので、MAXまで食料を詰め込めば、一か月補給を気にせず単独行動できるのである。 NPCより戦闘のセンスに劣る分のプレーヤーのシステム的アシストとしても、アドバンテージはあまりあるものだ。

 ちなみに一応の所、特殊な入れ物アイテムは他にもあり、それはNPCも装備できるが得てして入手困難である。


 ちなみに鯵は最初は焼こうと思ったんだが、めったに山国では見ない魚に興奮した蓬さんが一匹消し炭になされたので、そのままで頂く事になった。

 ただ、何か調理したり、味付けしたりするのが冒涜かと思うほど、美味いので結果的には良かった。


 五ゲーム目で貴志が仕えていた駿河の国(静岡県の大井川より東)は、山海に面し気温温暖で兎に角、素材の地味が美味い。

 俺の所にくるときに手土産に、色々持ってくることが多かったし、よく俺も行った。

 清水は現代でも風光明媚で日本三大美港にも数えられる。富士と海に挟まれながら、のんびり食事するのは楽しかった。

 いつか蓬にも見せてあげたいなと思う。


 最後の汁物は、変則的に湯豆腐。

 箸を跳ね返す、不思議な弾力がある。俺の知っているものと密度が違う感じがする。味も舌に濃く残る。これを油揚げと一緒に飛騨の澄みきった名水で、ぐつぐつ煮込んだだけのものだが、一つ一つの完成度が高いので箸が驚くほど止まらない。


 欠食児童のように、飯を書き込む三人を、蓬は幸せいっぱいで見守ってたとさ。



「もう動きたくないでござる」


 腹八分目とか守れるわけもなく。限界まで食べ続けた。


「同感だぞー」


 デスゲームが始まってから、ほとんど飲み食いしてなかったであろう、貴志は俺よりも顕著で、私腹が至福で、目がただの棒になっている。食ったら寝転ぶな消化に悪い。


「このまま床にめり込みたいぞ。……蓬ちゃんありがと」


「いえいえ、喜んでいただけて何よりです」


 にこーっ。


 熊パパは戸板を直すために、山に木を切りに行くとかで野生に帰った。


 優しい嫁。あたたかい午後の日差し。これで腹いっぱいとか、もう何もいらないなー。

 自然と目じりが下がってくる。


 そういったときにこそ落とし穴は口をあけてまっているもので。


「ところでさー、蓬ちゃん」


 馬鹿に空気を読む機能などなく、思った事を口に出した。


カエデちゃんと高坊タカボウとどこにいるの?」


 当たり前のように、この場にいるはずのない双子の名前を口に出した。


 おそるおそる蓬さんの方を向いてみる。


 無表情で背筋を伸ばし、何でもありませんよー、という振りをしているが。

 無言で時が進むたびに、嫁の瞳がじわじわと、大粒の水をたたえ始めていた。

 俺との約束を健気に果たそうとでも言うのか、口を結んで、こぼすまいと耐えている。



「お前、とりあえず死んどけ!」


 とりあえず蓬さんの分の愛と怒りと悲しみの天空×字拳(てんくうぺけじけん)を元凶に叩きこんどいた。


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