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アササンネット

作者: 川崎ゆきお

「寒いねえ」

「冷えますねえ」

「お互い寒中散歩だなあ」

「部屋にいるより、暖かいですよ。歩いているときは」

「それはあるね。しかし、やはり冷えるよ。今朝は。これは体に悪い風だ」

「でも村田さんは休まず来ているじゃないですか」

「寒さよりも習慣が勝つね。朝、こうして出ないと、一日が始まらない。本当に体調が悪かった日、出ないで、寝ていたんだがね。やはり、何かいつもと違うんだ。そりゃ、病気だから、いつものようなわけにはいかんだろうが、朝は散歩に出る。朝散は歯を磨き顔を洗うのと同じなんだ。一日が始まらん」

「僕は風邪程度なら、出てきますよ。熱があっても」

「そうなんだ」

「はい。それで、普通に歩いてみて、様子を調べるんですよ。足が重いとか、スピードが出ないとか、まっすぐ歩けてるとかね。まあ、情報を得るわけですよ。当然しんどくて歩けないときは、引き返しますよ。それでやっと、今日は出ないで、寝てなきゃダメだと悟るわけです」

「なるほど、出てみないとわからないか。それは的を射てるね。本当にしんどい時は、玄関先までも歩けない。辛いよ。歩きたくない。だから、歩けるのなら、まだ元気なんだ。大丈夫なんだ」

 二人の意見は合っているようだ。特に無理とに合わせているとは思えない。しかし、この二人。実は論敵同士なのだ。

 二人はこの近所に住んでいるが、顔を合したことがなかった。知り合ったのはネットの交流サイトだ。そこは映画のサークルで、見た映画の感想などを語り合っている。この二人は偶然そこのメンバーで、好みが全く違う。だから、よく二人だけで炎上する。そのとき他のメンバーは、黙って見ているだけ。しばらくすると鎮火するのを知っているからだ。

 この二人、仲は悪いのだが、意外と近所に住んでいることを知り、朝の散歩をオフ会とした。そんな時間、散歩などできるのだから、隠居さんだ。

 二人は、散歩中、映画の話は一切しない。それはネット上でやるべきことで、リアルではしない。なぜなら、客が見ていないからだ。せっかくの持ちネタ披露を一人だけに聞かせるのはもったいないからだ。それに、ここで映画の話をすると喧嘩になるに決まっている。

 リアルではもっぱら健康の話、天気の話が多い。どちらも元気のない朝は、会話はしない。一方が元気で、一方がしんどうそうな時も、会話はない。

 しかし、毎朝会っていると、親しみ、親近感が生まれるのか、最近はネット上での喧嘩は減った。

 そして、一方が誰かと論争になった時、一方がスケットに入ることも多くなった。論旨ではなく、助けたいから助けるだけのことだ。

 そのうち、ネット上ではおもいきったことがいえなくなり、平和な映画サークルとなった。

 それで、刺激がなくなったのか、場から熱気が消えたのか、去っていくメンバーが増えた。

 やがて、この映画サークルは、この二人だけになってしまった。

 そして、凪いだ。

 やがて、板は取り払われ、映画サークルは消えた。

 しかし、この二人は毎朝顔を合わせている。そして映画の話はしない。

 聞くところによると、二人は、それぞれ別の映画サークルへ行っているらしい。やはり、見知らぬ人相手に、思うところを言い合える場のほうが、楽しいのだろう。

 

   了



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