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2-1 早すぎた再会

 ■青きギフトと赤の勇者

 むかしむかし、この街はボロボロでした。

 青の魔道師と魔王の激しい戦いのせいでした。


 山は砕かれ、沢山の穴が開いていました。

 森の大地は避け、でこぼこになっていました。

 街は破壊され、やはり、でこぼこになっていました。


 そして、魔王が倒されても、その手下たちは暴れまわっていました。

 青の魔道師は戦おうとしましたが、魔王から受けた傷で動けません。

 街もボロボロで成す術もありません。


 青の魔道師は最後の力を振り絞り、人々に力を授けました。


 街には、強固な壁を授けました。

 人々には、街を護る術を授けました。

 そして領主の息子には、一本の赤い剣を授けました。


 街の人々は、次々と魔王の手下を追い払いました。

 赤い剣を授かった少年は、次々と魔王の手下を討ち払いました。


 そして、今度こそ平和になり、少年は「赤の勇者」と呼ばれるようになりました。

 めでたしめでたし。



※*※*※*※*※*※*※*※*※*※



「つまり、その赤い剣ていうのが目的だと?」

「はい、そう伺っています」


 オイゲンの屋敷の応接間(?)にて、俺は望んだわけでもなく、リウェン達と再会を果たした。

 依頼主であるオイゲンが現れるまで一時間、何をするわけもないので、リウェンから話を聞いていた。

 そこで判った事だが…どうやら俺は、この依頼の二次募集で引き受けたという事らしい。

 一次募集組のリウェン達――つまりこの娘も冒険者…?――は、二週間も前に、この街に滞在しているというのだ。

 なるほど、それなら流石に依頼内容を聞いていてもおかしくない。


「それにしても、随分と絵空事みたいな話だな」

「確かに、お伽話に出てくる剣を…本当にあるかどうかも判らないですしね」

 小さく肩を竦める身振りを見せ、例の巨大な本を仕舞い込もうとする

 いつも持ち歩いているのか?あのデカイ本は…。


「お嬢さん、それはグリモワールじゃないのかね?」

「グリ…モワ……?」

 不意に、声が掛かった。

 視線を向けた先には、いかにも魔道師といった風貌の男が居た。


「よく、ご存知ですね」 

「魔法の道を志す者なら、名前くらいは知っているさ」

 優雅に微笑むリウェンと、グリモワールと呼ばれた本を注視する男。

 

「おっと、お話に水を差したようだね。

 私は、アビス=ストライゴだ、君は・・・増員募集の――ムノー君?」

「エイン、エイン=エクレールです。」

 リルドナの「無能」発言のせいで、嫌な仇名がつきそうだ…。


「それよりも、グリモワールというのは…?」

 形だけの握手を交わし、説明を促す。

 お互い、相手の自己紹介はどうでもいい、といった感じだ。

「うむ、所謂・・・魔導書の総称でな、その本に術式や呪文を書き込む事によって、

 魔法詠唱の簡略化や、術者の力の消耗を抑えたり出来るという、それは有り難い代物らしい」

「でも使い方次第…ではありますよ?」


 魔導書についてやや興奮気味なアビスと、気にも留めないリウェン。

 俺は、魔導書を、乗馬する際に使う馬具――鐙のようなものと認識した。

 

 グリモワールか・・・あれが有れば、俺でも高位の魔法を扱う事も夢ではないのか?

 俺も最低限…と思い、ささやかながら簡単なヒール魔法程度は使える。

 ――しかし、あの本が有るならば――


「大丈夫か…? ナンセンスだぞ」

「……!?」


 不意に発せられた言葉で現実に引き戻される。

 声の主は、リウェンの後方で、壁に背を着けこちらを見ている。

 細身のやや長身の男で、その黒で統一された服装は、執事を連想させる。

「お兄様・・・初対面の方にそれは失礼では・・・」

 誰だ?という俺の問いかけよりも早くリウェンが回答を用意してくれる。

 いつの間に・・・そこに現れたのだろうか?――いや、最初からそこに居たのか?

 注意してなかったとはいえ、まるで気配がなかった。

 それよりも、さっきの言葉の意味はなんだ?

 ――(頭は)大丈夫か? (その発想は)ナンセンスだぞ。――という意味だろうか。

 リウェンが『失礼』と称するなら、おそらく良い意味ではな無いのは確かだ。


「こちら、兄のルーヴィックです」

「ルーヴィックだ」

 打ち抜かれた板金のような飾り気の無い言葉で応える。

「聞く処によると、妹達が随分と迷惑を掛けたようだな?」

「ちょっと、お兄ちゃん!あれはソイツが――」

 ルーヴィックが無言で一瞥すると、リルドナはビクっと言葉失った。

 あの凶暴女も兄には逆らえないようだ。

 その威圧する態度に、俺も思わず毒が漏れた。

「…で、ナンセンスってどういうことだ?」

「大方、お前はグリモワール使って魔法を、とか考えてたのでは無いか?」

 図星だ、考えてた。

 視界の傍には、苦笑いを浮かべたアビスの顔があった。

 彼にとっても図星であったらしい。

「やめておけ、魔導書は正式な所有者にしか使えん」

 そこで一旦言葉を切り、ため息をついてから続ける、

「尤も――こいつは間違った使い方に、間違った設定を施しているが」


 そこは納得した、

 俺に聞かせてくれたお伽話は、そもそもその本に書かれているようだった。

 俺はともかく、そこのアビスという男は聞いてさぞ嘆いていることだろう。


「…来た様だ」


 ルーヴィックの言葉で扉の方に視線を移す。

 ………。

 ……。

 …。

 ガチャリ


「皆さん、お待たせしました」






 豪華な装いで、すぐにその男がオイゲンだと判った。

 オイゲンは、一同の顔を見渡し話を始めた。

 事前にリウェンから、概要を補足されていたため、実に退屈な時間となった。

 別に恨んでないからな、リウェンは許す。


「それでは工程について――」


 説明が終わり、組まれたスケジュール――日単位での最低報酬が存在するためだ――が示される。

 ここからは知らない話だ、ちゃんと聞かねば。

 オイゲンの声に、控えていた使用人が大きな地図を広げてみせる。


「まずは、西の森の入り口まで行って貰います。

 ――ここまでは遠いので、こちらが馬車を用意させて頂きますので」


 オイゲンが地図に指し示した点を見る。

 ここファルクスから、ずっと東に「ルフェの森」と書かれた森があった。

 ――森の入り口まで…?


「森の中は道が無い上に、激しい起伏があります。

 先程の、お話に出てきた――でこぼこ――というわけです」

 リウェンが小声で俺の疑問に答えてくれた。

「あと――

 大昔に戦争で、砦や前哨が築かれてましてな、

 今は、その残骸と瓦礫で悪路この上無しなわけです」

 アビスもさらに付け加える。


「ここには、昔の兵舎を改装した小屋がありますので、そこで一泊して頂き、

 翌朝より、誠にご足労ではありますが、徒歩で森を抜けて頂きます」

 どうやら、そこからが本当の仕事開始のようだ。

「おい、森を抜けるのは構わないが、どこに行けばいいんだ?」

「まさか森の中を探して回るとかじゃないだろうな?」

 口々に疑問が投げつけられる、確かにそうだろう。

 まだ、肝心の目的地がまるで判らない。

「そこで、コレの出番になります」

「…!」

「む?」

「…?」

 オイゲンが「コレ」と示したのは、装飾の施された棒状の物…剣の鞘か?

 それが、なんなのか俺にはサッパリだったが、一部の人間には判るらしく、各々の反応を示している。

「まさか、それが…?!」

「実在したとは……」

「はい、コレこそが、赤の勇者が使っていた剣の鞘でございます」

 伝説の剣の鞘…?それがなんだと言うのだろう。

 一人価値が判らない俺は、ただ呆然とするのみだった。


 その後、意味も判らない単語や伝説に翻弄され続け、俺の思考は投了(リザイン)寸前だ。

 このままでは不味い……重要な情報までも見落としてかねない。

 視線を周囲の人間の顔へ巡回させる。

 理解できていないのは、俺だけじゃないようだ。

 話に追従できている者の表情は真剣そのものだ、その中にリウェン、ルーヴィック、それと先程のアビスという男は含まれている。

 …視界にリルドナの顔を収めると、ノンキに欠伸(あくび)している。

 アイツと同じサイドの人間になるのは嫌すぎる!


 俺は最後の手段を取った。

 ――聞いたこと丸写しのメモ――


「文字書くの、早っ」

 リルドナがちょっかいを出してくるが、華麗にスルーしてペンを走らせ続けた。


 真面目にコツコツやることしか出来ないんだよ、俺は!





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