1-4 そこに居たのは
「指定された日程で交易船に乗ったのに・・・!」
思わず悪態を付きながら、ギリギリに仕組まれたスケジュールを呪う。
――のんびり紅茶なんて飲んでる場合じゃなかった!
「うっわ、随分と高台まで走らされたな…」
手続きを手短に済ませた俺は、ギルドの親父から貰った地図を頼りに石畳を走る。
グルグルと思考が混乱する。
――日没まで、もう僅かだが…決して夜じゃない。
だからといって、ギリギリに訪問するのは印象が悪すぎる。
少しでも事態をマシな物にするべく…走るしかなかった。
オイゲンの屋敷はすぐわかった――そう、屋敷だからだ。
ギルドから出て、すぐにその姿は確認できた。
――が、道があまりにも入り組みすぎている、階段を上がったと思ったら、また降りて回り道。
地図があって本当に良かったと思う。
「バッカヤローーーーーーーーー!」
誰に向けていいか判らない不満を、夕日に投げつけた。
~・~・~・~・~・~
「随分と遅かったな。」
「……ハァ、はい、面目の次第も…ハァ」
辛うじて、日没までに到着することができた。
息を切らせながらも俺は、屋敷の門番に取次いでもらっていた。
「…なんだ、その顔は?
鉱山の荒くれ共とケンカでもしたか」
「そんな連中より、もっと性質の悪いヤツですよ……」
適当に言葉を濁しておいた。
――もう、俺の中では黒歴史に認定されたんだ、いいだろう?
待つこと、五分ほど。
俺は屋敷の中へと通された。
「やれやれ……」
思わずため息が出る。
心底、今日は疲れた…もうこれ以上何も起こらないでくれ。
俺は、信じてもいない神様に、この時ばかりは激しく祈った。
「この部屋で待っていろ、他のもここいる、」
「わかりました」
「旦那様が来られるには、まだ一時間ほど掛かる」
そこは、応接間のような広い部屋だった。
俺が扉を開けると、中にいた人間が一斉にこちらを見るが、すぐに視線を戻す。
…依頼主じゃなくて悪かったな。
俺は、軽く形だけの会釈をし、知り合いが居る訳でもないので、部屋の隅へと避難しようとした。
――?
視線を感じる。
そちらを向くと、どこかで見たような白い少女と黒い少女がこちらを指差している。
「あーーーーー! さっきの無能!!」
「姉さん、失礼ですよ!」
この日、どうやら神様はお留守だったらしい。