1-3 釣り合わない待遇
――鉱山都市ファルクス
北部に広大な銀鉱脈、東に深い森林、南に海岸線を有し、数百年前より採掘が盛んな街である。
ここに訪れる者は、短期の鉱山夫か、鉱石の運搬を護衛する冒険者がほとんどだ。
しかし――近年、海路が確立され、山岳部に存在する陸路の利用は、不便なこともあり、
護衛の冒険者の数と共に減少傾向を辿っている。
――今日でもファルクスは良質な銀鉱脈として重要視されており、ここにも当然の様に、冒険者ギルドは存在する。
ここは、ファルクスの冒険者ギルド。
俺がギルドに足を踏み入れると、他に利用者が居なかったこともあり。
初老のギルドスタッフが、すぐに対応してくれた。
「それは災難でしたな」
「ええ、全くです」
手短に受付を済ませるつもりだったが・・・何せ、先ほどあれだけ殴られたんだ、
余程酷い顔をしていたのだろう、追求されるのは当然だった。
…極力、愚痴に聞こえないようにする為、言葉の選定に労力を要した。
「初めての土地で、気を緩めた俺が不注意でした」
「船旅の疲れもあるでしょうに、お気の毒で仕方ありませんな」
大抵、その街の仕事は、その街のギルドにのみ依頼が行く。
しかし、より多く人員求める場合など、各都市のギルドへと求人が回る。
各地で求人を見た冒険者は、依頼元のギルドへ赴き、そこで正式に依頼を受けるのである。
――俺は、手早く渡された書類に目を通す。
どうやらこれは、随分と羽振りのいい依頼主――オイゲンというらしい――のようだ。
詳細は書かれていないが、遺跡探索に分類される仕事だが、集める人員があまりにも多すぎる。
俺は自分の得意分野の技術を発揮すればいいだけらしい。
「本当に、俺は開錠・罠解除だけでいいんですか?」
「ええ、そのようですな。
募集を掛けると、どうしても前衛思考の高い戦闘要員しか集まりせんでな。
貴方のような、特殊技能を修得している人間はかなり貴重だったようです」
…どうも世の中には冒険者を「伝説の勇者・予備軍」みたいに考えてる連中が多いらしい。
しかも、それが冒険者自身にいるから問題だ。
怪物を退治し、腕自慢をしたいなら、警備兵にでもなればいい。
冒険するに至って、様々な技能が必要になってくる。
――本来そういったものも含めて、研修・認可を受けた者がギルドに登録されるはずなのだ。
「元々、戦闘は得意じゃないんで、助かりますけどね。」
「フォッフォ、最低限の護身の準備はお忘れなきように――」
と言いかけたところで、ハっと彼は何かを思い出したようだった。
「これはいかん……」
「…どうかしました?」
表情を見る限り、良い情報では無さそうだ。
「当方には、先ほどお渡しした書類の内容程度にしか伝えられておりませんので、
オイゲン氏は、ご自宅に参加者全員を集めて、直々に依頼内容を説明されることになっております。
……今晩っ」
今なんて言った・・・?
「…今晩?!」
「……間に合ってよかったですな」
初老の男は苦笑いを浮かべながら、そう答えた。
太陽は一日を勤めを終え、もう沈もうとしていた。