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1-1 朗読者の少女

ちょっと各話の区切りを細かくしてみようと、試みたんです。

そしたら、9話が56話に化けましたっ!(´・ω・`)

 ■青の魔道師

 むかしむかし、

 森には妖精が飛び回り、

 山には龍が棲まい、

 泉には精霊が宿っていたほどの昔のお話。


 北の山には黒き魔王がいました。

 魔王は、山に来る人々を襲い、麓の田畑を荒らし、

 とうとう街を壊し始めました。


 困った人々は森の奥に住むという、青い魔道師に助けを求めました。

 人々を気の毒に思った青の魔道師はすぐに動き出しました。

 白銀の巨人兵と千変の魔獣を従え、魔王との戦いを挑みました。

 

 魔道師と魔王の戦いは激しいものでした。 

 山は砕かれ、沢山の穴が開きました。

 森の大地は避け、でこぼこになりました。

 街は破壊され、やはり、でこぼこになりました。


 三日三晩の戦いの末、魔道師は魔王を退治しました。

 めでたしめでたし。



※*※*※*※*※*※*※*※*※*※


 バタフライなんたら。

 ほんの小さな事象が、後々の事象に大きく影響する。

 そんな内容だったと思う。

 皆は経験ないだろうか?

 毎日の生活の中で、ほんの少しだけ…

 いつもと違うことをした為に失敗に繋がる。

 ――そんな経験、今まさに現在進行形で展開中だ。

 俺はエイン、一応は冒険者だ。

 いつも通りに冒険者ギルドで仕事を探し。

 いつも通りに探索・捜索の仕事を選び。

 いつも通りに遠出の装備を整え旅立ったはずだった。


 慣れない海路での移動に疲れていたんだろうか。

 もしくは、忍び寄る秋の気配と潮風の清涼感に狂わされたか。

 俺の足は小さなイタズラをしでかした。

 ギルドなどの公共施設のある区画ではなく、商店や民家が立ち並ぶ区画へと足を踏み入れてしまった。

 いつもなら、まっすぐに冒険者ギルドに向かうはずだ。

 ここから全てが間違った。  

 そう。


 ――彼女達と出会ってしまったんだ。




「変わったお話だな」

「そう思います?」

 半分上の空だったために、苦労の末ひねり出したのがそんな感想だった。

 古い街並みの小さなオープンカフェ

 紅茶愉しむ俺と銀髪の少女。


 向かいに座る少女は小首を傾げ、変わらず微笑んでいる。

 読んで聞かせてくれた白い大きな本を抱きかかえるように持っている。

「うーん、俺はあまり多くの本を読んだわけでもないから、実際のところ判らないけど――」

 そこで言葉を切って、周囲を見渡す――時計台が目に入る――かなり時間話込んでいたようだ。

 

「それにしても、先ほど危ないところを…」

「いや、それはもういいよ」

「いいえ・・・もし――

 荷物を台無しにしていたら、兄にお叱りを受けてしまうところでした」


 可愛らしく、ペロリと舌を出して笑う。

 この少女――リウェンという名前らしい――の言う「危ないところを」というのは、

 階段の多いこの街路地を、中身一杯の紙袋を抱え込み、危なげに歩いていたところ、予想を裏切らず躓いてしまう。

 あわや階段を転落寸前のところを、俺が抱きかかえて事なきを得た・・・という顛末だ。

「こちらも美味いお茶をご馳走してもらったし、むしろこっちがお礼を言わないとね」

「そう言って頂けると嬉しいです」


 結局、無下に断るわけにもいかず、お茶をご馳走になっているわけである。

 そして、お茶菓子代わりに、と聞かせてくれたのが、先ほどのお伽話というわけだ。

「それで、変わったお話、とおっしゃってましたが、どうしてです?」

「いやぁ、

 こういうお話って魔王とか魔女とか、悪者を倒すのは大抵、人間の勇者さまとかではないか?てね。」

「ふむふむ、なるほどなるほど」

 随分と目を輝かせて相槌を打っておられる…いちいち可愛いらしい。


「それでしたら――

 ちゃんと続きのお話があるんですが、そっちの方でちゃんと出てきますよぉ」

 持った本のページ素早くめくり、お目当てのページが見つかったのであろう、満面の笑みをこちらを向けた。

 リウェンの顔をみていると、話に付き合ってやりたくなるが・・・いくらなんでも長話しすぎだ。

 どう断りを切り出そうかと思案していると、彼女は表情を少し変え尋ねてきた。

「エインさんは、冒険者のようですが?」

「一応ね、まだまだ駆け出しだけど。

 ここには、ギルドで仕事の求人を見て、遥々やって来たんだ」

 

 ギルド――冒険者ギルドのことだ――では、様々な仕事を斡旋してくれる。

 定番の怪物退治や遺跡探索、果ては、迷子の猫の捜索までも…だ。


「この街にはどれくらい滞在される予定です?」

「うーん、まだ判らないけど、1~2日はいると思う」

 まだ仕事の詳しい依頼内容を聞いてないが、すぐにこの街を出るということも無さそうなので、そう応えた。

 ――もし、すぐに街を発たなければいけないときは――すまん、許してくれ。


「では、また明日にでも続きを――」

「…え?」

「その時はまた美味しいお茶を用意させて頂きますから」


 すごい罪悪感。


 それに、どう見ても年下――十代半ばくらいか?――の女の子から何度も奢ってもらうわけにはいかない。

「そう何度も悪いよ。」

「いえいえ、全く以って心配は間に合ってますよ?」

 ――言葉おかしくないか?

「それに、ここのお茶も美味しいですが、わたしの姉の淹れるお茶も美味しいですから、是非!」


 …リウェンを改めて見る。

 綺麗なサラサラの長い銀髪。

 幼さが残る、可憐な顔。

 白い法衣にも修道服のようにも見える服を纏った清楚な佇まい。

 リウェンの姉なら、きっと負けずに清楚な美人なんだろうなと勝手に妄想していた。

 ――結局、約束を交わされてしまった。

  席を立つリウェン見て、ふと思い出した。


「家はどこだ?その荷物運んでやるよ」

「いえ、大丈夫ですよ?」

 リウェンが持っていた紙袋をひょいと持ち上げる。

 …うん、女の子にはちょっと重過ぎるだろう。

「これくらいさせてくれよ、遠慮するなって」

「いえいえ、全く以って心配は間に合ってま――にゅ?!」


 ずる…べたーん!!


 この表現が一番あってると思う。

 今度は間に合わなかった…さすがに「なにもない所」で躓いて転ぶとは想定外過ぎた。

「うぅ…。」

「おーい、大丈夫かー?」

 目にはじんわり涙が浮かんでいる、まぁ荷物を持つ前だったのが不幸中の幸いか。

「ほれ、掴まって」

 助け起こそうと手を伸ばした、その時。


「あたしの妹に手を出すなーーーー!!」

「ぐぬぉ…!?」



 気がつくと自分が地面に転がっていることが判った。

 俺は気を失ったのか?

 視線を上げると、黒い髪を短く整えた――ボブカットというらしい――赤い瞳の少女が仁王立ちしている。

 えーっと、今この女なんて言った?

「姉さん…!」


 やれやれ聞き違いじゃないようだ。



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