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蝙蝠の世界へようこそ・前(1)

全7話構成を予定しております。

では、どうぞ





どれくらいの時間が経っただろうか……


気づけばオレは見馴れない洞窟の中に居た。

見上げてみると天井にポッカリと開いた空洞から夜空が覗き、真ん丸お月様が星と一緒にコチラを見下ろしている


「綺麗だなぁ」


通常星というのは満月の時には月の光りに紛れて殆ど見えない事が多いのだが

空気が綺麗な為かここでは霞むことなく綺麗にハッキリと見ることが出来る

空気の汚れた都会では絶対に見ることの出来ない、あまりにも綺麗な情景に暫し見取れていた。

しかし、いつまでも見取れている訳にもいかない。


「………さて、どうしよう」


ゴツゴツの壁に背をもたれて脚の間から顔を出すというかなりマヌケな恰好を晒しながら

こんな状況に陥った経緯を思い返した。


____



恐らくそれは数時間前の事

久々に遠出をして遊びほうけて随分と帰るのが遅くなってしまったオレは帰路の途中に居た。

腕時計を見てみればもう11:00過ぎ

両手に荷物を抱えて流石に少し遊びすぎたかなと反省する。

でも、育ての親であるソラちゃんの家から逃げ出し晴れて一人暮らしのオレに門限等存在しないし別に夜遅くなったとして誰も困ったりはしないからまぁ良いか

なんて気楽に構えて家に帰っていたのだが。

しかし、それがいけなかった。

借家に到着すると

電灯の前に黒い悪魔


-蝙蝠がハタハタと飛んでいたのだ。


(げ)


そう思ったオレを責める奴は居ないだろう

小学生の頃、蝙蝠に関わって酷い目にあったのだ。

それ以来オレは蝙蝠が大の苦手で、今でも見ただけであの悲惨な思い出が蘇り腹が痛くなる。

借家は直ぐそこなのだから無視して通り抜ける事も出来なくは無いが蝙蝠に必要以上に近づく事はオレの胃腸の健康と精神衛生上あまり宜しくない。


(仕方が無い………)


蝙蝠が立ち去るのを待つか、と寒いのを堪えて物陰に隠れて暫く様子を見る事にしただが………

世の中そう甘くないようで、

ふとした瞬間なんかピタリと目が合ってしまう、背中を伝う悪寒に、何か嫌〜な予感がした。

そしてその嫌な予感は見事に的中し、次の瞬間。蝙蝠は何を思ったのか、オレの姿を確認するなり


……あろう事かコチラに向かって一直線に突っ込んできたのだ!!


「え、ちょ!!」


頭が真っ白に

心臓が飛び出るような状況とは正にこの事か!!

とてつもない驚異が目前に迫っている!!

一目散に蝙蝠とは反対方向に駆け出すが、どういう訳か蝙蝠はオレの後を追ってついて来る


(ちょっと蝙蝠さん!?なんでこっち来んの!?しかもなんか後ろにハートマークが見えるんですけど!!オレは別にあなたの喜ぶような物は持ってませんよ!?こっち来ないで!!)


しかし、そんなオレの願い虚しく

蝙蝠がスピードを弱める気配は全くない



走るオレ、追いかける蝙蝠


かくしてオレと蝙蝠による夜の追いかけっこが始まったのである


………

逃げること数10分

一向に諦める気配の無い追跡者に疲れ果てるオレ

いくら曲がり道で撒こうとしても正確に道を探り当ててしまうのだからたまったもんじゃ無い。

もう借家からはだいぶ離れてしまっている。


(ああ、もう今日中に家に帰るのは無理か……)


と走る道の先

道のど真ん中で、まるで入ってくれと言わんばかりにポッカリと大きな口を開けているマンホールを確認。

周りに標識も何も無いことから別に工事をしている訳でも無さそうだ。

誰かの悪戯か、はたまた蓋が何かの衝撃で吹っ飛んだのか。

いずれにしても……


「危ないなっ!」


そう掛け声をあげてマンホールを飛び越えようと跳躍した。

マンホールの直径は一メートルも無い

一般的な成人男性の体力を以ってすれば造作も無く軽く越えられるハズ………うん、越えられるハズだったんだよ……


そう、オレの足が大地を離れた途端そのマンホールが……まるで意思を持った生き物かのように

オレの目標着地点へと素早く移動したりしなければ……


「………は?」


当然の事ながらオレは普通の人間だ空中で方向転換も回避も出来るはずがない。

間抜けな声を上げたオレは成す術も無い、オレはマンホールの縁にぶつかる事も無く真っ暗な口の中へとダーイブ、ものの見事に暗闇に飲み込まれてしまった。


「んぎゃああああ!!!」


(死ぬ!!死ぬ!!)




このまま落ちたらタダじゃ済まないと慌てて何かに掴まらねばと周りに手を伸ばすが、手は空を掴むばかりで一向に壁に届く気配がない


(何だこの無駄に広い空間は!!)


どんどんと遠ざかる外への出口

必死に手足をばたつかせ、足掻く事数十秒、十分に加速していく体に最早助からないとオレは抵抗する事を完全に諦めた。


赤服の配管工のオッサンは穴に落ちるときこんな気分なのだろうか


(マンホールに落ちて死亡とか…情けねぇ)


オレが最後に見たのは


嬉々と………いや、キキと鳴き声を上げながら、遠退く光よりコチラを見下ろす蝙蝠の姿だった。


(ああ、蝙蝠と関わるとロクな事が無い)

そんな事を思いながらオレは意識を手放した。


______


__そして現在に至る


何故か生きてます、空気が美味いです


しかし、あれだけの高さから落ちて何故助かったのだろうか、途中で死を覚悟する程度には長く落ちていたはずなのに……

そもそもあのマンホール(?)は一体何だったんだ?

助かった事は有り難いけど、確実に何か物凄く面倒な事に巻き込まれたなと長年の経験が告げていた。

とにかく周りの状況を確認しない事には判断のしようが無い………そう思って、さっきから体を動かして立ち上がろうとしているのですが、どうやら背中が何かの溝にすっぽりと嵌まってしまったようで……加えて体を酷く打ち付けてしまったらしく体が痛み、思うように抜け出せない……………


(う〜ん…)


困った………。

こんな所でこんなマヌケな恰好で人知れず果てるのは御免被る

なんとかして抜け出さなければ


とここで闇の中に輝く二つの光に気が付く

月の明かりに馴れてしまってまだ目が暗闇に順応していない


暫く凝視して見てみれば……体長60cmはあろうかという巨大な蝙蝠が天井からぶら下がりコチラを見下ろしていた。


「…………はい?」


でかい蝙蝠、そうとうでかい蝙蝠


「ん、んぎゃーーー!!!」


ばっ化け蝙蝠!!??

何かの新種なのか!?

いつの間にソコに居たのだろうか

腹がキリキリと傷みはじめる

こんな所に居られない、逃げ出そうと体を必死にジタバタさせるが体が痛むばかりで一向にこの間抜けな体勢からは抜け出せない

しかも、こちらが騒いでいる間にその化け蝙蝠はだんだんと大きくなっている


(ちょ、これ無理!!無理)


まさか、でかくなってオレを頭から丸呑みするつもりか!?

或はオレの体が枯れるまで血を吸い尽くすつもりか!?

オレが脳内でスプラッタな光景を広げている中


そんな予想とは裏腹に、耳は縮み指の間に張られた皮膜も引いていき肌も白みがかっていくのを見た。


みるみるうちに形を変えていく蝙蝠

一分と経たぬうちに巨大蝙蝠の姿は消え、代わりに黒い髪の一人の美少女がぶら下がっていた。


絹のようにサラサラとした黒髪に

闇のように吸い込まれるような漆黒の瞳

手足は細く痩せ

肌は漂白されたかのように病的に白い

目の下には薄らと隈が見える


どこか幻想的な雰囲気を漂わせるその美少女は……

コチラを見詰めたまま口元をニンマリと歪ませると


「やっと来た」


そう呟いた。

……まるで長年待ち望んでいた玩具がようやっと手に入ったかのように。


その時、オレはというと……

立て続けに起きた、あまりにも摩訶不思議な現象に頭の処理が追い付かず、完全に思考が停止し軽く放心状態に陥っていた。


数分間の沈黙

ようやっと頭が通常の思考回路を取り戻した時、ハタと気付く

目の前の少女が一糸纏わぬ裸体である事に……


「ちょ////!?服!!!服!!!」


小さい頃から義姉ちゃんの裸なら飽きる程見てきたが

恐らくは同年代以下の、しかも赤の他人の裸を見て落ち着いていられるほどオレは枯れてはいない!!

オレは顔を真っ赤にして服を着ていない事を慌てて指摘するが。


「……ん?」


少女は今その事に気付いたようにゆっくりと自分の体を見回して…………

少し悩むように頭を傾けたが

しかし、特に気にすることも無く再びこちらに向き直ってしまった。


………いやいや


「////だから服を着れ!!!(恥怒)!!!!」


心の底からオレは叫んだ。




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