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ある日の手紙<0>

拝啓、ソラちゃん


お元気でしょうか?

ソラちゃんに対してこの質問をするのはあまりにも無意味だろうけど……

恐らく相変わらずずヤバイ仕事に手を出しつつ昼間っから酒飲みギャンブルに打ち込み、ヤクザに追われながらも

笑いながら毎日楽しく過ごしているのだろうと思います。


仕事の付き添いと連れ回されて生死の境をさまよったこと幾千回

ソラちゃんみたくゾンビのようなタフさも義姉ちゃんみたく怪人的な体力も持ち合わせていなかったオレが、あまりにも過激な日常に堪えきれず高校卒業と同時に家を出た事は昨日の事のようにありありと思い出せます。

思えばあれから一度も顔を出していませんね、食事はちゃんと採れているでしょうか?部屋は片付いているでしょうか?洗濯物はキチンと洗っていますか?

ゴキブリ並みの生命力を持つソラちゃんなので体の心配はするだけ無駄だと思いますが果たして人並みの生活を送れているのか、それだけが心配です。

義姉ちゃんは基本放任主義だし自分の事で手一杯だろうから

一度家に帰って様子を見たいのですが

そういう訳にもいきそうにありません。



それにはあまりに遠くに来すぎました。

ええ、宇宙旅行も真っ青です。

ソラちゃんのお陰で大抵の事には驚かない野太い精神を身に付けたつもりでしたが、之には流石に絶句しましたよ。



ま さ か の異世界です。



そう、ゲームや漫画なんかによく登場するあれですよ、

まさか自分が身を以って体験する日が来ようとは………


この世界では当たり前のように……動物から人に変化する獣人達が生活し支配していて、寧ろオレのような普通の人間は外界からやって来た落人という人達が僅かにいるのみなのだという。


しかも、二度と帰れないと宣告されました、でも何故か手紙は届くという不思議。


まぁ、特に親しい友人も居ないし

ソラちゃんや義姉さんに会えなくなる事以外特に其方に未練はありませんが、

せっかく浪人してまで受けた大学が勿体無いような気がします……ってか勿体無い。

もしかすると探せば帰る方法があるのかもしれないけど……


とある事情があり、帰れるとしても、それはまたずっと先の話になりそうです。


当初、此方に来た時は(蝙蝠族に世話になっているんだけど)羽根を生やした黒い悪魔達の姿に恐怖に怯えるばかりでしたが来てから早一ヶ月、ようやく此方の生活にも馴れ、この生活に愛着すら感じてきました。

嫌いなモノも毎日見てれば情も湧くもので………………いや、こっちの話ね


コチラでも頭を抱えるような出来事がイロイロあったけど


なんだかんだいって取り敢えずオレは元気にしています。

そんな訳だからもし、そっちに失踪の連絡が行くような事になっても変な心配はせずに、ああそうなんだと軽く流してしまって結構です。


それじゃ、非常識な生活もほどほどにしてなるべく普通に過ごしてください。


暇があったらまた手紙を書きます



ソラちゃんの息子より愛を込めて


PS.会う機会があったら義姉ちゃんにも宜しく言っといて下さい


◇◇◇◇◇◇


「ふぅ」


ようやっと育ての親であるソラちゃん宛ての文を書き終え、オレこと、沖野 良平は手紙を読み返した。

内容は短めにと言われていたけど書きたいままに書き綴っていたら思った以上に長くなってしまった、数回推敲したのに相もかわらず幼稚な文章だなと凹み、書き直そうかとペンを取って、……別に良いかと便箋に入れて封をした。



『りょーへー……終わった?』



突然の声に窓の外を見れば黒い影がハタハタと翼をはためかせている。

それに気付いたオレは急いで窓を開けて“彼女”を招き入れた

黒い影は窓から室内に飛来しヒラリと隣の椅子に舞い降りると淡い光りを発しながら人化し、黒いドレスに身を包んだ華奢な少女が現れた。

彼女の名前はファイ

蝙蝠族の女性で

オレがこの世界で初めて逢った獣人だ

右も左も判らない状態のオレを嫌がるのも構わずつきっきりでイロハを教えてくれた恩人で、彼女には全く頭が上がらない。彼女が族長の姉という事は最近知った事実。そんな彼女がオレのこの仕事場兼住居にやって来たのは、(普段から特に用が無くても勝手にやって来る)オレが親に手紙を書くと聞き手紙を届ける役を買ってくれたからだ。


そんな訳でこの世界での仕事;小さきもの(まだ変身できない獣人の子供)の世話や医者モドキ、を終えたオレは心配しているであろう親に近況を知らせる手紙をつい先程書き終えた訳なのだが……



「ってか、本当に届くのかな、コレ」


手紙を掴みヒラヒラさせて回答の出るはずのない疑問を口にする。


「……さぁ?」

ファイは首を傾けて曖昧に返事を返した。


ファイの知り合いのツテに向こうの世界に手紙を送る方法を知ってる人がいると聞いて、それならばと気合いを入れて手紙を書き始めたのが昨日のこと


しかし、よくよくファイの話を聞いてみるとそれはあくまでも気休めのようなものであり実際に届くのか否かはやぶさかではないらしい事が発覚。向こうに戻れないのに確認出来る訳無いからなぁ……


折角文才の無い頭を酷使して慣れない手紙を書いたのに、これで届かないとか言ったら虚し過ぎる。


「………」


届けば良いな……なんて、竹茶を飲みながらそんな事を考えているとファイがなにか期待したような目でこちらを見つめているのに気がついた。


何?と目で問い掛けてみれば



「……あの事は書いた?」


ぶっ


思わず、竹茶を吹き出した。


その話題はダイレクト過ぎるだろ!!


「……いや、そういう重大な知らせはもちときちんとかいたがいいかと……」


ファイの質問に口を吃らせて返事した。


実はオレは彼女と人生最大の約束事を交わしているのだが(内容は……恥ずかしくて言えるか!!)親に手紙を送ると聞いてからというものの、彼女はしきりにしつこく報告を促してくる。

以前、人生の節目になるような出来事は親とか知り合いにはキチンと報告するものだと言ったのはオレだけども

極端というか………


にしても親にたった一言報告するのがこんなに緊張するものだと思わなかった……

そんなの一言で済むじゃん、なーんて思っていた過去のオレを絞め殺してやりたい。


言いたいけど言いたくないような

ってか言ったら恥ずかしくて死ねる。

でも言わなきゃ

でも……


………うがあああ!!


と恥ずかしさやら使命感やらでオレの脳みそは爆発寸前



しかし、そんな脳内の葛藤をファイは別の意味で捉えたのか。

なんか不審な目でコチラを睨んでいる


「約束………破るつもり?」


はぁ、ホント勘弁してくれ。


「んな訳ない、ただ、ああいう事はちょっと書きづらいだけだ、」


「……ふーん」


一応本心を言ったのだが、約束をうやむやにしてしまいそうな

そんな微妙な態度が気に食わなかったらしく眉を潜められた。それでも不承不承納得してくれたようで


「いってくる」


多少拗ねるようにそう言うと再び獣化し、書き終えた手紙を引っつかみ一直線に窓から出ると

月明かりに照らされる夜空へ空高く飛び立っていった。


おお速い速い



瞬く間にその黒い姿が闇に紛れ地の果てに消えるのを見送って



「反故になんてする訳無いだろうが……」


ぽつりと一言、愛しい彼女の飛び立った空を見上げて呟いた。





_____



……さて、さっきから城の方で


ねーちゃん!!ねーちゃん!!


と必死に姉を探している若き族長さんの相手をしますかね


オレは仕事部屋を後にして城に繋がる洞窟の奥へと入っていった。




 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

男の落人ってありなのだろうか……?

問題があったら御一報を


多分あと二~三話続くハズ

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