第6話 誘拐犯
昼になり、昼飯の準備をする。
朝に買った新鮮な食材を使って作っていく。
今日は良い肉を買えたため、肉と野菜の炒め物。
調味料もふんだんに使う。
……調味料も買い足したし、良い出来が期待できるな。
「お兄、悲鳴」
「悲鳴?」
料理の手を止めて、火を消す。
メレアの方を見ると、既に立ち上がり準備を済ませていた。
槍を手に取り、メレアとともにすぐ外に出る。
「昼間から一体、何が……」
「孫が! 攫われた。誰か!」
老婆が叫ぶ。
散乱したバッグやぬいぐるみが、地面に転がっている。
老婆の言葉からして、誘拐事件だ。
……ここは人通りは比較的少ないからな。そこを狙われたか。
家の前の道は、大通りに比べると人通りは少ない。
とはいえ、通行人や住民はいる。
だいぶ、度胸のある誘拐犯だ。いや、自分の腕に自信があるんだろう。
「誘拐、魔力反応からして、あっち」
メレアが素早く、周囲の魔力残滓をたどって、誘拐犯が逃げた場所を指差す。
「メレアは老婆の保護を、俺が追う」
「分かった、後から追う」
老婆を任せて、メレアの言った方向へ走って向かう。
誘拐犯の姿は見えない。
走ってる最中に自分でも魔力の残滓を見つけて、たどる。
……見づれぇ。
魔力の残滓が少なく、点々としているせいで追いづらい。
これは普通の冒険者や魔術師が、習得するような技術ではない。
戦い慣れた戦士か、盗賊のような逃げに慣れている人間がやること。
メレアは一瞬で見つけて、次の残滓も捕捉していたが、俺にそんな芸当はできない。
視線を動かして、全体を見て見つける。
「こりゃ、逆の方が良かったか? いや、どうだろうな」
追いついたとしても、ここは街中。
メレアの得意の大規模な魔術は使えない。
それだけでなく、誘拐犯は人質を持っている。
相手が魔術師慣れしていた場合、魔術でその状況を打開するのは難しい。
その場合、俺のようなタイプの方が向いてる。
しばらく走っていると、誰かが前を走ってる姿が見えた。
……あれか。
片手で小柄な人を抱え込んでいるのが見える。
連れ去られた老婆の孫だろう。
「身体強化はしてないな。暴虐を許さぬ巨盾よ、敵の侵攻を阻め」
詠唱をして、魔術を発動させる。
半透明な盾が、誘拐犯の行く手を阻む。
防御魔術は攻撃を阻む。
その性質上、使い方を変えれば行く手を阻む壁としても使える。
もっとも、大きいから魔力の消費が多いし、開けた場所だと多少の時間稼ぎくらいにしか使えない。
今回は道幅が狭い道だからできた。
「なんだ!? 防御魔術か」
「人質を離せ。投降しろ」
「冒険者か、だが強くねぇなお前……勝てると思ってんのか?」
……人質を使って脅さないのか。
誘拐犯は基本追い詰められたら、人質を使って脅す。
だが、それをしないと言うとは強さに自信があると取れる。
人質を脅しても、その場から離脱できるとは限らない。
実力があるなら、素早く追っ手を倒してから移動した方が早い。
追っ手に仲間がいた場合、合流されるから早い対処が最善手となる。
「さぁな、生憎と一目で戦いの行く末を見抜く目は持っていなくてな」
槍を構えて、様子を伺う。
相手の武装は、短剣2本が見える。
1本は右手に、もう一本は腰につけている。
おそらくは短剣二刀流の戦闘スタイル。
相手はほぼ格上だろう。
今回、俺は戦いで勝てなくても良い。
メレアが来るまで時間を稼げれば勝ちだ。
……人質がいるから、こっちから攻撃はできないな。だが実力があるとはいえ、人質抱えては戦えないはずだ。
一時的に人質を手放してくれる可能性がある。
そうすれば防御魔術で囲い保護して、存分に時間を稼げる。
「逃げたら殺すからな」
「ひっ、は、はい!」
誘拐犯は子供にナイフを首元に突きつける。
子供は今にも泣きそうな表情で頷く。
誘拐犯が子供を手放す。
チャンスと思い子供を防御魔術で保護しようとした瞬間、悪寒が走る。
「……!? 守護せよ!」
ガギッンと音が響く。
「これを防ぐか」
誘拐犯の2本の刃が、目の前まで接近していた。




