第3話 メレアとの会話
「氷食いながら、腹出してると冷えるぞ」
「だいじょーぶ、もう冷えてる」
「手遅れじゃねぇか」
厚い布を引っ張り出して掛ける。
冷やし続けるのは、体に良くない。
メレアは、位置が悪かったのか、布を手で少し調整する。
「依頼受けに?」
「あぁ、生活費が足りなくなりそうだったから、オーク狩りにな」
メレアの氷を食べる手が止まった。
そして、俺の方へ視線を向ける。
……氷を食べ過ぎたのか? 氷めっちゃ減ってるわ……
氷を入れていた場所を見ると、ごっそり氷が減っていた。
原因は、そこで貪ってる奴だろう。
氷はあまり使わないから良いが、この量は体調が心配になる。
あまり氷は食いまくるものではない。
「イスリカ森林?」
「あぁ、そうだぞ。どうかしたか?」
メレアが挙げた名前は、俺がオークを狩りに行った森の名前。
この付近でオークと言えば、イスリカ森林くらいなものだ。
オーク狩りで名が上がるのは自然。
「オーガ見かけなかった?」
「オーガ? あぁ、遠目だけどな」
メレアがその話題を出すという事は、俺が伝える前にあの森にオーガが出てくる情報が流れていたのだろう。
討伐した本人か、別の誰かか。
根掘り葉掘り聞かれなかったのも納得だ。
「納得」
「納得? 何が?」
「オーガ討伐した子が、正体不明の魔術師の援護受けたって話をしてたから、お兄なら納得〜」
確かに俺が防御魔術で支援をした。
そして、正体も明かしていない。
助けるためとはいえ、正体を明かさなかった事で怪しまれたんだろうか。
……まぁ怪しい行動はしてないし、気にする事はないな。
俺は、防御魔術を一度張っただけ。
あの状況では、怪しい行動ではない。
「防御魔術に気づいたのか。あぁ、消し忘れてた気もするな」
「消し忘れ、あとカードに刻まれるから」
「刻まれるなら分かるんじゃ」
「あの魔術は、一定範囲にいないと認識されない」
冒険者証明のカードには、いくつもの魔術が刻まれている。
その中に魔物を討伐した際に感知して、周囲の状態とともにカードに刻むという特殊な魔術式がある。
そのため、依頼達成の報告は、カードを見せるだけで済む。
「そんな仕組みだったのか」
ソロでやっていたため、そんな機能がある事を知らなかった。
いや、冒険者になった時にその辺の説明を受けた気もする。
数年前の話で覚えてないだけか。
「基本だけど?」
呆れたような視線を向けてくる。
「俺のスタイルは近接戦だからな。その一定範囲から外れた事がない」
「なる〜」
攻撃魔術が使えれば、その範囲の外から撃つ事故が起きるのかもしれないが、俺は攻撃魔術を使えない。
攻撃は戦士と同じ近接物理攻撃、仕留める際も離れることが少ない。
だから気づかなかった。
「まだその槍使ってたんだ」
メレアは、適当に壁に立て掛けていた槍に視線を向けた。
オーク戦で使っていた古びた槍。
手入れを行い、長く使っている。
「使い慣れてるからな。まだ折れそうもない」
「それだとBに上がるの難しいよ」
「俺は上がる気はない。Cランクで充分生活費を稼げる。それにBに上がるとあれあるだろ」
「あるね、面倒なのが」
「俺は欠陥魔術師、それに槍の技量もたかが知れてる。上がる気はない」
クッションを敷いて座る。
あれとは、Bランク以上だとギルドから緊急時の要請がかかる事を指している。
Cランクの場合は任意、Bランク以上の場合はほぼ強制。
時間拘束が長い、難易度が高い依頼の場合は、見返りが大きいからCランクでも受ける人は多い。
しかし、基本的にそういった緊急というのはBランク以上、最悪ならSランク相当の討伐依頼だ。
生半可な実力では瞬殺。
Bランク冒険者が要請を受けて行ったら、Aランクの魔物が相手でしたなんて事も聞く。
……Bランクに上がれば、いずれそういった要請が来る。割に合わない。
「ギルドに用事があったのは、オーガの件で要請でもあったのか?」
「あったけど、私が到着した時には終わってた」
「そうか、あれ1体だけだったのか?」
「どうだろう。取り巻きが残ってる可能性はある」
「まぁこの街B以上は、そこそこいるし問題ないか」
「スズランも今滞在してるからねぇ」
「あぁ、Sランクの」
数少ないSランクの冒険者スズラン。
各地を転々としている冒険者で、異名は剣聖。
偶然、このタイミングで来たのだろう。
それは頼もしい。
彼女は個性的な人の多いSランクの中でも、ギルドの要請を素直に聞く珍しい人物だ。
もっとも、スズランがいなくてもオーガ程度ならどうにかなる。
今この街には、メレアがいる。
目の前で威厳もなく寝転がって強い雰囲気はないが、彼女もまたSランク。
多彩な魔術のスペシャリスト、異名は色彩の魔女。
俺のような欠陥魔術師とは格が違う存在。
「飯食うか」
「なんでも良い」
「了解」
簡単な料理をササッと作り、食事を終える。
メレア用の布団を引っ張り出して、今日を終えた。




