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防御特化の魔術師〜中堅冒険者のひっそり無双〜  作者: 代永 並木


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1話 動き出す物語

「不味いな……金が無くなった」


 緊急事態が起きてしまった。

 財布(さいふ)として使っている袋の中には、2日3日程度の生活費しか残っていなかった。

 これでは生活ができない。

 うーん、と少し悩む。


 ……仕方ないかぁ。稼ごう。


 生活費が無くなったなら、働くしかない。

 仕方なく、重い腰を上げる。

 戦闘(せんとう)用の服に着替え、バックを抱え玄関に置いていた(やり)を手に持って外に出る。

 人々が行き交う大通りを通って、冒険者ギルドの建物へ向かう。

 そこで、仕事を受けて金を稼ぐ。


 何度も行き慣れた道、間違える事もなくスムーズに建物へ着いた。

 扉を開き中に入る。

 中には紙を見て話し合う者、勧誘(かんゆう)する者、ただ雑談(ざつだん)をする者など、様々な人がいた。

 まっすぐ、依頼書が貼り出されている掲示板に向かう。


「Cランクの依頼で残ってるのは……珍しいな」


 1枚の依頼書が目に留まる。

 魔物の討伐依頼。

 Cランクの魔物『オーク』の討伐、1体以上と書いてあった。


 魔物の討伐(とうばつ)依頼は、報酬(ほうしゅう)やランクポイントが高いため、人気な依頼となっている。

 だから、すぐに無くなる事が多い。

 俺はCランクに上がって数年経つが、Cランクの討伐依頼はあまり受けられていなかった。


 ……達成に必要数は1体で、増えるごとに加算(かさん)されていくタイプか。オークは基本3体前後で行動、3倍だとすると――少し足りないが1回で稼げるなら悪くない。


 依頼書を()がして受付に向かう。

 受付で承認(しょうにん)されて、ようやく依頼を受ける事ができる。


「どうなさいました?」

「この依頼を受けたい」


 受付の女性に、依頼書と冒険者証明のカードを渡す。

 冒険者のランクが書かれたカードであり、これが無ければ依頼を受ける事ができない。

 女性は依頼書の内容を見た後、カードのランクを見て頷き判子を押す。


「Cランク冒険者……はい、承認しました。依頼書はどうしますか?」

「貰う」

「どうぞ」


 依頼書を受け取る。

 ギルドに預けていても良いが、内容を忘れた時に困る。

 何か思い違いをしていたら後が大変。


 ギルドを出てオークの出る森へ向かう。

 森の中に入って、オークが生息している中腹付近までまっすぐ向かう。


 ……この辺りの筈だが、魔物の気配も獣の気配も無いな。


 違和感がある。

 この森の中には魔物も、魔物以外の獣も生息している。

 歩いていれば魔物に当たるとまで言われる森で、音1つしない。

 何かの異変が起きているのは確定寄りだろう。


「戻るべきか……いや」


 後ろをチラッと一瞥(いちべつ)する。

 既に森の中腹辺りに居る。

 戻る道も遠い。


 ……遠いな。この位置からだと、横から抜けた方が近いか?


 進む方向を考えていると、バギバキと大きな音が森の中に響く。

 音のした方を向く。

 木々の隙間から、音が聞こえた場所が見える。

 人の姿がうっすらと認識できる。

 鎧を身につけた冒険者のようだ。


 ……戦闘中か。あの戦闘が異変の原因か? 冒険者は負傷してるのかな。


 冒険者の動きが、若干おかしいと感じた。

 おそらく、負傷をしているのだろう。


「相手はあれか。あれはオーガか?」


 相手側の姿も確認ができた。

 Bランクの魔物、『オーガ』の見た目をしている。

 知性があるとされている魔物であり、2m強の巨体で力が強い。

 厄介な事に武器を持つ事が多い魔物。


 ……最低でもBランク、俺が参加してどうにかなる相手か? あの冒険者のランクによるか。


 俺のランクはCランク、Bランクの一個下のランク帯だ。

 冒険者のランクは、該当ランクの魔物に匹敵(ひってき)する、もしくは討伐できるという指標(しひょう)

 一個上となると、Cランク冒険者のパーティでは苦戦を強いられる強さ。

 俺では、参戦したとしても、勝ち切れない可能性が高い。


「剣に込めた魔力が増えた? 突っ込む気か」


 冒険者の剣に、多くの魔力が込められた事に気付いた。

 一矢報いる気か倒す気か。少なくとも突っ込む気だと分かる。


 ……オーガは動きが速い。届く前に叩き潰されかねない。


「守り手よ彼の者を守護せよ」


 詠唱して素早く、魔術を展開する。

 防御魔術、俺が使える戦闘用唯一の魔術系統。

 オーガの攻撃を阻むように、障壁を作る。

 オーガの攻撃が障壁に当たる。

 その瞬間、空気が大きく揺れた。

 空気が揺れるほどの衝撃が走った。


 ……これがBランクの本気の一撃か。とんでもないな。よく割れずに済んだよ。


 遠隔で姿は見えていないが、障壁が破壊されていない事は分かる。

 何とかあの一撃を防ぎ切ったようだ。

 そして、空気の揺れが収まった時には、戦いが決着していた。

 オーガは真っ二つに切り裂かれ倒れていた。


 ……倒したのか。応急処置の道具はバックに……


 バックを漁っていると、何かを飲んでいるのが見えた。


「ポーションがあったのか。ならこれ以上は余計なお世話か」


 森の異変の原因が討伐されたため、オークが姿を現すかもしれない。

 この場から静かに離れる。


 〜〜〜


「何とか倒せた」


 Sランク魔物、『変異個体オーガジェネラル』を何とか討伐できた。

 ほっと、一息つく。

 呼吸を落ち着かせて、バックからポーションを取り出し、(ふた)を外す。

 薬草の匂いが鼻腔(びこう)をくすぐる。

 ゴクリと、一気に飲む。


 ……苦い。


 ポーションの苦さはどうも慣れない。


「最後の一撃、相打ち覚悟だった。なんでオーガジェネラルの攻撃は私に届かなかったんだろ?」


 普段なら考えもしない相打ち覚悟の突進だった。

 でも、私の攻撃は届いたが、オーガジェネラルの攻撃は私には届かなかった。

 妙に感じる。


「うん? あれ、これは……」


 後ろに魔術障壁がある事に気付いた。

 近くで確認をする。

 防御魔術、防ぐ機能のみが搭載された洗練された魔術式。


「もしかしてこの障壁が?」


 障壁と戦闘時の位置関係を確認する。

 すると、オーガジェネラルの一撃が当たる位置だと分かった。


 ……空気が揺れた感覚があったのは防いだから? オーガジェネラルの攻撃を防げる魔術師がここにいた?


 すぐに森の中を見渡す。

 しかし、周囲の森の中に影一つない。


 ……もう居ない。


「少なくともすぐに視認できる場所にはいなかったはず、なら遠隔でピンポイントで? 彼女は今日この森にいる訳ないし、この街にそれほどの魔術師が?」


 1人だけ、知人に同じ芸当ができる魔術師がいる。

 でも彼女は今日別の用事があって、ここには来られないはず。

 つまり、彼女と同等の魔術師がいたという事になる。


「これは緊急事態。ぜひパーティに誘いたい!」


 変異個体オーガジェネラルを討伐したら、もうこの街に用はないと考えていたSランク冒険者、スズラン。

 彼女に新しい目的ができた。

 そんな事はつゆ知らず、アマギは生活費目当てでCランク魔物、オーク探しをしていた。

1話を読んで頂きありがとうございます。

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