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帝都幻灯局 ― 失われた街を撮る者たち ―  作者: 灯坂 フィルム


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第68話「残される街/沈む街」

 朝の味噌汁の湯気は、昨日よりやわらかかった。


 そう感じたのは、きっと私のほうの体が勝手に“今日を普通の日だと思いたい”と願ったからだ。台所の窓から見える路地はいつもと同じで、向かいの家の干し柿も、斜めの電線も、路面電車の走る音もある。


 あるのに、胸の奥に、昨夜の川沿いの“線”が残っている。淡く光る境界。足を乗せた瞬間に揺れた視界。二重写しの家々。


「灯子、弁当持ってけ。今日は長いんだろ」


 父が台所から声をかけてきた。紙に包んだおにぎりを渡される。手のひらに乗る重さが、今朝は妙に現実的だった。


「うん。……ありがとう」


 返事をして、カメラバッグのベルトを肩に通す。金具が小さく鳴る。日常の音。日常の重さ。


 玄関を出ると、近所の奥さんが掃き掃除をしていた。竹箒の先で、落ち葉が規則正しく集められていく。


「灯子ちゃん、今日もお仕事? この前のサイレン、結局あれ何だったの」


「訓練、ってことに……なってますね」


 私が曖昧に笑うと、奥さんはふうん、と言いながらも、それ以上は踏み込んでこなかった。踏み込んだら、日常の足場が崩れると知っている人の顔だった。


「ま、訓練ならいいわね。うちの子、あの日から外が怖いって言ってさ」


 そう言って箒を止める。


「でも、今日も学校行ったわよ。走って。ああいうのって、いいのか悪いのか分かんないわね」


 分かる、と言えなかった。私はただ、頷いた。


 路面電車に乗る。窓の外で、帝都が流れていく。目が勝手に白線を追い、角を曲がるたびに、見えない“線”を探してしまう。


 幻灯局の事務所は、いつもより静かだった。誰も無駄な動きをしない静けさ。テーブルの上には、昨日見た通達のコピー、地図、深度ログの簡易版。御影は立ったまま、全員を見回した。


「今日はテスト本番です」


 言い方は淡々としているのに、その一言に空気が沈む。相馬は制服ではないが、腰のあたりの動きが“警察”のそれになっている。七瀬は煙草を噛み殺すような顔。九条はペンを指で回し、花は指先に力が入っている。


「行政、軍、教会、観測機関、警察、そして私たち。……珍しい光景になります。現場では、勝手な行動は避けてください」


「勝手な行動って、どこまでが勝手だ」


 七瀬が吐き捨てる。御影は目を逸らさない。


「線の上に立つこと。境界をまたいで長く留まること。……昨日の揺らぎを覚えていますよね」


 私は頷く。足裏が思い出す。線の冷たさじゃない、世界の“切り替え”に触れた感じ。


 相馬が短く言う。


「退避誘導が最優先だ。残るって言い張る人もいるだろうが……」


「その人たちを、どう扱うかも見られてます」


 九条がぽつりと挟む。御影が肯定するように頷く。


「今日の出来事は、帝都の評価でもあり、私たちの評価でもあります」


 言葉の最後のほうが、私の胸の奥の封筒に触れた気がした。


 私はおにぎりの包みをバッグに押し込み、カメラのレンズを拭いた。指先が少し震えている。撮るための震えなのか、怖さの震えなのか、もう区別がつかない。



 第七河岸区に着くと、昨日より線が濃かった。


 淡いホログラムのようだった光が、今朝は確かな“表示”になっている。地面に、壁に、橋の支柱に、白く青い帯。そこに貼り付く文字も読みやすくなっている。基準深度ライン。補正対象エリア。優先保全区。


 線は、存在を主張するようになった。


 河岸の広場には、人が集まっていた。行政の腕章、軍服の影、教会の黒い服、観測機関の灰色のコート。警察の制服が数名。相馬がその中に吸い込まれていく。


 そして、灰島がいた。ソラもいる。ソラは周囲の住宅街を見て、昨日より顔色が硬い。可愛らしい駄菓子屋の看板が、今日は“沈下候補”の線の向こうにある。


 灰島が、淡々と説明を始める。声はよく通るのに、感情の波がない。


「本日のテストは、第七河岸区における部分的深度調整です。すぐに肉体的被害が出る類のものではありません。ただし、特定の場所や構造物の優先度が下がることはあります」


 七瀬が小さく舌打ちした。


「回りくどい言い方しやがって」


 灰島は聞こえていないふりもしない。ただ、受け流す。


「住民の皆様には、インフラ調整という名目で退避をお願いしています。誘導は警察と自治会の協力で行います」


 その“お願い”の裏で、線はすでに勝手に引かれているのに。


 住民の集まりの中に、残る人たちが見えた。表情が違う。荷物を持たない人。背筋だけが妙に伸びている人。


 川沿いの小さな神社の宮司夫妻。商店街の古い魚屋の主人。昨日釣りをしていた老人。神社のほうは、線の境目にかかっていて、鳥居が外側、拝殿が内側。まるで、二つの世界に引き裂かれているみたいだ。


 相馬が宮司に近づき、低い声で説得している。


「せめて、ここから少し離れたところに……」


 宮司は穏やかに笑った。穏やかであることが、逆に怖い。


「あなた方が全部守れるわけでもないでしょう?」


 相馬が言葉を飲むのが分かった。守れない、とは言えない。警察はそういう言葉を口にできない。


 魚屋の主人は、シャッターの前に立ったままだった。腕組みをし、目だけが線を見ている。


「魚はどうすんだよって? どうにもなんねえよ。冷蔵庫ごと沈むなら沈むだろ。……でもな」


 主人は吐くように言った。


「ここで店閉める顔、ちゃんと撮っとけよ。二度と開けられなくなるかもしれねえから」


 花が隣で唇を噛んだ。


「みんな、こんな顔して店閉めるんだ……」


 九条が、苦い笑いを浮かべる。


「記事としては、この表情だけで十分かもしれないな」


「十分、って言葉が今いちばん嫌いです」


 私がそう言うと、九条は一瞬だけ目を細めた。謝るでもなく、挑発するでもなく、ただ現実の重さを受け止める目。


「……足りないことを足りないまま残すしかないんだよ」


 私は答えず、カメラを構えた。


 残る人たちを中心に撮る。神社の前で手を合わせる宮司夫妻。魚屋の主人が鍵を回す手。老人が川を見ている横顔。線の向こう側でも、子どもが駄菓子を握っている。逃げる子もいる。泣きそうな子もいる。


 シャッターを切る音が、今日はどこか遠い。


 私は何度も自分に言い聞かせる。撮る。残す。今ここにいたことを、証拠にする。そうすれば、世界が少しだけ、考え直すかもしれない――そんな希望は、希望というより祈りだった。



 灰島が合図を出したのは、正午少し前だった。


「――開始します」


 線の光が、目に痛いほど強くなった。川面の光の帯も、細い刃物みたいに鋭くなる。空気がぴんと張り、音が一瞬だけ引き算された。


 私は呼吸を忘れかけ、胸の中で数を数えた。いち、に、さん。


 川沿いの古い倉庫の輪郭が、じわじわ薄くなる。壁の木目が消え、影が消え、存在だけが“消しゴムで擦られる前の紙”みたいに白くなる。


「……うそだろ」


 誰かが呟いた。声は小さく、でも確かに震えていた。


 倉庫の角が、ふっと欠ける。欠けた瞬間、そこにあったはずの空間が“最初から空だった”みたいに整ってしまう。周囲の建物が、その空白に馴染もうとするのが見える。世界が、穴を埋める。


 次に、路地が一本まるごと“白く塗りつぶされたように”消えかけた。石畳も、看板も、影も、全部が一枚の白になる。そこを歩いていたはずの猫の姿も、途中で途切れた。


 私は歯を食いしばってシャッターを切る。切るたびに、ファインダーの中の現実が薄くなる。撮った瞬間に消えるかもしれないものを、撮る。


 そのときだった。


 消えかけた路地の真ん中にあるベンチだけが、妙に輪郭を保っていた。背もたれの欠けた木片、釘の錆、足元の雑草。全部が“そこにある”と言い張るみたいに強い。


「あそこ……」


 私は声が漏れたのを自覚して、慌てて飲み込んだ。


 昨日、何枚も撮った場所だ。線の上に立って揺れたとき、ベンチの影が二重に見えて、私は怖くて連写した。理由なんてなかった。ただ、あそこが“境界の中心”に見えたから。


 灰島がタブレットを確認する。ソラが横から覗き込み、顔色が白い。


「優先度の再計算が行われています」


 灰島の声は、相変わらず平板だ。平板だからこそ、言葉が刃になる。


「人の行き来が多い場所、記録密度が高い場所は――線の内側に残りやすい」


 私は息を止めた。


「……記録密度?」


 言い返すように、声が出た。


 灰島が私を見る。昨日よりも、さらに“評価する目”だ。


「簡単に言えば、どれだけ“ここにいた”という証拠が積まれているかです」


 証拠。積まれている。私の写真。花がプリントした写真。九条の記事。誰かの手帳。誰かの記憶。


 世界は、それを数えるのか。


「じゃあ……記録が増えれば、街は救われるんですか」


 私が問うと、灰島は少し間を置いた。


「救われる、という言い方はしません。評価要素のひとつです」


 要素。計算。再計算。


 私は唇を噛んだ。要素のひとつだとしても、その“ひとつ”が目の前でベンチの輪郭を保っている。


 ――写真が、線を少し動かした?


 そんな考えが頭をよぎった瞬間、怖くなった。私が撮らなかった場所は、今、白く塗りつぶされている。私が撮らなかった路地は、地図から空白になる。


 撮ることが、選別に参加することだとしたら。


 私は、誰を残して、誰を沈めた?



 神社のほうで、どよめきが起きた。


 線がちょうど境目にかかっている。鳥居が外側、拝殿が内側。鳥居の朱色が、薄くなり始めているのが見えた。拝殿は、まだ輪郭を保っている。


 灰島がタブレットを見て言う。


「この場合、どちらか片方が優先され、もう片方は……」


 言い切る前に、宮司が笑った。


「神様だけ置いていかれるわけにはいきませんな」


 宮司夫妻が動く。神社の中へ走り、小さな御神体を抱えて出てくる。町の人たちがそれに続く。箱、布、古い写真。額縁。紙袋。持てるものを持って、線の内側へ運ぶ。


「危ない! 線を跨ぐな!」


 相馬が叫ぶ。七瀬も周囲を押さえるように動く。


 それでも、人は止まらない。残りたい人は、残るために動く。沈むかもしれないものを、残る側へ引っ越しさせる。


 花が息を呑んだ。


「あ……あの写真……」


 宮司が抱えている古い額の中に、見覚えのある一枚があった。花屋の店先で撮った、季節の花の前で笑う町の人たち。私が撮って、花がプリントして渡した写真だ。


「うちの店先で撮ったやつですよね?」


 花の声が震える。宮司が頷く。


「ええ。“この街らしさ”ってやつだそうで。若い人が持ってきてくれたんです」


 若い人――花だ。


 花が誰かに渡し、その誰かが大事に持っていた写真が、今、神社の“残る側”への引っ越しを助けている。


 私は胸の奥が熱くなるのを感じた。熱いのに、涙が出ない。泣いたら、手が震えて撮れなくなる。


「誰かの手の中に残った一枚で、線が、少しだけ動いてる」


 声に出したのは、私じゃなかった。九条だった。彼はまっすぐ神社を見ている。記者としてではなく、人として。


 線が揺れる。鳥居の輪郭が薄くなりかけた瞬間、町の人が鳥居の前で手を合わせ、額縁の写真を掲げるように持ち上げた。


 まるで、“ここにいる”と世界に見せつけるみたいに。


 タブレットの地図が更新される。灰島の指が止まる。


「……優先度が変動しています」


 ソラが息を呑んだ。


「え、これ……」


 拝殿が、ほんの少しだけ内側へスライドするように表示が動いた。現実の拝殿も、微細に“位置”がずれたように見えた。視界の揺らぎ。紙をずらすみたいな動き。


 私の喉が鳴る。怖い。すごい。怖い。


 古い倉庫は沈下側として優先度低下。いくつかの細い路地は、記録密度不足で消失。白い空白が増えていく。


 でも、神社と、その周辺のベンチや花壇は残っている。残っているのは、計算か、意志か。


 私は自分のカメラを見た。レンズの中に、今の世界が収まる。でも、その世界は“撮ったことで変わる”かもしれない。


 撮るべきか。残すべきか。


 残すことで、別の何かが沈むなら?


 私は、シャッターを切れなくなりかけた。


 そのとき、老人が私の横に立っていた。昨日の釣りの老人だ。線の外側に残ると言い張り、今も川の匂いのする場所に立っている。


「嬢ちゃん」


 老人は私を見ず、白くなった路地のほうを見て言った。


「迷うな。迷ってもいいが、止まるな」


 私は息を吐いた。


「……私が撮ったところが残って、撮らなかったところが消えたら」


 声が掠れる。


「私、どうしたらいいんですか」


 老人が笑った。昨日と同じ笑い方。軽くない笑い。


「どうしたらって、どうにもならん。だから――」


 老人はようやく私を見た。


「ちゃんと撮っとけ。沈んだほうも、残ったほうも。どっちかだけだと、嘘になる」


 嘘にしたくない。嘘じゃないのに、嘘みたいな現実を、嘘じゃないまま残す。


 私はカメラを構え直した。



 テストは、終わった。


 線の光は少し弱くなったのに、街のほうが弱くなっている気がした。白く塗りつぶされた路地は、もう戻らない。戻らないのに、人の目はそこに慣れようとする。空白が“最初からそうだった”ことになる速度が、恐ろしい。


 灰島のタブレットの地図には、ぽっかりと空白になった路地がいくつか浮かんでいる。UIみたいに整然とした空白。そこに、悲鳴も匂いもない。


 七瀬が低く呟いた。


「……ほんとに消えちまったな」


 相馬が答える。


「でも、写真の中には残ってる」


 九条が、静かに言った。


「地図から消えても、紙面からは消さない。……それくらいの反抗は許されるだろ」


 反抗。誰に対して? 世界に対して? 帝都庁に対して? それとも“忘却”に対して?


 花が、神社のほうを見ながら、小さく笑った。


「なんか……負けっぱなしじゃなかったって感じですね」


 神社は残っていた。拝殿も、鳥居も、完全にではないが、形を保っている。町の人たちが、額縁の写真を胸に抱えたまま、座り込んでいる。息をしている。


 私は言った。


「線を全部はねじ曲げられなくても、少しだけなら……写真で押し返せるのかもしれません」


 その言葉が、希望なのか呪いなのか、分からない。写真が“押し返す”なら、私の仕事は未来の線引きに関わり続ける。


 撮ることが、街を救うかもしれない。


 撮ることが、街を選別するかもしれない。


 私は空になった路地の場所へ向かった。そこは今、ただの“通り抜けられない空間”になっている。壁があるわけじゃないのに、そこから先がない。足を踏み入れようとすると、頭の中で何かが拒否する。見えない段差。見えない結界。


 私はそこにカメラを向けた。


 ファインダーの中には、何も写っていないはずだ。白い空白。影も輪郭もない。ただ、現実の“抜け”だけがある。


 それでも、私はシャッターを切った。


 その瞬間――


 一瞬だけ、誰かの後ろ姿がよぎった。


 白い空白の中を、確かに誰かが歩いていた。小さな肩。少し丸まった背中。見覚えのない髪。いや、見覚えがある気もする。思い出そうとすると、手のひらから水がこぼれるみたいに、記憶が滑る。


 私は息を呑んだ。


「……ここに、確かにいた」


 声が漏れた。私の声は、空白に吸われて消えそうだった。


 撮った。残った。残ってしまった。


 それが、救いかどうかは分からない。戻せない。戻せないのに、残すことだけはできる。



 夕方、幻灯局に戻る道は、いつもより長く感じた。


 路面電車の窓から見える帝都は、相変わらず動いている。店が開き、人が歩き、川が流れる。だけど私は今日一日で、街の中に“空白”が生まれる瞬間を見た。地図から消える瞬間を見た。


 事務所の扉を開けると、御影がコップに茶を注いでいた。湯気が立つ。湯気は日常の味がする。


「おかえりなさい」


「ただいま……」


 相馬が深く息を吐いて椅子に座る。七瀬は窓際で腕を組み、煙草を吸いたそうに指を動かしている。花は、神社の人から預かったのか、小さな紙袋を抱えている。九条はノートを開き、何も書かないままペン先だけを見つめていた。


 私はカメラバッグを膝に置き、指先でファスナーを撫でた。中には今日の写真が詰まっている。残った街と、沈んだ街。残した人と、残れなかった人。


 撮ったことが、線に影響したかもしれない。匂う程度にしか、まだ分からない。でも、灰島の言葉は確かだった。記録密度。証拠の積み上げ。


 御影が私を見て言う。


「灯子さん。今日の写真は、内部記録に回しましょう。外に出すものは選びます」


 私は頷いた。頷きながら、心の中で別の問いが湧く。


 ――選ぶ、という行為自体が、また線を引く。


 花が紙袋をそっと机に置いた。


「神社の人から。お礼だって」


 中身は、乾いた飴だった。素朴な包装。甘い匂い。私はそれを見て、今日の“残る人たち”の顔を思い出す。最後まで見届ける、と言った宮司の目。


 九条がぼそりと言う。


「……書くよ」


 誰に言うでもなく。


「何を書けばいいか分からないけど。今日、消えた路地のことを、消えたままにしない」


 相馬が、疲れた顔で笑った。


「書いたら、お前も恨まれるぞ」


「恨まれていい。……恨まれないと、忘れられる」


 九条の言葉は乱暴で、でも、今日の空白を見た私には分かる気がした。忘れられる速度が、いちばん怖い。


 七瀬が窓の外を見て言う。


「次は、もっとでかい“削り”が来るかもしれねえな」


 誰も否定しなかった。否定できなかった。


 私はカメラバッグの中から、今日撮った一枚のプリントを取り出した。まだ完全な現像じゃない、仮のプリント。白い空白の中に、ほんの一瞬だけよぎった後ろ姿が、薄い影として残っている気がした。


 気がするだけだ。見間違いかもしれない。ノイズかもしれない。


 それでも、私はそのプリントを指で押さえた。指の熱で、影が消えてしまいそうで。


 私は心の中で言う。


 ――ここに、確かにいた。


 そして、今日の帝都はまだ、湯気の匂いがする。


 撮れるうちは、撮る。


 それが救いかどうか分からなくても。線を全部はねじ曲げられなくても。空白を埋められなくても。


 私はカメラをそっと抱き直した。明日も、帝都を撮るために。残される街と、沈む街の両方を、嘘じゃないまま残すために。


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