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EVOLVE〜エヴォルブ〜 Season2 ― 過去と対峙 ―  作者: 柊梟環
EVOLVE〜エヴォルブ〜 Season2 ― 過去と対峙 ―
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第5章 真実の名前

戸籍に刻まれた名前。それは避けてきた“真実”の扉を開く鍵。

環はついに、自分の“出自”と向き合う。

夜、しゅうたまきが暮らすマンション。

リビングの照明は落とされ、

柊と環、そしてなぎがダイニングテーブルを囲んでいた。


外では小雨が降っている。

窓を打つ音が、部屋の静けさをいっそう深めていた。


テーブルの上には、一枚の紙――戸籍謄本。

環は両手でそれを見つめていた。

震える指先が、ゆっくりと文字をなぞる。


 父 三浦哲みうらさとる

 母 三浦ゆり



何度見ても、名前は変わらない。

現実が目の前にあるのに、心が追いつかない。


「……やっぱり、そうだったんですね。」

声は小さく、けれど確かな震えを帯びていた。


凪が静かに頷く。

「クレイド社のメール、差出人の名前……一致してますね。」


柊は腕を組み、環の隣に座る。

その横顔は冷静だが、目の奥には深い怒りが宿っていた。


「……まさか、母親が環に近づこうとしているとはな。」

柊の声は低く、硬かった。


環はうつむいたまま、かすかに首を振る。

「母……。でも、私、あの人の顔……覚えてないんです。

 怖いのに、何も思い出せない。

 でも、身体だけが反応するんです。」


凪が心配そうに環の手に触れた。

「環さん、それだけで十分ですよ。

 心が無理に思い出そうとしなくてもいいです。」


環はその言葉に、少しだけ微笑んだ。

けれど、その微笑みはすぐに消える。


「……私、どうしたらいいのかな。」


柊はしばらく黙っていた。

それから、静かに口を開く。


「まずは、冷静に。

 でもこの件は、もう偶然じゃない。

 凪、社内ネットワークの防御を強化してくれ。

 クレイドとの共有サーバーも確認だ。」


「了解です。」


凪がノートPCを開いて作業を始める。

その手際は落ち着いていて、頼もしかった。


柊は環の手を包み込むように握った。

「環、俺たちがいる。

 どんな過去でも、もう1人じゃない。」


その言葉に、環の目から涙がこぼれた。

ゆっくりと息を吸って、吐く。


「怖い……でも、柊と凪くんがいてくれてよかった。」

「怖くてもいい。怖いって言えるなら、それでいい。」

柊の声は、優しくも強い。


凪が顔を上げて、少し笑った。

「ほんと、柊先輩って頼りになりますね。

 僕も負けてられません。」


「頼りにしてるよ、凪。」

柊が短く返す。

その空気に、少しだけ温もりが戻る。



◇◇◇



しばらく沈黙が流れた。

雨音だけが、静かに窓を叩いている。


環はそっと戸籍の紙を折りたたみ、

胸の前で抱きしめた。


「……この名前は、私の“過去”なんですね。」


「そうだ。でも、“今”は違う。」

「……はい。」


環は小さく微笑んだ。

「柊と凪くんがいてくれて、本当によかった。」


柊は頷く。

「それで十分だ。過去の影は、俺たちで断つ。」


その瞬間、環の胸の奥で――

何かが静かに、ほどけていく音がした。

逃げたい過去を、受け止める決意。

支えてくれる人がいるからこそ、環は立ち向かう強さを得た。

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