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EVOLVE〜エヴォルブ〜 Season2 ― 過去と対峙 ―  作者: 柊梟環
EVOLVE〜エヴォルブ〜 Season2 ― 過去と対峙 ―
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第8章 再会 ― 凍る記憶

過去が、目の前に立っている。

忘れていたはずの声が、環の心を再び凍らせる。


曇り空の午後。

会議室のガラス越しに、鈍い光が差し込んでいた。

クレイド・インダストリーズとの定例ミーティング。


いつも通り、しゅうなぎ、そしてたまきが席に着く。

けれど今日は、空気の温度がどこか違っていた。


柊の表情は冷静そのもの。

凪も平静を装っていたが、

指先がわずかに緊張を滲ませていた。


そして――ドアが開いた。


「失礼いたします。」


柔らかな声。

その声を聞いた瞬間、

環の身体がビクリと震えた。


ゆりが、そこに立っていた。

淡いベージュのスーツ。

整った髪。

誰が見ても“できる女性”。


完璧な笑み。

その笑顔が空気を凍らせた。


だけど、環の瞳にはそれが別のものに見えた。

笑っているのに、目が笑っていない。

優しそうな声なのに、空気が冷たい。


柊の手が、環の膝の上でそっと触れる。

――大丈夫。ここにいる。

そのわずかな温もりだけで、環はかろうじて息を吸えた。


「はじめまして。三浦ゆりと申します。……あら、はじめましてではなかったかしら。あなたたち、先日お会いしてましたね。失礼。」


ゆりが会釈する。

だが、その目は環だけをじっと見ていた。


「お久しぶりね、環。」


――その一言。

その“響き”が、胸の奥を突き刺した。


「ずいぶん大人になったわね。

 私に似ているのかしら。

 綺麗よ、環。

 でもそんな顔をすると……

 あの頃のままね。

 あの頃のままの私の環だわ。」


その瞬間、環の中で何かが壊れた。

肺が動かない。

酸素がどこにもない。

冷たい何かが胸の中で固まっていく。


――息をしちゃいけない。

そうしないと、また見つかる。


環の呼吸が止まる。

何も思い出せない。

なのに、全身が凍る。

空気が喉を塞ぎ、心臓が乱れる。


「……環?」


柊の声が届く。

環は声を出そうとしたが、

喉から音が出なかった。


指先が冷たくなっていく。

体温が奪われるみたいに。


ゆりは、微笑んだまま1歩前に出る。

「そんなに緊張しなくてもいいのよ。

 もう、痛くしないから。」


その瞬間――

空気が張り裂けた。


その言葉で、

環の肺が完全に凍った。

呼吸が消える。

あの夜の声と、今の声が重なる。


 息もしなくていいのよ。



脳裏に焼きついたあの言葉が、空気を奪う。


柊の声が、低く鋭く響く。

「三浦さん。距離を取ってください。」


凪もすぐに立ち上がり、

ゆりと環の間に入った。


ゆりは一瞬、驚いたように目を細める。

けれど、すぐに笑った。


「まぁ……大切にされてるのね、環。

 いいことだわ。」


その声には、

母親らしさではなく、

“自分の所有物を取られた女の嫉妬”のような、

冷たい感情が混じっていた。


環はもう立っていられなかった。

柊がすぐに肩を抱き、そっと支える。


環はようやく空気を吸った。

けれど、肺の奥に残る冷たさは消えなかった。


「帰ろう。」

「……はい。」


凪が会議を中断し、佐伯さいきがすぐに扉を開けてくれた。

その一瞬、ゆりが低く呟いた。


「逃げても、いずれ思い出すわよ。

 私のことを。」


その声が背中に張りついて、離れない。

「怖い」と言葉にした瞬間、

環はもう、過去の中に閉じ込められた少女ではなかった。

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