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EVOLVE〜エヴォルブ〜 Season2 ― 過去と対峙 ―  作者: 柊梟環
EVOLVE〜エヴォルブ〜 Season2 ― 過去と対峙 ―
1/14

―プロローグ―

――音の消えた夜。

その静寂の奥で、誰かが目を覚ます。


偶然か、必然か。

1通のメールが、止まっていた時間を狂わせていく。


名前を見つけた瞬間、世界の歯車がわずかに軋む。

誰も気づかない闇が、確かに息づいていた。


Season2 ― 過去との対峙 ―


これは“再会”の物語ではない。

記憶の底に沈んだ、真実の亡霊が目を覚ます夜――。

静かな予兆 ― 1通のメール


深夜のオフィス。

残業明けの街が静まり返る中、

クレイド・インダストリーズのビルだけが、まだ明かりを灯していた。


システムソリューション部の一角。

モニターの光に照らされた横顔がひとつ――三浦ゆり。

整った姿勢で、キーボードを打ち続けていた。


無駄のない動き。

乱れのない机上。

1枚の紙も傾いていない。

いつも通りの完璧な夜。


ただ、その“いつも通り”の中に、

ほんの小さな異変が混ざった。


画面に並ぶ文字列の中に――

その名前を見つけたのだ。


 三浦 環



指先が止まった。

瞬間、空気がわずかに揺れた気がした。

同じ姓。同じ響き。

偶然だと思えば、それまで。

けれど、ゆりの口角が静かに動く。


「……たまき。」


その声は、記憶の奥から這い出るような低さを帯びていた。



◇◇◇



ゆりは立ち上がり、ゆっくりとカップに手を伸ばした。

ぬるくなったコーヒーの香りが、どこか遠い記憶を呼び覚ます。


「……やっと、見つけたのね。」


彼女は自分の席に戻り、マウスを握りしめる。

宛先の入力欄に文字を打ち込む。


 tamaki.miura@arc.co.jp



画面に並ぶ文字がひとつひとつ増えるたび、

胸の奥に小さな鼓動が広がっていく。



件名:お話できませんか



---


三浦環様


先日の会議では驚かせてしまってすみません。

ずっとお伝えしたいことがありました。


突然こんなメールを送ってしまって申し訳ないのですが、

どうしても直接、お話ししたいのです。

二人きりで、少しだけお時間をいただけませんか。


……ずっと探していたんです。

あなたに会える日を。


三浦ゆり


---



送信ボタンを押す前に、

ゆりは机の上の古い写真立てに手を伸ばした。

写真の中の小さな女の子が、笑っている。


「ねぇ、環。

 あなたは覚えてる?

 あの夜、私の手を振り払ったこと。」


モニターの光がゆりの頬を照らす。

その表情は、笑っているようにも見えたし、

泣いているようにも見えた。


――クリック。

送信完了。


モニターに映る「送信しました」の文字を見つめ、

ゆりは小さく微笑む。


「これで、また始まるのね。」



◇◇◇



オフィスのドアが開く音がした。

佐伯俊哉さいきとしやが顔をのぞかせる。


「三浦さん、もうこんな時間ですよ。」

「ええ、あと少しだけ片づけます。」


ゆりの声は、いつもと変わらず穏やかだった。

けれど、その背中に漂う“何か”に、

佐伯は言葉にできない違和感を覚えた。


「お疲れさまです。」

「お疲れさまです、佐伯さん。」


その声を最後に、

夜のオフィスは再び静寂に包まれた。


ただ一つ――

誰も知らないメールが送られた音だけが、

確かにそこに響いていた。

ご覧いただき、ありがとうございます。


1通のメールが、すべての均衡を崩していく。


記憶は美しく、嘘はやさしく、そして――過去は残酷に。


ゆりの微笑の裏に潜むのは、懐かしさか、それとも復讐の影か。


彼女の「送信しました」という言葉が、

どんな結末を呼び寄せるのか。


次章、光の中に立つのは――誰だろう。


静寂の中で、まだ何かが動いている。

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