第三救〜利他① 他の為に尽くすこと
「クゥン…(ステーキ…)」
「そう落ち込むなって。あんなステーキ、今生では最後だったかもしれないぞ」
「クゥン…(慰めになってねぇ)」
俺は、悄気返るパトラッシュを連れて、とある場所に急いでいた。
俺は、別にアナスタシア・ラ・ランカスター公爵当主様が嫌いなわけではない。
どちらかと言うと好きだ。だからこそ厄介なのである。
アナスタシア様は、美しく、気高い。いつも微笑みを湛えていて、誰にでも本当にお優しい。しかも、真如苑の敬虔な信者だ。この世界の金持ちは、皆真如苑の信者である。
母親が真如苑を信じだしてから、俺の家も経済的に上向きはじめてきた。本当に不思議なことだ。
強烈なカリスマ性があり、「美少年倶楽部」で大成功を収めている少年達にインタビューすると、大抵、
「最初は、美少年倶楽部なんか入りたくないと思っていたんだけど、アナスタシア様と直接お会いして、お話をしているうちに気付いたら、アナスタシア様の足元に平伏して、どうか一生お仕えさせてくださいと言っていたんだ。でも、今はアナスタシア様に感謝しかない」
と、言っている。アナスタシア様は、絶対に無理強いはしないが、交渉と人心掌握の天才で、強烈なカリスマ性があることにより、相手を丸め込んでしまう恐ろしい方なのだ。
「俺は、あの方に一生お仕えすると誓ったんだ!」
「クゥン…(俺は、ステーキに仕えたい)」
早足で歩いているうちに、目的の場所が見えてきた。
頑丈な鉄の扉の上に、
「働かざるもの食うべからず。できることを一生懸命やること」
と書かれた看板が掲げられている。ここは、孤児院である。
俺は、鉄の扉を押して、中に駆け込んだ。
「ユークリッド様ぁ! パパぁ!」
俺は、中にいる淡いブルーの髪に黄金の眼を持つ男性、孤児院の院長でもある。ユークリッド・ラ・メディチ様に抱き着いた。
「私は、貴方のパパではありません」
言葉は、一見冷たいが、しっかり俺を抱き締めてくれる。本当は、とっても優しい人なのだ。
「俺は、ユークリッド様に一生お仕えすると誓ったのに、アナスタシア様が…」
「はい、はい。いつものやつですね」
俺は、前世でやった王城での書類仕事が楽しくて忘れられなかった。
没落した伯爵家の俺が、どうやって王城での書類仕事に携われるか。
何度も家出して、孤児院に身を寄せる中で気付いた。
ユークリッド様は、今はここの院長だが、ゆくゆくは、今の王家の宰相になることが決まっている。
今の王様、テオ・ラ・ホイベルガー様も何度かお会いしたことがあるが、本当にいい方で、俺の一生を捧げても構わないと思えるような方だ。
つまり、ユークリッド様に宰相補佐としてお仕えさせていただくことで、王家の書類仕事を満足にさせていただけるという、俺の夢、もとい人生設計なのだ。
ユークリッド様とテオ様の下でお仕えできる。なんと素晴らしいことか。
もちろん、一番は仏様にお仕えすることが人生で一番大事なことだが、仕事も大事。生きてるうちの仕事は、この二人にお仕えしたい。
俺を抱き締めながら、ユークリッド様は、一枚の書類を俺に差し出した。
「ジルベール、喜びなさい。今の貴方にぴったりな仕事があります」
「本当ですか!」
書類には、
「パトロールのパート募集!」
と書かれていた。
「貴方には、パトラッシュもいますし、仏様からのご加護もあります。普通の五歳児にはパトロールは無理ですが、貴方には大丈夫でしょう」
「明日、お昼を食べたらこの書類に書かれた交番に行くのです。紹介状を書きますからね」
早速、ユークリッド様のお役に立てる! なんと幸せな! 利他(他の為に尽くすこと)は、真如苑で是とされている。
「仏様、俺は頑張りますので、お守りください!」
仏様は、ゆっくりと確かに頷いてくださった。
さて、次はパトロールしながら、色んな人を救います! お楽しみに! 続きます!




