第二十二教 大乗⑪〜誰でも救う
「エンゾ!」
仏様の手を握りながら、滂沱の涙を流すエンゾの前に現れた人物は…。
「パパ…」
エンゾを勘当した当人、エンゾの父親の、ルイ・ラ・ロベールだった。
「エンゾ! 私が悪かった…何でこんなことに…」
エンゾは、父親に抱き締められ、余計涙が止まらなくなった。広かった父親の胸は、痩せて、骨張った感触がした。
「パパ…痩せたね…俺のせいで、苦労したの?」
「エンゾ…。私は、エンゾが横領事件を起こすちょっと前から、会社が傾いていたのを隠したくて…。お前だけには知られたくなかったんだ…」
「…パパ…俺は、本当にダメな子だね…そんな時に呑気にキャバクラ通って、パパの会社を…」
「エンゾ…もう良いんだ。今は、もう持ち直して、お前を迎えに行くだけだったんだから…」
ルイの会社、ロベール自動車は、自動車会社を取り巻く社会環境の厳しさに適応できないでいた。
「車を持つ」ことの社会的ステータス的な意味が薄れゆく中、会社が先細りしていくのを止められずにいたのだ。
しかし、ルイはプライドをかなぐりすてて、イザベラ・ラ・モレルに縋り付くことを選んだ。
世界最強のコンサルタント、「女豹のイザベラ」は、ルイの会社をМ&Aで自分の物にし、見事に経営をV字回復させた。
父親は、心労で痩せてしまったが、スーツの仕立てはよく、生地も良い物のようだ。ブランド物のオーダーメードスーツか。エンゾと似て、細身で長身のルイにとても良く似合っている。スーツから覗くシャツも、シルクのようだ。
(パパ…良かった)
エンゾは、一頻り泣くと、父親の現状を思い、胸が一杯になった。
(これも、仏様のお陰なのかな?)
遠くにいた仏様に目で感謝の意を伝えるエンゾ。仏様は、エンゾに優しく微笑み返した。
「エンゾ…」
父親の後ろに上品な淑女がいた。エンゾの母親、ジェネヴィーヴ・ラ・ロベールだ。
仕立ての良いドレスに身を包んだ母親だが、やはりその顔には心労が滲み、窶れていた。
いつも美しく微笑みを絶やさなかった母親。大好きな母親に心労をかけたのが、自分だと思うと、エンゾは居た堪れない気持ちになった。
「ママ…ごめんなさい…俺のせいで」
「謝らないで、エンゾ。私は、貴方の身を案じない日はなかったわ」
静かに涙を流すジェネヴィーヴ。完璧に化粧が施された頬に涙の筋が残る。
(ママが泣いてるのなんて…俺が家を出て以来だ)
両親に心労ばかりかけた自分。エンゾは、自分が情けなくて、消えてしまいたい気持ちになった。
「エンゾ!」
もう一人は、エンゾの良く知る人物だった。
エメ・ラ・ルブラン。ショートカットに、金髪青目。美人だが雀斑のある女性。エンゾの婚約者である。
背が高く、モデル体形のエメが、エンゾに駆け寄ってくる。
「ぐっ!」
エメに強く抱き締められて、エンゾは、苦しさのあまり声を出した。
「うぁああああ…」
号泣するエメ。エンゾは、思わず抱き締め返すが、元々細いエメの身体も、さらに骨張っているのを感じた。
(エメ…。そんなに俺のことを)
★★★
昨日は、用事があって更新が遅れましたが…。書けて良かった。
次回! 心を入れ替えたエンゾ! ロベール自動車の未来は如何に! 乞うご期待です。
今週もありがとうございました。南無真如。




