第十八教 大乗⑦〜誰でも救う
「あたし、エンゾのお嫁さんになるわ!」
ウェーブがかったピンクの髪に、溢れそうな大きな瞳の女の子、リン・ラ・クレマン。エンゾ・ラ・ロベールの婚約者だった。
髪に大きなリボン、水色の可愛いワンピースが色白の彼女に良く似合う。彼女は、この世の幸せを具現化したような、そんな存在だった。
「…リンちゃん。俺もリンちゃんが大好きだよ」
エンゾの幸せな記憶は、五歳のこの瞬間が最高潮に達していた。
頬を染めたリンちゃんの手を取り、一緒に手入れの行き届いた広大な庭を駆け抜ける。薔薇の花が見事に咲き誇る美しい庭。朝方の太陽を受けて、草木がキラキラと輝いている…。
★★★
時は流れ、小学校の入学式の日、リンちゃんと家に帰ろうと、エンゾが声を掛ける。
「リンちゃん、帰ろう」
「やだ」
リンちゃんが、頬を膨らませる。エンゾには、訳が分からなかった。
「…何で」
「リンちゃん、レオと帰る」
入学式で、ピンクの花柄の豪奢なドレスに身を包んだリンは、輝くような物凄い美少女だった。
ピンクの豊かな髪と、ドレスと同じピンクの花柄のリボンが揺れて、エンゾから遠ざかっていく…。
「リンちゃん…」
★★★
エンゾが目を覚ますと、見慣れた天井が目に飛び込んできた。
美しいバロック様式の絵画。ヴェルサイユ宮殿を模したアンジェ特別養護老人ホーム。従業員宿舎すら、豪奢な絵画や調度品で溢れている。
「また、あの夢…」
エンゾの婚約者だったリンちゃんは、美少女すぎて物凄くモテるだけでなく、本人も面食いで浮気性だった。
小学校に上がり、周りにエンゾより顔のいい男の子が溢れ返る中、リンちゃんは、秒で心変わりした。
オレンジの髪に茶色の瞳。エンゾは、贔屓目に見ても、十人並みだった。雀斑が、モブ感を引き立てる…。
背が高くて細身なエンゾは、中学生以降はそれなりにモテたが、一番モテたい相手、リンちゃんからは五歳のあの時以来、振り向いてもらえなかった。
小学校の入学式のあの日、レオと家に帰ったリンちゃんは、次の日以降も、レオにべったりだった。
レオ・ラ・ランベールは、金髪青目の美少年だった。憂いを帯びた影のある表情が、レオの美しさをひきたてた。小学校でも、断トツに目立つ存在として、光彩を放っていた。
美しく、ヤクザの息子でもあるレオ。その当時のアンベール組は、飛ぶ鳥を落とす勢いがあり、物凄い金持ちでもあった。
「キャアアアー!!!! レオー!!」
毎日、 専属の運転手付きのリムジンで登校したレオは、瞬く間に王子扱いされ、絶大な人気を誇った。
大好きなリンちゃんを奪われたエンゾは、嫉妬に狂い、入学式の次の日からレオを執拗に虐めた。
文房具を盗むのは勿論、殴る蹴る、暴言を浴びせる。思い付くことは何でもやった。
「エンゾ、最低! 大嫌い!」
それによってリンに嫌われてしまい、婚約も解消された。
しかし、レオが学校に来なくなるその前日まで、エンゾは虐めを止められなかった。
★★★
エンゾは、レオの同級生だったんですね! そして、現在アンジェ特別養護老人ホームの従業員でもあるエンゾ。さて、エンゾは何をやらかすやら…。
次回! お楽しみに! 南無真如。今週も、読んでいただきありがとうございました。




