第十七教 大乗⑥〜誰でも救う
「レオ、どういうことだ?」
所長のピエールが聞いた。
椅子に座る老齢の淑女、イザベラ・ラ・モレルも目を見開いている。
イザベラは、ピエールのビジネス友達で、このアンジェ特別養護老人ホームの入所者でもある。
イザベラの見開いた目が美しい…。
レオは、スマートフォンを取り出し、方方に連絡し始めた。
「とりあえず、俺に三日ください」
★★★
三日後…。
「おはようございます!! 若!!」
ヴェルサイユ宮殿を模した、豪奢なアンジェ特別養護老人ホームの玄関前。
そこには、ズラーッと並んだ黒スーツの男達。整然と一糸乱れぬ様子で並んだ総勢千人超。中には、ちらほら女達もいる。令和なんで。
「レ、レオ…これは…」
レオの父親、アーサーが一番腰を抜かしている。
並んだ女の中の一人が叫んだ。
「アンベール組の組長! お久しぶりでございます!」
「あ、お前は…」
アーサーは、思い出した。この千人超の黒スーツ達は、元暴力団組員達だった。レオが、二十歳前後の頃、「組を立て直す!」と息巻いていたことも、思い出した。
「レオ、今もこの人脈を保って…」
「ああ。親父、時々家出しててごめん。この人脈を使って働かしてもらったり、家を転々とさせてもらったりしてたんだ。…まぁ、殆ど喧嘩ばかりだったけど」
★★★
一か月後。
レオが連れてきた千人超は、アンジェ特別養護老人ホームで一部を働かせ、あぶれた人達は、全国の老人ホームに派遣した。
「す、凄いわ。人手不足が三日で解消したわ」
イザベラは瞠目した。ヤクザなんてと下に見ていた自分が恥ずかしい。世の中には、まだAIだけでは解決できないことも沢山ある。「人財」って言うしね。
ヤクザ達を派遣した先の老人ホームの経営状態、問題点を徹底的に分析したイザベラは、М&Aができるところはないかと画策する…。
「私、まだまだ死ねないわ。仕事が楽しすぎて♫」
「イザベラ様、来年百歳ですが…」
隣で秘書の男、アドリアン・ラ・ヴィラールが口を挟んだ。
長い髪をかきあげながら呟く。
「女に年齢のことを言うなんて」
「都合のいい時だけ女を振り翳さないでください。イザベラ様。貴女は、泣く子も黙る敏腕コンサルタント、女豹のイザベラ。貴女に狙われた会社で、生き残れたところはありません」
「えー、銀行潰したのが一番楽しかったなぁ」
「本当に恐ろしい方」
…もしかしたら、2000年代の世界金融危機は、イザベラみたいな人のせいかもしれない…。
★★★
さらに三年後、イザベラのお陰で順調にМ&Aを繰り返し、アンジェ特別養護老人ホームは、グループ会社をつくった。会社として、順調に成長しまくっている。
「ははは…。笑いが止まらんのぉ」
ピエールは、アーサーとゲートボールに興じながら、この世の春を楽しんでいた。
「ピエール! ピエール・ラ・ブラック! 今すぐ執務室に来なさい! ゲートボールで遊んでいる場合じゃなくてよ!」
「監視カメラ社会悲しい…」
ピエールは、すごすごと執務室に向かっていた。
雇われ所長、ピエール。今やアンジェ特別養護老人ホームのグループCEOは、イザベラだった…。
★★★
時を同じくして、アンジェ特別養護老人ホームのヴィーナスの間。だだっ広い豪奢なホールには、沢山の老若男女。
その中で、レオが、おばあちゃんやおじいちゃんに囲まれていた。
「レオ君、今日の食事介助は私?」
「あんた、昨日もレオを独り占めにして、今日こそは私よ!」
「儂も、レオに風呂介助受けたい」
「儂も、何でもいいから儂のとこに来て」
レオは、優しくてイケメンすぎるので、おじいちゃんやおばあちゃんのアイドルになっていた。
「くそっ! レオめ…」
陰でレオを憎々しく見つめる男がいた…。
何やら事件の予感! 次回続きます! 南無真如! 今週も読んでいただきありがとうございました。




