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第9話「光と闇の交差」

 ――空が、吠えた。


 クラウス峡谷上空、標高八千――。


 魔導弾が尾を引き、雲を裂き、空をがす。


 そこに、一人。 漆黒の外套がいとうをなびかせ、魔導箒ノクシアまたがる少女がいた。


 リュナーレ・ノクトリア。


 その名を、まだマグノリアの誰も“異名”で呼んではいなかった。


 だがアストレアでは――ごく一部の戦場関係者の間で、こうささやかれはじめていた。


 ――黒葬姫こくそうき


 その異端の名が、今まさに真実となる刻が迫っていた。




 ■  ■  ■




 数時間前――


 アストレア軍の小規模な輸送部隊が、クラウス峡谷北部に現れた。


 ノクトリアは、奇妙な航路と不自然な護衛配置から、それが囮であることをすぐに見抜いた。


 そして彼女は、罠と知りながら、あえてその空域へと踏み込んだのだ。


 今、この空に布陣するのは、その“囮作戦”の本命たる部隊。


 黒葬姫ノクトリアを討つために、真正面から迎撃を仕掛ける形で展開された、精鋭部隊だった。




 彼女の前に広がるのは、空一面に展開する敵機の群れ。


 ――アストレア王国直属の魔導空戦部隊。


 対“黒葬姫こくそうき”用に編成された、魔導聖騎士による殲滅編成部隊。


 その名は、白翼しらよくほこ


 総数二十四機。

 そのすべてが、光属性魔導兵装と神官術式を扱う対空特化型の魔導聖騎士たちだった。


 彼らは、正義と秩序を掲げる神託の剣。

 そしてその刃は、ただひとりの少女に向けられている。


 「……数は揃えたようね」


 ノクトリアは、敵機群に視線を向ける。


 その瞳に浮かぶのは、冷たい確信。


 ――狩れる


 魔導箒ノクシアが低く唸り、魔導炉があおかがやく。





 「全機、包囲陣形を取れ! 逃がすな!」


 白翼の矛 先遣部隊の指揮機が叫ぶ。


 白銀の聖騎士たちが、雲間を這うように散開し、四方から包囲を敷く。


 魔導弾が雨のように放たれ、空を埋めた。


 だが――次の瞬間、


 空気が、引き裂かれた。


 ノクトリアの機影が掻き消え、直後、敵隊列の中央に“現れた”。




 「……落ちろ」




 淡くささやくと同時に、魔導銃レーヴェ咆哮ほうこうする。


 放たれたのは、追尾式炸裂弾――それも多重詠唱による高速展開。


 爆裂。雷鳴。


 そして震える空気。


 白銀の機影が一瞬で三つ、崩れ落ちた。


 「なっ……!」


 「右翼、撃墜された!? ありえない、あの動き……!」


 ノクトリアは止まらない。


 右旋回。


 敵の射線を一拍ずらし、再加速。


 高度を落とし、地形を利用して死角から急上昇。




 ――撃ち抜く。




 魔導障壁すら貫く、貫通特化魔導弾。 一撃で、敵を葬り去る。


 「奴は化け物だ……っ、数をかけろ!」


 包囲は続く。


 多数の聖騎士が一斉に彼女を狙い、魔導弾を撃ち放つ。




 だがノクトリアは、恐れなかった。


 むしろ、口元にかすかな笑みを浮かべる。


 「面白くなってきた」


 瞬間、彼女の身体から黒い魔力があふれた。


 闇魔法【重力反転障壁】――空間そのものを捻じ曲げ、弾道を曲げる。


 白翼の矛が撃ち込んだ魔導弾が次々に進路をれる。


 本来なら命中していたはずの弾道がすべて、ノクトリアの外周を滑って過ぎていく。


 ノクトリアは、魔導弾の雨を避けようともせず、むしろ自らその中心へ突き進む。


 光の奔流をすり抜けながら、黒い影だけが一直線に迫ってくる。


 ――その異常さに、誰もが戦慄せんりつした。


 「こっちに真っすぐ突っ込んでくる!?……狂ってやがる!」


 次の瞬間。人知を超えた加速。


 彼女の機影が、すでに後方へ。


 白翼の矛の一人が、悲鳴に近い声で叫んだ。


 「避けろ……!? 攻撃が来るぞっ!」


 魔導銃レーヴェの銃口から闇の閃光がはしり、闇魔力が弾丸を精製し放つ。


 炸裂、追尾、拡散、遮断――すべてが闇属性の術式をまとった魔導弾。


 それは、戦術ではなかった。


 “敵を殺すためだけ”に設計された、冷徹な連続射撃だった。


 雲が燃える。


 機影が墜ちる。


 悲鳴が空に鳴り響く。


 五機、六機、七機――

 次々と、消えていく。


 だがノクトリアの動きは一切乱れない。


 むしろ加速していく。


 この空は、彼女の領域。彼女の檻。


 「……終わりね」


 最後に残った四機が、かろうじて隊列を整える。


 だが、本来隊を指揮するべき先遣部隊の指揮官は、すでに初撃で沈められていた。


 その混乱の中でも、残存兵たちは必死に持ち場を守ろうとしていた。


 「まだ……まだ終わらせるな!」


 ひとりが叫び、魔導弾を放つ。


 別の一機も続いて発射。空を裂くように光の軌跡がノクトリアへと迫る。


 だが、全ては届かない。


 指揮系統を断たれた機体たちは、互いに動きがちぐはぐで、連携は崩れ、陣形はわずかに歪んでいた。


 ノクトリアはそれを一瞬で見抜く。


 機体を真上へと抜けさせ、雲間の死角から鋭く旋回。


 高度を取ったまま一気に急降下。


 ――それは、“反撃”などではない。


 ただの“終わり”だった。


 全弾を一斉展開。


 炸裂する魔導弾が爆煙を巻き上げ、雲の形さえ変えるほどの衝撃が奔った。


 閃光の中で、残った四機は一機ずつ沈んでいく。


 やがて、空に残ったのは一人だけだった。


 リュナーレ・ノクトリア。


 風をまとうように浮かび、無言で下界を見下ろす。


 白翼の矛 先遣部隊――壊滅。


 その記録は、戦域後方の魔導通信石を通じて、マグノリアにもアストレアにも伝わった。




 ■  ■  ■




 クラウス峡谷――アストレア軍 白翼の矛 前線指揮所。


 白銀の光が脈打つ魔導通信盤の前で、エルフェリア・サンクレアは報告を受けていた。


 「先遣部隊、全滅……?」

 副官の声に、彼女はただ目を閉じる。


 そして、静かに呟いた。


 「……やはり来たわね。あの“黒い魔女”が」


 その瞳に、迷いはなかった。


 白銀の鎧がきしむ音とともに、空へと飛びあがる。


 風が、唸った。


 黒葬姫ノクトリアの狩場に、“白翼”が降り立つ。


読んでいただき本当にありがとうございます!

小説初心者で拙い文章ではございますが、最後までお付き合いいただけましたら幸いです。

もしよろしければ、ブックマークや☆評価をいただけますと、今後の励みになります!

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