表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/22

第8話「その名は」

 アストレア王都――参謀本部、聖堂中枢。


 白銀の柱が並ぶ謁見えっけんの間で、緊急の軍議が開かれていた。


 魔導水晶に映し出されていたのは、黒衣の少女が空を裂き、アストレア兵を次々に墜としていく様子。


 ――まさに悪夢のような記録映像だった。


 「クラウス渓谷での敗因は、全てこの一機――この“少女”によるものと断定されました」


 神官軍師が震える声でそう言った。


 「たった一人で聖兵団を壊滅させ、部隊統制を遮断。連携を崩し、完全に制空権を奪いました」


 重苦しい沈黙が会議室にただよう。


 「この魔導師の名は分かるか……?」


 誰かがそう言った。


 その瞬間、王女ルメンシアが静かに立ち上がった。


 「……その名を呼ぶな」


 張り詰めた冷静さが、その声にはあった。


 「異端の名を記録に刻む必要はない。彼女は、神の祈りを否定した存在」


 そう言ってから、彼女は再び魔導水晶を見据え、静かに告げる。


 「――黒葬姫こくそうき


 その言葉が響いた瞬間、室内の空気が一変した。




 “黒葬姫こくそうき”――


 それはアストレアの古き伝承に記された、光に終焉おわりをもたらす魔女の名。


 全ての光をみ込み、世界を闇に沈める災厄さいやくの象徴であった。


 今、その存在が本物の脅威になったことで、国はその少女に“世界を滅ぼす魔女”という名前をつけた。


 震える者も、顔を背ける者もいたが、誰一人異を唱える者はいなかった。


 それは国家アストレアが、ひとりの少女を“個人殲滅対象”として認定した瞬間だった。



 ■  ■  ■



 アストレア王国、神殿中央区・聖戦演武殿。


 本来は聖騎士たちの訓練や儀式に用いられる武技ぶぎの演習場。


 だが今、その聖域に集められていたのは、選りすぐりの魔導聖騎士たち。


 王女ルメンシアの命により、新たな部隊が召集されていた。



 ――名を「白翼しらよくほこ



 選抜されたのは、王家親衛隊の中でもさらに精鋭中の精鋭。


 「お命じを。神託が絶えぬ限り、我らの刃は振るわれ続けましょう」


 指揮官に任命されたのは、若き魔導聖騎士エルフェリア・サンクレア。


 彼女はかつて、リュナーレ・ノクトリアと同じ学び舎にいた。


 「姫様の御名にかけて、この手で“黒葬姫こくそうき”を討ち果たしてみせます」


 その誓いに、ルメンシアは小さく頷いた。


 「……お願いね、エルフェリア」


 その声は冷たくも、かすかに揺れていた。


 ■  ■  ■


 一方その頃――マグノリア・戦略管制室。


 通信士が端末に打ち込む。


 《新編制:第零独立空戦特務小隊》

 《隊員数:1名》

 《隊員名:リュナーレ・ノクトリア》

 《所属機体:ノクシア》

 《専属兵装:レーヴェ》


 その少女に、正式なコードネームはまだ存在していなかった。


 だが、内部ではすでに“あの娘”と呼ばれ、注目を集めていた。


 リュナーレ・ノクトリア。彼女の存在を中心に、新たな戦局が静かに動き始めていた。


 整備室の一角で、ノクトリアは黙々と次任務の報告書に目を通していた。


 「アストレア側の輸送部隊……航路が妙ね。随伴機にしては配置が不自然」


 その隣で、作業中だった整備士のエミリオが渋い顔でつぶやく。


 「おびき寄せる気だ。どうせおとりだろうさ」


 「……罠ってことね」


 「だが、お前は行くんだろ?」


 ノクトリアは、黙って書類を閉じた。


 立ち上がり、魔導銃レーヴェを装備し、黒の外套を羽織はおる。


 格納庫には、調整を終えた魔導箒ノクシアが静かに待っていた。


 「行くわ。どうせ、避けても次が来るだけ」


 ノクトリアの声は静かだったが、背にまとう魔力は、確かに戦場へと向かっていた。




 ■  ■  ■




 ――同時刻


 クラウス峡谷北部、雲上の待機空域。


 白翼しらよくほこの部隊が、白銀の姿を並べ、静かに編隊を組んでいた。


 隊長のエルフェリアが、雲の裂け目を見上げる。


 「来るわ……“闇”が」


 遠雷のような低い震動。


 魔力を帯びた光が、雲の奥で脈動していた。


 白と黒――相反する力が、ついに交錯しようとしていた。


読んでいただき本当にありがとうございます!

小説初心者で拙い文章ではございますが、最後までお付き合いいただけましたら幸いです。

もしよろしければ、ブックマークや☆評価をいただけますと、今後の励みになります!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ