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序幕「空に舞うは、闇の魔弾」

 

 黒煙が、空を裂いた。


 ()げついた空を赤黒い雲が覆い、地上から這い上がる硝煙しょうえんが喉を灼いた。

 鉄と血の匂いが、ざらついた舌の奥にこびりつく。


 風は熱く、空は苦い。

 魔導士リュナーレ・ノクトリアは無言で魔導箒ノクシアの柄を握りしめ、空を駆ける。


 「ノクシア」――ノクトリアが使用しているマグノリア魔導工廠が誇る試作軍用魔導箒。

 その飛行制御難度は極めて高く、熟練した魔導士ですら扱いきれずに墜落した例が数多い危険な装備だ。しかし、ノクトリアの手にかかれば、それはただの道具ではなく、彼女の意志そのものと化す。



 鋭く研がれた眼差しを空の一点に定めていた。

 その瞳には、恐怖も迷いもない。ただ冷たく、鋭く、獲物をみ込む闇が宿っていた。


 ――敵影、高速接近


 魔導索敵石まどうさくてきいしの魔力反応が跳ね上がる。表示された数値は2つ。

 ノクトリアの眉がわずかに動き、唇が小さく引き締まる。


 即座に魔導箒ノクシアを旋回させた。機体がきしみ、空気を切り裂く音が鋭く響く。


 「来るわよ、ノクシア」


 魔導箒ノクシアの魔導融合炉が大きく唸りを上げ、反重力制御装置が微細に震える。

 その咆哮に怯むことなく、ノクトリアは片手で魔導銃レーヴェを抜いた。


 「レーヴェ」――マグノリア魔導工廠がノクトリア専用に試作した、魔力装填式の魔導銃。

 通常の銃弾ではなく、彼女の魔力を変換・精製した魔導弾を発射することで、高威力かつ多彩な射撃を可能とする。誘導弾、炸裂弾、散弾……用途に応じて自在に魔導弾を錬成できるこの銃は、闇魔法と融合することで初めて、その真価を発揮する――ノクトリア以外に使いこなす者はいない。


 直後、背後に閃光が走った。


 ――視界の隅で、敵魔導弾の光が瞬いた。

 〈弩級魔導弾〉。重力魔法を多重展開し、通常魔導弾を凌駕りょうがする一撃。


「……ちっ、速い」


 舌打ちとともに、ノクトリアは咄嗟とっさに身をよじった。

 魔導箒ノクシアが悲鳴を上げるようにきしみ、空気が裂ける音が周囲に木霊こだまする。


 ――轟音。


 爆風が右肩を撫でるように通り過ぎ、焦げた匂いが鼻腔びくうを突く。

 自身を守る魔法障壁が軋む音が骨にまで響き、衝撃波が髪を激しく揺らした。


 だが、彼女の表情は微動だにしない。痛みも恐怖も、彼女の心を揺らすことはできなかった。


 顔色一つ変えず、彼女は魔導銃レーヴェを構える。


 「レーヴェ、装填」


 魔力を銃身に流し込む。魔導銃レーヴェは淡く青白い光を放ち、術式が脈打つように銃内部を走った。


 構築されたのは、追尾、爆散、そして「闇」属性の複合魔導弾。


 それは彼女にしか撃てない弾丸だった。


 「消えなさい」


 引き金を引いた。


 ――空に走る黒い閃光


 黒色の尾を引く魔導弾が、ひと筋の稲妻のように敵機へ突き進む。


 白い敵機が回避のために螺旋軌道らせんきどうで急降下する。


 その動きはまるで舞う鳥のように優雅だった。だが、それは無駄な足掻あがきに過ぎない。


 ――全ては読み通り


 ノクトリアは魔導箒ノクシアを急速反転させる。

 重力を振り切る加速――敵の死角に滑り込み、背を取る。


 次の瞬間、敵の背後にノクトリアがいた。


 「詰めが甘い」


 魔導銃レーヴェが再び閃き、放たれた魔導弾が空を穿つ。


 敵機は背後からの一撃を避けきれず、直撃。


 ――炸裂。


 黒き閃光が一面を照らす。闇魔法が一気に展開され、敵が破壊される。


 ――撃墜


 だがノクトリアは止まらない。すぐさま二機目へ照準を移す。


 敵の二機目は交戦中だったノクトリアの後方に回り込み、高密度の魔導弾を放っていた。


 「……っ!」


 魔導箒ノクシアを捻じ伏せるように旋回させ、重力に逆らいながら真横へ跳ぶような回避機動を取る。


 爆風が背後を薙ぎ、閃光が視界を白く染めた。

 

 爆発の衝撃と激しい空戦機動により、ノクトリアの口内に血の味が広がる。


 それでも彼女の動きはよどみなく、まるで機械のように正確だ。


 「次はこっちの番」


 即座に魔導銃レーヴェを構え直し、炸裂属性の一撃を装填。

 狙い澄まし、引き金を引く。


 ――直撃


 ――敵の胸部に命中


 爆裂魔法が内部から弾け、敵を真っ二つに裂いた。


 ――敵機、沈黙


 空には、死のような静寂が降りる。


 げた風が頬を撫で、機体の破片が、静かに空へ溶けていった。


 だが。


 魔導索敵石まどうさくてきいしが、再び警告音を上げる。


 表示される赤点の数は――「2」「5」「9」……やがて「25」。


 上空、さらに高い高度の空に、敵の編隊が広がっていた。


 その数、小隊規模以上。こちらを狩るつもりだ。完全に。


 それは包囲殲滅ほういせんめつの布陣。まるで巨大な網のように彼女を捉えようと迫ってくる。


 それを見上げ、魔導士リュナーレ・ノクトリアは口元をわずかに吊り上げた。


 「そう……」


 声は低く、全く震えていない。


 風が彼女の髪を乱し、硝煙しょうえんが彼女の周りを包む。



 「狩りの始まりね」




読んでいただき本当にありがとうございます!

小説初心者で拙い文章ではございますが、最後までお付き合いいただけましたら幸いです。

もしよろしければ、ブックマークや☆評価をいただけますと、今後の励みになります!

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