転校生
ある日、クラスで新しい転校生がやってきた。名前は白石蘭。彼女は穏やかな表情をしていて、どこか落ち着いた雰囲気を漂わせていた。周囲の興味はもちろん彼女に集中し、クラスの空気が少し変わった。
蘭は自己紹介でこう言った。
「はじめまして。白石蘭です。よろしくお願いします。」
その声は、柔らかく、心地よい響きを持っていた。教室の中で、彼女の登場に誰もが引き寄せられるように感じた。しかし、悠真は他のクラスメイトたちと同じように注目することはなかった。ただ、彼女が新しいクラスメートだという事実を受け入れ、また静かに日常へと戻った。
だが、次の日から少しずつ、蘭と目が合うことが増えた。最初は偶然だと思っていたが、次第に彼女が自分に微笑んでくれることが何度もあった。悠真は少し戸惑いながらも、何となく気まずくはない気がした。
ある日の放課後、蘭が声をかけてきた。
「高橋くん、放課後少しだけ話さない？」
悠真は一瞬驚いたが、すぐに答えた。
「え、うん、大丈夫だけど、何かあった？」
「ううん、ただ、ちょっと気になることがあって。」
蘭はにこりと笑ってから、悠真に近づいてきた。その微笑みが、悠真にはとても優しく、心地よく感じられた。
「あなた、あまり話すことがないけど、どうしてそんなに静かなんだろうって気になって。」
悠真は驚いた。自分のことを気にかけてくれる人なんて今までいなかったからだ。
「うーん、特に理由はないんだ。目立たないほうが楽だから。」
蘭は少し考え込み、そして静かに言った。
「でも、目立たなくても、あなたの存在はここにあるって気づいてるよ？」
悠真はその言葉に驚き、そして少し戸惑った。
「僕が目立たなくても、誰かに気づいてもらえるんだ…」
その瞬間、悠真は思わず言葉が詰まった。蘭が言っていることが、どこか真実のように感じられた。
「それって、どういう意味？」
「目立たなくても、周りにはあなたのことを見ている人がいる。自分がどう思っているかなんて、案外他の人も知っているんだよ。」
その言葉に、悠真は少しだけ心が軽くなったような気がした。
