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不解:超常により荒廃した世界で、俺たちは生きる  作者: 篠槻さなぎ
第四章:中編:会合は穏やかながらも不穏に
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第四章:中編:03:副官との定期連絡

 定期会合三日目。獅子我ししが兵志へいしは仮拠点で早朝より動き出していた。

 兵志は拠点として割り当てられている邸宅の二階の寝室から一階に下りる。

 そして一階の仮の情報室として使われている部屋に入った。


 兵志は机に置いてあったカエルの置物を手に取る。


 カエルの置物の頭にはランプが三つあり、一番右のランプが赤く点灯していた。


 兵志は赤く光るランプをかちっと押し込む。

 するとお腹についていたスピーカーから声が発された。


『今日は定期会合三日目か。そちらの様子はどうだ、副総指揮』


 響いた声はリアルタイムに聞こえている声ではない。録音した声だ。

 兵志はカエルの頭にある三つのランプの内、一番左のランプを押す。

 兵志がランプを押すと、ランプは青く点灯した。


「春は変な奴が湧く時期だが、流石に『軍警』に手を出す輩はいない。大丈夫だ」

 

 兵志はカエルに自身の声を録音させると、カエルの頭にある中心のランプを押す。

 かちっと押し込むと、ランプは黄色に光り輝き明滅する。

 兵志は資料を整理しながら待つ。

 するとほどなくして、一番右の赤いランプが点灯した。

 赤く光るランプを兵志が押し込むと、再び声が響く。


『こちらは何も問題ない。いつも通りだ』


 カエルの置物は『軍警』が開発した、『録信蛙ろくしんかえる』というものだ。

『録信蛙』は録音メッセージを同型機でやりとりできる。

 兵志は『録信蛙』を使って、『軍警』の拠点にいる男と会話をしていた。


高遠たかとお、お前がいるから拠点で何があっても安心だ。やはり秋継を置いて来なくてよかった」


 兵志は難しい顔をしていそうな高遠たかとおまもるを想って笑う。

 高遠護とは、『軍警』の総指揮の副官の一人である。

 ちなみに総指揮の副官よりも、副総指揮の兵志の方が地位が高い。

 すべて獅子我大志が決めたことだ。


『あの昼行燈と比べられるのは心外だが、お前の信頼はうれしいものだ』


 定期会合中、《市場》では他組織の通信を傍受しようとする者がいる。

 だから兵志は録音メッセージでやりとりしているのだ。


『録信蛙』でやりとりした録音メッセージは残らない。

 録音してから送信するため通信に少し時間はかかるが、秘匿性は守られる。


「拠点の方はどうだ? 美愛(あの子)はどうしてる?」


『件の姫君ならば問題ない。だが少し妙な動きしている者たちがいる』


「……妙な動き?」


 兵志は高遠護から美愛の無事を聞きながらも、眉をひそめる。


準不穏分子グレーの信徒が、定期的に聖都の方向へ祈りを捧げている姿が確認されている。彼らは姫君の存在を知らない。つまり姫君とは全く関係ないことだと思うが、いつもと異なる動きを彼らがしているのは事実だ』


 準不穏分子グレーとは『軍警』の仮隊員になる以前に、どこかの組織に所属していたり、またはいまも他組織と関係がある者たちだ。


『軍警』は、困っている人々を絶えず保護して、仮隊員として受け入れている。

 その関係上、どうしてもスパイが『軍警』内に入り込んでくる。

 スパイは定期的に隠密部隊オウルによって処断される。

 そんなスパイと違い、準不穏分子とは潜在的で無意識なスパイだ。


 準不穏分子は『軍警』に保護されながらも外部と繋がりがある者だ。

 彼らに悪意はない。

 だが何気ない日常会話で『軍警』の情報を外部に流出させてしまう。


『軍警』はすべての人々を守らなければならない。

 だから『軍警』では仮隊員たちを細かく分類し、管理しているのだ。


 兵志は高遠の話を聞いて、眉をひそめながらメッセージを録音する。


「『教導』信仰者たちが、聖都の方向へ祈りを捧げている。……その者たちは、変わらずに『軍警』が保護してる聖女や聖者のことを敬っているのか?」


『むしろ、いつもよりも彼らの存在をありがたがっている。それが少し引っかかると、統括聖女は言っていた」


 七年前、『教導きょうどう』は現界樹げんかいじゅという『不解』の討伐に参加しないと宣言した。

 だが一部の《聖女》や《聖者》は『教導』の意向に反し、現界樹討伐に参加。

 その結果、『教導』の意向に反した《聖女》や《聖者》は『教導』を追放された。

 人々は、『教導』から追放された者たちが貴い行いをしたと理解している。


 だから『教導』の信徒たちは『教導』から追放された《聖女》や《聖者》を貴い存在だと認め、信仰している。


 高遠は誰も傍聴できない状態なのに、思わず声を少しだけひそめて告げる。


『どうやら統括聖女が言うには、「教導」信仰者たちが自分たちに向ける祈りに、いつもと違う色があるらしい』


「色?」


『抽象的な言い方をしてしまってすまない。統括聖女が言う色とは、祈りに乗っている想いだ。「教導」信仰者の祈りには、《聖女》や《聖者》の行く末を想う憐憫や情の気持ちが込められているらしい』


「……『教導』信仰者は、これから《聖女》や《聖者》に苦難が降りかかることを『教導』から教えられているということか?」


『そう予測することもできるだけだ。確証はない』


 高遠護は少ない情報を整理して兵志が行き着いた可能性について口にする。


『とはいえ、「教導」信仰者が《聖女》や《聖者》のことを心の底から心配しているのは事実だ。だが自分たちはどうにもできない。だから祈るしかない。そういうことだろう』


「……彼らの中には先月の目醒めの刻に聖都へ祈祷に行った者たちがいる。その時に、『教導』に何か言われたのか……?」


 兵志はぶつぶつと呟く。


 聖都とは真者が覚醒し、『教導』が始まったとされる場所だ。

 聖都の正式名称は水の聖都、《始源しげん》。

《始源》には真者しんじゃ遺骸いがいが沈む泉があり、その泉からは絶えず水が溢れている。

 そのため、《始源》は水に溢れた都市となっているのだ。


『教導』信仰者は月に一度、真者が目醒めざめた日に祈祷へ行く。

『軍警』に身を寄せている人々が全員祈祷に向かうわけではない。

 だが『軍警』も彼らの信仰のために《四方山よもやま》から出ることを許可している。


『今回の「古縁」の定期会合は「教導」がホストなのだろう。何かあるはずだ。留意せよ』


「忠告ありがとう、高遠。何かあったらまた頼む。こっちも動く」


『委細承知。また定期連絡にて』


 兵志は高遠護と連絡を終えると、一息つく。そして今日の会合の予定を確認する。


 定期会合に参加するのは組織の長だけではない。組織としての名前を持たずに村や町。この地域には、自治区を築き上げて生活している者たちもいる。


 彼らは用心棒を雇っていることもあるため他組織と関わりがあったりするが、基本的に村長や町長、自治区長などが存在する。


『軍警』は困っている人々に手を差し伸べるのを信条としている。

 そのため他組織や村長や町長など、様々な長との付き合いがあるのだ。


『教導』の動向も確かに気になる。だが定期会合ではやるべきことが山積みだ。

 兵志は今日の予定を確認すると、朝の情報整理に集中し始めた。

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