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不解:超常により荒廃した世界で、俺たちは生きる  作者: 篠槻さなぎ
始章:新たな予言が下される
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始章:01:《御子》来臨はすぐそこに

小説家になろう、初投稿です。

 人類文明において、超常現象とは存在しないものだった。

 人間の理解を超えた存在など、この世にはあり得なかった。

 新たな原理が発見されたとしても、それは人間に理解できるものだった。


 だが。──る日、突如として世界に超常が溢れた。


 人知を超えた、ひとの理解を超えた存在──超常。

 それが人間の目の前に、世界に現れた。


 しかも世界に溢れた超常は、一種類ではなかった。


 現象であったり、生物の姿かたちを模したものだったり。新たな物質だったり。

 

 この世に溢れた超常は、様々な在り方をしていた。


 超常は様々な在り方で、世界を侵した。

 人類が繁栄を謳歌していた地上を、蹂躙した。

 

 人間にとって、理解できない不可解なもの(アンノウン)


 超常(それ)を総じて、人類は『不解ふかい』と呼んだ。


 人類は生存を懸けて、『不解』と戦った。

 既存の法則が通じない『不解』との戦いは困難を極めた。

 だが人類は、諦めなかった。

 そして──やがて。人類は『不解』の在り方を理解した。


不解ふかい』は、自らの理に基づき、行動する。

 あるべきかたちと独自のルールに縛られている。

『不解』とは、それぞれが明確な理・ルールを持つ存在だったのだ。


 それならば対処のしようがある。


 物理法則で解き明かせない人知を超えた存在でも、『不解』の在り方を逆手に取れば、撃退することも利用することもできる。


 だが、『不解』の原理を人類が理解し始めた時にはもう遅かった。


 人類は復興が難しいほどの致命的なダメージを負い、人類文明は崩壊した。

 国は焦土と化し、人類が築いた叡智はすべて塵となった。

 それでも超常現象である『不解』は跳梁跋扈し、地上を侵し続ける。


 人類はなすすべもなく、『不解』に侵された。

 だがそれでも。人類は地上で生き続けていた。


 国を失い、生活を失い、平穏な日常を失い、大切な人を失っても。

 人類は『不解』に侵されながらも、この地上で懸命に生き続けていた。


────……✧

      

 人類が繫栄していた頃。星々は、地上の光や大気汚染で見え辛くなっていた。


 だが人類文明は『不解ふかい』によって崩壊した。


 地上の光は消え失せ、文明が滅んだことで大気汚染もなくなった。

 

 だからいま、地上からは夜空に輝く星々が良く見える。


 そんな満天の星空のもと。一人の人物が、夜空を見上げながら白い息を吐いた。


 その中性的な人物は、特徴的な恰好をしていた。

 すらりとした体躯を覆うのは、銀の星々が煌めく宇宙柄のボディースーツ。

 スーツの上にはぶかぶかの白いワイシャツを着ていて、足は裸足。


 首には、灰色の石材でできた無骨で巨大な首輪。

 その首輪の先には、千切れた鎖が胸の前まで垂れさがっている。


「ふぅ、……さむい……」


 季節は一月、冬。新たな年がやってきたばかりだ。

 たとえ焚火に当たっていたとしても、外にいるのは寒い。

 

千世ちせさま。気取ってやせ我慢してないで、テントに戻ってください」

 

 声を掛けてきたのは、白銀の多角形テントから出てきた一人の女性だった。

 魔女帽子を目深に被って、内側に星の絵柄が入ったローブを着た女性。

 女性に『千世さま』と呼ばれた特徴的なボディスーツを着た人物は、顔を上げる。


「そうは言ってもね、しおー。ムードというのは大事なんだよ」

 

 千世は自分に声を掛けてきた女性──旧郷ふるさと支緒しおの名前を間延びしたまま呼ぶ。

 主に名前を呼ばれた支緒は、しずしずと千世のそばに寄る。


「あなたならどこにいても立派ですよ、千世さま。何せ『聖占せいせん』の長なのですから」


 支緒は千世が座っている折りたたみ式のキャンプ椅子のすぐ近くに膝をつく。


 そして手に持っていたお盆を千世に差し出した。


 そのお盆の上にはクッションが置かれている。

 クッションの上に宝石のように蒼く輝くこぶし大の石が鎮座していた。


送伝石そうでんせきはここに。すでに主要な組織や自治区・集落や村に配った子機は起動してあります」


「うむ、ありがとう」


 千世は仰々しく得意げに頷くと、支緒から石を受け取る。

 そして千世は石を、両手の平に乗せて満天の星空に掲げた。

 それから千世は、一つ白い息を吐く。


「起動」


 千世が静かに告げると、石の中心が蒼色の輝きを帯びる。


「『聖占せいせん』の長、《堕天千果だてんせんか》──千世が告げる」


 千世は自らの身分と異名を口にして、粛々と告げる。


「『教導きょうどう』は存続の危機に瀕している。目標とするべき、輝かしい星であるしるべが遠くに行ってしまったからだ」


『教導』とは、組織の名前だ。

 この地域において最古参の組織であり、最大規模を誇る組織である。


「『教導』の頂に立つ《真なる者》──真者が全てを守るために、全存ぜんそん楽土らくど鏡星(きょうせい)》に旅立った。貴き導を失った『教導』は、いま。迷い惑っている状態だ」


 千世の言葉は、送伝石──親機から子機に音声を伝えることができる石から、主要な組織や自治区・村の長へと伝えられる。


「迷い惑った『教導』の先に待つのは破滅だ。このままでは『教導』は人々を守り・教え導くことができなくなり、ついえてしまう。すでに、その兆しは見え始めている」


 千世は光が灯った送伝石を見つめたまま、鋭く告げる。


「だが、そうはならない」


 千世はここからが重要だとして、声に力を込める。


「『教導』はついえない。真者は、『教導』を決して見捨ててない。この世界より旅立った真者は、人々を想い、人々のために戦っているのだから」


 千世は天啓を与える巫女のように、ただ自らが伝えるべき予言を続ける。



「今年。『教導きょうどう』の新たな指導者である、《御子みこ》が来臨する」



聖占せいせん』の長として、《堕天千果だてんせんか》千世は予言を口にする。


「《御子みこ》は『教導』の新たな星。《真なる者》の教えを再び広める貴き星である」


 千世の告げる予言は、すでに約束された未来だ。

 だが、千世が予言を宣言することに意味がある。千世が予言を広めることで多くの人々が動き出し、その結果が約束された未来へと続いていくのだ。


「この予言を胸に。みな、粛々と日々を過ごすこと。自らの信念に基づき、行動し。より良い未来をつかみ取るように尽力するべし」


 千世は夜空に送伝石そうでんせきを掲げるのを辞めて、自らの胸元に持ってくる。

 送伝石の輝きが、千世の顔を照らす。千世はそっと、目を伏せる。


「……行動こそ、望む未来を掴むことができる唯一の道だよ。停滞してはならないんだ。立ち止まってはならないんだよ。血反吐を吐き泥水を啜りながらも、ただ進み続ける。それでこそ、未来はつかみ取れる。つかみ取る価値があるんだ」


 だから、進み続けろ。ひとの子よ。

 より良い未来のために、より良い明日のために。

 そして再び太陽が昇る様子を見て、いまを生きていると誇らしく思うのだ。


 千世は伝えたいことを告げると、そっと送伝石に手をかざす。

 千世が手をどけると、送伝石の光が消えていた。

 千世のそばに膝をついていた支緒は、しずしずとお盆を差し出す。


 お盆の上に千世は送伝石を戻すと、再び空を見上げた。

 夜空には、無数の星が輝いている。月は明るく、それでも欠けている。


「《御子みこ》来臨はすぐそこに──」


 千世は呟きながら、星空に手を伸ばす。

 そして無数の輝きを手中に収めんばかりに、優しく手の平を握った。

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