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21 王城の中へ


 翌日、ドレスで着飾ったセレとエリス、正装のイネスは迎えの馬車に乗り込んだ。白に金の装飾が施された馬車には、やはり貴族家の紋章が描かれている。

 宿のロビーでアンドリューが見送ってくれた。

「残念ながら私は呼ばれておりませんので、ここでお待ちします」

 呼ばれなければ貴族でも行けない場所なのだと知る。


 王都のメインストリートを登って行くと、正面に王宮が見えた。

 馬車はその王宮に向かってまっすぐに進んで行く。



 セレスティン・ピアースは今朝早く、ふかふかのベッドの上で目が覚めた。

 一昨日ヴァンデンブラン子爵の邸宅で聞かされた話は、かなりの衝撃を持って受け止められた。衝撃だったのは話の内容そのものでなく、ザイベリー侯爵が、自分とエリスを人質に取ったような形でイネスに同行を迫っていた、と言う事実だ。


 ただの『魔石を探して欲しい』という要求なら、そんな脅迫まがいのことをしなくても、普通に依頼してくれればいいだけなのでは? しかも場所がわかっているのなら、自分だけが行けばいいのではないか……セレは自分の厄介とも言える能力が、エリスとイネスを巻き込んでしまったような気がして、申し訳ないような気持ちになった。

 よく父が『貴族との取引は、一筋縄ではいかない』とこぼしていたが、やはり貴族の持って来る話は用心が必要、と言うことだろうか。


 それに、あの黒騎士の子爵は何とも凄味(すごみ)があった。しかも騎士隊長というのだから、半端な強さではないだろう。その騎士隊長を護衛か番犬がわりに使っているのだから、ザイベリー侯爵はあの物腰(ものごし)のような優しい人物でなない、ということだろう。


 疑うまでもなく、まもなく馬車は王城の門をくぐった。王城の石畳の上を奥へと進んで行く。かなり奥まで進んで行き、古い石造りの塔のある建物の前に横付けされた。外から扉が開かれ、黒い騎士服の騎士に(うなが)されて馬車を降りた。

 古い建物の入り口に衛兵が立っている。

 案内の黒騎士が会釈をすると、衛兵が入り口の扉を開けた。

 少しカビ臭い、くすんだ色の絨毯が敷かれた廊下を奥へと進む。

 突き当たりの部屋のドアを開けた騎士が、我々を中へ導いた。


 いつもは使われていない場所なのだろう、(ほこり)(かぶ)った家具が(わず)かに開かれたカーテンの向こうからの光に、白く(かす)んで見える。

 長椅子に掛けるように言われて三人が座ると、

「ここでお待ちください」

 とひと(こと)言って、黒騎士は出て行った。


「お、お城の中……だよね」

 エリスが確めるように言った。

「うん……そうみたい」

 セレも同意したい。


 イネスは、こんなところまで連れて来られて、いったい誰と合い、何を見せられるのだろうか、と疑惑の念が(つの)る。


 半刻(さんじゅっぷん)ほど待たされた後、足音が近づいて来て、扉が開かれた。

 先ほどの黒騎士が扉を開け、その後ろからザイベリー侯爵が入って来た。


 セレとエリス、イネスの三人は椅子から立ち上がり、深く腰を折って頭を下げた。

 どうやら入って来たのは、ザイベリー侯爵だけではないようだ。

 故郷で王都への出発を待つ間、父や貴族の知り合いがいる者に出来うる限りの作法を教わった。聞きかじりでうまく出来ていないにしろ、最低限の作法を知っているといないでは、天と地ほども違う。

『何か、言葉をかけられるまで決して頭を上げてはいけない』鉄則だそうだ。


「遠路ご苦労でしたね。顔をあげて良いですよ」

 存外に優しい言葉が掛けられた。しかも、女性の声だ。

 隣のイネスを盗み見つつ、彼が頭を上げたのを確認して、セレもエリスも頭を上げた。

 どこの貴族の奥方様であろうか、見るからに上等なシルクのドレスを召して、胸には大きなエメラルドが輝いている。

 

「あなたたちが “あの石” を探しに行ってくださるのね」

「この者たちの身元は、私がよく精査してございますので、ご心配には及びません。近日中にモルガニアに派遣いたしますので、ご安心ください」

 ザイベリー侯爵が貴婦人に説明した。


「そう。……もう長いことモルガニアにも行っていないけれど、山は安定しているのかしら?」

「最近行った者の話では、(わず)かな噴火の兆候(ちょうこう)はあるものの、安定しているとのことでございます」

「それならよかったわ。あなたたちも気をつけて行ってらっしゃい」


「ありがたきお言葉、胸に刻みます」

 イネスが胸に手を当てて軽く頭を下げた。

 その瞬間、ザイベリー侯爵の目が氷のような眼差しになった。氷のような目線は『黙っていろ、口を利くな』とでも言っているようだ。

 セレとエリスはイネスに合わせて頭を下げる。


「後の説明は私がいたしますので……」

 ザイベリー侯爵がにっこりと微笑みながら貴婦人に言うと、彼女は

「そうね、あとは頼んだわ、クリプト」

 と言い残して、静かに部屋を出て行った。


「貴様らのような下賎(げせん)の者が口をきくなど、本来ならあってはならぬお方なのだ……」

 残された私たちにむかって、侯爵が呪いの言葉のように(つぶや)いた。

 そんなことを言われても、誰に会うかも聞かされていない。イネスだけが、あの貴婦人がどのような方かわかっているようだ。


「まあ良い、座れ」

 椅子に掛けると、侯爵はどこからか、宝飾の飾りのついた小さな箱を取り出した。

 それを開けると、テーブルの中央に置いた。

 セレはどこからか、何か(くすぶっ)ったような匂いがするのを感じた。匂いの元は、どうやらその小さな箱から出ているようだ。

 セレの目線が釘付けになったのを見て、侯爵が口を開いた。

 

「どうだ、何か感じるか?」

 皆の視線が、箱からセレの顔に移動する。

「……何か、匂います」

「そうか、やはりな」

 侯爵は箱をずいっとセレの方に寄せて来た。

「匂いをよく覚えてくれ」


 セレは箱を手に取ると、中を(のぞ)き込んだ。

 粒の(あら)い砂のようなものが(わず)かに入っている。

 どうやら、砕けた魔石のようだ。こんなに細かくなってしまった魔石は初めて見た。

 

 以前、ギルドを訪れた歴戦の冒険者に一度だけ聞いたことがある。

『役目を終えた魔石が粉々になることがある』という話だ。

 その時は、ふーんと聞いただけでピンと来なかったが、これがもしかしたら、そうゆうことかもしれない。

「この石は、モルガニアの中央に(そび)えるエルリア火山で採れたのだそうだ。この石を探す。黒騎士を一名、我が家門から一名、護衛を付ける。現地での案内役も手配した。出発は明後日だ」


 そう言うと侯爵はセレの鼻先から箱を回収し、立ち上がった。

「旅の支度について足りないものがあれば、弟のアンドリューに言えば用意させる」

 侯爵が退出したあと、我々も部屋に残っていた黒騎士に伴われて城を後にする。まったくこれだけのために、このドレスを着たのかと思うと、驚くやら呆れるやら。これが日常だとすると、貴族も大変だなと変な同情をした。


 宿に帰ってアンドリュー様に今日の報告をする。

 それに今回の王都招待では、観光気分だったので遠征の用意など何もしていない。モルガニアは寒いと聞くので、上に羽織る丈夫なマントも必要だ。

 遠征に必要な装備品がないと伝えると、買い物にお付き合い頂けることになった。騎士や宿の方たちに情報を得て、防具や武器、服などの買い物にザイベリー家の馬車で出かける。

 イネスだけはいつも通り、全ての装備品を持ち歩いているとのことで、同行しない。


 高価そうな防具の並ぶ店で、たくさんの品物を前に目が迷う。

 女性冒険者用の装飾の着いた甲冑に、アンドリュー様が少し嬉しそうに言う。

「こんなのはどうかな?」

「ア、アンドリュー様、その私たちは魔石探しが仕事ですので、剣を使って戦うようないで立ちでなくても大丈夫ですので。いつもは軽い革鎧(かわよろい)を使っております」

「そうなのか……」

 少し残念そうなのは何故だろう?

 

 いつもと同じ革鎧と防寒のための装備を選んで支払いをしようとすると、止められた。

「何のために私が来ていると? 支払いはこちらで」

 結局、全ての店でアンドリュー様が従者に支払いをさせていた。

 なんだかあれもこれもと、随分余分に買っていただいてしまった。

 マントなど、今まで見た中で最高のお値段だった。あの値段を思えば、いつもよりきっと暖かい気がするに違いない。

 エリスは、

「いいのかな、本当にいいのかな……?」

 とずっとセレに囁き続けていた。贅沢をしているという庶民の感覚は抜けない。

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