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アッシュとナタリー ~始まりの場所~

 アッシュとナタリーは、ルフト大国の外れにある田舎町、ピエニ町で育った。アッシュもナタリーも両親はおらず、町にある教会に拾われた孤児であった。


 アッシュは、白銀の髪とエメラルドグリーンの瞳を持ち、肌の色は透けるように白かった。幼少期は一見すると、美少年にも美少女にも見えた。だが、アッシュの性格は、容姿とはかけはなれた、荒れくれ者であった。


 シスターのいいつけは守らず、規則は破るものだと言わんばかりに好き勝手に行動していた。珍しい容姿を、町の少年にからかわれた時は、気を失うほど少年を殴り付けた。


 息子が怪我をさせられたと教会に怒鳴り込みに来た、少年の両親に


「失せろボケ!!」


 と悪態をつき、シスター達を辟易させた。


 そんなアッシュのことを手に負えなくなったシスター達が、お世話係として付けたのが、ナタリーであった。


 ナタリーは、ツヤツヤの黒い髪に薄茶色の瞳をした、手のかからない少女だった。シスターの言いつけを破ったことはないし、同じ孤児の年下の子どもたちに対しても、世話焼きで優しかったので、シスターからも子ども達からも、一目置かれる存在だった。


 シスターから突然、荒れくれ者アッシュのお世話係に任命されたナタリーは、内心


 (アッシュは無理だ。。。)


 と思った。しかし、シスター達から、最後の頼みの綱だと言わんばかりにお願いされると、シスター達の期待に応えたいと、不憫な使命感から、アッシュのお世話係を受けたのだった。


 ◇


 ナタリーが、アッシュに声をかけた。


「アッシュ、これからは、外に出るときは私と一緒に行くから。あと、教会内で行動するときも私と一緒ね。シスター達を困らせるようなこと、絶対しないでよね。」


 アッシュはナタリーを一瞥し、はぁ?という顔をしてプイっと無視をした。



 アッシュが好き放題しても、教会が彼を放り出せないのには理由があった。それは、アッシュが教会の前に捨てられていた時期、教皇が予言した内容に関係している。


『ピエニ町に捨てられた、白銀の髪の赤子が、世紀の大魔法使いになる。』


 この時期にピエニ町に捨てられた白銀の髪の赤ん坊はアッシュしかおらず、アッシュは大魔法使い候補として、教会で面倒をみることになったのである。



 ナタリーがアッシュのお世話係に任命された後も、アッシュはこれまで通り問題を起こし続けた。その度にナタリーはアッシュに抗議したが、聞き入れる様子は微塵もなかった。


 アッシュ8歳、ナタリーが10歳の出来事である。


 その日も、アッシュは勝手に外出しようとしているのをナタリーに呼び止められた。


「アッシュ!!勝手にどこに行く気なの?もうすぐ夕食の時間よ。戻って!!」


「うるさい。ついてくんな。」


 そう言うと、アッシュは路地の方へ走っていってしまった。ナタリーはアッシュを追って、路地裏に入った。アッシュの後ろ姿が見えたため、路地裏の角を曲がった時だった。


 行き止まりなのに、アッシュがいない。


 不思議に思い、ナタリーがキョロキョロと辺りを見回していた時である。


 ナタリーの視界が真っ暗になった。


 アッシュとナタリーは何者かによって、連れ去られたのだった。



 ナタリーが目覚めると、薄暗くて冷たい地下のような部屋に、手足を縛られた状態で転がされていた。隣には、アッシュも同じ状態で、気を失っている。部屋には誰もいなかったため、ナタリーは小声でアッシュを呼んだ。


「アッシュ!起きてアッシュ!!」


 何度か呼ぶと、アッシュはゆっくりと目を開けた。


「・・・ここは?」


「分からない。さらわれたんだよ。私達」


 ナタリーが涙声で言うと、アッシュは何か考えているような顔をしていた。



 途端に扉がバンっと開いて、ナタリーは驚いて「きゃあっ!」と叫んだ。やせ形で黒い服を着た男2人が立っていた。


「目が覚めたか?」


「坊主にしか用はないんだがな。恨むなよ、お嬢ちゃん」


 どうやらアッシュをさらうつもりだったが、たまたまナタリーがついてきたため、2人とも誘拐されてしまったらしい。


 (何で私が巻き込まれないといけないの)


 ナタリーは泣きたくなったが、ナタリーはアッシュより2つ年上で、しかもお世話係だ。このような状況下でも、私がアッシュを守らなければならないという責任感を感じていた。


 アッシュはほとんど動揺しているように見えなかった。無表情で、じっと男達を見ていた。


「けっ 気味の悪いガキだぜ。」


 男達が吐き捨てるように言った。


「・・・なぜ俺をさらった?」


 黙っていたアッシュが男達に問うと、


「どうせ死ぬから教えてやるよ。お前は将来、すげえ魔法使い様になるかもしれないんだと。だから、まだ魔力に目覚めてないガキのうちに消してしまおうって、お頭の命令だ。」


 男達はそう言うと、アッシュに近づいていき、お腹の辺りを思いっきり蹴りあげた。アッシュはウッと呻いた。


「俺たちには、お前はただのクソガキにしか見えないけどな!」


「やめてっ!!アッシュに乱暴しないで!!」


 ナタリーの叫びは虚しく響いた。男達2人は、アッシュをなめ回すように上から下まで見たあと、ナタリーを見た。そして顔を見合わせてニヤっとした。


「坊主、よく見りゃきれいな顔してんじゃねぇか。ついでに女もいるしな。ガキだが、楽しむには充分だ。」


 男達が情欲にまみれた顔で、アッシュとナタリーの体に触れた。ナタリーはいよいよ怖くなり、


「お願い!!!触らないで!!!」


 と泣き叫んだ。


 もうダメだ。この男達にひどいことをされて、私もアッシュも殺されてしまうんだ。。。と思ったその時だった。


 ナタリーに触れようとした男の体が中に浮き、そのまま何かの力で後方に吹っ飛ばされた。男は壁に体を叩きつけられそのまま崩れ落ちた。


「なんだ!?!?」


 もう1人の男は驚き、アッシュを化け物を見るような目でゆっくり見下ろした。


「まさか、お前」


 男が言い終わる前に、いつのまにかナタリーとアッシュを縛っていた縄が解け、アッシュが立ち上がって男を見上げていた。


 男は金縛りにあったように動けなくなり、その後、グシャッという何かを握りつぶすような音と共に、目と鼻から血を流して倒れた。


 ナタリーは何が起こったのか分からなかったが、男の1人は脳を潰されたのだと思った。ナタリーは怖くてたまらなかったが、逃げるなら今のうちだと思いアッシュに駆け寄った。


「アッシュ!仲間が来る前にここから逃げよう!!」


 アッシュの腕を掴み、開いていたドアから飛び出した。地下からの階段を上がると、外へ出た。助かった!!と思ったその時、数人の人影がこちらに近付いてくるのが見えた。




 彼らは、皆同じ長いローブを着ており、その紋章から、国家魔法使いだということが分かった。


 強力な魔法使いは国家中央(セントラル)に集められ、魔力を使いあらゆる方法で国を守るのだ。本で読んだことがある。ナタリーは魔法使いを見るのは初めてだったが、もしかしたら自分達をさらった男と関係があるのかもしれない。


 アッシュをかばうように自分の後ろに隠し、


「私達に何の用ですか?」


 と聞いた。


 長身の、目付きの鋭い男が、アッシュを見て言った。


「魔力が覚醒したようですね。予言は本当だったわけだ。そこの少年の、強力な魔力が発動したため、君達の居場所を特定することができた。私達は、君達を保護しにきました。」


 ナタリーはその言葉を聞き、助かった!と安堵し、膝の力が抜け、へなへなと地面に座り込んだ。言葉をかけようとアッシュを見たが、アッシュは相変わらずの無表情で魔法使い達を見ていた。


 魔法使い達に連れられ、ナタリーとアッシュは教会へ戻ることとなった。


 教会まで移動するのには、馬車を使うのかと思ったが、『移動魔法』というものを使うらしかった。


 魔法使いの1人が、魔法使い一行とアッシュ、ナタリーを囲むようにして杖で地面に魔方陣のようなものを書いた。そうすると、魔方陣が光始め、一瞬宙に浮いたような感覚があったかと思うと、気づいたときには教会前に戻っていた。


 ナタリーは驚き、そして初めて目の当たりにした魔法に感動した。


「魔法ってすごい。。。」


 それしか言葉が出てこなかった。


 教会に戻ると、シスター達に泣きながら抱き締められ、部屋でゆっくり休むように言われた。アッシュは、魔法使いと、シスター長に別室へ連れていかれた。きっと特別な話があるのだろう。


 ナタリーは、アッシュは今度こそこっぴどく叱られればいいと思った。とにかく、2人とも無事だったことに安堵し、疲労からか、泥のように眠った。



 ◇



 ナタリーは、扉のノックの音で目が覚めた。


 翌日の午前中まで寝ていたようだ。

 シスターが顔を出し、


「ナタリー、身支度と着替えを済ませて、シスター長の部屋まで来なさい。」


 と言われた。もしかしたら、昨日のことで自分も怒られるのだろうか。。。とドキドキした。部屋に入ると、長髪の魔法使い1人と、シスター長、アッシュがいた。なにやら緊張感が漂っており、ナタリーは不安になった。


 シスター長が言った。


「ナタリー、話があるの。アッシュは、昨日のことがきっかけで、魔力が目覚めたの。魔法使いとして中央に行くことになったわ。」


 ナタリーは、アッシュがあまりにも異質だとは感じていたが、やはり魔法使いだったのかと妙に納得した。


「それでは、アッシュはここを去るということですか?」


「ええ、そうなるわ。今日発つつもりよ。」


「そうですか。。。そんなに急に。」


 ナタリーはなんだか寂しくなった。荒れくれ者のアッシュには迷惑ばかりかけられたが、いざいなくなると思うと、やはり心配が募った。こんな性格で、魔法使いとしてやっていけるのだろうか?シスター長は言葉を続けた。


「それでなんだけど、」

「ナタリー、あなたにも中央に行ってもらうわ。」


 ナタリーは意味が分からず聞き返した。


「・・・はい?私が?」


 シスター長は頷いた。


「あの、私には魔力なんてありません。付いて行っても、何のお役にも立たないと思います。」


「ええ、あなたには魔力はないけど、魔法使いとして行くのではないのよ。アッシュ1人では心配だから、ナタリーが助けてあげて。アッシュも、あなたについてきて欲しいと言ってるの。」


 どういうことだろう。魔法使いになるアッシュを助けるとは。足手まといにしかならないのではないか。侍女としてお世話をしろという意味だろうか。


「アッシュが、そう言ったと。。。」


 何もかも疑問しかないが、一番信じられないのは、アッシュが私に付いてきて欲しいと言ったことだった。私のことを、邪険に思っていたくせに、何かの間違いじゃないか。


 その時、戸惑うナタリーを見てアッシュが言った。


「ああ、ナタリーと一緒がいい。」


 はっきりそう言われたことで、ナタリーは覚悟を決めた。自分は、有無を言わさずアッシュと共に中央(セントラル)へ行かなければならないのだろう。


 この時から、ナタリーの人生は、アッシュに握られたも同然になった。





 

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