第九話 アレックスの物語①
興味を持っていただきありがとうございます。稚拙な文章表現ですがご容赦ください。
この作品は不定期投稿です。一話二千文字から三千文字くらいを予定しています。
SFもので物理法則は無視しています。言葉の選択も映画やドラマで聞く表現を常識の範囲で並べています。勉強不足で申し訳ありませんが、お付き合いいただき、楽しんでいただければ幸いです。
前に母が自宅のある月の軌道上に戻ったのは、アレックスが六歳の時だった。
母は軍隊に所属していて、土星周辺の調査任務を受けて帰ったばかりだった。
それは母がまだ生きていた時代、アレックスの父がスペースシャトルのパイロットをしていて、規則違反には違いないが惑星間の移動用シャトルのコックピットについて行っては祖母に怒られていた時代だった。
月から火星の往復の三ヶ月間を父と一緒に何度か過ごした。父はパイロットスーツで格好良く身なりを整えていたが、アレックスは着の身着のままついて行って周囲を困らせていた。
ただ父は分かっているようで、助手席の後ろにちゃんと子供が一人寝れるだけのスペースを確保しておいてくれていた。
船が動くとアレックスは窓にかじりつくように宇宙を眺めていた。
船が進むと座標はどんどん近くに移動してくる。
宇宙では電子やら光子やらが窓を叩き消滅していく。
崩壊した粒子は反粒子となって元に戻ろうと光を放った。
そして船が通り過ぎた後は再び何もなかったように、無で埋め尽くされる。
時おり、宇宙に黒いガス状の物質が漂う空間に出くわすことがあった。
船の乗組員たちは暗黒物質と呼んでいて、それは不思議と質量があって、そのガスに間違って侵入すると重力に引き込まれてしまうと噂されている。
父が言うには、「隕石と隕石がぶつかった際、物質の空間が消失するときに生まれる負のエネルギー」らしい。
アレックスは暗黒物質に興味を持った。父のそばで過ごした時間はとても静かだった。
そのあいだ祖母は父のアレックスに対する教育に不満を持っていた。父は奔放だったせいか、無理に学校を薦めなかったし、勉学は通信過程で十分だった。
母は宇宙での過酷な環境と女性ホルモンを不活性にする薬を多用しており、母体として不適格と診断されていた。
気の強い女性で、タフで外交的、探索チームでは最前線を率先して希望する。
隊長を務めていたため、一度任務に就くと長い間自宅に帰ることはできなかった。
宇宙での作業は放射線被曝を繰り返す。内臓はすでに機能障害に陥っていて、プラセンタ由来の自己治癒力の向上やドーピング、鎮痛剤によって保っていたが、次第に彼女の体力を奪っていく。
アレックスが十歳のとき、不幸な出来事が起きた。母は外洋系惑星任務の最中に二人を残して消息不明となった。
黒いガス雲の中に飲み込まれたという記録も残っていて、遺体は戻ってきていない。
母が亡くなってから、アレックスはずっと父と暮らしていたが、父は再婚に関心を示さなかった。
これまでの間、アレックスの成長を見守りながら、今日も自分で淹れたコーヒーをリビングで飲む。
そんな二人の青春、父と母の出会いは母からの一方的な求愛と聞いている。
父は内向的で、寡黙な性格で、苛立たしい男性だった。父の操縦するシャトルに乗った母は任務終了後帰還のフライトの間中、酒を片手に副操縦席に忍び込んだ。
同行者は機械だけで、父と母の二人きりの時間。
酒は度胸をつけるために必要らしい。「今日は二人が出会った記念日よ。」と、勝手に母はお祝いと言って彼の顔に手を伸ばした。
彼女の唇がO型に開くと彼の顔を真横に向けて、顔を近づけていく。お互いの鼻がぶつからないように彼女は顎を上げるような角度で彼の唇を塞いだ。
爽やかで清純なキス。彼女は伸ばした両手を彼の首筋から鎖骨、そして胸板にかけてゆっくりとなで下ろし、彼の輪郭に沿ってなぞる。ただ腰から下に行くことを彼の両手が防いだ。
「どうして止めるの?」彼女が言う。
彼は我を忘れる寸前で彼女の体を離した。
「ぼくはパイロットです。君を安全に送り届けるまでは認められません」
平凡な僕が挑発的に乗ってしまえば、見せかけの自制心が取り戻せなくなる。
「サミュエル」
サミュエルは自分の名前が呼ばれて、ドキリとした。
ジェニファーの唇から目の前の彼に呼びかけた。
彼を探求したくなった。
「そんなの関係ないわ」
操縦室に降りてきた女性士官は軍部でも憧れの的であるジェニファー・シリング中尉で、彼女の口づけを受けて冷静ではいられなかった。
「ああ・・・」
「私も自分のしたことにびっくりしているのよ。」
ジェニファーの瞳が煌めいた。
「ありがとう、シリング中尉。さあ、もう行ってください。」
サミュエルはたった今自分がしたことの成り行きを考えられなかった。
これは夢だ。彼女の手を放した行方を見た。
そうするべきだと理性が言っている。
彼女は失望するだろう、と思った。ここで終いだ。
操縦室から出て行く彼女は手を振る。その目はサミュエルへの関心がなくなったようには見えなかった。
「次はあなたから誘ってね。」
その提案はとても甘い言葉だった。次なんて、どうやって声に出して行ったらいいのだろう。
「はい・・・」
「休暇は三日あるわ、向こうに着いたら食事に誘ってくれる?」
彼女の情熱は想像を超えていた。
「本気ですか?」
「約束したわよ。」
不満そうなジェニファーだったが、駆け引きをするようにサミュエルを見た。
「それは無茶です」と、サミュエルは次のフライト予定を考えて、堅実な回答をする。
「ねえ」ジェニファーは熱い眼差しを向けると、「明日は一人よ。」彼女の美しい唇は誘惑するようにささやいた。
シャトルは明日の朝に目的地へ到着する。サミュエルは彼女の後ろ姿を見送った。
頭の中で理性が猛然と抗議をする。
「自分はどうしたいのだろう」
操縦室で一人になったサミュエルは彼女の唇の感触を思い出していた。近づき過ぎたせいか同時にスカートがずり上がり、太ももの鍛え抜かれた筋肉の収縮が魅力的で、弛んだ胸元からは輪郭が露わになっていた。
そこに手を触れたらどうなってしまうのか。
食事だけで終われるはずがない、と甘い妄想が頭を埋め尽くす。
「馬鹿な話だ」と言葉を否定するが、それを確かめる勇気を理性が押しとどめた。
翌朝、シャトルは無事にコロニーの宇宙港へ入る。
身なりを整えた彼女は昨日とは別人に見えた。
ついつい彼女の唇を意識してしまい、サミュエルはうつむく。
彼女の足がサミュエルの前まできて、立ち止まると、
ジェニファーは右足を彼に向かって動かして彼の脚と脚の間に滑り込ませ、押し付けた。
驚いて顔を上げると、二人の視線が絡み合う。
「待っているわ。」
ジェニファーは四つに折られたメモ用紙をサミュエルの胸ポケットに押し込んだ。
彼女は仕事を終えると、彼から身を離して、発着ロビーに何も無かったかのように向かう。
彫刻のように固まったサミュエルに同僚が面白がって声をかけた。
「追いかけてもいいんだぜ、サム!」
ちょっとサイドストーリー的な話、ロマンス多めで書いています。次話も楽しんでいただければ幸いです。
作者は心があまり強くないので、あたたかく見守っていただければ幸いです。
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