第八話 オープニング③
興味を持っていただきありがとうございます。稚拙な文章表現ですがご容赦ください。
この作品は不定期投稿です。一話二千文字から三千文字くらいを予定しています。
SFもので物理法則は無視しています。言葉の選択も映画やドラマで聞く表現を常識の範囲で並べています。勉強不足で申し訳ありませんが、お付き合いいただき、楽しんでいただければ幸いです。
三週間前、ジーナは大学近くのカフェでウェイトレスの仕事を選んだ。
タイムズ・カフェ。地球の風景や古典の映画のワンシーンを模した店内はさまざまな俳優に扮したドールと呼ばれる配膳型ロボットたちがホールを彩る。
今は椰子の木が揺れる浜辺、離島に浮かぶ珊瑚礁をイメージする店内は地球の海がテーマ。
楽園でジーナは雰囲気に合う衣装でカウンターに座る。
四時間前、スタッフルームのタブレット端末に発電室から通信を受けた。
小型の水素エネルギーを使った発電機を操作する黒い影はアレックスと名乗って、ホットドッグと深煎りのコーヒーの注文をする。
いつもはオーナーが相手をしているが、今日はたまたま用事があったせいで外出中だった。
彼のことはほとんど知らない。アレックスはいつも毎晩八時きっかりに軽食を食べる。
十五分前になると勝手に調理ロボットが作り始めた。
ロボットは器用に料理を包むと、トレイの上に並べていく。
「わたし、行きます。」たぶん大丈夫だと思うと、
ジーナはバスケットに注文品を詰め込むとスタッフルームから細い脇道を通って、下の階へ降りた。
ジーナはオーナーに教えられた通りの順路を守って、発電室を目指す。
いくつかの角を曲がると、正面に目的の部屋が見える。
ただその前に問題があった。隣のメンテナンス室の扉が開いていて、そこにはおぞましい姿をしたロボットの骨格が見えた。
シリコンの皮膜に覆われていない顔は、口元から耳まで裂けていて、笑っているように見える。
眼球はなく、暗闇となった窪みが常にこちらを向いているように感じられた。
首から下は、天井からぶら下がったフックによって胴体から離れて、宙に浮いていた。
人間の構造と同じ椎体関節が頚椎から胸椎、腰椎まであって、それぞれから神経のような配線が垂れ下がる。
腕は肩から外されており、胴体からつながる配線は綺麗にまとめられて血管のように見えた。
足早になったジーナは、目をつむって一目散に一歩向こうに駆け出す。
横に神経が集中していたせいか、ジーナは正面のドアが不意に開いたことに気づくまでに時間がかかった。
そのため若い男性の胸に勢いよくに飛び込んで、彼にぶつかる結果となってしまった。
バスケットは手から離れ、包装されたホットドッグとコーヒーが転がる。
ジーナは自分と同じ大きさの何かに身を守られた気がした。
お互い目が合うと赤くなって、頬が緩む。
「ごめんなさい!」慌ててジーナは声をかけた。
それがアレックス・ゴードンにとって、彼女との最初の出会いだった。
第一印象は小動物が飛び込んできた感覚だった。
新人が来ることはオーナーとの通信で聞いて、同じ大学の子がアルバイトで入ってくれたらしい。
彼女をじっとながめると隣の部屋が開いているのを見て、少し怖がらせてしまったようだと気づいた。
「悪かったね。」お互い助け合いながら身を起こす。
ふたで守られたコーヒーとバスケットの中身を拾い上げると、彼はバスケットをジーナに返した。
胸がアレックスの体にぶつかった時、手で支えてくれた彼にぎこちない感じになった。
避ける余裕もなかったとはいえ、何かスポーツをしているような筋肉質な体へ引き寄せられるようにしがみついてしまった。
思いがけず異性の体に触れたことで、ジーナの心は激しく、熱く震えた。
ジーナはアレックスの手を借りながら体を起こすと乱れた着衣を直す。
「コーヒーのおかわりが必要だったら言ってね。」と、ジーナは少しこぼれたコーヒーを見た。
アレックスに見つめられて、急に恥ずかしくなった。何度か頭を下げて店内に戻る
少女漫画のような出会いだったが、アレックスには刺激的だった。
近所にいるような親しみやすい顔、長いダークブラウンの髪とその甘い美貌に一目惚れだった。
なんとも退屈だったエンジニアの仕事も彼女がいると思うと気持ちがざわめく。
どうしていいかわからなかった。どうしたらまた会えるだろうか。と頭を悩ます。
そういえば名前を聞いてなかったな。こんなやり方はよくないと思いつつも、考えると落ち着かない。
「きっと店内に戻ったころだろう。ロボットたちのメンテナンスはこの僕がやっている、待機中のものを遠隔操作して彼女に接触してみようか。」
アレックスは発電室の仕事を終わらせて、リモートシステムがあるメンテナンス室へ移動した。
「僕には君が必要だ」
* *
過去の記憶が蘇る。ジーナは出会った頃を思い出していた。
アレックスが月面都市に帰ってきていたことを初めて知ったのだ。
燃えるような日々を思い出す。
何年も忘れていた記憶で溢れていた。
身近な異性に身を揺り動かされた自分を恥じた。
結婚して子供を自然のまま妊娠して作りたい。アレックスと語った未来予想図は苦い記憶だった。
ただ、ジムがこの情報を知らせるためだけではないことを私は知っている。
彼は平気で人の人生を食い物にする。
アレックス・ゴードンの本心はどうなのだろう?そもそも私とまた会ってくれるのだろうか。
私の反応をジムは楽しんでいるようだった。
「私にどうしろというの?」唇が震えて言葉が揺れる。
アレックスの写真を見せられて、ジーナ自身ひどく気が動転していた。
ジムに仕事だと言われた以上、自分自身で何ができるか考える。
「彼に会えというの?」別れた彼氏を取材対象にしようとジムは考えているに違いない。
肉体的に刺激を求められるだろうか。興味すら持ってもらえなかったらと思うとジーナ自身怖く感じた。
それとも私自身が肉体的な刺激を受け入れたいという衝動が生まれつつある。
「彼の研究を知っているかね?」と、ジムは尋ねた。
ジーナは十年前の彼が反物質の研究をしていると言っていたことを思い出していた。
「彼はエネルギーの研究をしているはずよ」
「もちろんエネルギーの研究はしていたはずだ。」ジムは冷ややかに応じた。
「していたはず・・・?」ジーナはアレックスと別れてから、意識的に彼の話を遠ざけていた。だが、それは彼女が今の現状を保つには必要だった。
「僕は君にオニズカ研究所を知っているか?と言ったのを覚えているかい。」
「ええ、でも変ね。彼らの研究とアレックスの研究が結びつく接点がないわ。」ジーナが苦笑した。
「そうだね。ただ、アレックス・ゴードンとオニズカ・ヨウコはこの三ヶ月の間に、何度も一緒にいるところを目撃されている。」
「何のために?」ジーナは蒸し返すようにジムに尋ねる。
「我々もそれが知りたいと思っている。」ジムがささやく。
「私に産業スパイでもやれというの?」ジーナはジムを睨んだ。
「ミス・リー。スパイ行為なんて日常茶飯事じゃないか。ただ、君が僕をどう思おうと関係ない。今起きていることを知らせるのがジャーナリズムじゃないか?」
「会社自慢のAIがあるんじゃなくて?」
「ジーナ、君も知っているだろう?研究施設はプロテクトがキツくてね。AIでも入れないところがあるんだ。」わからないのか?と、ジムは子供に教えるように穏やかに言った。
政府や発電施設、研究所と言った重要施設はブラックボックス化して、ハッカー達から攻撃を受けないように回線が別れていて、インフラや機密データを保持している。
ジムはアレックス個人を調べた結果、ジーナという存在を見つけた時点で情報にせまる方法を見つけたのだろう。
これまでアレックス・ゴードンという科学者は世に出ることなく、情報も開示していない。
まだまだオープニングが続きます。オープニングはロマンス設定で考えています。
次話も楽しんでいただければ幸いです。
作者は心があまり強くないので、あたたかく見守っていただければ幸いです。
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