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第五話 製薬会社のプログラム(背景②人工的な細胞)

興味を持っていただきありがとうございます。稚拙な文章表現ですがご容赦ください。


この作品は不定期投稿です。一話二千文字から三千文字くらいを予定しています。


SFもので物理法則は無視しています。言葉の選択も映画やドラマで聞く表現を常識の範囲で並べています。勉強不足で申し訳ありませんが、お付き合いいただき、楽しんでいただければ幸いです。

ジーナの端末の表示は23時をまわっていた。


自分でも馬鹿げていると思うのだけど、一般家庭であればかけ直すかためらう時刻。


「すぐに行きます」


一分一秒を争うジャーナリストとして、これはチャンスだった。


文章機能を使って、メッセージをジムに返信した。


     * *


出席した食事会がお開きになったのは夜の十時過ぎだった。前の部署で上司だったエリスが企画した夕食会は、長らく担当を離れていたこともあって、ジーナが知らない顔ばかりだった。


企画に参加した製薬会社のスタッフと喋る機会もあって、業界の噂話とか興味深かったが、デスクを変わった今となっては、何もかもが場違いな感じで、だからエリスのデスクにいる新人を女責任者と挨拶回りに行かせて、自分は会場の受付にいる。


エリスを贔屓にする女責任者に恨みはないが、自分のキャリアを見直すきっかけをくれた彼女を目の前にして、何も話すこともなかった。


普段のエリスは可愛い後輩だったが、仕事となると話は違う。やはり面白くなかった。エリスがいなければと思うところもあって、目の前にいては、どうしても幻影が蘇る。


ただし、選択を間違えたとは思っていない。


食事をしながらの講演会。


製薬会社のプログラムの企業広告に胎児の栄養不足を補う輸液が大々的に紹介されていた。


その昔、人間が月やコロニーに移住を始めたころ、世界人口はさらに増えていた。


それは一つに長寿化となった先進国の一部で出生率が1を割り込んで数百年。


もはや人間の意志のみでの人口回復は難しく、進んだ機械文化に頼ることをその政府の長老たちが決断したからだ。


一昔前の病院で使うような血液は直接人間から採血して造られていたが、今では人工的に血液に代わるものを作ることも成功していたし、子宮の内膜も可能だった。


魂のゆりかごと呼ばれた羊水を溜め込んだ人工子宮の中で、人工的に凍結された卵子と精子を試験管の中で解凍させて、受精させた。


それは分化が始まった受精卵を人工子宮の内膜に着床させ人工的に妊娠状態を作る。


セックスなしで、母胎もなしで、お互いの同意さえあれば、機械による出産が可能になった。


最初は子供のできない家庭や高齢の夫婦などの支援制度として、認められた技術だが、それは体型の変化を望まないエリート女性の目に留まった。


妊娠は耐え難い苦痛を連想させるが、だからこそ生命を授かったことを理解する。苦しみがあるからこそ喜びがあるのだ。


だが、世の中では妊娠せずに子供が作れると話題になった。


しかしそれは差別を生み、孤独を生む。職を追われた者は恨みを向けるものさえいた。


苦しみを感じない出産は命の尊さを減少させる。そして妊娠出産を経験しない女性は細胞の代謝がうまくできずに乳がんや卵巣がんなどのリスクが増えたのは事実だった。


だからそうなる前に女性たちは卵子を採取し、若くて張りのある胸の細胞を凍結保存させる。


自分の胸を魚の切り身のように削ぎ取って、ステンレス製トレイの上に乳頭と乳腺を含んだ脂肪組織が置かれる。


自分の乳房が培養できる今では、その造られた思い通りのおっぱいを生着させるセレブな女性も珍しくない。


シリコンなど異物による拒否反応や毒素が出ることもない。


自分の細胞で作った部品をジグソーパズルのように組み合わせるだけなのだ。


人間が妊娠をしない出産において、そして人工凍結させた卵子や精子を他人からもらうことは違法ではなくなっていた。


人工子宮による出産では提供さえあれば血統の良い子供を我が子に迎えることは可能だった。


     * *


ジーナが見たプログラムの資料は、人工子宮用の胎児向けの輸液で成長促進があり、出産時期を早くコントロールできる代物らしい。


研究の一環で酸素濃度を高めて小児の身体を大きくしたり、逆にニコチンなど毒性を含ませた輸液を作ってミニチュアといった体型までコントロールを行った資料まである。


はっきりと用途はわからないが輸液を凍らせて、胎児の成長を停滞させた記録。


大きさもまちまちな胎児の氷漬けとなった標本が並べられた作業台が写った映像には人工子宮の可能性を明らかにしようとしているらしい。


停滞が可能だった胎児の月齢や死亡とした標本、それは魚市場のように綺麗に並べられていた。


資料の一番下には、火星にあるオニズカ研究所で行われたとする一文と所長のオニヅカヨウコ博士と製薬会社の研究員が穏やかな顔写真付きで紹介されていた。


     * *


ジーナが月面都市の作業区画、ジムのいるオフィスに着いたのは日付をまたぐ少し前だった。食事会のフロント係だったが、その前も準備に忙しく、疲れが残る。


ジーナは美人だったから、どんなファッションでも着こなしてしまう。


ただ今は色気を見せるような相手でもないし、着崩したブラウスにスラックスを履いて、あとはジャケットを羽織ると送迎用のキューブを呼ぶ。


四人乗りのゴンドラのような乗り物でレーザー誘導によって最短ルートに従って、上下左右とゆっくり進む。


オフィスに一番近いターミナルへ到着すると、キューブが到着順に連なって、順番にドアが開き、客を降ろしていく。


ジムのオフィスはターミナルから二つ目の角を曲がって、さらに曲がって、階段を降りたところに通路があった。


ここは会社が契約している作業区画で自分のオフィスが入り口から三番目のドア。ジムのデスクはその奥だった。


その部屋はかなり広かった。


ジムはなかなか男前で、女性人気もある上司だった。


紅茶が趣味らしく、彼は茶葉を選んでいる。


「ジム。入ってもいいかしら?」


「ああ、夜分遅く申し訳ないね」


「本当にそう思っている?」背後からジーナはジムに声をかけた。


「今回は科学アカデミー関係でね、君がそこの出身と見込んでの仕事だ。」


ジムは茶葉を選ぶとパックに入れて、ポッドにお湯を注いだ。


「お疲れのところ悪いね。」


リラックス効果のあるハーブティー、カモミールの匂いが漂う。


「ジム、カモミールは安眠効果よ。」ジーナはちょっぴりジムを揶揄うように彼の大きめの背中へ問いかける。


「それは失礼、ホットワインの方がよかったかな?」と、ジムはポットを傾けながら、悪戯っぽく笑顔を見せた。


「どちらでもいいわ。」


彼は長身で短めのロマンスグレーの髪の魅力ある初老の男性だった。


「こちらに来てくれ。」ジムはソファーに脱いで置いてあった上着を衣装掛けに戻すと整っていないテーブルの資料を片付ける。


「自宅に帰ってないんじゃない?」デスクの様子を見てジーナは言った。


「そうかもな」と、うなずいてジムはティーカップをテーブルに置く。


「先輩は大丈夫?」ジーナはため息をつく。ジムは前の部署から推薦してくれたマリアンと婚姻関係にある。


「マリアンは解ってくれているさ。」と、ジムは妻に対する回答を保留にして、どうしようもないと両手の手のひらを見せて、降参するかのようなポーズでジーナに首をすくめてみせた。


「えーと、ジーナ」口調を変えて、「いいかな。」と、ジムは本題に入ろうと話を進める。


「ごめんなさい、ジム。」


「心配してもらって、感謝してるよ。」


ジーナには話していない、マリアンは数週間の予定でこの旦那を置いて出張中なのだから。


「ジーナ、きみが必要なんだ!」

今回よりストーリーが始まります。

もっとハードボイルド的な小説を目指したつもりですが、ハーレクイン小説のような展開になりそうです。

次話も楽しんでいただければ幸いです。


作者は心があまり強くないので、あたたかく見守っていただければ幸いです。

もし、良かったなど感想をいただければ作者が喜びます。返信等はしておりませんのでご容赦ください。

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