第三十五話 サミュエルとリン(13)
興味を持っていただきありがとうございます。稚拙な文章表現ですがご容赦ください。
この作品は不定期投稿です。一話二千文字から三千文字くらいを予定しています。
SFもので物理法則は無視しています。言葉の選択も映画やドラマで聞く表現を常識の範囲で並べています。勉強不足で申し訳ありませんが、お付き合いいただき、楽しんでいただければ幸いです。
真っ暗な黒い霧は宇宙の中でも暗すぎて、惑星が反射する光を吸い込んでいるように見えた。
質量を自ら取り込むように、自ら光り輝くことを夢に見る。
それは天体現象によって偶然にできた他の場所より少しだけ密度の高い場所、最後の魔術師が見つけたように引力がそこから生まれた。
質点が力を受けて線となり、回転を始めるとそれは中心点になる。光は触媒となって星間を動く天然の空気、空気は風が吹いていなくても、引力の感じられる方へ近づこうと渦を巻きはじめた。
それは乱雑で、無秩序で、出鱈目で、混沌としていて、分子や原子や素粒子が光によってさえぎられる中で、ガスとなって収縮する。
星間物質は主に水素の塊、ぶつかり合った物質は圧縮された摩擦によって、圧力と熱を持ち、その身を爆発させた。
水素がイオン化して、原子核から電子が離れる。宇宙の光が燃えるとき、光は必ず外へ外へ逃げ出そうとした。それは光が軽いからなのかもしれない、重さを持った質量は地に引かれて固体を作っていく。
暗黒に包み込んでいる空間の中に質量を持った粒子が入り込んだ。
そして空気の動き(角運動)と電荷が加われば、それは半径三キロメートルほどのミニブラックホールのようで、宇宙の初期にできた四元素となって、始祖となる。
* *
マリアンとリンは地上管制ステーションの施設から出るとようやく立ち止まった。
マリアンはカーポートの正面に座り心地のいい場所を見つけると、リンに横に座るように促す。
「あなたはどうして命の危険まで冒して少佐を助けようとしているのかしら」
それはさほど乗り気ではないマリアンの本音だった。
リンはただちに反論したかったが、スペースボートで偶然に席が隣になって、実のところ一緒に力を合わせてミッションをこなしただけ、若さと身のほど知らずの現実かもしれない。
ただサミュエルが教えてくれた太陽の異変に違和感を覚えたもどかしさに、何か喉につかえて、言葉が出なかった。
「わかってるわよ・・・でも、じっとしていられないと思ったの」
火星天文台観測センターは政府の機関だった。戻ったところで、総督府の指示をいつまでも待ってなんていられない。幸い事故に関わった影響で事情がわかった以上、聞き耳を立てずにはいられないし、足を踏み入れることにしたのだ。
もっとも管制の仕事については混乱している程度の情報しかなく、出勤は無意味に思えた。内心でサミュエル・ゴードンに気を散らされている自分がいる。
隣で顔を寄せ合うように、リンは声をひそめてみせた。
「あんなことが起こって、サミュエル・ゴードンがどうするか見てみたいのよ」
仕事一筋の生活で満足だったし、従業員との恋愛に興味はない。ただ彼は自分が与える以上のものを持っているのは確かだった。
黒髪にブルーの目、身長百七十五センチ超えるマリアンは彼女の守衛でここにいる。
「あなたを補佐するように言われているけれど、私たちも軍人として彼の目的をはたすために全力を尽くすわ」
マリアンは眉をひそめた。たとえイライラさせられることがあっても作戦は成功させなければならない。それからしばらく考えて彼女をかばわなければという思いに駆られる。
「マリアン少尉、私はあなたを信じています。」宇宙船通信士として火星が不運から逃れる道があるなら、迷ってはいられない。
私も宇宙で何が起こっているのか知りたいと思っている、リンは頭の片隅で独りごちた。
「ええ」マリアンはうなずく。今後はクライアントの私有地への訪問に備える。
「あの音が聞こえるかしら?」
どうやらサミュエルが私たちのために手配したエアカーが到着したようだ。
それにしてもサミュエルのガンシップを無人支援機として使うだなんて思いもしなかった。
* *
サミュエルと別れて二十分ほどたっただろうか、これからマーズ・フェニックス基地を出て、アウトフローチャネルのゴードン社所有の未開地に飛ぶ。
リンが左右を見渡したが、今のところマリアン以外の人影はない。カーポート周辺の気候は水分を含んだ氷からなる雲が表層を循環していた。
コックピットのガスーリは基地のシェルターでエアカーのコントロールディスプレイユニットの操作を終えると、ブレーキと油圧システム系統のチェックを急いで行う。
エアカーの音声センサーは全方位対応型で人間らしく振る舞うようにプログラムされていた。
「コントロールを確認、主動力炉と駆動装置を起動します」短い電子音が続けざまに鳴ると、鈍い振動音と共に小刻みな衝動がガスーリを包み込む。
グランド監視AIが支障なしとクリアーを伝えた。ヘルメットやハーネスなど装具が自動でリンクすると微調整だけ手元を触る。閉めたり緩めたりを繰り返すとエンジンを始動させた。
視界の良い大型のキャノピーが油圧で閉まる。ラダー、エルロン、スタビレーターなどの動翼チェックとブレーキ動作チェックがAIによって自動で行われた。
シェルターの飛行甲板のスポットの信号機のすべてが『F』になる。真下を向いた後方のエンジンノズルのファンが回転し、空気が十分に圧縮されるとエネルギーを持って噴出口から飛び出す。
コックピット後方のリフトファン扉が開き、タイヤが地面から離れると、自ら発生させた揚力によって、垂直離陸を始めた。
一旦、低空に達するとレベルクロスと呼ばれる方法で真横にスライドさせるとアフターバーナーを使用した推力で飛行を開始する。
マリアンは先ほど聞こえたにぶい振動音のことだと説明する。リンもその場で音がした方へ振り返った。
一筋の光が二人を照らす。亜音速の軌道から空中でブレーキをかけると上空に浮き上がり、固定翼を持つエアカーの機体が着陸パターンに入った。上空でホバリングし三十メートルから四十五メートルの高度から機首を巡らせながら着陸スポットへ垂直に降下する。
スラリと背が高いマリアンは両手を腰に当てて、口元に笑みを浮かべて目の前に現れた光を見上げていた。リンはその瞬間に息を呑み、胸の高鳴りを感じる。
収納されていた車輪が起動し、降り立つ。
「今すぐ行けるかい」ガスーリはエンジンをかけた状態で、後部座席のドアを開けるとマリアンとリンを乗せた。
次の瞬間、エアカーはカーポートのスポットから垂直上昇用のリフトファンが傾斜すると推力方向に機首を起こして浮き上がった。
後方にマーズ・フェニックス基地の姿が映り、あっという今に遠のいていく。
「リン、時間がない」エアカーのエンジンが点火したのを確認すると「飛行教導なんて余裕がないから、意識を強く持ちなさい」プログラムに定められた目標に向かって、グルッと回転して飛行モードに切り替えた。
後部座席でマリアンは落ち着いて加速空洞ユニットの打ち出し入り口に航路がロックされているのをサブモニターで確認する。「いいぞ、できるだけ早く加速に入ってくれ」
ガスーリはエアカーの性能を最大限に発揮させて、できるだけ速く飛んで欲しいと思った。AIが必要な司令を自動的に行う。「しっかりと掴まれ!」口元を歪めながら笑みを浮かべた。機体は加速しながら亜音速に到達する。
ただ、マリアンの横ではリンが怯えた顔をして固まっていた。
加速空洞ユニット・モジュールの管制AIが正確なタイミングでエアカーを迎え入れる。ジェットエンジンの全力を吐き出すと、真空チューブの中を機体が時速千六百キロメートルで走行を始める。
ガスーリはAIを最低限の自動運転に切り替えると、上機嫌で手動運転をしながら、機体が体の一部になるような感覚を楽しんだ。
マリアンとリンを乗せたエアカーがトンネルを抜けた先にはチャネル飛行場群と宇宙軍の施設が並ぶ。
上空を飛び、進んだ先に目的のトレーラーハウスがあった。
(第三十五話 おわり)
エアカーのイメージとしてロッキード・マーチン『Fー35BライトニングⅡ』ショートテイクオフ・垂直着陸SVTOL型のB型を参考にしています。本作では垂直離陸を可能にしています。
真空チューブはヴァージン社『ハイパーループ・ワン』を参考にしています。
サミュエルとリンの話を続けていきます。次話も楽しんでいただければ幸いです。
作者は心があまり強くないので、あたたかく見守っていただければ幸いです。
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