第三十三話 サミュエルとリン(11)
興味を持っていただきありがとうございます。稚拙な文章表現ですがご容赦ください。
この作品は不定期投稿です。一話二千文字から三千文字くらいを予定しています。
SFもので物理法則は無視しています。言葉の選択も映画やドラマで聞く表現を常識の範囲で並べています。勉強不足で申し訳ありませんが、お付き合いいただき、楽しんでいただければ幸いです。
「情報はすべてそこにある。今から二時間以内に到着してほしい」
ブリーフィングルームからデッキに向かう通路で、サミュエルはリンの肩に手を伸ばし、ポイントへの到着時間を示した。
「嘘でしょう、二時間以内ですって?」リンは凍りついた。耳を疑いながらさらに驚いて聞き返す。
それは五人の士官にも聞こえていた。サミュエルの横に並ぶ黒い帽子の男の他に、男性三人と女性一人の隊列を作る。
リンはすべての動作が嫌になるほどゆっくりに感じた。格納庫と呼ばれた場所に行くのはわかる。それでも地図上で示される八百キロメートル離れた照準が定め得た位置に目を向けた。
宇宙港近くにおいて、事故の発生直後から飛行型の乗り物はすべて移動を禁止されている。それなのに、こんなふうに離れた場所に行けと言われると、頭がどうかなってしまいそうだ。
彼の言うことは百パーセント信用しているけれど、いくらなんでも勝手すぎる。
サミュエルは笑みを見せた。彼の考えは完璧なサバイバル術にのっとっていて、彼はマーズ・フェニックス基地とアウトフローチャネルの施設まで安全に到着できる手段を知っていた。
最近はドローンによる宇宙自動航行が主流で。原子力ターボジェットエンジンで射出された航空機が極超音速推進システムによってマッハ10を超える速度で飛ぶ。
古い手段だが、地上を這うように伸びるトンネルをあえて選ぶ人間は少なくなった。
「移動は彼がエアカーで送ってくれる」空中トンネルにいる間は密閉され、大気の影響は少ない。全長十八メートルの車体は黒く塗られた翼端形状の特別機で、危険なほど高い運動性能を誇る。
サミュエルは士官の中で比較的背が低めで顎髭を蓄えた男を紹介すると、「問題ない」彼はサムアップして答えた。
男はガスーリと言ってエアカーのジュニア大会で優勝したほどの実力らしいが、残念ながら今回の航行は完全自動制御で飛行するため、全手動の巧みな操縦技術は必要ない。
「よろしく、ガスーリ!」リンは紹介された技術士官に向かって愛想よく微笑み、会釈をした。
「ピエール!」サミュエルは黒い帽子を被った背の高い男性士官に向かって声をかける。「誰か、彼女の補佐をお願いしたいが、マリアンを借りてもいいかい?」
先ほど、発着の監視オフィサーとして始動のコールをした女性科学士官を見た。
「わかった、彼女が同行する。いいね、マリアン?」ピエールはチラリと女性士官を振り返る。
「かしこまりました、ご一緒します」とマリアンはリンに片手を差し出しながら、真剣な眼差しで言った。
「同乗は二人だ。よろしく、ガス」
「少佐、ご武運をお祈りします。それでは、これで」ガスーリと呼ばれた男は敬礼すると、エアカーの準備に取り掛かる。
「では、三十分後にカーポートでお会いしましょう」彼はマリアンに詳細を伝えて去って行く。
エアカーね。リンは苦々しく考えた。インターナショナル・サーキットで見たことがある。
車体は地上から数メートル浮揚し、空気抵抗を減らすため、ダウンフォースを軽減するような設計で、決められたルートを最短時間で飛ぶように走る。
タイムレースにトンネル内の曲芸走行、ブレーキングとフルスロットルでバトルを繰り広げるのだ。
「何を想像している?」サミュエルはリンの心の中を分析するように彼女の視線を受け止めた。曲がりきれず爆発する車体をイメージした彼女に目を見開き、困惑顔で笑みを隠した。
サミュエル、と呼ぶリンの声はとても軽やかで心地よく、彼女の甘美な唇からその名を聞くとつい嬉しくなる。これほど自分に影響を与えた女性は女性は過去に一人もいない。
彼は生まれて初めて自分の欲望の前に立った。サミュエルは通路から合流地点に向かう後ろ姿をぼんやりと眺める。僕が彼女を愛し始めているのだろうか?
遠くから手を振る姿にすっかり惹きつけられた。あまりにも強烈な魅力のせいで、五、六歩進んで見送ったところで、自分がここに来た理由を思い出した。
* *
さあ、蒸気が立ち込めるとデッキのエレベーターの扉が開く。すばやく周囲を見渡すと、点検係が飛び出してやってきた。
そろそろ、リンとマリアンが時間通り指示されたカーポートに到着した頃だろうか。
危険であればあるほど胸が高鳴るのを覚える。
超高エネルギー同士の衝突は辺り一面に衝撃波を撒き散らし、同時に重力波を発生させていた。マーズ・フェニックス基地では特殊工作車が準備を終える。
相変わらず、不穏な風が吹いていて、流れる霧は星明かりをかき消すように漆黒をまといながら近づいてきた。男たちの目に恐怖が宿った。
サミュエル・ゴードンは激しく頭を働かせながら、ミニbotのショーと共にマーズ・フェニックス基地のデッキに向かう。この宇宙港には制御機能が働いて、どでかい貨物船は親切にも出航できないように固定されている。
通路の先にあるカーゴ・ベイには先ほど搭乗していたスペースボートが係留されていて、宇宙軍の調査を受けていた。
工作車の搭乗デッキまでサミュエルを案内したピエール中尉のスクリーン映像端末に受信のランプが点滅する。本部からの着信に立体のスクリーンを起動すると、飛翔型の球体が宙に浮いて輝かしい色彩が乱舞すると、上級士官の格好をした女性の顔に変わった。
「サミュエル、具合はどうだ?」立体映像の中で到着するのを待っていたかのように、平然とした音声で問いかける。
「火星で天体衝突が起こるなんて、想像もしてなかったな。周囲が突然明るく輝き出した瞬間は死ぬかと思ったよ、姉さん。」サミュエルは空間に映し出された女性を姉と呼んでそう答えた。
「お前が準備不足でショーを連れていなかったら、確実に死んでいたな」姉と呼ばれた上級士官はマスクの下で笑みを浮かべているのか、その言葉はいかにも挑発的で明らかに皮肉がにじんでいた。
「残念だけど、その通りかもね。待遇には不満はないけど、こいつの能力は個人に限られているから。」研究中の太陽系外縁天体より得られた素材がサミュエルのもつミニbotに使われている。
姉はその言葉を真剣に考えたフリをして、淡々と続けた。「いつまでもこんな不愉快な状態を続けるのだろうか、親父は・・・。」
ニコラにとって外縁天体より得られた技術は組織の中にありながら自由に行動する身分の弟に与えられていることが不満だった。
ゴードン社とサミュエルのコンビによって成果は上がっているものの、彼の気の向くまま実験機として宇宙を飛び回っている。
その素材は今後の人類を左右するかもしれない。決して個人で消費していいものではない。
太陽系外縁より五百年のあいだ暗黒物質に隠れた天体エリスがもたらした凍った大気はニュートリノの光すら反射した。
(第三十三話 おわり)
惑星エリスは冥王星のさらに外を回る10番目の準惑星です。公転周期は560年で輝いて見えるのは大気が凍っているからとか。
サミュエルの姉ニコラが登場しました。
引き続きサミュエルとリンの話を続けていきます。次話も楽しんでいただければ幸いです。
作者は心があまり強くないので、あたたかく見守っていただければ幸いです。
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