第三話 月面都市① 《訂正2022年11月5日》
《訂正しました》アレックスが工業区画に来た時期を三年以上前から三ヶ月前としました。
物語の背景からのストーリーが始まります。
稚拙な文章表現ですがご容赦ください。男性向けの表現が多数存在します。今回は男のロマンと思っていただければ幸いです。苦手な方はここで閉じてください。
この作品は不定期投稿です。一話二千文字から三千文字くらいを予定しています。
SFもので物理法則は無視しています。言葉の選択も映画やドラマで聞く表現を常識の範囲で並べています。勉強不足で申し訳ありませんが、お付き合いいただき、楽しんでいただければ幸いです。
今は宇宙世紀721年。月面都市の最深部にそれはあった。
人工的に造られた空間。窓はなく無機質で特殊な金属でできた部屋、先端技術の各学科から第一人者が数名集まっている。
部屋はドーム状になっていて、壁は特殊な合金で磁力線を当てると磁場を形成し、中和する働きがあるらしい。それは海王星近くまで達した初期の難民船団がオールトの雲海で発見したものだという。量が少なく、新たに採取船団が構成されるようだ。
オニヅカ ヨウコは凍結細胞による人体冷凍保存を専門にしている。
ここでは今後の人類が生存するための命運を委ねる場所で、最先端技術を応用した装置について話し合われていて、つい最近の研究で、強化セラミックの耐熱温度が一万度を超えた。
原始の状態にある地球は下部のマントル個体で四千度と言われているため、地球へ研究チームの人間を送る準備を進めているという。
今回は、コールドスリープの可能性が議論されていた。コールドスリープは人間の状態や年齢を保ったまま未来へ行くことができる由一の手段、恒星間の移動は人類の悲願であろう。
三か月ほど前に、彼女の研究室で培養液から解凍した人体が心臓の拍動を記録したのだ。
* *
アレックスは三ヶ月前から、月面都市の工業ビルの一階の店でホットドッグとコーヒーを食べるのが日課だった。
アンティークの古木で造られた年代物の木製カウンター越しでマスターが声をかける。
彼は今日も同じようにラージサイズのコーヒーをアメリカーノで注文した。
「それといつもの」、ホットドッグの注文だったがシステムには十分伝わったようだ。
常連だけの特権なんて、客の勝手な思い込み、これまでの成果だと思いたいところだが、AIが常駐するカウンターシステムでは音声と顔認証で既に注文プログラムが作動している。
リスト化されたオーダーシートがホログラムとなって彼の目の前にポップアップすると、立体画像の中で浮き出た承認ボタンが点滅して、ここを触れてとばかりに確認を待っている。
アレックスがサインに触れると「注文を受けました」と、メッセージが出て、受け渡し口を案内する表示に変わった。
以前は何とかブレンドという店のオリジナルコーヒーを好んで飲んでいたが、カフェインの摂り過ぎか体調を考えて好みを変えた。
宇宙世紀が始まって、五百年も経つと、その地名を歴史で覚えるしか知る人間はいないけれど、この店では地球に文明があったころの商品名で提供している。
いったん変えてみると浅煎り豆のコーヒーの方が苦味よりも酸味があって爽やかで、ミルクと砂糖によく合って飲みやすい。水も特別にろ過された軟水を使って、苦味の出やすいミネラルを減らしているようだ。
最初は気分を変えてみるつもりで注文したのだが、もともと飲んでいた苦味と渋みの効いたエスプレッソのコクよりも甘口で口当たりの良いほうが、毎日飲むには美味しかった。
ただ、コーヒーはやめられない。加熱されたパンに焼きたての特製ソーセージがのったホットドッグとコーヒーを受け取ると、どこか空いている席を探しつつ、テーブルを選んで座る。
「仕上げはー」ソースやレリッシュ、付け合わせの目玉焼きとポテトは席に着いてから、「お楽しみに」とテーブルの方向を案内した。
店の奥で人のようなものがゆっくり動いてる。それは回転してこちらを向くと、確認したようにこちらに進んでくる。
その店を見つけたときは、最新のサービスに感心したものだが、今では驚かない。
お世辞にも面白くない社交礼儀に則ったマナーにしたがって、やって来る。ただ厄介なことにユーモアのセンスも学習しているらしい。
頭があり、人の顔があって、肩から腕が生えている。そこには人間の上半身があった。
人と明らかに違うのはタイヤ付きのワゴンに乗っていた。いわゆる配膳のサービスロボットだった。
シリコンを皮膜にした顔は今流行りの顔をイメージしたらしい。
肌の色はイオン配列によって赤みや褐色具合も好みに合わせて調整可能で、肌の厚みも変わるらしい。
プラモデルみたいに直接人間が着色するようなことはない。
手の指は人間と同じように五本あり、大きさも同等、爪や体毛に指紋や手のシワまである。
卵も持つことが出来るし、箸を使うことも可能だとか、彼らはよくグラスを拭いている。動いている方が何かと安心するからという理由もあるらしい。
アレックスは頭が良い方だが、いい加減なところもあって、配膳ロボットに砂糖とミルクを頼むと適当にカップを放置した。
彼らは配膳車を連結しており、自らはコップや皿など道具を積んでいるが、水やソースは配膳車から供給する。
彼らはホテリエのコンシェルジュやバリスタの衣装を身にまとっており、男性クルーや女性メンバーなど多種存在し、機械が文明を維持していると言っていい。
ロボットは高度な分析装置を積んでおり、アレックスを認識すると「おはようございます。」と、寝起きを知ってか、知らずか、声をかけてきた。
音声は人間の声そのものに聴こえた。
渋い声で近づいて来たのは男性型の人形で、有名なアクターが原型のそのロボットは女性人気ナンバー1とか。それが目的で来るマニアな客もいるらしい。
アレックスには関係ないが、「注文はいつもと一緒ですね。」と、初めて聞けば嫌味な会話も何年も変わってないから、それも当たり前の日常だった。
「ホットドックソースは何になさいますか?」と毎回聞かれるが、「いつもの」で通じた。
彼は間違えることなく、「玉ねぎとピクルス多めのチリミートソース量普通ですね。」と、玉ねぎとピクルスを刻んだレリッシュをスチームしたパンに挟み込み、仕上げていく。
そして朝の付け合わせとなっている出来立ての目玉焼きとポテトフライを置いていった。
彼はコーヒー用のミルクと砂糖のセットをテーブルに配膳すると、「お待たせしました。」と、綺麗に並べては予想通りのスマイルもやりこなして、ドアの奥に戻っていく。
アレックスは二ミリにも満たない厚みのタブレットをテーブル置くと適当に砂糖とミルクを入れてアメリカーノと呼ばれた浅煎りのコーヒーを口に付けた。
その人形はとても人間的に見えた。顔の表情から指の先まで、すべてが機械細工だし、電気仕掛けの彼らには自己意識はない。
感情分析は表情や声、サーモグラフィーによる体温の変化を感知しているだけで、あくまでも予測演算に基づいている。
ディープラーニングによって重厚に学習されたデータをアルゴリズムに従って実行しているに過ぎない。
いろんなタイプのロボットを見たことがあるが、ここの配膳型は「感情が顔に出ない」タイプであくまで機能を追求した完全な作業型。
眉一つ動かさないが、視線や口元はスムーズで決して貧相には見えない。もちろん贅沢すぎる高級タイプもあるがここにはいない。
仕方がないことだろうけれど、機械に性的な何かを求めた連中は、女性型にくびれた下着と美しいランジェリーを纏わせて綺麗なドレスで着飾ったロボットに機能を持たせて欲求を満たす連中もいた。
究極のエロスを求めた一部の人間が胸の表面細胞を培養し、培養乳房を作って、機械のアタッチメントに生着させる。
付属品といってもおっぱいは女性のシンボルで、膨らみを楽しみ、揉みごたえのあるオッパイに仕上げてある。摘めるほどの乳首はコロコロと触って、その質感を楽しむのだ。
実際に摘んだり、乳輪ごと口で吸ってやると吐息を漏らすセクシー・ロボットもあった。
それは安心感だったかもしれない。
本来ロボットに感情なんて無駄なものは必要ないのだろう。根拠、メリット、エビデンスをプレゼンのように話しても事務的過ぎてつまらない。
感情抜きでは話しが盛り上がらないし、幸福度も満足感を感じられることで人間的なものを見たのだろう。
* *
アレックスは、財団に所属する科学者だった。
月面都市の工業区画にあるハイテク研究所。筒型の実験装置に入った凍った凍結細胞が入った培養液を融解させて生存させる研究に参加している。
今回届いたケースには人型が入っていた。
(第三話おわり)
ストーリーの背景が続きます。次話も楽しんでいただければ幸いです。
コールドスリープの設定は筆者の空想と妄想ですので、ファンタジーと思ってご容赦ください。
作者は心があまり強くないので、あたたかく見守っていただければ幸いです。
もし、良かったなど感想をいただければ作者が喜びます。返信等はしておりませんのでご容赦ください。