第二十八話 サミュエルとリン⑥
興味を持っていただきありがとうございます。稚拙な文章表現ですがご容赦ください。
R指定ありません
この作品は不定期投稿です。一話二千文字から三千文字くらいを予定しています。
SFもので物理法則は無視しています。言葉の選択も映画やドラマで聞く表現を常識の範囲で並べています。勉強不足で申し訳ありませんが、お付き合いいただき、楽しんでいただければ幸いです。
「赤の9」ディーラーが番号を告げると、リンの勝利が確定する。
慎重で聡明な彼女がサミュエルに対して、こんなに大胆に自身も勝ちたいという欲求をあらわにしていた。
「賭けに勝ったわ」ルーレットで運命を勝ち取ったことに声が震える。
サミュエルと知り合って一ヶ月しか経っていない。
三十歳という大きな区切りの年齢に近づいてきたリンは、天文台局員になって、これまでの人生をあっという間に駆け抜けてきた。
駆け出しの新人の頃から夜遅くまで働いて、二十八歳で宇宙船通信担当官に昇進して得たものはオペレーターとして発揮される能力と献身。
二十四時間いつ何時でも変化する天体に、友人や恋人を作るごく平凡な私生活を頭に浮かべるものの、気づいた時には二十九歳も終わろうとしていたのだ。
結婚して子供を持つことなんて一度も考えたことはなかった。
サミュエルと最初に出会ったのは火星の天体であるフォボスとダイモスをつなぐスペースボートの中だった。
ちょうど火星に帰還する方位をとっていて、座席が隣同士。
宇宙港の入口で管制衛星のエネルギー管理による誘導を受けて、最新鋭のエンジンは超超音速から低速飛行速度に切り替えつつあった。
火星の中央部に巨大な裂けた傷口のような地形を持つマリネリス峡谷、深さ七千メートル先にドッキングベイがある。
午後7時ごろ、突然機載してあるAIコンピューターのデータリンクが消失すると、35秒後には機体が横回転を始めた。
上下逆さまになって機首は地上に向かって下がり始める。
AIによる無人運転で降下中に起きた通信障害によって、その二人が乗るスペースボートは操縦不能になっていた。
最近のニュースにもなっている太陽の表面の活動の変化は有名で、三日前にゴードン社から太陽の黒点数の増大と膨張を捉えた映像が流れ、強い磁場が黒い雲の下に竜の如く渦を巻いている様子が報道されていた。
太陽から通常の二倍近い磁場とプラズマ風が吹き出す。この風は小惑星帯を通り越して、太陽系の果てまで広がり、暗黒物質を遠ざけるようにバリアーとなって、太陽系外縁天体(エッジワース・カイパーベルト天体)をあらわにしていく。そして暗黒物質に隠れた天体が姿を現す。
プラズマ風によって放出された宇宙線が持つ高エネルギーのガンマ線。瞬間の中心温度が50億度を超えるとヘリウムなどの原子核は中性子と陽子に分解された。
ただ陽子は電子を吸収してしまう性質を持っていて、電気で動く機械たちはその命を根こそぎ奪われて失ってしまう。AIは思考を停止し、その風に触れるものに死の呪いをかけた。
揺れる船内に慣れた様子で立ち上がった彼が、座席に持ち込んだケースからミニbotを解放すると端末を経由してシステムを再起動していく。
電圧が戻るとスペースボートのハードウェアがリスタートを開始した。
コンピューターが異常を検知して、宇宙空間での位置と運動方向と速度を割り出し終える。膨大のデータがミニbotに送られてくるとAIプログラムのショーは量子情報を瞬時に計算処理してみせた。
マリネリス峡谷の斜面に接近し過ぎていて激突まで後3秒というところで、ようやく軌道をきっちり割り出すと、姿勢制御ロケットの排出口に熱がこもり、タイミングよく噴射される。
機首が勢いよく跳ね上がると地表からわずか数メートルの高さで上昇しながらの方向転換を行う。生と死の境界を彷徨いつつも超機動性を発揮したスペースボートは管制からの誘導用トラックビームをキャッチしてみせた。
やっと火星の宇宙港に向かって、降下率を正常に戻す。ドッキングベイは着艦の合図を指示するギラギラしたライトが高度を増すと超低空で侵入した一本の黒い矢は漆黒の宇宙から這い出ると輝く光を受けて、スペースボートの本体が姿を現した。
スペースボートの姿勢が好転すると並進運動用スラスターを使って着陸姿勢に入る。滑走路はとても短く、艦首側の先端にあるドッキング用のハッチに向かって逆噴射を行いながら、管制のサポートを受けて無事にタッチダウンする。
* *
わたしが挨拶程度に通信担当官だと話していたことが運の尽きだったかもしれない。
サムと名乗った青年は大丈夫だよと優しい瞳でリンを包み込み、守ってもらえるという安心感が、世界が崩れ落ち、現実が牙をむく絶体絶命の瞬間に立ち向かおうとする勇気を与えてくれる。
これは運命的な人生最大の奇跡の出会いだったが、彼の落ち着いた冷たい瞳に夢と空想に別れを告げた。
結局はオペレーターとして、調整中のAIの代わりにキャビンアテンダントを彼から任されてしまい、半分巻き込まれるようにしてわたしが状況説明をする羽目になってしまった。
「なんでわたしが?」と戸惑うリンに対して、「君ならできると信じている。」
彼が状況を説明した時には愕然としたが、戻ってきた時には人形に命を吹き込むシャーマンのように、霊を憑依させる霊媒師のように、電子という生命をなくしたスペースボートは再び息を吹き返した。
「皆様落ち着いて下さい。わたしは火星天文台の宇宙船通信担当官のリンと申します。現在、プラズマ風の影響を受けて、機体のメインシステムが不安定になっております。頭を下げて、シートベルトをしっかりとお締めください」
プラズマ風の影響という言葉を意識してシートベルトの着用を案内する。リンはサムという青年のセクシーでかたくなな横顔を見た。
体の中で熱が渦巻いて、いたずらっぽく微笑む彼の口元に、ずっとこんな人を心に描いていたかもしれないと胸の高鳴りを覚えたが、リンをはっとさせたのは彼が年齢的にとても若く見えたからだった。
座席に戻った彼は「気を悪くしてないかい?」と、優秀なオペレーターの気分を確認しつつ感謝を述べる。
「いいえ、全然」リンはお互い無事だったことに喜び、微笑んだ。
「ぼくはサミュエル・ゴードン」彼は手を差し出す。その名前には聞き覚えがあった。
「もしかして軍事や宇宙開発事業の?」リンは思わず声を上げた。ゴードンといえば有名な大財閥だ。
「それはうちの親父の会社ですね」サミュエルは苦々しげに口を閉じて、頭を掻いてみせた。
しまった。なにかまずいことを言ったと感じてリンは話をやめる。墜落寸前のスペースボートから奇跡的に助かって火星の地表にたどり着いた後にする会話ではないと感じた。
「ま、そんなことどうでもいいさ。ショーにとっては簡単な任務だったかな」金属の丸い球をポンポンと叩いてやると「四十七パーセントだ。地面に激突する確率は」その確率はルーレットで赤と黒のどちらかを当てるのと同じだった。
管制の誘導システムが無事にドッキィングを補佐する。
* *
そして赤ならわたしが御曹司の男を手に入れる。彼は多くの女性が好きになるタイプだろう。男は常に性急だ、ブラウジングのある胸元とアンダーバストは締めて大きくみせた服に彼は欲情したに違いない。
この瞬間でわたしの運命が変わる気がする。
サミュエルの硬い表情を見ると歓声を上げたい気分になる。リンの勝ち金は二倍の10000火星金になった。
「これはわたしの勝ちね」リンの声は震えていた。「一晩だけよ」リンは自分の誕生日の祝い方に淡い笑みを浮かべた。あなたと過ごす一夜をルーレットで決めるなんて、でも言ってしまったからにはそれは勇気となって、確かめるまで終われない。
ドレスやスーツは歳を重ねた方がよく似合って、若い子にはない魅力を醸し出していた。胸元のしわも計算されていて、肌もそこそこあらわになった胸の曲線を見せつけている。
心の中では考え、接近したいと思っているのに何もしないなんてもったいない。迷い考えているうちに男は欲求を叶えてくれる女性に惹かれるものだ。
男なんて振られる生き物。気難しく焦らされたら、すぐにどこかに行ってしまう。
欲望は極めて性的で。二人も三人も口説いているうちに軽くておっちょこちょいに思われるけど、明るくて楽しくて甘えん坊と次第にモテる男になって、早く肉体関係を許してくれる女性を探している。
サミュエルは焼けつくような眼差しを彼女に向けた。
(第二十八話 おわり)
R13をイメージしていましたが、アクションになってしまいました。期待していた方はご容赦ください。次回以降に描いていきますので、気長にお待ちください。
サミュエルとリンの話を続けていきます。次話も楽しんでいただければ幸いです。
作者は心があまり強くないので、あたたかく見守っていただければ幸いです。
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