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第二十七話 サミュエルとリン⑤

興味を持っていただきありがとうございます。稚拙な文章表現ですがご容赦ください。

ギャンブル表現 ロマンス あり


この作品は不定期投稿です。一話二千文字から三千文字くらいを予定しています。


SFもので物理法則は無視しています。言葉の選択も映画やドラマで聞く表現を常識の範囲で並べています。勉強不足で申し訳ありませんが、お付き合いいただき、楽しんでいただければ幸いです。

リンは今もサミュエルの顔を見ると頬が赤くなる。もちろん彼は私を魅了した。いつも夢の中で最高のセックスまでしている自分がいるのだ。


恋は落ちるものと相場は決まっていて、愛しているけれど、彼は家庭向きの男ではない。


サミュエルは綺麗だとも、他人に比べてセクシーとも思えない自分に、あんなに激しく口説いてきた。


彼を見た同僚は「すてき」と言って「あの人をふるなんて、もったいないわ」ため息をつく。


「あなたの頭の中にあるごちゃごちゃしたものを全部消し去って、素直になったらどう?」頭に浮かぶのは、彼よりも年上だし、ヌードを見たら二十四時間ももたないうちに幻滅さてちゃうかもしれない。


だいいちサミュエルはゴードン家の御曹司だし、世間は私がしゃしゃり出てきた尻軽女とニュースにして軽蔑するに決まっている。


どうして自分が望まれたのか、そのことに一番驚いている。彼は瞬きひとつしなかった、どんな女性もその瞳を目の当たりにするだけで、興奮とショックが混じり合ったものを感じるのだ。


そして、その瞳が自分に向けられている。息を吸うことすら忘れるくらいに、彼の方に顔を向けた。


二人の間に賭博場全体の雰囲気も喧騒も不潔さもまったく耳に入らなくなる。サミュエルを見つめたリンはその深い緑の瞳に溺れ、もちろん世界中の、きわめて静寂が二人を包み込む。


リンは身をわずかに硬くして、思いを言葉にする決心がつかずに「やっぱり待って」と言って、カジノコインを引き戻すと今度も賭けなかった。


「ノー・モアー・ベット」とディーラーが勢いよく回転ホイールを回すと、ボールはまた赤に入る。サミュエルはリンが永いこと悩んだ末の反応に彼の気骨が折れることはなく、いささかの動揺も感じさせないように振る舞う。


「次も赤に賭けるのかい?」愉しむようにリンに問いかける。彼女が頭を悩ますたびに胸元が大きく開いたドレスからこぼれる曲線にサミュエルは目を細くした。なめらかで透き通るような肌、胸のふくらみ。


じろじろ眺めることはあまりにも低俗だが、全く気にとめずにいられるほど無欲ではない。つまりそれは観察であって、いわば紳士の楽しみというものだろう。


あくまでも観察者として、リンの一糸まとわぬ姿を脳裏に浮かべていた。ホテルの一室。15階まで上がるとリンは裸になって僕の腕の中に抱かれている。


ただの一度きりではなく、明日も明後日もそれからもずっと、いま僕はこれまでにないほど強く、リンを欲しいと思っている。十分満たされていたが、サミュエルにとってそれが賭けに望むこと。


今夜だけはお祝いをしてあげたい。バーで取り寄せたシャンパンのボトルが部屋の冷蔵庫に冷やしてある。


明日は彼女の三十歳の誕生日だから一緒に飲もうと思っていた。


彼女は真面目で堅実だから、運命ルーレットの結果に身をゆだねることに、今までの生き方が吹き飛ぶことを恐れているのだろうか。


サミュエルがリンの腕に手を置き、リンの裸を妄想して欲情している生々しい欲望を押しとどめる。彼女がそんなことを望んでいないのかもしれない。自分の思い通りにならないことにあせってはいけないし、みずから誠実かつ良心的に考えれば、そんなものは今まで通りで差し支えないのだから。


「チップを引っ込めなくていい。君は赤に賭けるんだ。」サミュエルがリンの手を覆うと目の前にある端末のルーレットテーブルの赤にチップを置いた。


「明日は誕生日だったかな?」と彼は彼女の手を取ると、その手の甲にそっとキスをした。「僕が勝ったら、ホテルの部屋にここのシャンパンを冷蔵庫に冷やしてもらっている。君の誕生日を祝って二人で一緒に二十代最後を楽しむんだ。」


手の甲のキスは昔から敬愛や忠誠心を意味している。リンはドキリとした。誕生日なんて彼に教えていないし、一体誰が教えたのかしら?口の軽そうな同僚の顔を思い浮かべる。


彼が賭けの内容を打ち明けたせいで、リンは大胆な気分になっていた。「ねえ、あなたと賭けをするわ。」


サミュエルは戸惑った表情になった。「いったい何を賭けるんだ?」


「ラストコール」ディーラーが告げる。


赤が出る確率は四十七パーセント。リンは唇を舐めると、サミュエルと視線がからみ合う。私の人生はずっと静かだったから、少しはワクワクしたいと思っている。毎日、天文台勤務の宇宙船通信担当官として円滑な計画進行を担っているせいか、真面目に仕事をこなす日々だった。


三十歳の誕生日を迎えて、いつもの自分から最もかけ離れた自分になりたいと感じた時、自らの本能に従う。どんな結末を迎えようと、どんな犠牲も受け入れる。愚かなことだとわかっていた。今夜だけの恋、想定以上に私を揺さぶる。その全てが想像以上でサミュエルの手がはなれると、その欠乏感に体がえぐられるようだった。


サミュエルは一箇所にとどまる男ではないと女性の勘が警鐘を鳴らしている。私たちの未来は考えられない。ただ、今だけはこの状況に身をゆだねたい。家柄も名声もある男が私の手に口づけをする。世界に女性が私しかいないように思えるほど、この完璧な瞬間だけ、彼は私のものになる。


「ボールが赤に落ちたら」


リンはサミュエルの口角ギリギリに唇を寄せる。肩が触れるほどの密接距離で親近感を抱かせるには効果的だった。熱い眼差しを彼に向ける。彼の上着の襟の下に指を入れると、広い胸をおおう上質のシャツに触れた。胸の形状に沿って手を滑らせていくと、指の腹は彼の乳首を探り当てる。彼は平静を装っているが、呼吸が大きく乱れるのが感じられた。


「あなたと過ごす一夜が欲しいわ」


その提案はあたたかい甘露のような味がした。こんな大胆に、本当に声に出して言うなんて、なんて恥ずかしいのだろう。そもそも彼は私を欲しいと思っているのだろうか?でも、言ってしまったからには覚悟はできている。


「黒が出たら、私の二十九歳最後の日を祝ってちょうだい。大酒を飲んで綺麗さっぱり忘れるの、そして諦めるのよ」リンは甲高い声で笑った。


「ノー・モアー・ベット」ディーラーが告げると、回転ホイールが回り出す。


焼けつくような熱い眼差しと永い吐息をはいたサミュエルは「いいだろう」と頭の中では理性に対して猛抗議しているようだが、「君の意見を尊重するよ」とうそぶいて見せた。


ボールがポケットに落ちた。三度目も赤が出ると、サミュエルは硬直した。


彼女は二人の隔てる空間を無くすように身を乗り出すとサミュエルの彫刻のような唇と結ばれる。リンは静かに目を閉じて、その感触を味わった。


(第二十七話 おわり)

サミュエルとリンの話を続けていきます。次話も楽しんでいただければ幸いです。

次回はR13予定


作者は心があまり強くないので、あたたかく見守っていただければ幸いです。

もし、良かったなど感想をいただければ作者が喜びます。返信等はしておりませんのでご容赦ください。

続きが読みたい。がんばれと思っていただけたら、本文の下にあります評価の★を一つでもつけていただければ励みになります。


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