第二十六話 サミュエルとリン④
興味を持っていただきありがとうございます。稚拙な文章表現ですがご容赦ください。
この作品は不定期投稿です。一話二千文字から三千文字くらいを予定しています。
火星の通貨として火星金が登場します。1火星金=1米ドルを想像しています。5000火星金は65万円相当でしょうか。1ドル=130円
SFもので物理法則は無視しています。言葉の選択も映画やドラマで聞く表現を常識の範囲で並べています。勉強不足で申し訳ありませんが、お付き合いいただき、楽しんでいただければ幸いです。
派手な演出のライトが微笑みを浮かべ、射倖心をあおるような電子音が鳴り響く。
先ほどまでいたバーカウンターを立ち上がったサミュエルとリンは、お城の中にあるカジノへと足を踏み入れた。
リンはいつもの三つ編みをほどいていて、肩甲骨まで伸びた黒くて長い髪はシルクのようにウェーブがかっている。
体にフィットしたワンピースは胸の膨らみを見せつけて、胸元の羽根が華麗に飾られていた。彼女の肌はとても白くて美しく見えた。
ドレスの水色に引き立てられて、健康的で可憐な少女のようだった。
サミュエルの知る彼女は慎み深く知的で、そもそもここまで着飾った姿を見たことがあっただろうか。
いま隣にいる女性は、自らの色香に気付いてないかもしれないが、サミュエルの手を握る彼女の悩殺的な香りに思いが溢れた。
ウェストのくびれからお尻の曲線が呼んでいる。リンは小ぶりだがキュッと上がったヒップラインにグッときて、それだけで美味しそうに感じる。唇と舌で背中のくびれからプリっとした美尻は新鮮で片方ずつ吸い付き貪りたいと想像した。
「どうしたの?」リンは彼の考えを知ってか知らずか、サミュエルの視線を引き剥がす。
「いや、なんでもない」そんなお尻をプリプリさせて、誘って歩いているのだろうかと尋ねたいところだが、僕の好みであることには違いない。
良識のあるプロフェッショナルというより、好奇心旺盛な冒険家といったところか。
「なんの話だったかな?」
ウインクするような運試しの機械が並ぶ大ホールの中央に位置するルーレット台、ここは火星で娯楽の集まるユートピアタウン。
ギャンブルに関心はないが、ルーレット台の前に二人はいた。
数十人、いや、数百人が台を囲んでいる。正直なところ、勝負に勝って金貨が積み上がることを想像して、胸がドキドキしたり冷静でいられなくなったりする、他の連中たちとは違う。
小さな欲望も持たない旅人が莫大な額を勝ったり、勝負事で負けて、全財産を失くした貴族たちもいる。ルーレットにそれほど多くの期待をするなぞ、愚かで馬鹿げていて。
勝つのは百人の中で二、三人、真っ当に商売をしていた方が極めて健全と言える。ただ低俗で、精神的に不潔な欲望が他者から金を巻き上げる欲求が、偶然に当たった悪趣味な快感がそこにはあった。
勝つか、負けるか、運命に何かを期待したいと思ったのは、とても冒険的で刺激的に感じる。
「チップを頼む」サミュエルが台に向かって声をかける。目の前にポップアップ画面が現れて、チャット内のディーラーが金額によって分かれたカジノチップの色を説明した。
「5000火星金をローリングチップで」と言うと、エリア外から人型の上半身を持った交換所専用ロボットが動く。
箱型の下半身から茶色のVIPコイン一枚を専用の豪華な刺繍入りの受け皿に乗せて。
ディーラーの格好をしたロボットが優しく受け皿を持ち上げると「お取りください、ゴードン様」とサミュエルに差し出した。
「5000コインなんて大金よ、一日遊べる金額じゃない?」リンがいう。「これで君と賭けをしようと思ってね」サミュエルはルーレット台にコインを置くと立体ホログラムが起動して彼の好きなキャラクターがアイコンとなって動き出す。
「それで何を賭けるの?」リンにとっては大金だ。給料の手取りなら二ヶ月分だ。「君が賭けるんだ、ここに赤と黒のボックスがあるだろう。当たれば二倍になる」
堅実な生き方をしているリンには足を踏み入れたことのない世界、週に三度は半額シールの惣菜をスーパーマーケットで買っているし、天文台と自宅のマンションを行き帰りする毎日だった。
自分の生活や意識をたとえいかなるものを道義的な考えにあてはめてみると、とてもひどく滑稽に見えた。自分が律してきたものが、何か別のものに感じる。華麗で腹立たしい、色や偶数・奇数に0から36までの数字を当てるとそれは二倍にも三十六倍にもなるのだから。
リンはサミュエルの握った手を引き、ルーレット端末から自分の方に視線を向けさせた。「ルーレットは難しいわ。カードにしましょう。ブラックジャックなんてどうかしら」統計学的に考えるとルーレットは一番勝てないゲームだ。カードの方がまだ確率が高い。
大富豪や権力者にとって端金でも、わたしにすればひどく莫大な額だった。1金1金に戦々恐々とする中で、彼は欲得のない紳士的な勝負で、それは遊びであり、楽しみのためであって、自分の儲けに関心はないようだった。
可憐な少女を前に押し出して、コインを与えて勝負のやり方を教える。「赤か黒、奇数・偶数、数字の前半か後半でもいい。数字以外ならなんでもいい」とにっこりと微笑んだ。
たいそう満足げだったので、「リンは勝っても負けても返さないわよ」とうそぶいてみせると、「もちろん勝てば全額君にあげるよ」と悠然と言って見せた。
「赤にするわ。でも、何を賭けるの?」リンが言う。「これからが本番だよ」サミュエルがルーレット台に向かい、テーブルの上にカジノコインをベットしようとするとリンは彼の手首を引っ張った。
「まだ、何を掛けるかを聞いてないわ」サミュエルの手はコインを握ったまま、空中で止めた。「ノー・モアー・ベット」ディーラーが声をかけると、賭けが締め切られる。
「今回のルーレットには参加できなかったね」手に持ったコインを財布に戻して、いささかの動揺も見せず、満足そうに台を離れた。
先ほどよりディーラーが回転ホイールのノブを勢いよく回していて、機械によって回転方向とは逆にボールが投げ入れられる。
「30、赤」とディーラーが言った。リンは勝っていた。ただし、今回の賭けは成立していない。
「あなたは一体、何を賭けさせたいの?」リンはサミュエルの顔に近づけながらうかがってみせた。荒々しい言葉が返ってくるのを覚悟していた。
「賭けに勝っていたのに、残念だったね。」サミュエルは美味しそうな果実を見るように見つめている。リンは落ち着かなくなり、彼のいいそうな言葉を紡ぎ出した。
「あなたがわたしに告白してくれたのに、私はまだ答えを出してない。もちろん好きだったとしても、私とあなたでは釣り合わない。あなたのデート相手はもっと上級な家柄で、もっと裕福な女性でないと。」
最初のころは冷やかしと思っていた。もちろん愛してはいなかったし、自分のどこに魅力があるのかわからなかった。
頬を赤くして、リンは口ごもった。
「それで質問の答えは出たのかい?」というサミュエルの問いかけに、たとえ両想いになっても、報われないかもしれないと精神的にも成熟した彼女には気持ちを断ち切ると言う決断をしたのは。
血を沸き立たせてくれる危険と怒りを飲み込んでくれるだけのアドレナリン。人類未到達とされる極限地帯に挑み続ける男を愛するだけの自信がなかった。
いつかあなたがいなくなることを思うと、横にずっといてくれる誠実な人がいいと言葉をしぼり、自分を抱きしめるように腕を体に巻きつけた。
「お客様、賭けてください」ディーラーが告げる。
「赤に賭けるわ。ボールが黒に落ちたら私の負けね」サミュエルと視線が絡み合う。
「僕の告白の答えを聞きたい」
「前向きに考えるわ、もう少し時間が欲しいの」
「それが答えなら、ボールが赤に落ちたら?」
リンが唇を舐めると、サミュエルはその神秘的な彼女の口元に魅了されたように、釘付けとなった。
(第二十七話 おわり)
サミュエルとリンの話を続けていきます。ルーレットで赤が出たらどうなるんでしょうか?
次話も楽しんでいただければ幸いです。
作者は心があまり強くないので、あたたかく見守っていただければ幸いです。
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