第二十話 アステロイド・ワン⑧
興味を持っていただきありがとうございます。稚拙な文章表現ですがご容赦ください。
この作品は不定期投稿です。一話二千文字から三千文字くらいを予定しています。
SFもので物理法則は無視しています。言葉の選択も映画やドラマで聞く表現を常識の範囲で並べています。勉強不足で申し訳ありませんが、お付き合いいただき、楽しんでいただければ幸いです。
二人は危機を脱したのか、アステロイド・ワンの機関室モジュール内部で再び目的を果たすため、立ち上がる。
グリークマンとブレンダはこれから重力装置のある第四区画で電源を手動で切るというミッションが待っていた。
グリークマンは満足感と軽い脱力感を感じるとともに金属でできた一面の壁を見渡す。ここでじっとしているわけにはいかない、現実を考えれば考えるほど息が詰まりそうだ。
機関室モジュールには、この宇宙ステーションに必要な電子機器がところ狭しと並んでいる。
それぞれが仕切られた部屋になっていて、幅十四メートル奥行き十五メートルの中央には原子力ロケットおよび液体燃料タンクを制御装置があり、あとは壁側に六つの区画に分かれていた。
今、グリークマンは悪夢を見た第四区画の前にいる。酸素生成装置の火災のせいで、機関室はやけに熱がこもっていた。白煙が視界の中にくすぶっていて、こんなところに長居したくはない。
差し迫った問題は地面がゆっくりと回転し始めるところだ。その感覚はどうということはないが、パイロットにとって憂鬱な原因になる。西暦二千年当時の固体ロケット・ブースターを使って宇宙へ飛び出していた頃の宇宙飛行士に加わる重力加速度に似ている。
遠心シュミレーター装置から垂直Gの訓練でランダムに軌道の変わる回転装置・飛行機による放物線軌道訓練を行っていたのは、重力があったからのことだった。人類は重力の少ない衛星に住処を見つけたのは実に興味深い展開だと学者が言った。
これまで木星や土星にコロニーを作る計画はあったようだけれど、人が住める重力環境とは程遠かった。だからといって人が生きるのをあきらめたわけではないと革新的な科学者は太陽系外縁天体を目指して太陽系を越えた者もいたのだから。
喉が渇く、グリークマンは口の中の水分が失われていくのを感じた。全くついていない。
「だいぶ時間を使った。アステロイド・ワンは今、回転し始めている。とてもゆっくりだが、徐々に回転速度が増えるだろう。」
錐揉み状態になれば、重力と遠心力が合わさって大きな重力がその体にかかってしまう。今は内側にかかる圧力を与圧服のAIが0.7気圧になるように調整してくれているが、遠心力のせいで動けなくのは困る。
ブレンダはといえば危機一髪の事態に遭遇した時、緊張で汗をかき、下着がひんやりと冷たく感じられた。自分が動けずにいた弱さに体を震わせる。「こんなことが起こるなんて想像すらしてなかった・・・。」
メインコンピューターのプログラムで内部に設置しているロボットアームを使った修復モードが試されたことは何度もあったが、パイロットが自分たちで修理することはシュミレーションで勉強しただけだった。
物事は良くなるか悪くなるかのどちらかだ。
大揺れする機関室モジュールで足を踏ん張る二人組は、第四区画で焼けこげた酸素生成装置の応急処置を行なったあと、重力生成装置のある第二区画へよろめきながら移動する。
窓のない通路、横幅1.5メートルほどあったが、左右の壁に手を添えながら歩くにはちょうどいい。そして今は偏りがひどく、第三区画を通り過ぎる頃には船体の上下が逆さまになっていることだろう。
ブレンダは不安に押しつぶされそうになっていたが、グリークマンのクールな一面が精神状態を保てていた。彼のタフなサバイバル術が発揮されると、下腹部がザワザワする。
五メートルの区画を縦揺れと横揺れに回転が加わりながら通路を移動する。船長のグリークマンは、第二区画の正面に立ち、ここでのミッションを簡単に説明した。
その第一点は大きく四つの区画の原子力重力供給システムの起動を停止する。居住・レクレーション・実験・司令室モジュールの電力が補助電源に誘導できれば、サブコンピューターの始動パワーアップとウォームアップを動かすだけの電圧を確保できるはずだ。
バックアップさえ起動できれば、ハードウェアの大部分の作業を動かすことができるし、補修プログラムを使ってアステロイド・ワンの姿勢制御ロケットの一部を動かすことが可能になる。
回路に接続できれば、ブレンダのスキルは基本的な管理や制御を与圧服に搭載されているAIだけでも再構築もできるはずだった。
各自が当たり前の仕事をこなせば、生き残ることも難しくない。
グリークマンが肩に手を置いたとき、ブレンダは内心びっくりしていた。彼は危険に対してユーモアが好きだったようで、失敗した時はまた考えればいいと笑っていたし、最悪、棺桶になるだけだと言って見せた。
「おじさんとじゃあ、嫌かな」と好き勝手な文句を言って、準備はいいかと最後に彼が言うと、お互い頷いて、ミッションの開始を決断する。
ブレンダは顔には出さなかったが、ドギマギしていた。
狭苦しい部屋、ここにあるケーブルを引き抜けば、電源を失って、体が宙に浮き始めるだろう。ただ、それでは意味がない。全てはここの重力供給システムを止めて、電源を確保する必要があった。
それぞれのスイッチを切ると、手順に従って電力供給の配分を切り替えていく。電源が入らなかったハードウェアに電力が供給されて、サブコンピューターの電源ランプが点灯した。
ブレンダが電源に触れるとこれまでノイズに覆われてしまっていたモニターにBIOSが表示される。回線に接続されたAIのサポートが膨大なチェックリストを書き換えていく。
アステロイド・ワンが転倒した状態から引き戻すには、上下・左右・回転のロケットブースターを使って、正しい姿勢に戻さなければならない。
差し迫った問題は太陽プラズマの影響を受けたメインコンピューターのCPUがサージ電流によってイカれている状態で、ここの計器の中にステーション内を管理する機械もあるが、ダウンしていて目に見ることができない。
ここで落ち着いてじっとしていることしかできない現実が、妄想と幻滅を加速させる。
今すぐ欲しいのは気晴らしだ。
そしてAIは見事なパフォーマンスを示してくれた。大きく揺れると二基のロケット・ブースターと四基の姿勢制御ロケットが運よく生き残っていて、息を吹き返したかのように動き出した。
大嫌いな宇宙で、大嫌いな宇宙ステーション。ここが自分たちの世界の中心だった。
恐怖は神経回路が活性化して多くの化学物質が放出された。アドレナリンが一気に働き、それは生殖本能を引き起こす。
ブレンダは安全と思うところまで来ると自らヘルメットを脱いで彼の顔を優しく包み込んだ。安堵する彼女を見てグリークマンもヘルメットのバイザーを上げた。
まさかと思ったがブレンダの顔が近づく。そんなはずはないと思っているうちに逃げるタイミングを失った。
彼女の腕が背中に回ると唇が羽根のようにグリークマンの唇に触れる。
これはまずいと思いつつ、彼女の愛情表現だとグリークマンはブレンダが離れるのを待った。
(第二十話おわり)
次回はロマンス回でしょうか? 次話も楽しんでいただければ幸いです。
作者は心があまり強くないので、あたたかく見守っていただければ幸いです。
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